桜才学園での生活   作:猫林13世

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さすが教師より教師らしい生徒


教師・タカトシ

 この間のお土産をシノっちと交換して、タカ君の家でシノっちのお土産を開く。

 

「お義姉ちゃん、それどうしたの?」

 

「シノっちとお土産の交換をしてもらったの」

 

「それってこの前江戸体験ツアーに参加した時のだよねー? 随分と経ってるような気もするんだけど」

 

「シノっちとなかなか会わなかったから。タカ君が間に入ってくれれば早かったんだろうけども、タカ君も忙しいから」

 

 

 そう、タカ君は今もバイトに出かけているし、終わった後はコトちゃんに勉強を教えることになっている。なので私が泊まり込みで津田家の家事を任されているのだ。

 

「タカ兄は厳しすぎるんだよ。私はもう宿題だって終わらせてるんだから、勉強なんてする必要無いと思うんだよね」

 

「そんなこといってると、休み明けのテストで赤点になっちゃうよ? 今度赤点だったら問答無用で家を追い出されるんじゃなかったっけ?」

 

「て、定期試験の話ですから……」

 

 

 コトちゃんの成績は、タカ君や私たちの努力のお陰か平均点くらいには上がってきているのだが、油断するとすぐ赤点スレスレに落ち込んでしまう。コトちゃんも自覚しているようだが、自分一人で勉強をしようという殊勝な考え方はできないようで、タカ君が苦労することになっている。

 

「前にシノっちが冗談で言ってたけど、タカ君の自由時間の為にもコトちゃんはこの家から出ていった方が良いのかもしれないね」

 

「そんなことになれば、一週間もしない内に死ぬ可能性がありますからね! そんな事になれば、不動産の方たちにも迷惑が掛かりますし……」

 

「少しは自立しなきゃダメだよ?」

 

「分かってはいるんですがね……でも両親不在でタカ兄に頼る癖ができてしまってからというもの、自分で何かしようとか考えられないんですよねー……これはつまり、タカ兄は私を駄目にしたといっても過言ではない!」

 

「責任転嫁も甚だしいよ……そんなことタカ君に言えば、今すぐにでも追い出されちゃうよ?」

 

 

 私の脅しにコトちゃんはあからさまに焦ったような表情で玄関に視線を向け、まだタカ君が帰ってきていないと分かりホッとした。

 

「怖いこと言わないでくださいよ! 私だって、タカ兄が悪いわけないって分かってるんですから」

 

「やっぱりコトちゃんはアリアっちに頼んで淑女教室に参加した方が良いのかもね」

 

「淑女になんてなれませんよ。私は痴女ですから!」

 

「胸を張って言うことじゃないと思うよ」

 

 

 どちらかと言えば私もそちら側なのかもしれませんが、コトちゃんのように開き直っているわけではないのでまだマシだろう。まぁ、淑女らしい淑女なんて、高校生でいるのかどうか分からないですが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タカ兄が帰ってきてからというもの、私は三時間ぶっ続けで机に向かっている。もちろん、ただ机に向かっているだけではなく、タカ兄が用意したテキストと格闘しているのだ。

 

「タカ兄、この問題ってどう解くの?」

 

「それはさっきの応用だ。さっきの問題が理解できているなら、人に聞かなくてもできるはずだが」

 

「応用は苦手なんだよぅ……」

 

 

 応用どころか基礎も危ういのだから、私一人で解けるとは思えない。だがタカ兄は頑として教えてくれないようで、暫く頭を捻って問題を解いた。

 

「これでいいの?」

 

「途中でケアレスミスしてるから、しっかりと見なおして何処が間違っているか探せ。そこが分かったらもう一度聞け」

 

「はーい……」

 

 

 解き方としては当たっていたようだが、途中で間違えていたようで、私はタカ兄から言われた通り間違えた箇所を探すことに……

 

「(どこで間違えたんだろう……)」

 

 

 さっきタカ兄は一瞥しただけで私の間違えに気付いたのだから、余程単純なミスをしているのだろうとは思うのだけども、私には何処が間違っているのかすぐには分からなかった。

 

「(……あっ)」

 

 

 何度も見返してようやく、私は自分のミスに気付きそこを修正。自ずと答えも変わってくるので、私は最後まで解いてもう一度タカ兄に見せる。

 

「これで良いでしょうか?」

 

「正解だ」

 

「ほっ……」

 

「後は同じような応用問題だから、全部できるだろ」

 

「できるかもしれないけど、これだけ時間が掛かってたらテストではいい点採れそうにないよね……」

 

「分かってるなら繰り返し解いて、理解し、似たような問題に手間取らないようにするんだな」

 

「タカ兄、何だか先生みたいだよね。ほんと、助かってます」

 

 

 むしろ教師より教師らしいと言われているタカ兄だ。これくらいのことはできて当然なのだろうが、どうしても言わずにはいられなかった。

 

「入学当初から考えれば理解できるようになってるだけ成長してるからまだマシだ。これがあの時のままだったら、とっくに匙を投げて家から追い出してる」

 

「本当にありがとうございます」

 

 

 この家から追い出されることは、私にとって死刑宣告とイコールなのだ。柔道部のマネージャーをやっているから洗濯や掃除は最低限できるようになったが、料理などは全く成長していない。お弁当を買うにしてもお金は限られているのだから、すぐに食事に困ることとなり、そして身体を売ってお金を――

 

「くだらないことを考えている余裕があるなら、英語か化学を追加してやろうか?」

 

「数学だけで手一杯だよ!?」

 

 

 タカ兄が取り出した別教科のテキストを見て、私はくだらないことを考えることを止め、残りの問題に取り掛かった。




コトミはもう少し成長しようぜ……

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