生まれた時から、心の中でどこかぽっかりと空いた穴を感じていた。
何かが違う。何かが足りない。その答えを探そうと子供ながら躍起になり、いろんなものに手を出した。はっきりとした答えを見つけることはできなかったが、一番近いと思ったものがある。
――サッカー。必殺技が飛び交う四角い戦場は、少年に何かを与えてくれる気がした。
それはある日の試合で使った必殺技。
「パラドクス・ストーム」
黒と白で彩られた仮面を身につけた竜が舞い、ブレスを放つ。キーパーを吹き飛ばし、ボールがゴールネットを揺らした。わっと沸き立つ仲間と観客を横目に少年は誰かを探している。
……ああ、今日も見つけられない。彼らは何処にいるのだろうか。はあ、とため息を吐く。
派手な必殺技で人目を集めるのは目的である人探しに利用できるからであり、サッカーが好きとイコールではない。彼にとってサッカーは手段の一つでしかないのだ。
やったな、と少年のシュートを褒める彼らだが、真の意味で仲間ではない。少年にとっての仲間はあの三人だけ。……子供らしからぬ思考が表に出ないよう、それとなく言葉で取り繕い、流す。
見た目は子供、頭脳は大人……そんなある漫画の謳い文句はそのまま彼に当てはまる。ただ、あれは若返りなのに対しこちらは転生。それに転生する前の世界ではサッカーはここまで流行っていなかったし、そもそも時代が違う。彼が生きていたのは救いのない崩壊した世界。長い人生経験の中で子供の相手をした事は両手で足りるぐらいだ。……あの世界にて人類のほぼ全ては死んでしまったから。
周囲にいるのは子供と、自分を見た目通りの子供だと思っている大人のみ。
あの世界にいた彼らがこの世界に転生しているのかは定かではない。それでもなお、彼はきっと仲間達も転生してどこかにいるのだ、と信じずにはいられなかった。
――必殺技の派手さとそれに見合った威力のシュート。サッカーの未来を牽引しうる将来有望な小学生として彼は有名になっていた。整った顔立ちや、すらりとした見目もファンを獲得するのに一役買ってくれた。
サッカーに力を入れている帝国か、いいや木戸川も捨てがたい。やんややんやと勝手なことを言う周囲を少年は嫌っていた。誰も、何も分かっていない。色の無い世界で一人佇む彼は、今日も駄目かと諦めようとして……どたばたと誰かが駆け寄ってくる。熱烈なファンだろうか。そう思い、避けようとして――。
「君、もしかして……パラドックスかい?」
青い髪を上げワックスで固めて――いない、そのまま下ろした少年は、人を寄せ付けないオーラを放っていた彼に話しかけた。
決して忘れることのないその名前を知るのは限られた人間のみ。目の前の青髪の少年は、知っている。青髪。その条件に合致する人物は一人だけ。
「……まさかアンチノミーか?」
それはかつての記憶。荒廃した世界、ただ一人残された最後の人間――Z-ONEの力になる為に彼は死体から複製された人格と記憶を機械の身体へ移した。
二律背反のアンチノミー。
絶望のアポリア。
逆刹のパラドックス。
未来を救うために過去を変えようとしたイリアステル滅四星。目の前にいるのはその一人、アンチノミーだ。
「ああ……君も覚えていたんだね」
アンチノミーはホッとした顔をして胸を撫で下ろす。彼も孤独だったのだろう。いつから記憶を持っていたのか、または思い出したのかは定かではないが……こうして会えた。それだけで十分に救われた。
「名前が違うから気付くのが遅れたよ」
滅四星は互いの幼少期の姿を知らない。例外としてはアポリアがいるが、彼がどこで何をしているのかは分からないまま。必然的に手がかりになるのは名前になる。サッカーの強い小学生がいる、と噂を聞いたとしてもその名前からパラドックスであるとイコールにはならない。
必殺技のドラゴン――sinの名を冠するドラゴン達のことがそこまで広まっていないと知らなかったのはパラドックスにしては珍しいミスだ。……それは他者のことを見ようとしていなかったから起きた誤算。もし噂話に耳を傾ける余裕があればもっと早くに気が付けただろう。
「それにしても、サッカーってそんなに楽しいのかい?」
こうして出会うまで、物心ついた時からサッカーをずっと続けていた。感情を表に出さないパラドックスにしては珍しいことだ。アンチノミーはその理由をサッカーが楽しいからだと思っている。
「ん? いや、それは――」
