桜才学園での生活   作:猫林13世

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どんな勘違いだよ……


ヨガ体験教室

 手分けして校内の見回りをし、先に生徒会室に戻ってきたのだが、見回り前にはいなかったはずの横島先生が生徒会室で何やら悩んでいた。

 

「うーん……」

 

「先生、どうしたんですか? お通じが来ないんですか?」

 

「いや、それもあるけど今は違う悩みだ」

 

「そうですか」

 

 

 どうせろくでもないことなんだろうと思いスルーしようとしたのだが、何故か横島先生は私に喰いついてこなかった。何時もならすぐに喰いついてくるというのに、何があったのだろう?

 

「先生? 深刻な悩みなら聞きますが」

 

「そうだな。生徒会にも関係ない話じゃないし」

 

「そうなんですか?」

 

 

 生徒会にも拘わる話とはいったい何なのか、私は横島先生の話に興味を懐いた。

 

「実は、新しい部活を作りたいと相談され、その顧問をやってくれないかと打診されたんだ」

 

「新しい部活、ですか? そんな話、生徒会に上がってきてませんけど」

 

「まだ部員集めの段階だからな。顧問だって正式に設立した時に探すのは遅すぎるからという理由で打診されただけだから、まだ正式に決まってるわけでもないし」

 

「そうでしたか……」

 

 

 確かに部活をするには顧問が必要だ。部が設立してから探すのでは遅すぎるという考えも理解できる。だが私が理解できなかったのは、その部分ではない。

 

「ですが、何故横島先生に打診が? 先生は既に生徒会の顧問ですし、両立するのは難しいのではありませんか?」

 

 

 ほとんど名ばかり顧問とはいえ、横島先生は生徒会の担当だ。新しい部活がどのようなものかは分からないが、兼任は難しいのではないかと思った。

 

「そこなんだよな……ほら、私って生徒会にとってはいなくてはならない存在だろ?」

 

「はぁ……」

 

「ツッコめよ! って、天草にそんなことを期待しても無理か。お前はボケ側の人間だしな」

 

「自覚はしています」

 

 

 タカトシと萩村が修学旅行でいなかった時、私とアリア、そしてタカトシの代打としてやってきたコトミとで作業をしていた時に痛感している。ボケだけでは作業がはかどらないとな。

 

「ところで、新しい部活ってどんなのですか?」

 

「あぁ、ヨガ部というのを作りたいという話だったんだ」

 

「ヨガ、ですか? 確かに最近色々なところでヨガ教室という文字を目にしますが……何故横島先生に顧問の打診が? ヨガをやってるわけじゃないですよね?」

 

 

 そもそも横島先生は身体が硬い方だったと思うし、ヨガの知識があるとは思えないんだが……

 

「どうやら私が毎晩ヨガってるって話を誤解したらしくてな」

 

「なる程……確かにヨガですね」

 

「だろ?」

 

 

 私では横島先生の処理はできなさそうなのでスルーしたが、恐らく作りたいヨガ部と横島先生のヨガりは関係ないだろう。どうしたものかと頭を悩ませていたところに、アリアと萩村が戻ってきた。

 

「だったら実際にヨガを体験してみれば良いんだよ~」

 

「だがアリア、そんな簡単にできるものではないだろ?」

 

「大丈夫。私、経験あるから」

 

「さすがはアリアだ。ではさっそく体験してみよう! ――って、タカトシはどうした?」

 

「タカトシ君なら、何やら相談したいって子に連れていかれちゃったよ」

 

「今日はそのまま帰ることになると思うって言ってました。鍵は自分で持っているので、先に帰ってくれて構わないとも」

 

「そうか……では仕方ないな。アリア、ヨガの体験は何処でできるんだ?」

 

「ウチでできるよ~。最近ヨガ用の部屋も造ったから~」

 

「相変わらずのスケール……」

 

 

 アリアのスケールの大きさに驚くのもバカらしいと思っているのだが、やはり驚いてしまう。とりあえずヨガが体験できるというので、私たちは出島さんの運転で七条家へと向かった。

 

「まずは簡単なポーズから」

 

 

 アリアがお手本を見せてくれるので、私たちはそれと同じようにポーズをとるだけだ。最初のポーズは木のポーズというらしい。

 

「大地に根を張る木をイメージしてください」

 

「横島先生、股から樹液が漏れてます」

 

「くだらない表現するな!」

 

 

 何故か私が萩村に怒られたが、直接的な表現をするより良いと思ったんだがな……

 

「次は半月のポーズ。片手と片足で全体を支える感じかな」

 

 

 簡単にやってのけているが、これがなかなか難しい。私も辛うじてできているが、横島先生はさっきから身体が震えている。

 

「先生、ハンケツしてますよ」

 

「ぐわぁ」

 

「次はハトのポーズ」

 

「先生、羽がはみ出てますよ」

 

「うがぁ!」

 

 

 身体の硬い横島先生は色々と苦戦しながらもヨガの体験を進めていく。

 

「七条先輩、このぶら下がってる布は何ですか?」

 

「それは空中ヨガ。ブランコのように乗ってバランス感覚を養えるの」

 

「これ、楽しいですね」

 

 

 萩村が空中ヨガを体験しているのを見て、横島先生が得意げな顔をした。

 

「私、こーゆーのなら得意だぜ」

 

「そうなんですか?」

 

「あぁ。普段から股縄ブランコやってるから」

 

「それとバランス感覚は関係ないのでは?」

 

「ヨガなめんな!」

 

「えっ、ヨガって舐めるな?」

 

「そんなこと言ってないだろうが!」

 

 

 派手に聞き間違えた横島先生の脛を萩村が蹴り飛ばす。少し痛そうな感じもするが、横島先生は満足げな表情をしているから、きっと痛みが快感になったのだろうな……

 

「これで少しは自信が持てた! ヨガ部の顧問も行けそうだ」

 

「別に良いんですが、生徒会顧問もちゃんとしてくださいよ?」

 

「分かってるさ」

 

 

 自信を持った横島先生だが、顧問としてやっていけるのかという不安が私たちの中にあったのだが、それは黙っておこう。




これで自信が持てるのが凄い……

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