教室でおしゃべりしてたら、ふと思い出したのでトッキーとマキに提案をした。
「生徒会室に行こう!」
「何、急に?」
「ほら、トッキーにタカ兄を紹介しなきゃいけないし、タカ兄にはトッキーを紹介しなきゃだしさ。マキも一緒に行くでしょ?」
何せタカ兄に自然な形で会いにいけるのだ。中学時代から会いに行くだけで緊張してたマキの事だから、放っておいたら高校でも進展無しでタカ兄が卒業してっちゃうだろうしね。
「何でお前の兄貴に紹介されなきゃいけねぇんだよ」
「だって私は私の友達をタカ兄に知ってもらいたいし」
「何だよその理屈」
「トッキーだって権力者とコネが出来るのは良いと思うけど」
タカ兄は副会長だけども、次期会長候補筆頭だし裏の権力者とまで言われてるって畑先輩から聞いたしね。
「ほらほら、昼休みが終わる前に行こうよ」
「しょうがねぇな」
「ほら、マキも行くよ」
「う、うん」
相変わらず会いに行くだけで緊張しちゃってるねー。これじゃあ告白なんて夢のまた夢……さらにその遥彼方だよね。
「ところで、生徒会室って何処だっけ?」
「案内も出来ないのかよ……えーっとこっちだな」
「こっちだよ! トッキーも駄目じゃん」
マキにツッコまれて私とトッキーは恥ずかしさから顔を下に向けた。相変わらずトッキーはドジっ子のようだね。
「やっほータカ兄!」
「おぉ! コトミ、良い所に来た」
「ふぇ? シノ会長如何かしたんですか?」
生徒会室に入るなりシノ会長が私の後ろに隠れた。また何かしでかしてタカ兄を怒らせたのかな?
「ちょっとおふざけしただけなんだ。それなのに萩村が」
「スズ先輩が?」
視線をシノ会長から生徒会室内に移すと、アリア先輩とタカ兄が必死になってスズ先輩を宥めてる光景があった。まるで機嫌を損ねた子供をあやしてる夫婦のようだった。
「それでコトミ、お前は何をしに生徒会室に?」
「タカ兄に新しい友達を紹介しようと思って」
「随分と溶け込むのが早いな」
「そうですか?」
一週間も経ても友達くらい出来ると思うんですがね。
「トッキーこと時さんです」
「それってピアスですか?」
タカ兄がトッキーの耳たぶを見てそんな事を言った。
「トッキー、ご飯粒が耳たぶについてるよ」
「えっ、マジ?」
「ドジっ子なのね」
アリア先輩がトッキーの本質を一瞬で見破った。まさかアリア先輩は心眼の持ち主!?
「誰でも分かるって。心の中でも厨二禁止」
「相変わらずぶっ飛んでる妹ね、津田の妹って」
「アハハ……」
タカ兄が乾いた笑いをこぼすと、生徒会室の扉が勢い良く開かれた。
「ちょっと貴女、制服はちゃんと着なさい!」
「そういえばカエデちゃん的には男の子っぽい女の子って大丈夫なの?」
アリア先輩がそんな事を聞くと、カエデ先輩はトッキーの胸に手を近づけてゆっくりと触った。相変わらずスケベな人ですね~。
「セーフだわ!」
「この学校変なヤツ多いな……」
「えっと時さんだっけ?」
タカ兄がトッキーに近付いて行く。トッキーが怖い顔してるけどもタカ兄はまったく気にせずに話しを続けた。
「変な妹だけど仲良くしてやってください」
「あ、あぁ……ご丁寧にどうも」
綺麗に頭を下げられて面喰ってるトッキー。タカ兄は真面目な人だと思われたらしい。
「それと八月一日さんも。相変わらず変な事言ってるだろうけども見捨てないでやってくれると嬉しいかな」
「は、はい! 高校でもコトミちゃんとは仲良くさせていただきます!」
コトミちゃんって……普段呼び捨てのくせに、ホントタカ兄の前では性格が変わるんだね。
「そういえばシノ会長、何をやってスズ先輩を怒らせたんですか?」
「いや、ちょっとした戯れでな。一年生の平均身長と萩村の身長を比べただけだ」
「それで、如何だったんですか?」
「萩村のほうが……って萩村? 何で鋏を持ってるんだ? てか何処から取り出したんだその鋏は!」
スズ先輩に追いかけられてシノ会長が逃げていく。それでも廊下を走らない辺り二人は真面目なんだなーって思った。
「それでタカ兄、今日も帰りは遅いの?」
「いや、今日はシフト無いしそのまま帰るが?」
「そっかー。じゃあ晩御飯は久しぶりにタカ兄の料理が食べられるんだね」
「弁当作ってるの俺だろうが……」
相変わらずお母さんもお父さんも不在の為に、お弁当はタカ兄が用意してくれてるのだ。本当なら私も作った方が良いってのは分かってるのだけども、私が料理した場合料理ではなく化学実験になってしまうのだ……
「それじゃあ一緒に帰ろうよ。放課後また此処に来るから」
「来るって言ってもなぁ……まだ仕事あるし」
「大丈夫だよ、津田君」
「七条先輩?」
「津田君の分は既に終わってるし、仕事が残ってるのはシノちゃんとスズちゃんだけだから」
「そうなんですか?」
さすがタカ兄、仕事が速いんだね。これなら久しぶりにタカ兄も一緒に帰れるな。
「それじゃあまた放課後!」
タカ兄に挨拶をして私たちは教室へと戻って行く。相変わらずマキがしゃべらなかったけども、放課後も一緒ならさすがに話すよね。
放課後、生徒会室にでは無く教室にコトミたちがやって来た。別に良いけど目立ってしまったな……
「じゃあ萩村、俺は生徒会室に寄らないで帰るから」
「分かったわ。また明日」
「うん、また明日」
萩村に挨拶をして俺はコトミたちの許に向かう。
「一年は終わるの早かったのか?」
「まだそれほど連絡する事無いからね」
「そんなもんか」
コトミと話しながら昇降口まで行き、此処で二年と一年で分かれる。必然的に俺は一人になるのだが、別に如何こう思う訳でも無いのだ。
「そういえばトッキーって何人まで同時に相手出来る自信ある?」
そういえば時さんは空手の有段者だったんだっけ? 三葉といい女性が強くなったんだな。
「五、六人は楽勝かな」
「凄いねー。でもそれって穴足りる?」
「お前は何の話をしてるんだ」
「相変わらずね、コトミは……」
「おバカな妹でスマン……」
話しの内容が変わってるのに時さんが気づけずにいたので、俺はとりあえずコトミの代わりに頭を下げた。ホント口を開けばろくな事話さないなこいつは……
「ちなみに私は三人くらいならいけると思うよ」
「一応聞くが、それは格闘技の相手だよな?」
「ううん、夜の格闘技だよ」
襲い来る頭痛に悩まされながら、俺はコトミの脳天に拳骨を振り下ろした。気絶させると面倒だからギリギリの威力でだ。
「何か大変なんですね、コイツの兄っていうのは」
「分かってくれて嬉しいよ……」
時さんに同情されながら、駅までの道程を歩いた。コトミたちは一駅だけど電車だからな。駅までは一緒に行って向こうの駅でまた合流するらしいんだが、それって俺に走れと言ってるんだよな?
コトミが入学してからますます胃の痛い学園生活を送る事になるタカトシだったとさ……