転生したら、ロケット団の首領の娘でした。   作:とんぼがえり。

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4.ニビジム②

 ブルーがジムトレーナーを相手にポケモンバトルを挑んでいる頃、パープルは食パンを咥えて街中を走っていた。

 

 パープルは寝坊した。

 昨日の時点で、ジムに挑戦する手続きを終えていたが今日、その試合があるにも関わらず、眠りこけてしまっていた。

 目覚めた後、その時刻を確認した後で飛び起きて、急いで身支度を整える。同じ部屋で寝ていたイエローには、とりあえずポケモンセンターで再会する約束を口にして、預けたポケモンを回収してからニビジムに向かった。

 もう予選は始まっている、なんなら結構な試合が行われているはずだ。

 

 ニビジムに辿り着いた私は、バンッ! と両手で開け放った。

 その音に、ニビジムに居るほとんどの人が振り返る。

 この場に居る注目を一身に浴びた私は、その気まずさに唇を真一文字に結んだ。

 

 どうしよう、これ。

 

 考える。考えてみて、この危機を真っ当な手段では切り抜けられないことを自覚した。

 故に私は、とりあえず右手を腰に当て、ピンと指先まで伸ばした左手の甲を口元に添える。

 息を大きく吸い込んで、腹の底から声を発する。

 

「オーッホッホッホッホッ!!」

 

 秘技、ランスお墨付きの様になっている高笑いだ!

 主役は遅れてやってくる。受付の人が、試合はもう残っているジムトレーナーとの戦いだけだと教えてくれた。

 大丈夫、私の実力を見せつけるのに一試合もあれば充分だ。

 

「えっと、君……なにか、言う事ある?」

 

 ピクニックガール姿のジムトレーナーが少し困ったように問い掛けて来たので、私は堂々と答える。

 

「寝坊しましたわッ!!」

「んー? それで言う事は?」

「申し訳ありませんわ! 私、旅は不慣れなものでして……」

「まあ遅刻したことは良いけど……残りは一試合だけになるけど、それは分かってくれるよね?」

 

 その言葉に私は「勿論!」と胸を張って答えた後に「迷惑をかけて申し訳ありませんわ」としおらしく口にする。

 

「……それじゃあ、最終戦を始めるから指定の場所へ」

 

 ジムトレーナーさんの言葉に、私は慌てて向かい側のトレーナーボックスに足を踏み入れる。

 ジム戦の場合、トレーナーはバトルフィールドに足を踏み入れることは許されない。バトルフィールドの両端にある白線で区切られた長方形の領域、トレーナーボックスから指示を送る事になる。とりあえずバトルする前に周りを見渡した、山岳地帯の岩肌をイメージした岩石地帯のフィールド。隠れる場所が多そうでイシツブテ辺りが岩に擬態すると見つけるのが難しそうだった。

 ふと、向かい側のトレーナーボックスを見れば、ジムトレーナーさんがジトッとした目で私を見つめている。

 

「準備は良い?」

「ええ、よくってよ」

 

 互いにモンスターボールを構えて、それぞれで名乗り上げる。

 

「ニビジム所属トレーナーアキナ、行きますよ!」

「挑戦者パープル、参りますわ!」

 

 お互いにボールを投げて、フィールドにポケモンを放った。

 私が選んだのはスピアー、相手はイシツブテ。隠れられる前に決めてやろうと速攻を仕掛ける。

 

()()()()()()()()()()()で、やっておしまい!」

「あっ、ちょっと、あっ! それじゃ試験に……! あっ!」

 

 どく状態にするまでもなく、スピアーの猛攻の前にイシツブテは為す術なく倒れてしまった。

 しゃららん、とオシャンティーに前髪を掻き上げる。

 レベル上げて物理で殴る、これが世の中の真理ですわ!

 

「……あー、うん、そういうことをするんだね? ふぅん、へえ、ほぉ~ん……」

 

 イシツブテをボールに戻し、代わりに彼女が腰の後ろから取り出したのはスーパーボール。それをフィールド上に投げた。

 

「経歴を見れば、既にグリーンバッジの所持者。ちょ~っとくらい、本気を出しても良いよねえ?」

 

 薄っすらと笑みを浮かべる彼女の前に姿を現したのは、ゴローン。イシツブテの時とは違う雰囲気を感じ取る。

 

「勝てなくても良い。うん、ちゃんと合格は認めてあげるから……ちょっと、懲らしめちゃおっかなって。大丈夫、そのポケモンは鍛えられているようだし、並のポケモンじゃトレーナーの実力は図れないしね。うん、これは仕方ない事なんだよ。また瞬殺されちゃ堪らないし……」

 

