転生したら、ロケット団の首領の娘でした。   作:とんぼがえり。

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本日、二度目の投稿になります。
なんか書けてしまったので投稿しておきます。


7.ニビジム④

 オニドリルが滑空する。

 スピアーがヘリコプターだとすれば、オニドリルは戦闘機。イワークを翻弄するように旋回して隙を窺った。

 イワークの技には隙が多い、溜めが大きい。しかし意外と攻める好機が見当たらない。隙が計算に入っている。仮に攻撃を仕掛けたとして、きちんと迎撃が間に合う距離と時間を把握している。

 強いな、なんて強いんだ。

 

「これがカントー地方が誇る最高峰のポケモントレーナー、ジムリーダーの実力ッ!!」

 

 瞳が、爛と輝いた。

 心臓が強く鼓動する、トクンと高鳴る胸が高揚しているのが分かる。

 悔しさに歯噛みしたが、それ以上のドキドキがあった。

 嗚呼、ここはきっと理想郷。

 バトルフロンティアは此処にある!

 

 高笑いせずにはいられないッ!!

 

 右手を腰に、指先までピンと伸ばした左手の甲を口元に添える。

 腹の底から声を上げた。高笑いをすると気分が良い、勇気が湧いてくる。

 次の一歩を踏み出すは好奇心! それが私を突き動かすッ!!

 

「羽ばたけオニドリル! 何処までも自由に! 空は貴方のもの! ならば、この箱庭程度、貴方の自由にならないはずもないわッ!!」

 

 その言葉に応えるようにオニドリルは一度、大きく甲高い鳴き声を上げた。

 

 

 パープルの一番の相棒は自分、オニドリルはそのように理解している。

 そのパープルが自分に期待を向けていると云うのであれば、その期待に応えないでなんとする!

 何度か見たイワークの錐揉み回転の体当たり、それを見て、オニドリルは滑空をする時に錐揉み回転をしてみた。バレルロールのような旋回、その軌道の変化は面白くて、翼を広げるタイミングを工夫すると好きな方向に飛ぶことも出来た。慣性に頼る飛び方をする自分にはスピアーのような急発進、急制動は出来ない。逆に慣性に頼る飛び方だからこそ、出来る事はある。

 イワークの尻尾による()()()()()()()()()()()()()を潜り抜けて、蜷局を巻いた()()()()()は隙間を縫って飛び抜けた。()()()()()()()は急上昇やバレルロールを駆使して回避する。勢いを殺さずに滑空を続けて、イワークとの擦れ違い様に()()()を繰り出す。()()()()()をしている余裕はなかった。

 ほとんど効果はない、ダメージが通っている気がしない。ほんの少し、小石の粒程度、イワークの岩肌が欠けるだけ。

 それでも万里の道も一歩から、根気強く、攻め続けた。

 

 まとわりつくように()()()を繰り出していると、イワークが溜めを見せる。

 照準を真上に向けた、あらぬ方向への()()()()()。これなら、もう少しだけ攻撃を続けられるかも知れない。

 そう思って、鋭い嘴で()()()を繰り出した時────、

 

「離れなさい! オニドリルッ!」

 

 ──パープルの声が聞こえた。

 

 咄嗟に、飛びのこうとした。

 しかしオニドリルはスピアーと違って急発進が出来ない。

 判断を間違った、ほんの数秒が致命的だった。

 

「俺のイワークの()()()()()は本来、体にまとわりついた敵ポケモンを振り払う為のものだ!!」

 

 全方位360度を巻き込んだ錐揉み()()()()()は、オニドリルを巻き込んで空高くに打ち上げられた。

 たった一撃、それだけで意識を飛ばしたオニドリルは、壁に打ち付けられてダウンする。

 

「素早さの低さを補おうとして編み出した技だ、簡単には破らせてやれないな」

 

 

 初めて間近で見る大迫力のポケモンバトル。手に汗握る展開に、思わず両手を握り締めていた。

 スピアーが破れて、オニドリルが倒れた。続くポケモンはサイホーン。しかし力量差もあって、素早さはイワークの方が上だった。策を弄することもままならず、サイホーンは真正面からの()()()()()に打ち負けた後、仰向けに倒れたところを()()()()()()()でとどめを刺された。

