桜才学園での生活   作:猫林13世

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ここでも立派な先生役


夏休み最終日

 夏休み最終日、私は宿題とは別の問題を解決する為にコトミの家を訪れた。ただし、用事があるのはコトミではなく兄貴の方だ。

 

「いらっしゃい、トッキー。さぁ、何してあそぼ――」

 

「遊びに来たわけじゃねぇから。というか、お前だって分かってるんだろ?」

 

「うん……宿題は終わってるけど、休み明けのテストを乗り切らないと今後の生活が……ね」

 

「私もそこまで酷くはねぇけど、自力で合格点取れる自信がねぇからな……それで、兄貴は?」

 

「タカ兄なら今は部屋で休み明けのエッセイの手直しをしてるはずだよ。でもそろそろ――」

 

 

 コトミが階段の方を振り返ったタイミングで、二階から扉の開く音が聞こえてきた。

 

「ほらね。タカ兄なら気配でトッキーが来たことに気づくだろうと思ったけど、相変わらず凄い人だよね」

 

「その妹のお前は、何でそんなにも残念なんだ?」

 

「タカ兄に全部持っていかれて、私に残っていたのは性知識だけだったのだよ!」

 

「胸を張って言うことじゃねぇと思うんだが」

 

 

 こいつがもう少しまともだったのなら、兄貴だってもう少し楽ができただろうし、もしかしたら彼女がいたのかもしれない。そう考えると、こいつはどれだけ兄貴の人生の邪魔をしているのだろうか……

 

「(まぁ、世話になってる私が言えた義理じゃないけどな)」

 

 

 私だけでなく、主将たちも兄貴がいなければ部活に集中できなかっただろうし、生徒会のメンバーだって今以上にひどかったのかもしれない。

 

「時さん、いらっしゃい」

 

「お邪魔します。今日はよろしくお願いします」

 

「そんなにかしこまる必要は無いんだけどな。まぁ、とりあえずリビングでやるから、コトミはさっさと部屋から勉強道具を持ってこい」

 

「タカ兄、トッキーと私とで扱い方が違い過ぎない?」

 

「お前は身内だからな。遠慮する必要は無いだろ?」

 

「少しは遠慮してもらえると助かるんだけどな~……」

 

「お前に少しでも甘い顔をするとつけあがるからな。しっかりと締めておかないと反省しないだろ、お前は」

 

「最近は大人しくしてるつもりなんだけど……」

 

「この間いろいろとやらかしたのは、どう説明するつもりだ? 会長からちゃんと聞いてるからな」

 

「おっと時間がもったいないから急いで部屋に行ってくるね!」

 

 

 完全に旗色が悪くなったと覚ったコトミは、自分の部屋に逃げ出した。残された私は、また何かしでかしたのかと呆れ苦笑いを浮かべたが、兄貴の表情を見て同情したくなってきた。この人は何時か報われるべきだな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 生徒会作業もなく、コトちゃんの宿題も終わっているので、私は純粋にタカ君の家に遊びに来たのだが、何故かリビングでコトちゃんとトッキーさんがタカ君の講習を受けていた。

 

「こんにちは、タカ君。これは何の講習?」

 

「いらっしゃい、義姉さん。休み明けテスト対策の講習です。コトミも時さんも、あのプリントだけでは不安だと思いまして」

 

「まぁ、コトちゃんは私に散々聞いてようやく終わってたしね」

 

「しー! お義姉ちゃん、それはしーです!」

 

「お前、自力でやったって言ってたよな?」

 

「まぁまぁタカ君。コトちゃんが自力でできるわけないって分かってたんだよね?」

 

「まぁ、明らかにコトミが理解していないであろう問題まで解けていたので、恐らくは義姉さんに聞いたのだろうとは分かっていましたが、白状するまで泳がせておくつもりだったんですけどね」

 

 

 つまり、コトちゃんはバレてないと思っていたのにタカ君にはバレバレで、何時までも言い出さなかったらその分罪が重くなっていたということなのだろう。相変わらずタカ君も人が悪い……

 

「タカ兄も知ってたなら言ってくれればいいじゃん! どうして黙ってたのさ!」

 

「開き直るな! お前が少しでも罪悪感を懐いているのなら酌量の余地はあったが、どうやらそうでもないらしいな。午後からはもっと厳しく教えてやるから覚悟しろ」

 

「ヒッ!?」

 

「た、タカ君……殺気をしまって」

 

 

 タカ君の周りが揺らいだように見えたのは、恐らくそれだけタカ君の殺気が強かったからなのだろうが、コトちゃんだけでなく私やトッキーさんまで震えてしまうくらいの殺気だったので、私はタカ君を宥める為に声をかける。

 

「……はぁ。コトミは休み明けテストで七十五点以下は赤点とするからな。一点毎に小遣いを減らしてやる」

 

「そんなっ!? 七十五点なんて取れっこないよ……」

 

「その為の講習なんだから、必死になって勉強すれば何とかなるだろ。本当なら八十点以下と言いたいところなんだがな」

 

「タカ兄の慈悲に感謝します……」

 

 

 タカ君とコトちゃんのパワーバランスは知っているけども、ここまでコトちゃんが弱いとは……タカ君がいなくなったらコトちゃんはどうやって高校生活を送るのでしょう?

 

「コトちゃん、午後からは私も手伝ってあげるから、もう少し頑張ろ?」

 

「頑張ってるつもりなんですけどね……」

 

「つもりじゃなくて、本当に頑張らないと。このままじゃこの家から追い出されちゃうんでしょう?」

 

「そ、それは留年が決定したらですから……」

 

 

 明らかな挙動不審な態度に、これはコトちゃんがこの家からいなくなる日も近いのかもしれないなと感じ、私はコトちゃんの為にはどっちが良いのか本気で悩んでしまったのだった。




コトミの一人暮らしは……うん、無理だな

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