 ぶつくさと言い訳がましい呟きとは裏腹に、ポケモンも、トレーナーもひりついている。

 スピアーに警戒を促した。先ほどまでとは違う空気に、否応なしに緊張感が高められた。

 

「いわタイプの怖さを教えたげる」

 

 ゴローンが地面の上を、ゆっくりと()()()()始める。 

 嫌な予感がして、咄嗟にスピアーに攻撃を仕掛けさせた。

 しかしゴローンの硬い岩肌の前には、効果が薄かった。

 

「私の固い意志は此処にある! 硬くて我慢強い、それがいわタイプだ! 生半可な攻撃が通用すると思うなよ!」

 

 ジムトレーナーによる大人げない蹂躙が、今、始まろうとしていた。

 

 

 隣の方から強い衝撃音が鳴り響いた。

 驚きに振り返り、しかし直ぐ自分のバトルフィールドに視線を戻す。

 

 イシツブテの身を隠した状態から()()()()()による遠距離攻撃。

 その投げられた岩の方角から相手が大体、何処の位置から攻撃をしているのか分かるけど、その周辺にロコンを向かわせた時にはもう姿を眩ませてしまっていた。何時、何処から飛んでくるのか分からない相手の攻撃に、ロコンも憔悴しきっている。投げられた岩からイシツブテの臭いを辿って貰うことも考えたが、臭いを覚えるまでの間にも次から次へと岩は飛んでくる。

 このまま時間が過ぎるだけではじり貧、かといって打開策は何も思い浮かばない。

 

 あれや、これや、と考えてみてもロコンでは勝てる気がしない。

 

 とりあえず時間稼ぎの意味も含めて、一旦、ロコンをボールに戻してから交換するまでのわずかな時間を思考に費やした。

 この交換している間にも「()()()()()」とジムトレーナーが指示を送り、何処に居るのかも分からないイシツブテの防御力を高めてくる。

 ゆっくりと考える暇も与えてくれない!

 

「お願い、フシギダネ!」

 

 交換できるポケモンは一匹だけ、そこで迷う必要はない。

 しかし、幾ら有利タイプとはいっても、相手の姿が見えなければ攻撃することもできない。

 歯ぎしりする。レッドやグリーンは、どうやってこれを突破したのか……

 

「……姿が見えなくても何処に居る可能性が高いかくらいはわかるんじゃないかな? もしくは、何処に居るか分かるように目印を付けておくとか?」

 

 そのジムトレーナーの言葉に、ハッと作戦が思い付いた。

 

「フシギダネ、走って! そして私が言う場所に()()()()()()()を撒いてって!」

 

 フシギダネは飛んでくる岩を()()()()()で打ち払いながら全力疾走、岩を投げていたはずの近辺に()()()()()()()を撒いて回った。ジムトレーナーを見る。指示は出していない、手足も動かしてない。ただ不敵な笑みを浮かべて、私を見つめているだけだ。

 ……関係ないッ! 動かないなら、このまま勝ち切るだけだ!!

 

「頑張れ! フシギダネ、頑張れ!」

 

 

 まあ、及第点といったところか。

 

 イシツブテの行動には、法則性がある。

 イシツブテが隠れられる場所は限定されており、点と点を繋いで循環する形でグルグルと回っているだけだ。それで進路を塞がれたら逆に回って、ぐーるぐる。あのツンツン頭は、ものの数分でイシツブテが特定の場所からしか岩を投げてないことを見破り、五分以内に法則性を看破した。そしてイシツブテが次に通る道を待ち伏せする事で倒し切った。

 それに比べて、目の前の少女。ブルーは不器用で、ちょっと大掛かりだが、対策にはなっている。

 

 とある場所でイシツブテの悲鳴が上がる。

 ()()()()()()()は生命力を吸い取る種子。生命に触れることで成長し、相手の体を絡め取るように蔦を伸ばす。

 蔦が絡まったイシツブテは、もう岩石地帯に隠れ潜む事はできない。

 

「み〜つけたっ!」

 

 フシギダネの()()()()()を打ち付けられたイシツブテが倒れて、その試合は幕を閉じる。

 あまりにも呆気なく突破されたら二匹目も使うけど、満身創痍っぽかったし。

 フシギダネを抱き締めて、勝利を喜ぶ少女にただ一言、「おめでとう」と讃えた。

 

 

「そらぁっ! そらっ! そらっ! そらっ! そらっ! 逃げてばっかじゃ勝てないよっ!!」

 

