桜才学園での生活   作:猫林13世

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シノは好奇心の塊だからな


除夜の鐘

 シノちゃんの願いを叶えるために、私たちは夜遅くの外出に。タカトシ君がいるから問題はないのかもしれないけど、出島さんが私たちの引率役を引き受けてくれている。

 

「お嬢様の身の安全のためなら」

 

 

 そう意気込んでいるのだけど、タカトシ君がいる時に声を掛けられることはほとんどないから、出島さんも少しは楽しんでもらいたいな。

 

「ところで、会長はどうして鐘撞なんてしたかったんですか?」

 

「やったことがなくてな。一度してみたかったんだが、一人で出かけるのも寂しくて機会を逸していたんだ」

 

「それで私たちを巻き込んでそれをしてみようと」

 

 

 シノちゃんはいろいろなことに興味を惹かれるから、してみたいことがたくさんあるんだろうな。私はそこまでないから、そういうところに憧れちゃうんだよね。

 

「それでは整理券を配ります」

 

 

 出島さんがこういうことを予期して入手してくれていた整理券を受け取る。そこに書かれている数字は「081」だ。

 

「つまりここにしまえってことだね」

 

「あぁ! 整理券になりたい」

 

「大声で何を言っているんですか、貴女は……」

 

 

 出島さんが私の胸を見ながら願望を漏らすと、タカトシ君がすかさずツッコミを入れる。

 

「それにしても、意外と人がいるもんですね」

 

「カップルとかもいますね」

 

「彼女と鐘撞デートをした後、彼女を突くわけですか」

 

「彼女が、かもしれないぞ?」

 

「どっちもドキドキしますね!」

 

「煩悩まみれな人たちがやってもいいんだろうか……」

 

 

 スズちゃんが零した疑問に、誰も答えなかった。タカトシ君も呆れているのかスルーしてるし、そもそも私ではツッコミができないしね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いざ順番が近づいてくると、なんだか怖くなってくる。私がやってもいいのだろうかという不安とともに、もう一つの不安が恐怖を加速しているのだ。

 

「しまった。手袋を忘れてきた……」

 

「私のでよかったら貸しますよ」

 

 

 カナが手袋を貸してくれた。この流れなら自然にあれが借りられるんじゃないか?

 

「萩村の耳当ても少し貸してくれないか?」

 

「いいですよ」

 

「ありがとう」

 

 

 萩村から耳当てを借りて、私はようやく決心がついた。整理券を住職さんに渡し、念願だった鐘撞を体験する。

 

『ゴーン』

 

 

 ものすごい音が耳のそばで鳴り、私は少し肩を跳ねせてしまう。耳当てがあれば大丈夫かと思ったのだが、意外と響くものだな……

 

「シノちゃん、怖かったの?」

 

「そ、そんなことないぞ!? ただちょっと寒かったらかカナから手袋、萩村から耳当てを借りただけで、決して耳当てを耳栓代わりにできないかなんて思ってなかったからな?」

 

「シノっち、語るに落ちてますよ」

 

「あっ……」

 

「そもそもタカ兄に聞いて、どうしてシノ会長が耳当てを借りたのかなんてわかってますけどね」

 

「なっ!?」

 

 

 タカトシの読心術で私がビビっていたのを知られていたとは……というか、タカトシがそんなことを言いふらすわけないし……

 

「誰が聞いたんだ!?」

 

「私です」

 

「カナかっ!」

 

「だってシノっち、家を出る前に手袋してたはずなのに、気づいたら持ってきていなかったので何か意図があるんじゃないかって」

 

「見られてたのか……」

 

 

 実は家を出る前から萩村の耳当てを狙っていたのだ。だがそれだけ借りるのは不自然だと思い、少し寒いが手袋を家に置いてきた。まさかそこを見られていたとはな……

 

「すっごく恥ずかしい気分だ」

 

「まぁまぁ、シノ会長がビビりだってことは、ここにいる皆さんが知ってることですから」

 

「誰がビビりだ!」

 

 

 少し強めに反論したが、タカトシとアリアが生暖かい視線を私に向けている。強がったところで私がビビりであることは知られているんだ。だが否定しておかないと今後の威厳にかかわってきそうだったから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 住職さんが最後に鐘を撞き、ちょうど年が明けた。シノさんがさっきから強がって見せているが、別にそんなこと気にしなくてもいいと思うんだけどな……

 

「と、とりあえずあけましておめでとう。今年もよろしくな」

 

「よろしくお願いします」

 

「あけ おめこ とよろ」

 

 

 出島さんが悪意ある間を作り挨拶をする。相手にするとつけあがるのでここは無視しておこう。

 

「何言ってるんですか出島さん」

 

「駄目だよ~」

 

「あれ?」

 

 

 どうやら除夜の鐘のおかげで、シノさんとアリアさんの煩悩が払われたようだ。つまり出島さんほど煩悩まみれではなかったということなのだろう。

 

「タカ兄、お母さんからメッセージきた?」

 

「一応な。やっぱり帰ってくるのは難しいようだ」

 

「私にも一応あったけど、タカ兄に迷惑をかけるなって言われた」

 

「それを実行してくれるのなら、お母さんから預かってるお年玉をあげられるかもな」

 

「守る! 守るからお年玉をください!」

 

 

 こいつは本当に金をちらつかせると従順になるな……こんなんじゃ将来が心配で仕方がない。

 

「それじゃあ一回家に戻って、それから福袋を買いに行くぞ!」

 

「念のため言っておきますが、ウチは皆さんの家ではありませんからね?」

 

「そうです。タカ君とコトちゃん、そして私の家です」

 

「カナは違うだろうが!」

 

「だって、私にもお義母さんからメッセージありましたから。今年も娘をお願いって」

 

「な、なんだこの敗北感は……」

 

 

 てか、義姉さんにも送ってたのか……ほんと、コトミが独り立ちしてくれる日は来るんだろうか……




煩悩まみれな出島さん
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