お正月休みということで、一人暮らしをしているお姉ちゃんが実家に帰ってきている。帰ってきたといっても、通えない距離ではないので顔は頻繁に見ているし、私も偶に遊びに行ったりしているので久しぶりという感覚ではない。
「やっぱり実家だと楽ができて良いわね」
「お姉ちゃん、少しはお母さんの手伝いをしたら?」
「いやよ。せっかく休みに来たのに手伝いなんて」
こんな感じでお姉ちゃんは何もすること無くゴロゴロ過ごしている。そろそろお母さんも怒りそうだということはお姉ちゃんも分かっているはずなのになぁ……
「そんなことより、カエデ」
「なに?」
「少しは男性恐怖症は改善できたの?」
「な、なによいきなり……」
唐突な話題に、私は思わず身構える。私の男性恐怖症は筋金入りで、一時期はお父さんですら近づけなかったりしたほどだ。今でこそ普通に――私からしたらだが――会話できるくらいにはなっているが、それでも改善したと言いきれる程ではないと自覚はしている。
「だって何時までも彼氏の一人もできないなんて寂しくないの?」
「お姉ちゃんだって、高校時代に少し付き合っただけでしょ! 今は独り身だって散々ぼやいてるじゃないの」
「だからこそ、カエデが彼氏でも作ってお母さんを安心させてあげろって言ってるのよ」
「無理だから」
私の場合は彼氏の前に男友達が作れたら奇跡というレベルなのだ。元女子校だから同級生に男子はいないし、コーラス部にも男子部員はいない。風紀委員会には男子がいるが、報告などはなるべく離れてしてもらっている。これでは関係が進むなんてことはあり得ないだろう。
「誰もいないわけ? カエデの体質を知っていて、それでも接してくれている男子は」
「いないこともないけど……」
「えっ、誰よ!?」
「なにその喰いつき……」
お姉ちゃんの喰いつき方に若干引きながら、私は思い浮かべた男の子の説明をしたくないと自分の部屋に逃げ込もうとして――
「お母さんも気になるよね?」
「そうね」
――逃げ道をお母さんに塞がれてしまった。
「それで、カエデの意中の人って誰なの?」
「な、何か大袈裟になってない?」
「だって、カエデの体質を知ってなお付き合ってくれているんでしょう?」
「仕事上! 仕事上の付き合いだから!」
力説していて悲しくなるが、彼は誰とも付き合っていない。私の好意にも気づいてはいるが、あえて踏み込んでこないでいてくれているのだ。
「なーんだ。風紀委員会の後輩君か」
「そういうわけだから、この話はおしまい! というか、お姉ちゃんの方が出会いの可能性はあるのに、どうして私に押し付けようとするのよ!」
「さーて、そろそろ帰ろうかな」
「逃げるな!」
私からのカウンターを受け一人暮らしの部屋に帰ろうとしたお姉ちゃんの肩を掴んで、その後永遠に問いただしてやった。その所為でお母さんとお父さんがドン引きしていたけども、こうでもしないとタカトシ君が風紀委員の後輩ではないということを聞き出されそうだったから……
正月気分でいられるた日々はあっという間に過ぎ、私は今現実から目を背けたくなっている。
「おかしい……今回は計画的に宿題をしていたはずだったのに、何故こんなにも残っているのだろうか」
私の目の前には山積みになっている宿題が置かれている。冬休みに入ってすぐに宿題に着手したはずだというのに、何故こんなにも残っているのだろうか……
「はっ! まさかこれは、仕組まれた陰謀!!」
「お前がやってなかった結果だろうが。というか、着手したって言ってるが、一日一問じゃ終わるわけ無いだろうが」
「ハイ……ゴメンナサイ」
私の前で呆れているのを隠そうともしないタカ兄に頭を下げ、私は宿題を終わらせるべくノートを開く。幸いなことに、問題が何を言っているのか分からないという程ではないので、何とか自力で解ける問題も少しはあった。
「今年は時さん、ちゃんとやってるらしいのに、どうしてお前はこうなるんだ?」
「私だってやろうとは思って、ちゃんと机に向かってたよ! でもどうしても他のことが気になったり、ムラムラしてきて発散してたらつい……」
「はぁ……」
盛大にため息を吐かれてしまった……この人に見放されたら終わりだと分かってはいるのだが、どうしても「大丈夫だろう」という考えがどこかで生まれてしまう。タカ兄だって何時までも私の相手をしてくれないと、散々自分に言い聞かせているというのに、だ。
「(もしかしたら私は、タカ兄に彼女ができるなんて考えたくないのかもしれないな……)」
散々「お義姉ちゃん候補」だとか言って色々な人をからかっているのに、本音ではタカ兄を取られたくないのかもしれない。
「そこ、間違えてる」
「えっ?」
そんなことを考えていたかは分からないが、タカ兄に間違いを指摘されて私は慌ててノートを見返す。だが残念なことに、何処が間違っているのか分からなかった。
「ゴメンなさい、何処が間違っているのでしょうか?」
「……何か余計なことを考えていただろう」
「な、ナンノコトデスカ?」
明らかに片言になっている私を見て、タカ兄はもう一度盛大にため息を吐いた。もうタカ兄の幸せは残っていないかもしれない。そんなことを考えながら私は、タカ兄の説明を聞いて間違いを修正するのだった。
成長しないコトミ……