今日も張りきって部活をしよう――と思っていたんだけど、道場の改修工事の所為でしばらくはまともな練習はできそうにない。
「しばらくは使えそうにないな」
「道場は使えないけど、練習は何処でも出来るよ! とりあえず当分は走り込みを――」
「でも、明日から一週間雨予報ですけど」
「練習できないかも!?」
万事休すかと思っていたら、丁度タカトシ君が通りかかったので、私は彼に知恵を授けてもらおうと駆け寄る。
「タカトシ君!」
「三葉? どうかしたのか?」
「うん、あのね――」
私が事情を説明すると、タカトシ君は少し考えるような仕草をして、私に案を授けてくれた。
「何処か近くの学校の道場を借りることはできないのか? 合同練習という名目で」
「それだ! 早速近くの学校に……」
「どうした?」
「どうやって依頼すれば良いの?」
「はぁ……ちょっと待ってろ」
そう言ってタカトシ君は何処かに向かっていってしまった。
「主将、タカ兄となに話してたんですか?」
「近くの学校と合同練習をすれば良いって教えてくれたんだけど、どうやって依頼すれば良いのか分からないっていったら、どっか行っちゃった……」
「まぁ、タカ兄ならちゃんと解決策を持ってきてくれますって」
コトミちゃんとお喋りしていたら、タカトシ君が戻ってきた。
「ほら、英稜高校と明日から合同練習の名目で道場を借りられるようにしておいたから。この許可書をもっていけば入れる」
「ありがとー。さすがタカトシ君だね!」
「とりあえず今日は外周でもしておいてくれ」
「うん!」
タカトシ君の尽力のお陰で、明日から英稜高校と合同練習ができることになった。他のメンバーは何となく嫌そうな顔をしてたけども、ずっと階段ダッシュとかじゃなくなったと誰かが呟いた後からは、ホッとしたような表情を浮かべていたのだった。
タカ兄のお陰で、英稜高校の道場を借りることができ、我々桜才学園柔道部は英稜高校を訪れていた。
「本日より一緒に練習させていただきます。よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
主将の元気のいい挨拶で相手との顔合わせを済ませ、早速練習を始めようとしていたのだが、英稜高校柔道部の皆さんは主将のことをチラチラとみている。
「なんだか見られてる?」
「ウチも強豪校として注目されてるんじゃね?」
「そっか……近所のラーメン屋に私の写真が貼ってあるから」
「何やってんのっ!?」
「えっ? 十倍ラーメンに挑戦して完食しただけだよ?」
「相変わらずスゲェ食欲だな……」
中里先輩は呆れているが、主将ならそれぐらい食べても不思議ではないと思っている。なにせタカ兄が用意してくれるお弁当、主将の分は他の全員の分と同じくらいの量があるのだから……
「というかコトミ、こういう時ってマネージャーのお前がどうにかするもんじゃねぇの?」
「そんなこといわれても、私にここまでセッティングする能力があると思う?」
「思わない」
「即答!? まぁ、私もそう思ってたから良いけどさ」
トッキーに即答され、一応ショックを受けたように見せたけど、すぐにそれを否定。そもそも私がそんなことできるわけがないと、私自身が思っているのだから、トッキーにそう思われていようと関係ないのだ。
「おーい。練習試合することになったよ」
「早速ですか?」
主将のコミュニケーション能力のお陰か、いきなり練習試合をすることになったようだ。結果は一進一退だが、主将は少し不満げな表情を浮かべている。
「守ってるばかりじゃ勝てないよ。ちゃんと攻めないと!」
「ならアンタも気になってる相手にアタックしなよ」
「な、何の話かな!?」
あれで主将は自分の想い人を隠せてると思っているようで、中里先輩のカウンターに分かり易く動揺する。同性ながら可愛らしい反応で、思わず抱き着きたくなるよ。
「ちょっとトイレいってくるわ」
「トッキー、いくら女子しかいないからって堂々とし過ぎじゃない? もっと女子っぽい口調にした方が良いよ?」
「そんなこと言われても、口調なんてそう簡単に変えられるもんじゃねぇだろ?」
「とりあえず、一人称を『ボク』に変えてみるとか」
「……割と切羽詰まってるから、そう言うボケは後にしてくれないか」
そう言ってトッキーはトイレに駆け出していった。まぁ、トッキーはあれで可愛らしい面があるし、このままでも良いのかもしれないけど。
「あれ? トッキーはどこ行ったの?」
「トイレに行きました……にしては、ちょっと時間かかってますね」
道場からトイレまでそんなに離れているわけでもないし、既に五分近く経っている。もしかしたら大きい方なのかと思っていると、トッキーからラインが――
『道に迷った。道場何処?』
――とのこと。なので私は――
『人は皆人生の迷い人。でもその先に未来はあるよ』
――と返信した。するとトッキーから鬼のように電話が掛かってきて、こっ酷く怒られた後迎えに来てほしいと頼まれた。まさか怒られてから頼まれごとをされるなんて思ってなかったよ。
そして相変わらずのコトミ……