試験も終わり、生徒会室で作業していたら会長が読書を始めた。別に気にはしないが、人が作業してる前で随分な身分だな……貴女も仕事してくださいよ。
「むっ!」
「如何しました?」
「本に髪の毛が挟まっていてな。ふむ……この長さは私のか」
「会長の本なんですから、それが普通では?」
人の髪の毛が挟まっていたとなると、それはもう驚く事だろう。
それから暫く読み進めていた会長だが、再びページをめくる手が止まった。今度は何だと言うのだろう。
「また毛が挟まっていたが……この長さは私のでは無いな」
髪の毛じゃなかったのだろうか? さっきはしっかりと髪の毛と言ったのに、今度は毛としか言わなかったな……少し気になったので資料から目を離して会長の方に向けた。
「ほら! この縮れ毛は私のではない!」
「知るか!」
何で気にしちゃったんだろう……少し前の自分を殴りつけたくなってしまった。
「そういえばウオミーからメールが着てな、ウオミーも森さんも学年トップだったらしいぞ」
「そうですか。それは良かったですね」
元々魚見さんはトップだった気がするけど……まぁめでたい事ではあるだろう。ちなみに時さんが平均67点でコトミが54点だった。赤点ではないけども、コトミはもう少し頑張った方がいいだろうな。
「シノちゃん、そろそろ見回りに行きましょ」
「そうだな!」
「津田君もほら」
「ええ」
七条先輩が迎えに来て、俺たちは部活動の見回りをする事にした。ちなみに萩村は先に行っているらしい。
「まずは柔道部だな」
「緊張するねー。人の寝技を見るのは」
「あー貴女が想像してるような事は無いですから」
この人は何時まで柔道というものを勘違いしてるのだろうか……
柔道場についたそのタイミングで、三葉の背負い投げが炸裂した。
「すっごいね~」
「さすが三葉だな。部員も増えて責任も増してるだろうが、動きにキレがある」
「会長、動きのキレなんて分かるんですか?」
素人目の俺には分からないけど、会長には違いが分かるのだろうか……
「まぁ私も素人目にだけどな」
「はぁ……」
「時に三葉、部長職も大変だろ? 責任も重圧も去年の非では無いと思うんだが……」
「背負うものが多いのって大変だよ~?」
「大丈夫です、その時は投げます!」
「……上手い事言ったのか知らんが、それ駄目じゃね?」
要するに責任放棄だよな? 部長がそんなのでは柔道部は如何なるというんだろうか……
コトミの兄貴のおかげで今回のテストは何とかなった。親にも驚かれるくらいの点数だったらしい……てかどれだけ出来ないと思われてるんだ、私は。
「クソっ!」
自分の思考に苛立ちを覚えて、私は飲み終えたペットボトルをゴミ箱に投げ捨てた……のだが、見事に外れてしまった。
「チッ……」
外れたのは仕方ない。ゴミ箱に近づきペットボトルを拾いなおしてゴミ箱に捨てた。
「外すなんて、やっぱりトッキーはドジっ子だな!」
「でも会長、わざわざ拾って捨てるあたり真面目ですよね!」
「コトミ、それに生徒会長……」
まためんどくさいコンビと出会っちまったな……マキか兄貴が一緒ならまた状況は変わったんだろうけど、生憎とこの場にその二人の姿は見当たらなかった。
「ねぇトッキー、タカ兄のおかげでテストが何とかなったとか言ってたよね?」
「あ? それがどうかしたのか?」
「何かお礼をしたほうがいいんじゃないのかな~?」
「お礼? それならこの前あった時に言ったぞ」
兄貴は気にしなくて良いって言ってくれたけど、実際兄貴の世話になってなかったら赤点だっただろうしな……私もコトミも。
「駄目駄目! ちゃんと誠意を込めたお礼じゃなきゃ!」
「……例えば何だよ?」
「「そりゃもちろんトッキーの処女」」
「フザケルナ!」
声を揃えたコトミと生徒会長を怒鳴りつけてさっさとこの場を離れる事にした。こいつら二人をまとめて相手出来るのは、兄貴とあのちっこい先輩くらいだろうしな……
生徒会室に入ったら、何故か畑さんが俺の場所に座って頭を抱えていた。時折紙を丸めて机の上に放ってるけど、アレはいったいなんなのだろう……
「何してるんですか?」
「いや、津田君の席なら丸まった紙があっても自然だと思って」
「散らかしてる時点で失礼なのに、更に失礼」
そもそも俺は紙を丸める癖も、散らかす癖も無いんだが。そう言おうとしたが、ものすごい地雷臭がしたので言葉にはしなかった。
「正直に言えば、今度の桜才新聞に恋愛小説を載せようと思ってるんだけど、ほら私って恋愛経験が無いもので……何か面白い恋愛エピソードなどがあれば……無理でしたね」
今畑さん、会長を見て鼻で笑った? まぁ確かに生徒会メンバーにも恋愛経験豊富なんて人間は居ないですしね、俺を含め。
「恋愛小説か~。やっぱり男の人と女の人が見詰め合って、キスとか?」
七条先輩がまともな事を言った。この人も人並みにまともな事が言えるんだな。
「現在バックで挿れてる状態なので、それは無理ですね」
「発行停止の上、新聞部は無期限の活動停止処分ですかね」
俺が手帳に書き記そうとすると、畑さんが慌てて俺のペンを取り上げた。
「何ですか?」
「じょ、冗談なのでそれだけは止めていただきたい!」
「冗談だとしたら笑えません。本気だとしたらもっと笑えませんが」
睨み付けるような視線を向けると、畑さんはペコペコと頭を下げていた。まぁ冗談で済むならまだ良いとしよう……もし本当に発行などしたら、冗談抜きで新聞部を活動出来なくしてやらなければいけないな。二年は居ないけど新入生は入ったらしいからな、冗談が本気になった場合はその周りの良心に期待するとしようか。
タカトシの独断で発行停止に出来そうな感じはしますけどね……