プールで足をつった私を、津田君は助けてくれた。前に海でも足をつったけど、その時も津田君が助けてくれたんだったわね……
「大丈夫ですか、五十嵐さん」
「え、えぇ……ありがとう、津田君」
プールサイドに引き上げられた私に、津田君が心配そうに声を掛けてくれた。
「まぁ大事なくて良かったです。最初畑さんの仕込みかと思いましたけども、如何やら違ったようですね」
「仕込み? またあの人は何か企んでるんですか?」
津田君から畑さんの計画を聞かされて、随分と都合よく足をつってしまったものだと自分でも呆れてしまった……だって奇しくも畑さんの計画に一枚噛んでしまったのだから。
「学園が許可してるんですから、俺がとやかく言っても意味が無いんですよね……まったく、学園も何を考えているんだか」
津田君が視線を逸らしながらぶつぶつと文句を言い出した。視線を逸らしたのはおそらく、水着である私を見て、私が暴れだすのを回避する為だろう。こういった心配りが出来るからこそ、私は津田君に触られても発狂しないのだろう。
「五十嵐、大丈夫か?」
「会長。はい、津田君が迅速に引き上げてくれたので水も飲まずに済みました」
「そうか。さすが津田だな! あのまま五十嵐が溺れてたら、他の男子が人工呼吸と称して五十嵐の口内を蹂躙していたかもしれないからな!」
「ッ!?」
会長に言われた事を想像して、私は恐ろしさから飛び上がろうとした……けど足が万全ではなかったので起き上がったのは上半身だけ。つまり何が言いたいのかというと、強か腰を打ちつけてしまったのだ。
「痛っ!?」
「……何してるんですか、貴女は。それと、会長も余計な事を言うな」
津田君が会長にツッコミを入れて、私に冷めた目を向ける。なんだか私まで会長たちと同類に思われて無いかしら?
昼食をはさみ、午後の競技が始まった。種目は水上騎馬戦だ。
「三葉がいれば楽勝だな」
「あのね、タカトシ君。私、こういうの弱いの」
三葉にも苦手な運動競技があったんだなと、思っていると開始の合図が鳴った。
「乗り物に……」
「えぇ!?」
騎馬が動き出して一歩目、三葉が気持ち悪そうに口を押さえ出した。てか、人の上でも酔うのか……
「如何した三葉! 動きが鈍いぞ!」
「あっ……」
会長たちの騎馬にあっさりと帽子を取られてしまい、俺たちは邪魔にならないようにプールサイドに上がった。
「ごめんね、タカトシ君……」
「あれはしょうがないって。まさか乗り物に弱かったなんてな」
何となく知っていたけども、まさかあそこまで弱かったとは思わなかったのだ。
「………」
「ん? 如何したの、タカ兄?」
子供のようにはしゃぐ会長を眺めていたら、傍にいたコトミに声を掛けられた。
「いや、会長も案外子供だなと思って。普段……いや、ちゃんとする時はちゃんとしてるから、ああいったのを見るとね」
「なるほど……退行萌え! 新しいジャンルの始まりだね!」
「お前は終わってしまっている……」
コトミのボケに呆れていると、萩村が傍にやってきた。
「津田、次私審判だから本部の仕事お願い」
「ん、分かった」
三葉たちに断りを入れて、俺は本部へと移動する。そういえば横島先生も本部待機なんだよな……あの人、いる意味あるのか?
「先生も参加したらどうです?」
「私の水着姿は安く無いわよ?」
「は?」
いきなり何を言い出すんだこの人……
「これが私の勝負服だもん!」
「色々言いたいが……何故スク水?」
良い歳した大人が、何故そのような水着を着用しようとしてるのか甚だ疑問だが、余計な事を言って面倒な事に巻き込まれる事を嫌いそれ以上聞かなかった。
「あの、津田先輩……」
「ん? 時さん、どうかした?」
「さっきのレースで髪留め紛失してしまって……」
「あぁ、落し物で届いてるよ」
見た事あった髪留めだったのですぐに持ち主は分かっていた。だけど本部を離れるわけにもいかなかったので保管していたのだ。
「トッキーはドジっ子だな~」
「ウルセェ」
「コトミ、試験の結果次第では小遣い減らすってお母さんが言ってたぞ」
「えぇ!? 試験前に言ってよ!」
そもそも本人に言えば良いのに、何故俺に伝言を頼んだのかも分かってない。でもまぁ頼まれたから伝えたけど……てかコトミに小遣いはもうやらなくて良いんじゃないだろうか? この前もろくなもの買ってなかったし……
「あの、津田君……」
「ん? 轟さん。如何かした?」
時さんとコトミが帰った後、今度は轟さんが本部を訪れてきた。しかもなんだか恥ずかしそうな雰囲気で。
「さっきのレースでロー○ー流されちゃったんだけど……」
「知るか!」
そんなもの落としても誰も拾わない……
「津田くーん。ロー○ー拾ったんだけど」
「あっ! それ私のです!」
……拾う人がいたんだな。てか七条先輩じゃんか……さすが同類。
全ての競技が終わり、私は会長に目薬を点してもらった。
「ちゃんと目をケアしなきゃ駄目だぞ」
「でも津田君は目の保養はいっぱいしたんじゃない?」
「では津田に必要なのは腰のケアだな!」
「ずっと前かがみだったもんね~」
「俺を置いて俺の話をするんじゃない!」
津田がツッコミを入れたタイミングで、本部に五十嵐先輩がやってきた。
「あの、津田君……」
「はい? なんですか、五十嵐さん」
「今日は本当にありがとう。私の口内を守ってくれて」
「まだ言ってるのかよ……」
何やら妄想が加速してるような五十嵐先輩に、津田が呆れながらツッコミを入れた。
「でも、カエデちゃんの唇なら、男子が蹂躙したくなる気持ちも分かるな~」
「分かるな……」
こうしてグダグダな――割と何時も通り――終わり方だったけども、無事に水泳大会は終了したのだった。
次回から夏休みですね……オリジナルな展開を考えなければ……