転生したら、ロケット団の首領の娘でした。 作:とんぼがえり。
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色んな方に支えられて、書けています。
同じ予選ブロックに居たレッドは、パープルと名乗る女の子のバトルを見て言葉を失っていた。
観戦スペースの椅子に座り、暫し、そこから立つことができなかった。
ニビジム所属のジムトレーナー、アキナ。
彼女の名前と顔は、よく知っている。地元テレビのチャンネルで放送されているジム対抗戦、それはカントー地方で開催されているポケモンジム同士のポケモンバトルであり、年間を通したリーグ戦形式で開催されている人気コンテンツのひとつであった。試合形式は先鋒、次鋒、中堅、副将、大将のチーム戦となっており、アキナはニビジムの先鋒を務める切り込み隊長としての顔を持っている。
その時、よく手持ちの一匹として使っているのが、先程のゴローンだ。
ころがるゴローンは、アカネを信奉する彼女の代名詞。
つまり、パープルは、三匹がかりとはいえ、ポケモンバトルで飯を食っているプロトレーナーの手持ちの一匹を打ち破った事になる。
「おーす! 未来のチャンピオン!」
茫然と突っ立っていると、後ろから陽気な声で話しかけられた。
「あんなん気に病む必要ないぞ」
随分と馴れ馴れしいおじさんが、俺においしいみずを投げて寄越す。
急に飛んできたそれを俺は受け取る。
おじさんは嬉しそうに笑って、そのまま俺の隣に腰を下ろした。
「おじさん、誰?」
「俺か? 俺はただのポケモンバトル好きだ! 毎年、ポケモンリーグを目指す将来有望な若手を見つけては追っかけをするただのファンだよ」
プロの洗練された強さも良いが、夢と希望に満ちた若さもまた最高に良いんだよな。等と彼は良く分からないことを力説する。
「おじさんな。毎年、こんな感じで各地のジムを巡っているから分かるんだよ」
「えっ、おじさん。仕事、何をしてるの?」
「ふらふらしてるおじさんに仕事の話をしちゃいけないんだぞ」
おじさんは手に持っていた付箋がびっしりと挟まれた手帳を胸ポケットにしまいながら、茶目っ気たっぷりに答える。
だぼだぼのスーツに眼鏡、冴えない人って感じがひしひしと伝わってくる。
「……まあ、話を続けるとだな。しばらく有望な若手が出なくなった後で、急にドーンと有望な若手がたくさん現れることが起こる」
レッド、グリーン、ブルー。と、おじさんは指を折って楽しそうに数える。
「その界隈で、時代を築く人物が複数人現れる。そうなると、それまで停滞していた界隈がわあっと賑やかになるんだ。そういうのを想像するのもおじさんの楽しみでね、こういって茶々を入れているんだよ」
「……迷惑ですね」
「これしか趣味がなくてね、まあ世の中には色んな人が居ると思ってくれたらいい」
旅を続けるなら、もっと変なおじさんとたくさん会うことになるよ。と言われて、それは嫌ですね、と苦笑して返した。
「まあ俺の事は、茶々入れが好きなおじさんとでも思ってくれたらいい」
圧倒的な才能を目の当たりにして、頓挫してきた将来のチャンピオンを見て来たからね。と少し寂しそうに口にした。
「ワタルがルーキーの時なんて酷かったぞ。最年少でポケモンリーグの制覇、それがポケモンリーグ初挑戦での出来事だ。そのままカントーチャンピオンに勝利し、ジョウトチャンピオンとのバトルにも勝利して、今やカントーとジョウトの統一チャンピオンだ。あの当時の同期はみんな、ワタルを見て心を折っちゃってね。あの世代はワタルだけが取り上げられているけど……例年以上の豊作年だったんだ」
おじさんは寂しげな目で、此処ではない何処か遠くを眺めた。
「君達のような豊作の年には時折、とんでもない化け物が現れる時がある」
「……それがあのパープルですか?」
そうだね、と彼は笑みを深めてみせる。
「でも、決して君達も劣ってはいない。人の歩みは人それぞれ、将来の化け物はもしかすると君かも知れないぜ。未来のチャンピオン」
そう言って、背中を叩かれた。痛い。
「そのおいしいみずは俺の奢りだ」
「いつもこんなことをやっているんです?」
「どうしても気にしちゃうなら……そうだな、近い将来で君が大物になった時に、あいつは俺が育てたんだよ、と法螺を吹くことに対する見逃し料ってことにしておいて欲しい」
彼は立ち上がると「これが先行投資というものだよ」と悪い大人の笑みを浮かべて立ち去る。
その背中を、茫然を見送りながら、おいしいみずの蓋を開ける。
別に気に病んでいた訳ではなかった。
同期に、こんな凄い奴がいる。俺は彼女と競い合える、その事実に心が滾った。
負けてはいられない。拳を握り締める。俺は予選を全勝で突破したけど、そんな事に何の価値があるっていうんだ。
今日、戦えなかった事が本当に残念だ。今すぐにでも追いかけて、勝負を挑みたい。
しかし、明日にはジムリーダー戦が待っている。
あの子はもう何処かに行ってしまったし、俺も早くポケモンを休ませてやらないといけない。
ああ、でも。身体が疼いて仕方ない。
今はまだ勝てない。でも次だ、次に会う時には少しでも近付いてやる。
そして、何時の日か彼女と肩を並べてやる。
早く、バトルがしたい。
今日は、眠れない夜になりそうだった。
◆
私、イエローはニビシティの中を歩き回っていた。
ピカチュウは、朝のドタバタでお姉さんが持って行ってしまったので適当に街の中を散策している。
何処でも良かった。ただ途中で歩き疲れたので、何処か屋内に入りたくて博物館に向かった。
博物館には、ポケモンの歴史。化石。それから、おつきみやま。つきのいし。
眺めていると人相の悪い私服の男が二人、話しているところを見た。
「ボスがピッピを御所望なんだってな」
「ああ、なんでも生体実験にピッピの細胞が必要なんだってよ」
「どうしてピッピなんだ?」
「さあ、知るかよ。俺達は言われたことをすりゃ良いんだ」
「まあ、ピッピなら金にもなる」
二人が歩いて来たので、私は咄嗟に物陰に隠れた。
ポケモンの売買は実際に行われている。ポケモンブリーダーと呼ばれる職業があって、正式な資格を持った人間がポケモンを躾けて、そのポケモンを求める人にポケモンを売り渡す。ちょっと違うけど、育て屋と呼ばれる人なんかは、本来、そうやって生計を立てていた。
でも、今のは、確実に……なんだか、聞いちゃいけないことを聞いちゃった気がする。
やり過ごした後、とりあえず、私は何も聞かなかった事にした。
◆
一方で、トキワジムのジムリーダーは怒り狂っていた。
同時期にバトルを繰り広げていた愛娘の活躍が配信されなかった事に憤怒した。
四幹部は同意しながらも、我らが首領を宥めるのに必死になった。
程なくして、パープルからの通信で機嫌は直った。
▼パープル
オニドリル♂:Lv.29
スピアー♀:Lv.30
サイホーン♂:Lv.26
ピカチュウ♂:Lv.22
▼レッド
イーブイ♀:Lv.12
ヒトカゲ♂:Lv.14
ピカチュウ♂:Lv.9
おまけ
▼アキナ
ゴローン♀:Lv.36:ころがる
※レベルは目安。
※記載のある技は、通常の効果以上に鍛え上げた得意技。