春休みに入り、私はほぼ毎日のんびりと生活していた。
「はぁー長い春休み……素敵」
「のんびりと過ごすなとは言わないが、何故毎日俺の部屋の俺のベッドでゴロゴロするんだよ。そんなにこの部屋に居たいなら勉強してもらおうか? 桜才はそれなりの進学校だからな。今からそんなじゃ試験とか如何するつもりだよ」
「なんだか受験終わったら緊張の糸切れちゃってさ~。ついでにさっきタン○ンの糸まできれちゃってビックリだったよ~あはは」
「笑い事なのか、それ?」
タカ兄が私を見つめながら首を傾げる。ヤバイ、あそこに洪水警報が発令されちゃうよ。
「ん? 誰か来た」
「え? 特にチャイムも……」
鳴って無いと言いかけたタイミングで、来客を告げるインターホンが鳴った。相変わらずタカ兄は高スペックだな~。
「はい?」
「やあ!」
「会長、それに七条先輩に萩村も……」
「私たちも居ますよ」
「魚見さんに森さん……大勢で如何かしたんですか?」
玄関には、クリスマスパーティーで一緒だった桜才と英稜の生徒会メンバーが揃っていた。
「我々は後輩になるコトミに入学祝をな」
「ホントですかー!」
まさか先輩たちから入学祝がもらえるなんて思って無かったな~。
「参考書」
「問題集」
「保健体育の教科書」
「うわぁん!」
「みんなインテリだからな……」
タカ兄がしみじみ言った事で思いだしたけど、みんな成績上位者だったんだっけ……
「それで、魚見さんと森さんは?」
「我々は合格祝いに来ました」
「ホントですかー!」
桜才の先輩方は真面目な送りもだったけど、英稜の二人ならきっと……
「電子辞書です」
「私はシャーペンと変え芯、そしてルーズリーフです」
「結構高いですよね、これ?」
タカ兄が魚見さんが持って来た電子辞書を見ながらつぶやいたけど、何でみんな私に勉強させようとしてるんだよー!
急な来客でもてなすものも無かったので買い物に出かけた。その間の対応はコトミに任せてきたんだが、大丈夫だろうなアイツ……
「津田君?」
「あっ、五十嵐さん。如何したんですかこんな所で?」
「買出しですけど……津田君も?」
「ええ。急な来客がありましてね。ちょっとお菓子とかを」
「来客?」
「天草さんたちと英稜のお二人ですよねー」
「ヒィ!?」
「アンタ何処から現れた?」
五十嵐さんと会話していたら、音も無く畑さんが現れた。しかも何処から見てたんだこの人?
「では私と五十嵐さんも津田さんのお宅訪問としましょうか」
「わ、私も?」
「えーだって貴女も津田君で……」
「何を言うつもりですか貴女は!」
五十嵐さんが大慌てで畑さんの口を塞いだけど、何を言いかけたんだあの人……
「とりあえず二人も来るんですよね? それじゃあもう少し買っておくか」
「私これが食べたいなー」
「棒読みでおねだりするな」
畑さんが持って来たお菓子をカゴにいれ、さっさと会計に向かう。
「ホントに買ってくれるんですねー」
「どうせ他の人も食べるでしょうしね」
会計を済ませてさっさと家に戻る事にした。あのメンバーじゃ何を仕出かすか分からないからな……最近萩村もストッパーとして機能してないし……森さん一人じゃ荷が勝ちすぎてるだろうしな……
津田さんが居なくなった途端、この空間はカオスと化した……ツッコミ不在と言うのは恐怖の他無いですね……
「私とシノちゃんはね~、乳首こねくり回すのが好き同士って共通点から仲良くなったんだよね~」
「ああ! まさか入学初日にこんなにも意気が合う友人が出来るとは思って無かったぞ」
「そうなんですか~。でもあんまり弄りすぎると黒くなっちゃいますよ?」
「大丈夫よコトミちゃん。それはそれで扇情的だって思うでしょうから」
天草さん、七条さん、コトミさんに魚見会長が下ネタトークを繰り広げる中、萩村さんはフランス語の勉強とか言い出してウォークマンで会話を聞こえないようにしてるし……
「ただいま……森さん? 如何かしたんですか?」
「いえ……私ではあのカオスと化した空間にツッコミを入れられませんので……」
「あれ~? 畑さんにカエデちゃんも津田君のお家に来たの?」
「偶々会いまして……」
「それで爛れた生活をスクープしようかと……」
「今後エッセイは一切書きません」
「それは困ります! 貴重な収入g……あっいえ、沢山のファンが泣いてしまいます」
今収入源って言いかけた? そういえば英稜で大量に購入してますからね……
「始めまして、桜才高校新聞部部長の畑ランコです」
あっ、誤魔化しに入った……
「津田コトミです。四月から後輩になります!」
「独自調査の結果、貴女はあの横島先生から一目を置かれてる存在だとか。入学後にインタビューしても良いでしょうか?」
「良いですよ」
横島先生ってあの生徒会顧問の? 確か体育祭の間中ずっとサボってたとか聞いたような気がするんですよね……
「それにしてもタカ兄、私は高校入学前からこんなにも先輩たちと知り合えて嬉しいよ」
「そうか。ならしっかりと……」
「だって生徒会役員に風紀委員長、そして学園の裏も表も牛耳る新聞部の部長。権力者とコネが出来るなんて思って無かったからさ」
随分とハッキリものを言う子なんだな……それに生徒会顧問の先生とも話が合うようだし、普通の新入生よりかは心強いと思うのも無理が無いような気もするわね……
「やですねー。私は別に牛耳ってなんてませんよ。ちょっと脅せば大抵の人は言う事を聞いてくれるだけですって……あっ、ゴメンなさい」
津田さんに睨まれてるのに気付いたのか、畑さんが大慌てで頭を下げた……実際に牛耳ってるのは津田さんなのではと思ったけど、それを言えばきっと怒られるので黙っておこう。
「俺は牛耳ってません」
「読心術!? さすがですね」
この人はハイスペックだと聞いていたけども、まさかそこまでだとは……私もツッコミに関してはかなり高い評価を受けてますが、津田さんと比べるとまだまだですね。
「津田さん」
「何でしょうか?」
「今度一緒に出かけませんか?」
「良いですよ」
「では携帯の番号とアドレスを」
「「「「「ッ!?」」」」」
「あらあら~」
「ナチュラルに流れを持っていくとは……これは本命が登場か?」
「何なんだいったい?」
天草さん、魚見会長、五十嵐さん、萩村さん、コトミちゃんが一斉に私に視線を向け、七条さんが面白そうに笑い畑さんが私にカメラを向けた。いったいなんだったんでしょうか……津田さんと二人で首を傾げるしか出来ませんでした。
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