畑さんから聞かされていた留学生だが、どうやらウチのクラスに組み込まれるらしい――という話題でクラス中が盛り上がっている。
「留学生がウチのクラスに来るんだってさ」
「ホントー?」
「どんな子だろうな」
「噂では女子らしい。しかも美人で」
「どこでそんなことを聞いてきたのよ」
柳本がどや顔で言い放ったセリフにツッコミを入れていると、タカトシが興味なさそうにため息を吐いていた。
「どうしたの?」
「いや、また面倒なことにならなきゃいいなと思っただけだ」
「面倒?」
タカトシが何を気にしているのか分からないが、タカトシが心配しているということは、また面倒事が増えるのだろう。
「ひょっとしたら繊細な人かもしれないから、付き合い方に気を付けないとねー」
「いや、繊細じゃないんじゃないか?」
「どうして? ……あっ」
タカトシが何を根拠に繊細ではないといったのか分からなかったが、彼の視線の先には扉越しに聞き耳を立てている頭が見えている。
「とりあえず、席に戻りましょうか」
ホームルームが始まるということで、私たちは一旦解散して横島先生を迎え入れた。
「おっ、今日はすぐに座ったな。まぁ、お待ちかねってことだろうな」
何故か偉そうな雰囲気な横島先生だが、本来なら教師だからおかしくないはずなのに、何故か腹立たしい……威厳が無い教師だからなのかしら?
「それじゃあ、留学生カモン!」
おかしなノリだが、留学生の不安を解消させる目的なのかもしれないので、私はツッコまなかった。
「ハジメまして。パリィ・コッペリンといいマス。しばらくヨロシク。えーと……」
少し詰まりながらも日本語で挨拶をしていたが、何故か急に黙り込んでしまった。
「手のカンペ、汗で消えちゃった……」
どうやら掌に挨拶文を書き込んでいたようで、それが消えてしまったので黙ったようだった。正直に言ったおかげで、クラスは笑いの渦に呑まれた。
「AVのカンペは萎えるけど、こーゆーのは微笑ましいな」
「確かに」
「誰だ今同意したの!?」
タカトシ以外の男子だということは分かるけど、いったい誰が同意したのか……
「とりあえず萩村、パリィの世話を頼むな」
「分かりました」
クラス委員であり同性でもある私が留学生のお世話係を頼まれた。
「分からないことがあったら言ってね。クラス委員の私が何でも教えてあげる」
頼られたことでいい気分になった私は、パリィに見栄を張る為に何でも質問して欲しいといった。
「スズは好きな人いるー?」
「っ!?」
唐突の恋バナに焦るが、テキトーに誤魔化せばいいだけだ。だがムツミやチリ、ネネたちが興味津々な視線を向けてきてるせいで、下手に流そうとしたら余計なことを言われてしまう。
「~~~~~~~~」
「英語で喋り出した!?」
「くそっ、何言ってるのか分からん!!」
このクラスで英語がペラペラなのは私とタカトシくらいだ。他の人たちは即座に理解できないので、日本語で誤魔化すより効果的だろう。
「タカトシ君、通訳して―」
「レギュレーション違反だ!」
ムツミたちを誤魔化す為に英語を使ったのに、ここでタカトシを使うのは反則だろう。
放課後、私はパリィに校内を案内する事にした。
「――ここがトイレよ」
「ウワサ通り日本のトイレってキレイだね」
「そんな噂があるんだねー」
何故かついてきたネネとパリィの会話を聞きながら、私はトイレの外で待っている。
「あと、キレイな女性がM字開脚で待ち構えてるウワサも知ってる」
「それは女子トイレにはいないよ」
「何の話をしてるんだっ!?」
どうやらパリィは日本を勘違いしている節が見られる……というか、何処でそんな情報を仕入れているのだろうか……
「おっ、留学生の案内は萩村が任されたのか」
「えぇまぁ……」
「スズー」
会長と会話をしていると、パリィが英語で話しかけてきたので、私も英語で答える。
「盛り上がってるな」
「話せる人がいるから、つい」
「私たちも一応話せるが、萩村やタカトシのようにぺらぺらではないからな」
「ぼ…ぼ…ぼくっこ?」
「ボクっ娘を語らっていたのかー」
「母国語の言い損じですよ」
いくら大人しくなってきたとはいえ、会長もどちらかと言えばあちら側の人間だ。パリィと意気投合しなければいいが……
「ヘイ!! インタビューOK?」
「パリィは初日なんだ。そういうのは明日にしなさい」
「えー……見出し記事を落とすことになったら、今夜は枕を濡らしちゃいます」
「枕オ○ニーで自分を慰めるのか?」
「まぁ、そっちもありかな」
「ほー」
タカトシがいないことで会長も絶好調のようで、その会話にパリィも興味津々の様子……タカトシがいてくれないと色々と辛いかも……
「それでは早速。日本に来て驚いたことはありますか?」
「んー……あいさつのやりかたがチガウことかなぁ」
「会長、風紀委員会と予算委員会から報告書が――」
「私の国ではこう――」
報告書を持ってきたタカトシに近づいたパリィが、タカトシに抱き着こうとしたのを私たちが全力で阻止した。
「ハグだな、ハグ!!」
「OH!?」
「……何やってんの?」
私たちがパリィを抑え込んでいる理由が分かっていながら分からないフリをするタカトシに、今だけは感謝することにした。
萩村の最終手段もタカトシの前では無意味……