放課後、生徒会の仕事として校内を見回っていると、パリィが何やら雑誌を見てブツブツと言っているのを見つけた。生徒会本来の仕事としては、不要なものを持ってきているパリィを注意し、雑誌を回収するのが正解なのだが、私だけではなくアリアや萩村もパリィが何を見てブツブツ言っているのかが気になってしまった。
「パリィ、何をしているんだ?」
「あっ、シノ……実は、行ってみたいお店があるんだけど」
「何処だ? 私たちが案内してやるぞ」
パリィは交換留学生だ。生徒会の面々が面倒を見るのは問題ないはずだ。だが背後からタカトシが凄い威圧感を放っているのは、生徒会の職務を放棄しているからではなく、付き合いたくないという気持ちだと思っておこう。
「行列ができるお店ー!」
「それならこの近所に行列ができるカレーパン専門店がありますよ」
「畑さん……それで、今日は何を誤魔化す為にその情報を?」
「な、ナンノコトデスカ? 私はただ善意で――」
「畑さん! 柔道部の更衣室を覗いてた件、まだ取り調べが――」
「そう言うことですか。カエデ先輩、畑さんは確保しておきましたので、後はお願いします」
畑の首根っこを掴んで逃げられなくし、五十嵐に突き出すタカトシ。相変わらずの仕事の早さでほれぼれするな。
「それじゃあ今度の休日はそのカレーパンの専門店に行くぞ!」
「わー楽しみ」
パリィは喜んでくれているが、タカトシが不満そうな顔をしている。だがこいつも数で押せばある程度は許してくれるし……
会長の提案でパリィを行列のできるお店へ案内することになったのだが、何故かタカトシではなくコトミがやってきた。
「コトミ、何故お前が?」
「タカ兄は家事全般が忙しいので私が名代? として派遣されました」
「何時もならカナに頼んでタカトシが来るはずでは」
「お義姉ちゃんは今日は朝からバイトです。それに私もここのカレーパン食べてみたかったですし」
タカトシではなくコトミが来た所為で、ツッコミは私一人になってしまった。これだけの人数を捌く自信なんて無いので、ボケはある程度スルーすることにしよう。
「まぁコトミでも良いか。とりあえず並ぶぞ!」
会長の音頭で私たちは既に行列ができているお店に向かい、最後尾に移動する。
「こう言うのって待ってる時間が楽しいんだよね?」
「そういう楽しみ方もありますけど、私はさっさと買えてさっさと食べれる方が好きですね~」
「コトミは即物的だからな」
「でも、こうやってお友達と待ち合わせしてお店に並ぶって、何だか青春っぽいよね~」
「………」
ツッコまない、ツッコまないぞ……一度相手をしたら際限なくしなければいけなくなってしまうし、ここは我慢だ。
「あれ? パリィ先輩、何だか震えて無いですか?」
「ちょっとね……」
「あぁ、今日ちょっと寒いもんね。はい、温かいお茶」
私が善意でお茶を差し出しているということはパリィも分かっていたのだろう。だが彼女の顔は青白く変わっていく。
「どうしたの?」
「震えてるのは寒いからじゃなくって……この辺にお手洗いってないかな?」
「あっ……場所取っといてあげるから行ってきなさい」
すぐ傍のコンビニを指差してパリィにトイレの場所を示す。パリィはダッシュしたいが既にギリギリなのかおかしな歩き方をしながらコンビニに向かっていった。
「パリィ先輩も特殊性癖の持ち主なんですね」
「どういうこと?」
「だって、ああやって我慢してるアピールをしてお腹を押してもらいたいって言ってるんじゃないんですか?」
「コトミは相変わらずだな」
何故か笑い話で済んでいるが、タカトシがいたら怒られていただろうな……
「でも会長。このお店って数量限定なんですよね? ちゃんと買えますかね?」
「自分の目の前で売り切れたらショックだろうな」
「そうですね~。ついでに、自分で売り切れたらと思うと罪悪感がありそうですよね」
コトミが自分の後ろに意識を向けたので、私たちもそちらに視線を向ける。そこには早く買えるのを楽しみにしている女の子が……
「そんなことにならないように祈ろう……」
パリィも戻ってきて無事に数量限定カレーパンを購入することができた。ちなみに、コトミの後ろに並んでいた女の子も、無事に買うことができていたのは、本当に良かった。
長い時間並んで、途中でお漏らししそうになったけども無事に購入できたカレーパンは、本当に美味しかった。日本人が並んでまで買いたいって思う気持ちが少し理解出来た。
「それでパリィ、どうだった?」
「すっごく美味しかった!」
「それは良かったな」
「でも、さすがに一個じゃお腹は溜まらなかった……別のお店に行きたい」
「それで、今度は何処に行ってみたいんだ?」
「すぐに食べられるお店」
「ほらやっぱり。結局はそういう考えになるんですよ!」
さっきコトミが言っていたようなことを自分が言っているので、コトミは勝ち誇ったように胸を張る。その反動でコトミの胸が上下に揺れた。
「「ケンカウッテンノカー!」」
「シノちゃんもスズちゃんも過敏すぎるんじゃないかなー?」
「別にそんな意図は無かったんですが……あっ、タカ兄から電話だ」
コトミはタカトシからの電話を受け、お昼用の食材の買い出しを頼まれているようだ。
「あっ、そうだ! タカ兄、これから先輩たちを連れて行って良いかな? うん、そう。食材はちゃんと買っていくから」
コトミが何を思いついたのかは分からなかったが、シノたちの顔を見たら良いことであることは分かったので、私は鳴るお腹を睨みつけながら買い出しに付き合ったのだった。
やっぱりすぐ食べられる方が良い