桜才学園もいよいよ明日から入試が開始する。そのために入試で使われるクラスに対する説明が行われたのだ。
「私たちのクラスも、入試で使われますね」
「そうですね」
「……男子が使うかも知れませんね」
「ッ!?」
「まぁ、深い意味は無いですよ」
「苛めないであげてください」
想像しただけで五十嵐さんが固まってしまった……どんな想像したかにもよるが、この人は相変わらずだな……
「そういえばコトミちゃんも桜才受験するんだよね?」
「ええ。俺と萩村が家庭教師をやって。でも大変ですよ。受験生の前では落ちるとかは縁起が悪いので気をつけないといけませんでしたし」
「そうだよね、今が一番大事だもんね……でも可哀想よね」
「? 何でですか?」
七条先輩が泣き出すほど苛めた覚えは無いんだがな……
「だって快楽に落ちる事も出来ないなんて」
「泣く所そこなの!?」
萩村が驚きながらツッコミを入れたが、俺は無視する事で今のやり取りを無かった事にしたのだった。
説明も終わり、特にする事も無かったのでそのまま帰宅。家ではコトミが必死になって勉強している。だけど直前にこれだけ焦ってるのはマズイんじゃないだろうか……もう少し余裕をもって受験に挑ませたかったんだが……
「タカ兄、これって如何解くの?」
「お前……これは前に教えただろうが」
やっぱり駄目かも知れないな……
受験当日、タカ兄についてきてもらって私は桜才学園にやって来た。なんだか緊張でドキドキする。
「落ち着けば絶対に分かるはずだから、最後まで諦めるなよ」
「うん。タカ兄、今凄いドキドキしてる」
「程よい緊張感をもって挑めば大丈夫だろ」
「この緊縛感がたまらなく興奮するよ~。 ……あっ、緊迫感だった。やっぱり緊張しちゃてるよ」
「何時も通りじゃないか」
タカ兄に送り出してもらい、私は受験会場へと歩を進めた。えっと私の番号は……あれ? 誰か座ってる?
「あの~、そこ私の席じゃ?」
「え? あ、ホントだ……一個後ろだった」
「……ドジっ子?」
なんだか緊張が解けたような気分になったな~。この人には感謝しなきゃ。
桜才の入試はマークシート。タカ兄とスズ先輩に教わった問題が多く出題されたので、ある程度は埋める事が出来た。それと開始前に緊張が解けたってのも大きな要因だったんだろうな。これなら予定していた穴埋めをする事もなさそうだな~。
「(3Pだなんて、マークシートでも恥ずかしいものね)」
きっとタカ兄に知られたら殺されるだろうし、お母さんにはお小遣いを減らされるし、お父さんには遊んでもらえなくなるしね。
「残り五分、名前の書き忘れがないか確認してください」
今時テストの名前を書き忘れるなんてあるのかな? 私の周りではそんな人居なかったけどな。
「ッ! ヤベー、忘れてたぜ」
やっぱり後ろの彼女はドジっ子なのかな? 一緒に通えるようになったらお友達になりたい感じだな~。
「そこまで! 答案を回収し、その後は面接になります。気持ちを落ち着かせて望むように」
とりあえずやれるだけはやった。後は面接でどれだけ好印象を与えるかによるね。タカ兄との練習では怒られてばっかだったけども、ありのままの自分で行けば問題ないよね!
面接官だなんて面倒な仕事、ホントはやりたく無いのよね。だってクソ真面目な答えなんて聞いても面白くないし。
「はーい、次の人」
『し、失礼します!』
誰か面白いやつ来ないかしら……
「津田コトミです!」
「はいよろしく」
『津田』ね……珍しい苗字でも無いし、気にする事も無いかな……でも、何処と無く似てるわよね、纏ってる雰囲気とか。
「えっと、我が校を志望した理由は?」
「家に近いからです!」
「……まぁ、大切よね。家に近いってのは」
でもバカ正直にそんな事答えるかしら? なかなか面白い子が来たわね。
「得意な科目はありますか?」
「保健……保健体育です!」
「……まぁ、大事よね。保健体育」
普通は主要五教科から答えるだろうに、やっぱりこの子面白いわ。
「それでは我が校に入ったら何をしたいですか?」
「タカ兄との禁断の恋」
「タカ兄? 兄貴が通ってるのか?」
「はい! 生徒会副会長の津田タカトシは私の自慢の兄です!」
「お前、津田の妹か!」
まさかアイツの妹がこんな逸材だったとは! 兄妹そろって楽しませてくれるわね。
「先生はタカ兄の事知ってるんですか?」
「当たり前だろ! 私は生徒会顧問で、アイツは最高のおかずだぞ!」
「えぇ!?」
もう一人の面接官が驚きの声を上げたが、そんな事は如何でも良い。普段ソロ活動なんてしないが、誰も捕まらなかった時は津田を使って発散しているのだ。
「分かります! タカ兄に蔑みの目を向けられたりとか、殴られたりとかって興奮するんですよね!」
「分かるか!」
「はい!」
よし! この子は私の裁量で合格にしてやろう。まぁ答案の出来次第だけどな!
コトミを待つ間、俺は外でのんびりしていた。もう寒さもピークを過ぎたのでこうして待ってるのもさほど苦ではない。まぁずっと待ってた訳じゃないんだが……
「あれ? 津田先輩じゃないですか」
「ん?」
声をかけられたけど、正直誰だか分からないんだが……中学の後輩だって事は分かるんだけども……
「そっか。コトミも桜才受けたんですね」
「あーコトミの友達?」
「はい! 先輩の事は中学時代から知ってました。最近ではエッセイを読ませてもらってます」
「……何処から入手してるんだ?」
「私の姉が英稜なんです」
なるほど……そこから入手してるのか。
「あれ? タカ兄」
「コトミ、アンタやっぱり受けたんだ」
「当たり前じゃん! そのために努力してたんだからさ」
「それじゃあ、発表の時にまた来ようね」
「そうだね。それじゃあ」
コトミの友達と別れ、俺はとりあえず考えるのをやめた。まさか中学生にまで読まれてるなんて思わなかったな……
「そういえばタカ兄、あの子の事知らないんだっけ?」
「制服で中学の後輩だって事は分かったけど」
「まぁ仕方ないよね。タカ兄は有名だけどあの子はそうじゃないもんね」
そんなに目立つ事した覚えは無いんだがな……
「そうそうタカ兄!」
「何だ?」
「タカ兄に教えてもらった問題が結構出てた。だからちゃんと出来たよ」
「そうか……」
なら胃の痛い思いをした日々も浮かばれるな……
「それから、面接の時話が合いそうな先生が居た」
その言葉に、俺は一人の変態教師を思い浮かべた。
「多分あの人だ……」
「?」
コトミとあの人を意気投合させたらマズイ、俺の中でその事が大きくなってきたのだった。合格してほしいけど、あの人と会わせるのはな……
ホントスミマセンでした……