「僕もやってみようかな、って」
「――ちが、う……」
珍しくやる気を見せる彼へ「自分はサッカーがそこまで好きではなく、ただ皆を見つけるための手段だ」と否定することはできなかった。
世界が崩壊する前はプロデュエリストのジョニーであったアンチノミーにとって、デュエルが無くなった代わりにサッカーの発展した世界ですることは決まっている。……歴戦のデュエリスト達から竜を奪ってきたパラドックスだが、彼のやる気を奪うことは出来なかった。
毎週末に彼の個人練習に付き合う。そう約束をして、二人は別れた。今生の別れではない、またすぐに会えるお別れ。
それが、小学校六年生の夏に起きたこと。
中学校に入学し、影も姿も見えないイリアステル残りの二人を探して何日何週何月何年と数えるのも嫌になるほど思いを馳せて――そうして上の空だったのが悪かったのだろう。
「〜〜〜〜っ!」
「いっ……!」
廊下を曲がるまさにその時起きた、出会い頭の衝突事故。意識外からの衝撃で瞼の裏に星が散る。
「アポ――テノール! すいませんお怪我……は?」
自分とぶつかった真っ赤な長い髪を持つ少年と、その少年と友人だろう顔の半分を包帯で覆った少年。こちらを見て、疑問符のつく謝罪に失礼だと怒りはしなかった。
「………………君は」
「貴方は」
運命の悪戯か、それは彼が望んでやまない二人――アポリアとZ-ONE。
三つの絶望が一つ、愛されなかった絶望を担当するルチアーノそっくりそのままのアポリア。幼い頃の不動遊星と似た……いや、全く同じ顔をしたZ-ONE。
いったい何処にいたんだ、と問う。アポリアは海外、Z-ONEは施設育ち……そもそもパラドックスの活躍が届く環境ではなかったらしい。それは仕方がない。
時間が経ってもパラドックスが来ないのを心配したのかアンチノミーが顔を出して――ここにイリアステル滅四星が揃った。……廊下の真ん中で、しかもきっかけはぶつかった事、と格好はつかないが。
入学早々仲良し四人組として認識される、桜の舞う春の日。
あの日からアンチノミーの勘違いは正せぬままだった。当然アンチノミーの話を聞き、二人もサッカーへと興味を示したのでサッカー部へと入部することになった。
この中学校はサッカー部員が少なく、新入生が入らなければ廃部――と、追い詰められていた。だからこそ新入生四人がサッカー部に入ると決まった時、まさしく救世主のように扱われた。そのうち一人は小学生時代から有名なパラドックス。FF本戦参加も夢ではない……そう祭り上げられ、パラドックスにサッカーをやめるという選択肢はもうなくなっていた。
嫌いではないが好きでもない、惰性で続けているスポーツ。それがパラドックスがサッカーに抱くモノ。だが、彼等とともにサッカーをしている時、何かが得られそうな……そんな感覚が心をよぎる。その正体が何なのかも知らないまま。
パラドックスはFW、アンチノミーはMF、アポリアはDF、Z-ONEはGK。綺麗に担当するポジションが分かれた四人だが、必殺技を使えるのは未だパラドックスだけだった。それがサッカーをしている年季の差なのか心構えの差なのかは分からないまま。けれど平穏な日々。
――忘れてしまいたかった。平穏というのは、一つの出来事であっけなく崩れ落ちるのだと。
「帝国学園に来る気はないか? ロード・オブ・ドラゴン――
慌てた様子の先生に一人応接室へ呼び出されたパラドックスは、既に椅子に座り待っていた男性を見て顔を顰めた。サングラスに黒のスーツと見るからに怪しげな男性だが、その正体は帝国学園総帥の影山零治。
数多の
学業でも優秀な成績を収め――イリアステルの面々と主席の座を争う中だ――文武両道。在籍する中学校と彼のレベルを比較するまでもない。中学生全体の中で彼の才能が秀でているのは明らか。優秀な中学生が集う帝国学園に引き抜くのはそう不自然ではないが……帝国学園が成し遂げている無敗記録とFF40連覇はかなり不自然だ。
中学生である以上、一人の選手がいられる限界は3年間。メンバーの入れ替わりは激しい。新入部員の育成が素晴らしいからチーム全体の力を維持できている? ――だとしても、スポーツにおいて絶対という言葉ほど不確かなものはない。コンディション、運、天候、力を左右する要素は山ほどある。絶対強者として君臨するのは困難なはずだ。だが、この男はそれを成し遂げた。
……何かを隠している。そうパラドックスが訝しむのも無理はなかった。
