桜才学園での生活   作:猫林13世

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報酬出ても誰文句言わないだろうな


教師よりも教師

 夏休み残り一週間というタイミングで、私たち柔道部は道場に集合していた。今日は部活自体は休みなのだが、集まらなければならないイベントがあるから、全員集合している。

 

「ちゃんとやって来た?」

 

「一応はやったけど、どうしても分からない場所があるから、今日津田先輩に聞こうと思ってる」

 

「私も……津田先輩の解説テキストのお陰である程度分かったけど、文字で読んでも理解できない部分がどうしてもあるんだよね」

 

「確かに」

 

 

 後輩たちもタカトシ君から解説テキストを貰っているので、だいたいの箇所は終わらせてるようだ。というか、どうしてタカトシ君が一年生の宿題の解説をできるんだろう……二年生のなら分かるのに。

 

「ねぇチリ、どう思う?」

 

「どう思うも何も、コトミが津田君の妹だからでしょ」

 

「あっ、コトミちゃんは一年生だったね」

 

 

 タカトシ君の妹のコトミちゃんの宿題を見て、解説テキストを作ったにしても、作業が早すぎるような気がする……あれを貰ったのは、夏休みに入った翌日だったし。

 

「あらかじめ宿題の範囲が分かってたのかな?」

 

「津田君ならあり得るかもね。彼のテスト対策プリントのお陰で、柔道部から赤点補習者が出てないんだし」

 

「ほんと、タカトシ君には感謝しかないよね」

 

 

 主にその対策プリントの恩恵を受けているのは私とトッキー、そしてコトミちゃんなのだけども、それ以外でも危ない人は何人かいるのだ。タカトシ君がいなかったら、柔道部は勉強面で苦戦を強いられていただろう。

 

「皆さん、もうすぐタカ兄が来ますので、質問したい部分などを開いて待っててくださいねー」

 

「タカトシ君は?」

 

「生徒会作業が終わってから来るそうです。まぁ、夏休み期間ですから大してないようですが」

 

 

 コトミちゃんの説明が終わって五分後、タカトシ君が柔道場にやってきた。普段ならタカトシ君に練習を見られてるって緊張するんだけども、今日は練習じゃなくて勉強を見てもらうので、別の緊張感が走る。

 

「津田先輩、ここなんですが――」

 

「あぁ、そこはね――」

 

 

 一年生数人が同じ個所を質問して、タカトシ君が丁寧に説明をしていく。解説テキストだけでは理解できない箇所があるとタカトシ君も分かっていたからこそ、この日を設けてくれたんだろうな……

 

「三葉は大丈夫か?」

 

「えっと、英語と化学と古典と数学と世界史が危ないかな……」

 

「ほぼ全部じゃないか……一年生用だけじゃなくて、二年生用にも休み明けテスト対策プリントを作って来たから、夏休み明けにそれをチェックするから、これで勉強してくれ。解説用プリントもあるから、分からなかったらそれを見て、繰り返し勉強すること。それでも分からなかったら、メールでも電話でもしてきて良いから」

 

「良いの!?」

 

「あ、あぁ、構わない」

 

 

 タカトシ君に電話できる機会なんてそんなに無いし、私は一生懸命勉強してタカトシ君に説明してもらいたい箇所を探そうと心に決めた――勉強する目的がおかしいとタカトシ君に指摘されるまで気づかなかったのは、部員たちには内緒だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何やら柔道場が騒がしいと思い見回りに行くと、どうやらタカトシ君が柔道部の皆の宿題の解説をしていたようだ。

 

「相変わらずですよねー」

 

「っ!? は、畑さん……貴女も相変わらずね」

 

「せっかくの夏休みだというのに、風紀委員長は何してるんですか~?」

 

「コーラス部の活動の帰りに、ちょっと校内を見回りしてただけです」

 

「それで、偶々愛しの副会長を見かけて柔道場に押しかけようとしていたと?」

 

「愛しっ!?」

 

 

 畑さんの表現に気絶しそうになったが、何とか耐えて畑さんに説教をしようとして――

 

「何かご用ですかー?」

 

「三葉さん……今日は練習の日じゃないのに人が集まってたので様子を見に来ただけです」

 

 

――柔道部主将の三葉さんに声を掛けられて、私はここに来た理由を説明する。

 

「御覧の通り、タカトシ君に宿題で分からない部分を説明してもらったり、休み明けテスト対策プリントをもらったりしてるだけです」

 

「それ、私もいただけませんかね~? コピーして裏で売りさばけば――」

 

「これ以上不当な商売をするつもりなら、タカトシ君に報告してエッセイの販売を禁止してもらいますからね? いくら学園公認とはいっても、筆者本人がそれを拒否すれば、貴女はそれが出来なくなるんですから」

 

「そんなことになったら、エッセイのファンから何をされるか……分かりました、小銭稼ぎは止めておきます」

 

 

 テスト対策プリントを裏で販売するより、エッセイを堂々と販売した方が儲かるのかと、私はタカトシ君の人気を再確認した気がした。

 

「それにしても、何故柔道部だけ津田先生の特別指導を?」

 

「それは……」

 

 

 何か言い淀んだ三葉さんだったが、疚しいことがあるわけではなく、単純に恥ずかしい理由だったからだった。

 

「私、トッキー、コトミちゃんといろいろと勉強面で不安を抱える人間が多く、それ以外のメンバーもバッチリとは言えないので……」

 

「確かに……三葉さんも赤点ギリギリでしたし、コトミさんと時さんも危なかったと聞いています」

 

 

 三葉さんの説明で納得した私は、タカトシ君の邪魔をしたら悪いと思い畑さんを連れて柔道場を後にすることにした。この人を残しておいたら、絶対にタカトシ君の邪魔をすると思うし……




相変わらずの畑さんクオリティ

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