転生したら、ロケット団の首領の娘でした。   作:とんぼがえり。

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高評価、感想、お気に入り。ありがとうございます。
書く栄養にしています。
また誤字報告、大変助かっています。


第2章:オツキミ山編
1.出発


 私は今、相棒のピカチュウと一緒にオツキミ山に続く道を歩いている。

 慣れない旅路、汗水を流して、少しずつでも歩みを進める。お姉さんが買ってくれた衣服は動きやすくて実用性に富んでいた。

 だからトキワの森を出た時よりも幾分か足取りが軽い。一度、トキワの森で遭難した経験が活きているのかも知れない。ピカチュウに食べられる木の実を教えて貰いながらパープルの後を追いかける。そうして辿り着いたオツキミ山の麓にあるポケモンセンター。チラッと中を見渡してみると、そこではブルーお姉さんが五百円玉と引き換えに怪しいおじさんからモンスターボールを受け取っていた。とりあえず目立つ金髪のお姉さんの姿はなかったので、そのままポケモンセンターは後にする。

 オツキミ山には長い洞穴があり、ある程度、整備された道がハナダシティまで続いている。そんな話に聞き耳を立てた。

 だから、お姉さんを追いかける為にもオツキミ山に足を踏み入れる。

 

「おい、なんの準備もなしに足を踏み入れるのは自殺行為だってこともわかんねぇのか?」

 

 声を掛けられて振り返る。するとそこにはツンツン頭のお兄さん、グリーンが私を睨み付けている。

 

「アユミ、あの女はどうした? 一緒じゃないのか? というか、その恰好はなんだ?」

 

 彼は私の本名を口にする。答えられずにいると、まあいっか、と彼は呟いて、モンスターボールを構えた。

 

「ポケモントレーナー同士、目線が合ったら先ずすることはバトルだ。そのピカチュウとも戦ってみたかったしな」

「えっ? えっ?」

「もし、俺に勝ったらお前が求めているものをくれてやるよ」

 

 ピカチュウが、腰のモンスターボールから飛び出した。

 普段からロックは掛けておらず、内側からも開閉できる仕組みになっている。

 ピカチュウとグリーンは何度か顔を合わせた事があるため、面識はある。

 

「……タイプは不利だけど、あの女との距離を確かめるのに丁度良い」

 

 グリーンのモンスターボールから飛び出したポケモンはピジョン、あのポッポも進化したようだ。

 ピカチュウは腰を落として、頬の電気袋から電気を迸らせる。バトルは終始、ピカチュウのペースで展開していった。指示を出さなくてもピカチュウは勝手に戦ってくれる。なにか指示を出した方が良いのか。でも、どういった指示を出せば良いのかもわからなかった。

 それでもピカチュウはグリーンの手持ちを三匹、倒し切ってしまった。

 

「……チッ。トレーナー抜きでこの差かよ」

 

 私がピカチュウをモンスターボールに戻した後、グリーンはそのモンスターボールを奪い取って、そのままポケモンセンターの方へと足を運んだ。

 

「あ、ピカチュウ! 待って!」

「どーせ、身分証も使えないんだろ? 俺の名義で回復させてやるってんだ、後は飯も食わせてやる」

 

 それから、えーと、と彼が思い悩んでいると「あれ、グリーン。そいつ、どうしたの?」と、今度はレッドお兄さんが話しかけてきた。

 

「あー、こいつは……俺の従弟だ。ほら、自己紹介しろ」

「……あ、はい。私はイエローって言います」

 

 心持ち声色を少し低くすると「おお、そうか。俺はレッド、よろしくな」とレッドは私の頭を撫でる。

 

「……今からオツキミ山に行くのか?」

「ああ、俺もあいつに負けてらんねえしな。グリーンは?」

「俺はポケセンで回復してから行く」

 

 さりげなく私から気を逸らさせた後、グリーンは私のポケモンと一緒に手持ちのポケモンをポケモンセンターに預けた。

 その後、近場にあった食事処で同じ席に座る。二人して注文したのは月見そば、というよりも遠慮しているとグリーンが勝手に注文した。

 食事を届くまでの中途半端な時間、互いに無口になって、なんとも微妙な空気が流れた。

 

「おい」

「ひゃいっ!?」

「飯、食ったら一緒に連絡は入れるぞ。言い包めるのは俺がしてやるよ」

 

 どうやら簡単には逃がしてくれないらしい……

 

 

 だーまーさーれーたー!

