今回の勉強会は桜才学園の図書室で行われるという事で、私は魚見会長と二人で桜才学園に向かう事にした。
今回は桜才学園という事で制服のままでいいので着替える必要はないのだ。
「それにしても、森さんが津田さんとラブラブ勉強会をしていたなんて……」
「何ですかそれは! 大体二人っきりじゃないんですが」
津田さんの後輩の八月一日さんや時さんが一緒でしたし、それに津田さんにはそういった邪な感情は無かったでしょうし……
「まぁそれはさておき、勉強熱心なのは良い事です。次期生徒会長の森さんが残念な成績では困りますからね」
「分かってますけど……元々そこまで酷い成績では無いんですけど」
「学年が代わって皆さんそろそろ本気を出してくる頃ですしね。二年からは範囲も広がりますし受験という言葉が明確に見えてくる時期でもありますから」
受験か……そう言われると魚見会長はもう追い込みに入ってる時期なんだろうかと思ってしまった。普段ふざけてる人ですが、この人は学年トップの成績なんですよね……
「如何かしましたか、そんなに私を見つめて?」
「あっいや……」
「もしかして森さんが百合に……」
「目覚めてないので安心してください」
こんな事ばっか言うからイマイチ尊敬出来ないんですよね……まぁ桜才の天草会長も似たようなところがあるので、津田さんも同じような事を言ってましたが。
「さて、桜才学園に着きましたが……入っても良いんでしょうか?」
「如何なんでしょう……」
校門前で躊躇っていると、津田さんと天草会長が迎えに来てくれた。
「ウオミー! それに森さんも、待ってたぞ!」
「シノッチ! 昨日は出迎えがあったから気にしなかったけど、さすがに堂々と入るには度胸がいりますよ!」
「スマンスマン。ちょっと後輩の面倒を見ていてな」
「後輩?」
天草会長の言った後輩が誰なのか気になっている様子の魚見会長。正直に言えば私もかなり気になってるんですが……
「コトミの事です。アイツ昨日逃げたんで」
「あぁ……そういえばそうでしたね」
津田さんの妹さん、コトミちゃんは昨日の勉強会には来なかったんでしたね。帰った後で津田さんにコッテリと叱られて付きっ切りで勉強させられたと思ってたんですが、それ以上に厳しい罰が下されたようですね。
「とりあえず図書室に行くぞ! 既にコトミたちも勉強してる事だしな」
「昨日のメンバー以外にも居るんですか?」
「津田たちと萩村も増えたぞ!」
「なら、ボケっぱなしの状況がなくなりますね!」
「……ちなみに昨日のメンバーって?」
「私とウオミー、後はアリアだな」
「「……」」
私と津田さんはその光景を思い描き、同時にため息を吐いたのでした。
昨日はコトミの兄貴に、今日はこのちっこい先輩に勉強を見てもらってるおかげで、私は結構な点数を取れるんじゃねぇかと思っている。変なヤツが多い学校だが、優秀なやつも多いんだな。
「スズ先輩、そろそろ休憩しましょうよ」
「まだ一時間も勉強してないでしょ。そもそも津田だったらもっと厳しいわよ?」
「頑張ります……」
昨日サボったコトミは、このちっこい先輩か兄貴のどちらかに勉強を見てもらうかを選ばされて、このちっこい先輩を選んだ。ちなみに兄貴の方が厳しいとか言ってたが、昨日見た限りではそこまで厳しい感じはしなかったんだが……
「なぁマキ」
「なに?」
「コトミの兄貴って厳しいのか?」
中学が同じで、兄貴と面識があるマキなら知ってるんじゃねぇかと思って聞いたのだが、その質問を聞いたマキが震え出した。
「如何した?」
「津田先輩の厳しさを知らないトッキーが羨ましいよ……」
「そこまでなのか……」
知らなくていい世界なんだと理解した私は、大人しく勉強を再開する事にした。
「ねぇスズちゃん」
「何でしょう?」
「お尻がムズムズするからトイレに行って来るね」
「黙って行け、そんなの!」
「萩村、図書室で大声出すのは良くないよ」
ちっこい先輩が大声でツッコミを入れたタイミングで兄貴たちが戻ってきた。昨日一緒だった英稜の副会長と、おそらくあれが会長だろう。
「ではこれよりビシビシ指導していくからな! あっ、ビシビシと言っても鞭で叩く訳ではないからな」
「………」
変な事を言ったウチの会長を、兄貴が無言で殴った。まぁ今のは殴られた方に問題があると全員が思ったし、大声でツッコめないこの場所では最適のツッコミだっただろう。
「時さん、そこの漢字間違ってる」
「あっ? ……あー」
本当に周りを良く見てる人だ。ついさっきまで会長に無言のツッコミをしてたと思ってたのに、何時私の間違いに気が付いたんだ。
「津田、少し代わって」
「別にいいけど……疲れた?」
「まぁ……良くコトミをこの学校に合格させるまで付き合ったわね」
「アハハ……まぁ妹だし」
受験の時にそんな事を聞いたような気もするな……でもホント良くコイツを合格させるまで頑張ったな……
「森さん、そこ計算違いますよ」
「あっ、ホントだ……」
コトミに指導していた兄貴だが、英稜の副会長の間違いを指摘した。ホント如何やって見てるんだあの人は……
「アリア、何処まで行ってたんだ」
「ちょっと絶頂まで」
「なら仕方ないな」
「そんな事あるか……」
ちっこい先輩がツッコミを入れたがやはり兄貴ほどではないな。新聞部のヤツらが言ってたが、コトミの兄貴が実質的な生徒会の纏め役らしい。まぁこの状況を見ればそれが事実だって分かるけどな。
「トッキー、そこ間違ってるぞ」
「あ?」
今度は会長に間違いを指摘された。ふざけてヤツ多いけどやっぱり優秀なんだな……
「うわーん、トッキー!」
「何だよ」
「タカ兄がいじめるんだよ~」
「自業自得だろ。昨日サボったんだから」
コトミが誘ってきたくせに、昨日コイツはサボったのだ。気まずいだろと思ったが、意外とそんな事は無かった。多分兄貴が気を遣っててくれたんだろうけど、それを気付かせないのが凄いと素直に思えたのだ。
「試験当日までビシビシ行くからな! もちろん鞭では無いが」
またふざけた事を言い出した会長を見て、私たちは一人の男に視線を集めた。
「ハァ……」
視線の意味を瞬時に理解した兄貴は、再び無言で拳骨を振り下ろしたのだった。
勉強中は意外とボケも大人しい……のか?