「それが私だと本当に思っているのか」
中学生らしからぬ返答。影山はサングラスの奥に隠れた目をほんの少し細める。
影山は何も分かっていない。表面しか見えていない。なぜ力を持つ竜を従えるのか? この世界でその真の理由を推測しろというのもかなりの無茶だが、真に理解していなければ力を貸す気にはなれない。いつの間にか付けられていた二つ名も、パラドックスを真に表すものではない。
「私が力を得たのは――その力でもって滅ぼす為なのだよ」
デュエルモンスターズを滅ぼすためにデュエルモンスターズを使った。忌避するシンクロ召喚も力にした。
故に名乗るのはパラドックス。故に逆刹。
「私は永遠に
呆れたようにため息をついて影山に背を向ける。影山は彼を引き止めるでも怒るでもなく、ただ見ていた。慌てた様子の先生を横目にパラドックスはただ歩く。
――その三日後。帝国学園との練習試合が組まれると知らせが入った。
四人以外のサッカー部員は何故なのかと首を捻り、怯えている。それもそうだ。帝国学園は40年無敗、逆立ちしても自分たちが敵うはずない相手がどうして突然? 帝国との試合に負けた学校は破壊されたという噂もある。練習に身の入る状態にはとてもなれなかった。……四人を除いて。
「強硬手段を取ってくるとはな」
周囲がお前のレベルに釣り合っていないと試合で示し荒っぽいスカウトをするか、それとも帝国学園に入らない邪魔者を叩き潰すためか。ともかくパラドックスは影山に強く意識されてしまった。
「パラドックス……」
「すまないZ-ONE。だが……どうしても譲れなかったのだ」
仲間からの視線が痛い。……四人の信念にも関わる以上、はいわかりましたと簡単に首を縦に振ることはできない。それを彼等は分かっている。が、もう少し言い方があったのではないか、そう言いたげな目だ。
ドラゴン族を操るデュエリストにはプライドが高い者が多い――その例に漏れず、パラドックスは影山の要求をキッパリと突っぱねた。その巻き添えを食らった結果がこの練習試合の決定だ。
「……はあ。起きてしまったことはもう変えようがない。練習を強化するしかなかろう」
「先輩達がノッてくるかは……難しそうだね」
士気が上がらない。これは由々しき問題である。サッカーはデュエルと違いチームで行うスポーツだ。四人でなんとかできるほど甘くはない。四人で試合の結果を変えられる……とは思わないが、だからといって何もしないのは愚かだ。
必殺技の習得。それができればなんとか乗り切れるかも……と希望を抱くも糸口は掴めず、無情にもその時は来た。
「帝国学園サッカー部キャプテン、鬼道有人。よろしく頼む」
「は、はい……」
こちらのキャプテンは消え入りそうな声でおっかなびっくり応える。……年下に気圧されている。
実力では先輩達を上回っているパラドックス達だが、年功序列に割り込む理由がない。なので助けを求める視線を送られても何ともし難い。既に帝国からの視線がちくちくしているからこれ以上注目を集めさせられるのはやめて欲しい。
コインが宙を舞う。どちらが表でどちらが裏なのかはよく見えなかったが……どうやらこちらのボールで始まるようだ。
緊張が抜けないままの先輩が単身切り込んでいく。帝国は動こうとしない。時折ちらりと視線をこちらにやるのはパスをしようか考えているからだろう。あの王者帝国が何もしないなんて怪しすぎる。
だが――これはチャンスなのでは? 相手は油断している。突出した強者であるパラドックスへマークを付ける様子もない。本当に何もしないつもりだ。ならそれを利用して点を入れられるかもしれない。あの帝国を相手に! 自分が!
シュートを万全の体制で撃つ。もしかしたら――そんな欲望と希望は簡単に踏み躙られた。
「こんなものか」
帝国GK、源田幸次郎にシュートは片手で止められていた。目当てのパラドックスだが、「だろうな」と顔に出ている。特に驚いた様子はない。
彼がいる生温い居場所の破壊――それがこの練習試合の目的。壊すのは彼自身ではなく、周囲。
「フン」
詰まるところ、この練習試合にて源田のすることはこれでほぼ終わったのだ。荒っぽいように見えて正確なコントロールでボールを投げ渡す。――敵である彼へ。
「――、へ?」
相手がボールを持っている。なら、奪うのは何も問題ない行為だ。だから、必殺技を使う。
「アースクエイク!」
ああ!