 貴方だけに良い話、そんな言葉に乗せられて。買ったポケモン、コイキング。

 ワンコインポッキリ価格だった事もあり、買ったは良いけど、このポケモン。なんと、なんと、その場で()()()()()ことしかできない!

 むぎゃーっと! うがーっと! 怒りに悶えそうになったけど、コイキングには罪がない。

 返品も受け付けて貰えず、トボトボとオツキミ山に挑むことになった。

 

 ……まあ、みずポケモンは居なかったから丁度良かったけどね。うん、丁度良かったんだ。

 

 ロコンとフシギダネ、それからコイキング。

 手持ちは三匹、少しずつだけど、形にはなってきている。のかなあ?

 レッドとグリーンには、こんな話はできない。

 

 

 アユミのピカチュウは、予想していた通りに強かった。

 癖のある動きで翻弄するタイプかと思えば、経験に裏打ちされた確かな地力を持っている。

 ピジョンを出した時、ピカチュウは余裕のある動きで攻撃を誘った後、()()()()()の機先を制した()()()()()()()で距離を詰めた。指示を出す間もなく、そっとピジョンの身体を指先で触れた。その瞬間から数秒、ピジョンは動きを止める。恐らく、電撃を流し込まれた。予想だが、技名は()()()()だ。動きを止めたピジョンに対して、ピカチュウは悠々と助走を付ける。その際に電撃を身に纏っていた。身体が地面と水平になるように跳躍し、ドロップキックという名の()()()()()()()でピジョンの身体を蹴ると同時に()()()()()()()を流し込んだ。

 いわタイプやじめんタイプが相手の時は使わなかった技、そういえば一度、イワーク相手に()()()()を放っていたことを思い出す。あの時は、でんきタイプの技が効かなかったので使わなかっただけだったようだ。

 続くゼニガメでは、放った()()()()()()に指先を添えて、それを導線代わりにして相手に電撃を浴びせるという器用な真似もしてのける。

 

 コラッタ戦は力量に差があり過ぎた。

 コラッタの()()()()()()()()()()()()()()を被せたピカチュウは、その速度差で相手を翻弄した後に()()()()で痺れさせた。そして、ゆっくりとコラッタの身体を肩に担いだ後、イチ、ニッ、サン、と指でカウントを取った後に自らの身体ごとコラッタを地面に叩き付ける。やっている事は、柔道でいうところの肩車、つまりは()()()()()()の応用だ。

 肩に担がれている間、コラッタはほとんど抵抗しなかった。それはピカチュウが継続的に()()()()を流し続けていた為、プロレスのような大技を当て続けるにはギミックがある。そして、そんな無駄なことをばかりやっているせいか、()()()()()()()()()()()の精度と技量が腹立たしい程に高い。他にも自力で大技を当てるまでの組み立てをしており、その都度の状況によってアドリブを利かせる。それでいて、なんか出来るんじゃないか? と思い付く発想力と、その場で実行してしまえる大胆さを持ち合わせていた。

 もしかすると、とんでもないピカチュウなのではないか?

 勝負だけに拘った時、どんな戦い方をするのか。

 

「──興味が尽きない」

 

 えっ? と振り返るアユミの頭をキャップ帽子越しに撫でてやる。

 このピカチュウは唯一無二の才能がある。それを活かすも殺すもトレーナー次第、そして、そいつは目の前に居る知り合いだった。

 それも、それなりに手を貸す理由を作れる知人だ。

 

「少しの間、俺が鍛えてやるよ。基礎の基礎の基礎だけどな」

 

 自分で全てが出来てしまうピカチュウは、今のアユミと釣り合ってねえ。

 本当は、俺が鍛えて使ってやりたいくらいだが、信頼関係だけは出来ている。そこだけは褒めてやる。

 だが、トレーナー要らずのポケモンでは、アユミのトレーナーとしての腕は上がらない。

 だから、テコ入れをする必要があった。

 

 

 今のままではパープルには、敵わない。

 あいつに勝つ為には、真正面から挑んでいるだけでは駄目だ。

 もっと搦手のような何かを追い求めた。

 

