転生したら、ロケット団の首領の娘でした。   作:とんぼがえり。

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序章
1.子煩悩


 不幸な事故で亡くなった後、目覚めたらベビーベッドの上に居ました。

 つまりはまあ、ネットでよくある異世界転生。それも原作ゲームがある世界と云う、なんともありがちな話の展開であった。

 転生先がポケットモンスターということも含めれば、何処の三流作家が書いた設定だと云いたくなる。

 

 それで五年の歳月が過ぎる。

 此処はカントー地方、トキワシティにある豪華な屋敷。あまり外に出ることは許されず、常に護衛の者が私の側に付き従っている。学校にも通わせて貰えず、勉学に関しては護衛の者が教えてくれている。基本的に護衛は四人の交代制だ。名前は、アポロ、アテナ、ランス、ラムダ。彼らは私の事を御嬢様と呼んでおり、それぞれのやり方で過剰なほど丁寧に接してくれる。

 つまりは、まあ、そういう事だ。

 

「パープル! パープルは居るか!?」

 

 屋敷の玄関から声が上がった。私は部屋を飛び出して、トタトタと階段を駆け下りる。

 玄関には、オールバックな強面の御父様、あの犯罪組織ロケット団の首領であるサカキが満面の笑みで私を出迎えてくれた。腰を落として両手を広げる彼の姿に、内心で苦笑を浮かべつつ、その胸に目掛けて思いっきり飛び込んだ。ギュッと首に抱き着けば、そのままサカキは私を抱き上げる。

 遅れて、台所から姿を現したのは青色に近い銀髪の男、護衛役のアポロが涼しい顔でエプロンを付けている。

 

「サカキ様、お帰りなさいませ」

「アポロ。早速だがパープルに関しての報告を頼む」

「はっ! 現在、確認できるポケモン全てのタイプを記憶している事を確認し、今は覚える技について学習を開始したところです」

「ふむ、それは素晴らしい報告だ。私も子供向けのポケモン図鑑を毎日、開いていた事を思い出す」

 

 御父様が私の頭を優しい手つきで撫で回す。褒められて、ついつい私も笑みが零れる。

 

「他には、何かあるか?」

「こちらを」

 

 アポロが取り出したタブレットを操作し、そこに一枚の画像を映し出した。

 そこには私が手持ちのオニスズメと戯れている姿がある。何時の間に撮ったのか、じぃっと私がアポロを睨み付けてやったが、彼は涼しい顔で受け流した。ほお、と御父様は興味津々に写真を眺めた後、私の端末に画像を送れ、と指示を出す。分かりました。と軽く頭を下げるアポロ、私はちょっと気恥ずかしくって御父様から顔を背けた。

 そのまま食卓へと足を運び、食事を摂りながら今日あった事の報告会が始まる。

 

 ……どういう訳か、御父様は子煩悩になってしまいました。

 

 親が犯罪組織の首領という点に関しては、少し思うところがあるけども、それはそれとして私は御父様の事が大好きだ。

 御父様が喜んでくれるならと勉学に励んだし、大して興味もなかったゲームの知識を付けるくらいの事だってしてみせる。御父様は犯罪組織の首領という身分であるにも関わらず、仕事の合間に娘の私と会う為に屋敷に訪れてくれる。仕事に出かける時、行ってらっしゃい。のハグをすれば、彼は柔らかい笑みを浮かべて、行ってくる。と優しく返事をしてくれた。

 それだけの事が、私にとっては嬉しかった。

 

「あと少しでパープルの誕生日だな」

 

 おもむろに切り出された言葉に私は首肯する。

 

「欲しいものはあるか?」

 

 その言葉に私は、予てより決めていた我儘を口にする。

 

「サイホーンが欲しいです」

「……サイホーンか? ピッピや、ピカチュウでなくても良いのか?」

「はい、御父様と同じポケモン。できれば、御父様が捕まえてくれたポケモンが欲しいです」

 

 それから、と続く言葉を口にする。

 

「御父様にもポケモンバトルの事を教えて欲しいです」

「それは……」

「私、御父様のような強くてカッコいいポケモントレーナーになりたいです」

 

 御父様は食事をする手を止める。そして、少し複雑そうに眉を顰めた後、そうか、とびっくりするくらい優しくて落ち着いた声を零す。

 

「……わかった。ポケモンに関しては、誕生日までに用意しておく」

「ありがとうございます」

「ポケモンバトルに関しては、できるだけ時間を作るようにしよう」

「ほんと!? やった! 御父様、ありがとう!」

 

 嬉しさ余って、両手をギュッと握り締めた。

 それからアポロが私を睨み付けるのを見て、あっ、しまった。とストンと椅子に座り直す。

 御父様に、はしたない姿を見せてしまった。

 

「頑張っているようだな」

 

 御父様は、そう告げた後で私の頭に手を乗せる。

 

「お前は私の自慢の娘だ」

 

 そう言われて、嬉しくって、頬がだらしなく緩んでしまった。

 犯罪組織の首領の娘に転生した時は、どうしたものかと思ったけど、今、私は毎日が幸せで充実しちゃってる。

 

 