「ジャッジスルー!」
また偶然。そう、偶然。いいや……偶然に見せかけた必然。わざと敵に塩を送り、傷口を抉り、塩を擦り込む。
「キラースライド!」
それはもはや試合ではなく結果の決まった作業。
「サイクロン!」
一人、また一人と必殺技の餌食になり倒れ伏す。控えのGKとしてベンチに座るZ-ONEは一人手を握りしめる。真の理解者である三人はともかく、ごくごく普通の中学生である先輩達が傷付くのを見て何も思わないほど薄情ではない。
……人々の犠牲に誰よりも心痛めたからこそ、ある科学者は不動遊星になろうとした。救おうとした。この手は人々を繋げはしたが、全てを救うことはできなかった。だからこそ……今度こそは誰も犠牲を出さずに救いたいと願うことの何が悪い?
自分はベンチにいる。他の皆はフィールドにいる。近いのに、遠い。助けることはできない。
「デスゾーン、開始だ」
鬼道の合図でボールが空に上がる。三人が回転と共に三角形を作り、同時にボールを蹴り飛ばす。
こちらのGKは反応が追いついていない。なす術なく、ボールごとゴールへ吹き飛ばされた。
「っ……! 交代です! GKを私に!」
点を取って時間が生まれた瞬間、Z-ONEが叫ぶ。
自分が動かなければ、きっとあのままGKが嬲られる。GKが済んだのなら、他の皆も――。
「あ……ぅぐっ……」
「無理だ……こんなの……」
うめき声が地を這うフィールドに、闘志を持ち立っているこちらのメンバーは四人――イリアステルの四名だけ。
Z-ONEはキーパーグローブを身につけてゴールの前に立つ。アンチノミー、アポリア両名は必殺技を受けて疲弊している。ユニフォームも砂煙で汚れているが……動けないほどじゃない。
「たった四人で試合を続けるつもりか? それは……いや、いい。試合続行で構わないんだな?」
「勿論」
パラドックスが代表として応答するがその回答は少数派だ。他の皆は絶望している。立ちあがろうともしない。この地獄がまだ続く、その現実を見たくないかのようだ。
敵対したらどうなるのかを見、また体感したにも関わらず、未だ闘志を失わない四人。その中には勿論
無名の三人はあの
キックオフをするも、ボールをキープ出来ず帝国に奪われた。単純な技量ではやはりこちらが上回っている。鬼道がく、と笑みを浮かべ――Z-ONEが指示を飛ばす。
「パラドックス、アンチノミー! 防御には
DFであるアポリア一人に負担をかける、その選択をしたのはZ-ONE。見捨てたのか? 違う。これは信頼の証だ。
帝国の面々はその指示を聞いて足に力を込める。王者帝国にはどんな奇策を用いても敵わないと思い知らせ、叩き潰すために。
……こうして追い込まれてやっと、どうして自分達が必殺技を使えなかったのか、その理由がようやく分かった。
一言で言えば心の持ちよう。パラドックスは生まれ変わっても、良くも悪くも何も変わらなかった――だから必殺技を使えた。崩壊した世界と比べたらぬるま湯のような平和な日々に絆された三人の共通点。それは5D'sへ未来を託した、その一点。パラドックスは歴戦の決闘者達と戦ったが、そこに未来への希望を見ることはなかった。
深呼吸する。かつての自分を甦らせる。
さあ、覚悟を決めろ。
「ああ、そうだ、私は」
瞼の裏に浮かぶは緑髪の少年。死を越え、ドラゴンズ・ハートの痣を手にした六人目のシグナー。アポリアの抱く絶望を希望へと変えた存在。
「デス――」
「希望の番人だ!」
「――ゾーン!」
天から一条の光が差す。
「アフター・グロー!」
荒廃した世界を照らす希望の残光がボールへと照射され、威力を弱める――が、練度が足りない。デスゾーンを止めるには至らず、ディフェンスの突破を許してしまう。
「無理だったか――ッZ-ONE!」
……GKは、孤独である。Z-ONEは、崩壊した未来に残った最後の人間である。
赤き竜に選ばれた証の痣は腕に無い。守護の力を持つ星竜は居らず、ただ有るのは神呼ぶ光輪。
「虚無械アイン」
迫り来るシュートは金色の光輪の中へと吸い込まれ……勢いは消えた。
