生徒会の業務の一環ということにされてしまったので、俺はさっきからジャックオーランタンの格好ですれ違う人に声を掛けていた。
「トリックオアトリート!!」
「はい、どうぞ」
一応全校生徒並びに教師陣には話を通してあるので、大抵の人はお菓子を持ち歩いている。だからトリックの方を選ぶ人などいないと思っていたのだが――
「トリックオアトリート!!」
「ん? ……お菓子持ってないな。仕方ない、イタズラして良いぞ」
「ポケットからお菓子が見えていますけど?」
「こ、これはお菓子ではなく、私の非常食だ!」
「お菓子ですよね?」
「……はい」
あわよくば邪なことをしようとしていたのだろう。横島先生を追及するのは簡単だが、この格好で説教しても怖くないだろう。だから素直にお菓子を差し出させることでこの場は不問とした。
「津田君は相変わらずだね」
「その恰好でも、タカトシ君だってすぐわかるよね~」
「轟さんに三葉……楽しそうだな」
「うん! 楽しんでるよ」
三葉は何事にも全力で取り組む性格なので、突発的なイベントも全力で楽しんでいる様子。
「その調子で勉強の方も全力で取り組んでくれると、テスト前に俺が楽できるんだがな」
「それは……」
「轟さんもだけど」
「いやー……」
さすがに付きっ切りで勉強を教えるということはしていないが、赤点すれすれのクラスメイトにはテスト対策テキストを作って勉強させている。解説や採点などをしなければいけないので、一人でも減ればだいぶ楽になるのだが……
「回数を追うごとに増えてる気がするのは気のせいだろうか……」
「津田君のお陰で赤点回避できたって話したら……ね」
「さすが、教師より教師らしいって言われてるだけはあるよね!」
「だから、嬉しくないって……」
そもそも授業で理解できていればいいだけの話なのに、授業中に別のことをして人に泣きつくのは違うんじゃないだろうか、と最近思っている。もちろん、見捨てれば後で文句を言われそうなので、当分はテスト対策テキストは作るつもりだが。
「あっ、せっかくだし写真撮ろうよ!」
「いいね~! スズちゃんやパリィも一緒に!」
「仕方ないわね」
口では渋々という感じを醸し出しているスズだが、表情はかなり乗り気だ。
「撮るのは構わないが、全員を入れるのはキツイと思うんだが」
「こういう時、自撮り棒があればいいのに」
「さすがに自撮り棒は無いけど――」
轟さんがスカートに手を伸ばし始めたので、俺はスズに対処を任せて少し距離を取った。
「じっとり棒ならあるよ」
「しまえっ! いや、そこにしまうな!!」
「私がお撮りしましょうか?」
「お願いします」
ちょうど手が空いたのか、畑さんに写真を任せることで自撮り棒問題は解決した。
「せっかくですから、ツーショットもしましょうか? なかなか広報に使えそうな写真が撮れなくて」
「そっちが本音か……」
真面目に働いてくれているので文句は言わないが、彼女の本音は別の所にある。もちろん、実行しようとする前に潰すので、写真を撮る分には構わないのだが。
「うーん、構図が悪いな……津田副会長、萩村さんを抱っこしてください」
「えっ!」
「俺がしゃがむんじゃダメなんですか?」
「椅子持ってきたよ~」
「では、津田副会長は座ってください」
捏造しようとしてる匂いがしたので、俺は三葉が持ってくれた椅子に座り、スズとのツーショットを撮ってもらう。何だかスズから不機嫌オーラが流れてくるが、とりあえず気付かないフリをしておこう。
生徒会のみんなのお陰で、ハロウィンパーティーを十分に楽しむことができた。でも、タカトシはずっとかぼちゃの頭を付けていたから、どの写真にもタカトシの顔は写っていない……
「せっかくだから、タカトシも頭を取った状態で写真を撮ろうよ」
「別に良いだろ、俺が写ってなくても」
「でも思い出だし」
私がお願いすると、タカトシは渋々頭を取ってくれた。ちょうどランコがいたので、集合写真っぽく撮ってもらうことに。
「では行きますぞー」
「お願いしまーす」
ランコに撮ってもらった写真をプリントアウトしてもらい、私は満足げな表情で生徒会室に向かう。
「今日は私の為にありがとう! お陰で思い出が増えたよ」
「楽しかったな」
「急遽お願いしたけど、皆楽しそうだったよね~」
「出島さんには後日お話を伺いたいですけどね」
「まぁまぁスズちゃん。出島さんだって悪気があったわけじゃないんだし」
「あの衣装は悪気百パーセントだったと思うがな」
確かにアリアに用意した衣装は悪意を感じたが、それでも楽しめたのは事実だし私は許してあげても良いと思う。
「またやろうな! 今度はしっかりと準備をして」
「そうだね~。今度は私も準備を――」
そこまで言って、私は肝心なことを思い出した。
「――私、ずっと日本にいるわけじゃ無かった」
「またセンチメンタルな空気が……」
「と、ところでタカトシは何処に行ったんだ?」
シノが強引に話を切り替えようとしたタイミングで、タカトシが生徒会室に入ってきた――美味しそうな匂いをさせて。
「園芸部からかぼちゃを貰ったので、かぼちゃのパイを作ってみました」
「相変わらずクオリティが高い……」
「美味しそー!」
ちょっとセンチメンタルになったけども、タカトシのお陰でそんな気分は吹き飛んだ。またできると良いな~。
手際の良さが半端ない