桜才学園での生活   作:猫林13世

648 / 871
普通に泳げればいいよ


速く泳ぐコツ

 七条先輩に誘われて、私たちは今日七条家に新たに造られたプールに遊びに行くことになった。移動は七条家専属メイドの出島さんが家まで迎えに来てくれて、帰りも車で送ってくれるとのことなので、目一杯遊んで疲れ果てても帰るのには困らないという、至れり尽くせりのおもてなしでだ。

 

「楽しみですねー、スズ先輩」

 

「当然のようにいるのね、アンタ」

 

「今年は課題も終わってますし、残り少ない夏休みを楽しむに決まってるじゃないですか」

 

「タカトシや私たちが散々お尻を叩いてようやく終わったって言うのに、何で自分の手柄みたいに言えるのかしらね……」

 

「前までの私なら、お尻を叩かれても悦に浸るだけでしたけど、今年はちゃんと終わらせたんですから、少しくらい胸を張っても良いじゃないですか!」

 

「まぁ、悪いとは言わないけどさ……」

 

 

 タカトシは既にコトミのことを無視するモードに入っているし、会長はコトミの胸を見て自分の胸に視線を落としフリーズしているので私が相手をするしかない。とはいえ、私だってコトミの胸を見て少なからずショックを受けているのだが……

 

「お待たせ~」

 

「七条先輩の水着、可愛らしいですね」

 

「そう、ありがと~」

 

 

 水玉模様のビキニスタイルで現れた七条先輩に素直な感想を伝えると、少し恥ずかしそうに笑みを浮かべてタカトシに近づいて行った。

 

「どう、かな?」

 

「似合ってますよ。とても可愛らしいと思います」

 

「津田様、こちらのボードをお持ちください」

 

「くだらないことに付き合うつもりはありませんので」

 

「どういうこと?」

 

「では萩村様、こちらをどうぞ」

 

 

 出島さんから渡されたボードを持って七条先輩を見ると、水着の部分がちょうど隠れて裸に見えるという、タカトシが言ったように「くだらないこと」だった。

 

「ところで、浮き輪を膨らますやつが見当たりませんが?」

 

「私がやりますよー。肺活量には自信がありますから!」

 

「そうか? ならたのm――」

 

「なんなら、私のお尻を踏んでくれても良いですよ?」

 

「……タカトシ、頼めるか?」

 

「はぁ、構いませんが」

 

 

 コトミがくだらないことを言ったことで、会長も呆れてしまったようだ。以前ならノリノリでコトミのボケに付き合ったんでしょうが、やはりこう見ると会長も更生してきているようだ……タカトシの前だけだろうけども。

 

「申し訳ございませんでした、タカトシ様。準備不足のメイドにどうか折檻を!」

 

「ところでアリアさん、本当に俺たちだけで使ってもいいんですか?」

 

「無視っ! だがそれも良い!」

 

 

 出島さんを完全に無視して、タカトシは七条先輩に確認している。確かにこんなに広い場所を私たちだけで使って良いものかと考えてしまう気持ちは分かるが、一応七条家の敷地内だし、七条先輩が使っても良いと言っているのだから気にし過ぎだと思わなくもない。

 

「大丈夫だよ~。さすがにこの時間から水攻めプレイはしないだろうしね~」

 

「それが何かは聞かないが、大丈夫なら別に良いです」

 

 

 他に誰も来ないことを確認できたからか、タカトシは七条先輩から視線を逸らして、三人分の浮き輪を膨らまし始める。私だったらもっと時間が掛かるだろうなと思いながら、タカトシが膨らませてくれた浮き輪を使ってプールに入る。決して足が付かないから浮き輪が膨らむまでプールに入らなかったわけではない。

 

「スズ先輩、ここのプールはそこまで深くないから大丈夫ですよ?」

 

「貴様! 私は浮き輪が無くてもプールに入れるって言ってるだろうが!」

 

「わースズ先輩が怒ったー! シノ会長、逃げましょう!」

 

「何故私まで」

 

 

 コトミと会長を追い掛けようと泳ぎ出したが、どうも私は早く泳げないようだ。昔海で三人を追い掛けた時にはもう少し早く泳げたような気もするんだけど、どうしても距離が離れていく。

 

「スズちゃん、速く泳ぐコツはバタ足だよ~」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 

 七条先輩がアドバイスをしてくれたが、どうも一人では感覚が掴めない。私は七条先輩に手を持ってもらいながらバタ足の練習をすることに。何だか泳げない子供が教わっているようにも思えるが、私は普通に泳げるのでこれはセーフ。

 

「お嬢様、奥様からお電話です」

 

「お母さんから? 何だろう……スズちゃん、ちょっとゴメンね」

 

「俺が代わりますよ」

 

「じゃあお願い」

 

 

 七条先輩からタカトシに変わった途端、私のバタ足は力強いものになりすいすい前に進んでいく。

 

「おっ、スズ先輩もムッツリですね~。タカ兄の肌に触れた途端に全身に力がみなぎったようですし」

 

「お前も余計なことを言ってないで泳いで来たらどうだ? 夏休みの間で数キロ太っただろ」

 

「ギクッ、何故それを……」

 

「前に言わなかったか? 見ただけで何となくの体重は分かる」

 

「人間の常識で言ってよ……普通の人は見ただけで相手の体重なんて分からないって」

 

 

 コトミを撃退して私の精神に平和をもたらしてくれたタカトシだが、私の近くで会長が自分の身体に視線を落としているのが見えた。恐らく少し太ったのだろうが、私にはどれだけ増えたのかは分からないし、タカトシも身内以外でそのことを指摘するような不謹慎な奴ではないので、会長の体重事情はそれ以上触れられることはなかった。




相変わらずのタカトシ

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。