 パープルさんには、もう手持ちがない。

 あんだけ強くて頼り甲斐のある人でも負けてしまった事がわかって、なんだか認められなくて、キャップを深く被り直す。

 わかっていた事だ。でも、パープルお姉さんなら、もしかしたらって思ったんだ。

 

「オーッホッホッホッホッホッ!!」

 

 しかし、お姉さんは悲壮感を欠片も見せずに清々しい高笑いを上げた。

 

「お見事! 流石はジムリーダー、その手腕に感服致しましたわッ!」

 

 自ら両手を叩いて、素晴らしい、と称賛するお姉さんの姿を見て、悲しい気持ちが吹っ飛んだ。

 負けても彼女は何も変わらない。本当に強い人なんだって、そう思った。

 

「……手持ちはこれで全てか?」

「ええ、そうよ。私の手持ちはサイホーンで最後よ。でも、貴方の懐の深さを見込んで、ひとつお願いがあるわ」

 

 お姉さんは四つ目のモンスターボールを構える。

 

「これは借り物のポケモン。でも、ジムリーダーと戦える折角の好機、貴方の強さを是非とも経験させてあげさせたい!」

 

 よろしいかしら? と問い掛けるお姉さんに、タケシは鼻で笑ってみせる。

 

「笑止ッ! 一度、戦うと決めたからには最後まで付き合ってやる! 来いッ!!」

「貴方の器の大きさに感謝致します。行きますよ、ピカチュウ!!」

 

 放り投げられたモンスターボール、中から現れたのは見慣れた電気鼠の姿──ではなくて、オレンジ色のマスクにスポーツウェアを着込んだピカチュウの姿であった。

 

「えっ?」

「……ん〜?」

 

 唖然とする私、お姉さんは眉を顰めて首を傾げる。

 いや、私には分かる。あれは私のピカチュウだ。しかし、なんで、あの格好をしているのか分からない。

 お姉さんもよく分かっていなさそうだ。

 マスクを被ったピカチュウは、人差し指を高く掲げて「ピッピカチュウ!」と、やけにやる気満々に鳴き声を上げる。

 そして、イワーク相手に両腕を開いて、腰を落とす姿勢を取った。

 

「あれは……マスクド・ピカチュウ! 存在していたのか!?」

「えっ、おじさん誰?」

 

 すぐ隣で鼻息を荒くしたおじさんは、付箋塗れの手帳を開くと、もの凄い勢いでボールペンを動かした。

 

「聞いた事がある。トキワの森のマスクを被ったピカチュウの話、兎にも角にも手当たり次第に勝負を挑んでは地面に叩き付けてスリーカウントを数える自称トキワのチャンピオン! トレーナーが相手でも構わず、果敢に勝負を挑んではポケモンを地面に叩き付けて、ついでにトレーナーも叩き付けてスリーカウントを奪い去るピカチュウ伝説! 付いた渾名は害鼠! これがマスクド・ピカチュウ! そのあまりの好戦的な気性により、トキワシティの巡査達が取り囲んでフルボッコにし、命からがらに逃げ出した悲劇譚。その後、彼はトキワの森に姿を現さなくなったという。ある者は云った、あいつはマスクを捨てたんだ。いいや違うと私は云う、あいつは武者修行の旅に出た! 何故なら、あいつはマスクド・ピカチュウ! 心に不滅の炎を持った誰よりも熱いポケモンなんだ! そして、今日、舞い戻って来た! フェニックス・オブ・ザ・マスクド・ピカチュウ!!」

「つまり?」

「要チェックやーっ!!」

 

 興奮気味のおじさんを横目に、私は、すすっと数席分の距離を取った。




次回でニビジム編も終わります。
お気に入りと感想、評価をお願いします。

▼パープル
オニドリル♂:Lv.29
スピアー♀:Lv.30
サイホーン♂:Lv.26
ピカチュウ♂:Lv.22

▼レッド
イーブイ♀:Lv.12
ヒトカゲ♂:Lv.14
ピカチュウ♂:Lv.9

◆グリーン
ポッポ♂:Lv.15
ゼニガメ♂:Lv.14
コラッタ♂:Lv.10

▼ブルー
ロコン♀:Lv.13
フシギダネ♂:Lv.12

▼タケシ
イワーク♂:Lv.57:たいあたり

※レベルは目安
※記載のある技は、通常の効果以上に鍛え上げた得意技。

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