桜才学園での生活   作:猫林13世

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効果があるかは信じる人次第


てるてる坊主

 マネージャーの仕事である道着の繕いをタカ兄が変わってくれたので、私は主将たちに水を配りながら道場の掃除をする。

 

「パリィちゃんの瞳って綺麗だよね」

 

「そう? ムツミの黒髪だって綺麗だよ」

 

「ありがとう」

 

 

 確かに主将の黒髪は綺麗だと私も思う。シノ会長も黒髪だけど、何故かムツミ先輩の方が綺麗に見えるのは、心の汚れが反映しているかな?

 

「パリィ先輩、私にも瞳を見せてください」

 

「いいよー」

 

 

 何となく気になったので、私は掃除を中断してパリィ先輩の瞳を覗き込む。確かに綺麗な瞳をしているし、これに対抗できる瞳の持ち主はすぐに思いつかなかった。

 

「ふっ、良い目をしているな」

 

「歴戦の勇者みたいな言い方止めろ」

 

「おっ、さすがトッキー。ちゃんとわかってくれたね」

 

「さすがにお前との付き合いも長くなってきたからな」

 

 

 トッキーと談笑していると、タカ兄が無言でこちらに近づいてきたので、私は慌てて掃除を再開する。特に何か言われたわけではないけども、何となく再開しなければいけない気がしたからだ。

 

「三葉、これ一応直しておいたが、何処においておけばいい?」

 

「更衣室に置いておいてくれれば――」

 

「俺は男なんだが?」

 

「あっ、そうだよね……それじゃあ、私が自分で置いてくるよ」

 

 

 タカ兄なら女子更衣室に入ったからといって、下着を漁ったりしないだろうけども、さすがに堂々と入るのは抵抗があったようで、少し視線を逸らしながら抗議していた。珍しいものを見たという気持ちもあったけども、ムツミ主将も当然のようにタカ兄を更衣室に入れようとするとは……

 

「(我が兄ながら、なかなかのオカン属性だからなー……)」

 

 

 間違いなくこの学校で一番カッコいいと言えるであろうはずなのに、どことなく異性を忘れされる雰囲気を持つタカ兄を見て、私は少し複雑な思いを懐いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そろそろプール開きということで、我々風紀委員会と生徒会も美化委員会の仕事であるプール掃除の手伝いに駆り出された。

 

「それでは、生徒会と風紀委員会はあちら側をお願いします」

 

「あぁ、任せろ」

 

 

 

 美化委員会の人と会長が話し合って掃除場所が決まり、私たちは任された個所を掃除する。

 

「今年はボランティアを募らなかったんですね」

 

「募集したところで来ないからな……それだったら最初から我々だけで掃除した方が良いだろ?」

 

「まぁ、ボランティアで来たコトミとかは遊んでましたしね」

 

 

 前回のプール掃除の時はコトミさんや時さんなどが手伝ってくれたのだが、最終的にはタカトシ君がほとんど一人で掃除していた記憶がある。今年はそうならないように気を付けないと。

 

「それにしても、何でプールってこんなに汚れてるんですかね」

 

「まぁ、一年中水を張りっぱなしだからな……コケとかが生えてしまっても仕方がないだろう」

 

「踏んで滑らないようにしないとね~」

 

「そんなミスしませんって」

 

 

 足下に注意しながら掃除をしていると、前方に人の気配を感じ取り顔を上げると、風紀委員会の男子生徒が目の前にいて、私は慌てて距離を取ろうとしてしまう。

 

「あっ――」

 

 

 コケは注意していたが、水たまりに足を突っ込んでしまい、それに足を取られてこけそうになる。何だか以前にもこんな展開があったような気がする。全く成長していないということなのだろう。

 

「おっと」

 

「あっ、ありがとう……」

 

「大丈夫ですか?」

 

 

 男子生徒と一緒に掃除していたタカトシ君が私がバランスを崩したことに気付き受け止めてくれた。これが他の男子生徒だと発狂しただろうけども、タカトシ君なら私も平気なのだ。

 

「カエデさんは向こう側を掃除していた方が安全だと思いますよ。あっちには女子しかいませんし」

 

「ゴメンナサイ……そして、ありがとう」

 

 

 タカトシ君に気を遣ってもらい、私は女子生徒が固まっている周辺を掃除することに。最初からこっちの担当にしてもらえば良かったのだが、何だかあっちを掃除していてよかった気持ちになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 プール開きが近づいているが、ここ最近は生憎の天気だ。それ程楽しみでは無いが、楽しみにしている生徒の為にも何か出来ないだろうか……

 

「――というわけで、てるてる坊主を作ってみた」

 

「プール、楽しみなんですね?」

 

「そ、そんなこと無いぞ? 私じゃなくて、プール開きを楽しみにしている生徒の為にだな……」

 

「シノちゃん、誤魔化さなくてもいいって。私だって楽しみなんだし」

 

「う、うむ……」

 

 

 何となくプール開きを楽しみにしているなんて子供っぽいと思ったが、アリアも楽しみにしているのなら、無理に誤魔化さなくても良いのかもしれない。

 

「………」

 

「今『萩村の容姿なら問題なく楽しみだって言えるのに』って思っただろ」

 

「そ、そんなこと思ってないぞ?」

 

 

 タカトシ程ではないが、萩村もかなり勘が良いので、私は心を読まれたような気がして返事が詰まってしまった。それがますます疑われる原因となっているのだが、とりあえず追及は逃れられたようだ。

 

「というか、窓を閉めたらどうです? インクが滲んでますよ?」

 

「おぉ、何だかちょっと怖い感じになってるな」

 

 

 私の言葉で萩村がビビったのか、疑いの目は収まった。とりあえず、晴れると良いな。




おまじないの一種ですしね

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