 娘が産まれた、という話を聞いた。それは数ある現地妻の一人からの連絡であり、赤子を押し付けられた時にはもう亡くなっていた。

 当時、娘はまだ一歳にも満たぬ年齢。DNA鑑定の結果から、確かに娘と私の間には血縁関係がある事が分かった。しかし、それが分かったとして、次はどう扱うべきか悩まされることになる。母親が生きているのであれば、養育費として多額の金銭を支払うだけで話を付けるのだが、母親が生きていなければ意味がない。孤児として孤児院に入れることも考えたが、そこから足取りを掴まれるリスクは負いたくない。かといって、邪魔だから殺す。という選択を取れる程、人間を辞めているつもりもなかった。

 とりあえず、様子を見る為に適当な部下に面倒を見させて、時を稼ぐ事にする。

 

 この娘、予想以上に手間が掛からない。

 夜泣きに悩まされる事もなければ、必要がある時以外に泣き喚く事もしなかった。その事を気味悪く思う部下も居たが、手間が掛からない事は良いことだと考えて、暫し様子を見ることにする。

 更に月日が過ぎて、娘がポケモントレーナーとしての才能の片鱗を見せる。

 

 それは、とある日の事だった。

 手持ちのポケモンのストレスを溜め過ぎない為、部屋の中でポケモンを解放する事がある。サイズの大きいポケモンは庭に出したりもするが、ペルシアンといった比較的、サイズの小さいポケモンに関しては家の中に放っても問題はない。ポケモンと云うのは存外に賢いものであり、触れてはいけないものやしてはいけないことなんかは学習する。もし粗相をすることがあれば、それはトレーナーとしての腕前が未熟と云う事だ。手持ちポケモンの躾もできぬ者は、トレーナーを名乗る資格はない。

 さておき、私が執務室で書類に目を通し、ポケモンを部屋で自由にさせていた時の事だ。

 団員達が慌てた様子で屋敷内を駆け回っているのを見かけたので、話を聞くと、彼らは蒼褪めた顔で娘が居なくなった事を報告してきた。攫われたのか、自力で脱出したのか。……いや、攫われたのであれば、私のポケモンが反応しないはずがない。自力で脱出できるほど、ベビーベッドの柵が低い訳でもない。不可解な事件に、とりあえず娘を捜索させる為、犬笛で部屋に放っていたポケモン達に合図を送った。

 

 おずおずと姿を現したのはニドクイン。

 何時もとは違う困惑した様子の彼女は、私に向けて視線でなにかを訴えてくる。

 その不可解な様子に疑問を抱きつつも、心当たりのある彼女の案内に従った。

 

 客間のソファーで横になるペルシアン、その懐で娘は気持ちよさそうに眠っていた。

 困った様子のペルシアン。娘が身動ぎする度に、慌てふためくニドキングの姿もある。二匹は、部屋に入った私を見ると助けを求めるように鳴き声を零す。娘を起こさない為か、声量を抑えた掠れ声で。これは推測に過ぎないが、娘は私のポケモンを誑かして、ベビーベッドから脱出したようだ。後日、設置した監視カメラの映像によると、娘は私のポケモン達に向けて、明らかに何かを訴えており、ポケモン達を困らせるという事をしていたのだから間違いない。

 この辺りから、私は娘を屋敷から追い出す算段を立てるのを辞めていた。

 

 時が流れて、五年の歳月が過ぎる。

 既に娘はポケモントレーナーとしての能力を身に付けていた。勉学に関しては初等部の範囲を超えており、既に中等部の範囲すらも超えようとしている。実際、幾つかの分野では高等部の範囲にも手を伸ばしている。

 部下がいうには、天才児との事だ。そうだろう、と私も満更でもなく答えていた。

 これだけ長い期間、娘と接し続けていれば、情が湧くのも当然の話。私も人の子には違いなかったようで、娘が褒められて悪い気はしない。娘に才能があると分かれば、投資するのも吝かではない。後々ロケット団にとっても利益のある話、優秀なポケモントレーナーであると同時に学問に励み、頭も切れるとなれば鍛えずにはいられない。

 今後は組織を運営する為に必要な知識、政治力学、帝王学といった分野も学ばせるように指示を出した。

 

 同時進行でポケモンバトルの腕も磨かせている。

 まだあまい箇所がある。それでもトキワジムのジムリーダーとして対峙する挑戦者と比べて、その大半よりも娘の方が腕が良いと断言できる。将来的にトキワジムのジムリーダーを引き継がせることは簡単だ。四天王だって難しくない。いや、カントー地方のチャンピオンすらも狙えるだけの才能を持っていた。

 そんな娘が誕生日にサイホーンを強請ってきた。

 私の切り札と同じポケモンが欲しいのだと、出来れば私に捕まえてきて欲しい等とぬかして来た。

 

 仕方ない奴だ、ロケット団の首領を顎で使える奴なんて世界でたった一人だけだ。

 出来る事なら良いポケモンを捕まえてやりたいものだ、と一人、イワヤマトンネルに足を踏み入れた。まあ鈍った腕を鍛え直す必要もあったので丁度良い。

 この為に三日も休暇を取ったのだ。




不定期更新。週一くらいを目標にしたいです。
バトルに関しては、ポケスペ形式です。
対人せずにストーリーを楽しむだけのユーザーなので、その辺りは期待しないでください。

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