すとん、とボールはZ-ONEが伸ばしていた手の中に落ちた。まるでシュートに込められていた力が虚無になったかのように。
「デスゾーンが……止められた?」
それは一瞬。唖然とした顔で呟き、足が止まる。その瞬間を逃しはしない。反撃の狼煙はここに。
「アンチノミー!」
「分かってるよ、Z-ONE!」
Z-ONEの蹴ったボールを受け取る。帝国が追いつくよりも早く駆け抜けなければならない。FWであるパラドックスまで繋がなければならない。
「リミッター解放、レベル5。レギュレーターオープン、オールクリアー――」
ぶつぶつと呟きながら、フィールドを走る。それはルーティーンに近いが違う。正体はあるモンスターの召喚口上。
「カモン!」
蒼い光が駆け抜ける。風圧で髪が逆立ち、後方へ撫でつけられる。
「スター・ガーディアン!」
アンチノミーを見ていたものは皆、彼とよく似た機械戦士を幻視する。スピードの世界は自分のものであると言わんばかりの加速――ドリブルを誰も止められない。見えるのはきらめく残像のみ。
早く。疾く。光を超えるほどの速度で。
「決めろ、パラドックス!」
そうして――相手ゴール前へと向かっていたパラドックスに、パスが通った。
サッカーはただの手段。その筈だった。なら、この高揚感はどう説明すれば良い? まさか……自分はサッカーを楽しんでいる? ひと時の熱狂に酔う、などらしくない。ない、が……思っていたより悪いものでもない。
――竜を呼ぶ。
「パラドクス・ストーム!」
「パワーシールド……ッ!」
ロード・オブ・ドラゴンとキング・オブ・ゴールキーパー、互いの必殺技の衝突。軍配はロード・オブ・ドラゴンへと上がった。
これで互いに一点を獲得し、点差は無くなった。
帝国は焦っていた。覚醒した相手から一点を奪う――たったの一点が届かない。相手をいたぶることに時間を割き過ぎた。点を取り返すための時間を残しておけば……そう後悔しても遅い。それもそうだ、帝国学園は最初から試合をしにきたのではなく
……勝利こそが全て、その帝国に叩きつけられた現実は引き分け。四人は試合が終わり、あの帝国に負けず劣らずの力を発揮できたことに驚きを見せて
そして、彼らは気付いていない。同じチームの仲間達の目が……そんな四人を見て、諦めの色に染まっていることに。
「もう……無理だ」
どうやっても追いつけない。勝てない。そう心の底からわかってしまった。
彼らは強い。身体的にも、精神的にも。自分たちが敵わないと諦めた相手に食い付き、必殺技で応戦し、一点を取った。そんな彼らと肩を並べてサッカーを続けられる気力はなかった。足手まといになるのが見えているから。
一人、また一人と部室に顔を出す人は減っていき……この日、実質的にサッカー部は無くなった。
帝国と試合をしたサッカー部がある。あの帝国から一点を取ったサッカー部がある。そのサッカー部がある中学校はここからそう遠くない。そう聞いていても立ってもいられず少年は駆け出した。どんな人達なんだろうと期待に胸を躍らせて。
そうして……件の中学校の校門へ辿り着いて言われたその言葉はあまりにも衝撃的だった。
「ええーーーーっっ!?」
幽霊部員だらけで部として機能していないなんて知らなかった。帝国に張り合える力を持っていてサッカーを辞める、それがなんとも受け入れ難かった。
せめて一目だけでも、なんならシュートや必殺技も、そうずいずい押し通ろうとして――。
「……何の騒ぎかな?」
ひょっこりと顔を出すのは青髪の少年、
彼のおねだりの一つ、必殺技を見せたら少しは落ち着くだろう、そう思って――。
……円堂守を侮っていた。一つ見せればまだまだと、二つ見せればもっともっと、三つ見せればまだ何かあるのではないかと目の輝きが増していく。筋金入りのサッカー馬鹿。
自分一人で対応しようとしたのは失敗かもしれない。何がこのサッカー部にあったのかを知ってもらう必要がある、それで他の皆との手合わせを諦めてくれるだろう……そう思い、口を開いた。
――太陽のような彼を中心に、もう一度歯車が回り出す。