 岩石地帯のフィールドを縦横無尽に駆け回る爆転ゴローンに手も足も出せずにいた。

 土煙を立てながら迫る姿、その迫力は暴走機関車に匹敵する。ユーロビートな曲と共に峠を駆け抜ける走り屋のように、ドリフト紛いの動きでコーナーを曲がり、途中にあった石や小さめの岩を弾きながら襲いかかってくる。空を飛んでやり過ごせば良い、そんな悠長な考えは即座に否定された。岩場の丁度良い感じの段差とか、坂になってる場所とかを活用して空に跳んで、()()()()の体当たりを迫ってくる。更にはピンボールのように岩と岩の間を跳弾して、追尾してくる事もあるから溜まったものではなかった。

 フィールドに出ているのはスピアー。死角からの攻撃に関しては私が指示を送って、躱す。

 

「アーッハッハッハッハッ! これぞ、私が尊敬して止まないアカネさんのころがる戦術!! ノーマルタイプとの相性が悪かったから泣く泣くニビジム所属のジムトレーナーになったけどッ!! 私の夢はまだ終わらない! 目指せ、ジム交流戦! 届け、ジムリーダー対抗戦!! 私は、何時の日かタケシさんを倒して、ニビジムのジムリーダーになる女だ! そして、ニビジムを代表して、コガネジムリーダーのアカネさんと全国生放送で戦うって決めているんだ!! ……でも、ゴローン大好きだよ! 今は一万光年くらい大好きだよ!!」

 

 そう言っている間にもゴローンの()()()()は更に加速している。

 というか、タケシさんだっけ? 良いの? この人、ジムリーダーの座を狙ってますけど?

 丁度、観戦しに来ていたタケシさんは、無表情でフィールドを見つめていた。

 

「ほらほらぁっ! 余所見してる暇なんてないっての!」

「あっ!!」

 

 ちょっと目を離した隙にゴローンの巨体が、スピアーの体を突き飛ばした。

 まるでダンプカーに跳ねられたかのような衝撃に、スピアーは一発でダウン。すぐスピアーをボールに戻して、次のポケモンをフィールドに出した。

 選んだポケモンはサイホーンだ。

 

 覚悟を決めた、此処が今日の大一番。

 土煙を上げて接近してくるゴローンに向けて、先ずは()()()()()()()。それなりの振動が地面を揺らしたけど、僅かに軸の中心をズラしただけに留まる。次いで、ハンドシグナルで指示を送った。

 サイホーンは近場にあった手頃な岩を抱え持って、その姿勢のままゴローンを睨みつける。

 

 便利な技だから、と御父様のひでんマシンで覚えさせてくれたのは、()()()()()

 これは岩を抱えて砕くという技。抱えた岩を盾代わりにすることもできて、岩で相手の攻撃を受け止めた後に岩を砕いて攻撃することも可能な攻守一体の秘伝技である。

 スーパーアーマー付いてます! ゴローンと岩が正面から衝突する瞬間、サイホーンの()()()()()を発動させる。

 

「その程度で私の愛が止められるかァーッ!!」

「やってみせなさい、サイホーン!」

 

 岩が、砕け散った。

 まるで手榴弾のように辺りに破片が飛び散り、サイホーンは仰向けに倒れた。またしても一撃。

 ゴローンは、ふらふらと空高くに打ち上げられている。

 

 サイホーンをボールに戻し、そのままオニドリルを出した。

 まだ宙に浮いているゴローン。()()()()勢いを相殺されている。目を回している様子もあった。

 ほとんど無防備になった敵ポケモン、私はオニドリルに最後の指示を送る。

 

「とどめです、()()()()()!!」

 

 空高くに飛び上がった後からの急転直下。ゴローンの開いた腹を鋭い嘴で穿った。

 

「行きなさいッ!!」

 

 そのまま地面にゴローンの身体を巻き込んで、更に加速をしながら地面まで打ち付ける。

 ぶわっと砂煙が舞い上がり、先程のマグニチュードよりも、強い衝撃がジム全体を揺らした。ギシギシと天井の照明が揺れて、少しずつ晴れる視界。

 ゴローンは、仰向けのままピクリとも動かない。その上に立っていたオニドリルが甲高い鳴き声を上げた。

 

「……えっ、嘘? 結構、本気だったんだけど……?」

 

 ジムトレーナーが、膝を突いた。

 私は腰に右手を当て、指先までピンと伸ばした左手の甲を口に添える。

 どちらが勝者かは、一目瞭然だ。

 

「勝者は私、パープルですわ! オーッホッホッホッホッ!!」

 

 心底楽しそうな高笑いがジム全体に響き渡った。




お気に入りと感想、評価をお願いします。

▼パープル
オニドリル♂:Lv.29
スピアー♀:Lv.30
サイホーン♂:Lv.26
ピカチュウ♂:Lv.22

▼ブルー
ロコン♀:Lv.13
フシギダネ♂:Lv.12

※レベルは目安

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