 そんな時、オツキミ山の洞窟で見慣れないポケモンを見つけた。

 まるで虫のような外見で、背中にキノコを生やしたポケモン。ポケモン図鑑で名称を調べると、パラスと呼ぶそうだ。

 むしタイプ、くさタイプ。とりあえず、モンスターボールで捕まえてみた。

 

 コイツが、どう成長していくのか分からない。けど、なんとなしに面白くなりそうな予感はあった。

 バトルがもっと面白くなる。そんな予感だ。

 

 

「まだ戻る気もねぇから、旅の途中まではこいつの面倒を見といてやるよ。知り合いに渡すかも知れないけどな」

 

 じゃあ、と言ってグリーンお兄さんは連絡を切った。

 帽子を取って顔は見せた、挨拶もした。そこから先はグリーンが全部、話してくれた。

 それでまあ、期限付きの猶予時間が与えられた。

 

「……それで、追いかけるんだろ? あいつを」

 

 着信が鳴り続ける端末を無視して、グリーンが私を真正面から見つめる。

 正直、今の状況。無理して、パープルお姉さんに会う必要はない。家に帰りたくなければ、グリーンに付いて行けば良いだけだ。

 でも、そういう利害だけではなくて、もっと、こう、なんというか、私はパープルと一緒に居たい。

 

「うん、追いかける」

「なら目的は一緒だ。それまで俺様が、ちゃんと面倒をみてやる」

 

 そう言って雑に頭を撫でられる。

 

「ついでにポケモンバトルも鍛えてやる。今から適当なポケモンを捕まえるからな」

「うん。……うん?」

「とりあえず近場で一匹、ポケモンを捕まえてみろよ。そのピカチュウなら上手い具合に調整してくれるだろ」

 

 グリーン指導の下、オツキミ山に入る前にポケモンを捕まえさせられた。

 早く追いつきたいから必死になって頑張って、オツキミ山に入った後も野生のポケモンの露払いをさせられる。グリーンが野宿の準備をしている間は、自分のピカチュウを相手にバトルをする事を強制させられた。

 そうして、こうやって戦ってみて気付いたことがある。

 

 このピカチュウ、凄くムカつく!

 

 新しく捕まえたポケモンはサンド。

 そのサンドを相手にピカチュウは真正面から歩み寄り、その首を差し出すように前傾姿勢を取る。サンドが釣られて()()()()を繰り出せば、スッとピカチュウは顔を引いた。丁度、顎先を掠めるように、そして首を傾げながら自らの顎を撫でる。()()()()には()()()()()()()で距離を取り、その砂煙を目眩しに右、左と石を放り投げてからの跳躍、砂煙の上から宙返りでサンドの脳天に自らの尻尾を()()()()()()

 こんな戦い方、ばかりをする。

 

 絶対に一矢報いてやる。と決めたけど、結局、最後まで攻撃を当てることはできなかった。

 新しく捕まえたポケモンと共にボロボロになって、簡易的なキャンプ地まで戻り、食事を取りながら今日の反省会が行われる。グリーンは今日の朝から晩まで行われていたバトルの内容を全て覚えていた。私が曖昧になっている事すらもズバズバと指摘してくるので、グリーンお兄さんって凄いなあって、そんな事を考える。

 パープルお姉さんも似たようなことが出来るのかな? 当然だろ、とグリーンは答える。

 

「記憶力ってのが直接、ポケモンバトルの勝敗に直結するかは知らね。けど強え奴ってのは大体、それに関する事柄を詳細に記憶しているもんなんだよ」

 

 ふぅん、と私は適当に相槌をした。

 これから先、バトルの一部始終を記憶する事ができるようになるのかどうかは分からない。

 でも、今日、戦ったピカチュウとのバトルは忘れられそうもない。

 

 そのピカチュウは今、私の膝上で気持ち良さそうに眠っている。




お気に入りと感想、評価をお願いします。

▼パープル
オニドリル♂:Lv.29
スピアー♀:Lv.30
サイホーン♂:Lv.26

▼イエロー
ピカチュウ♂:Lv.24:でんきショック、でんじは
サンド♀:Lv.7

▼レッド
イーブイ♀:Lv.12
ヒトカゲ♂:Lv.14
ピカチュウ♂:Lv.10
パラス♀:Lv.6

◆グリーン
ピジョン♂:Lv.16
ゼニガメ♂:Lv.15
コラッタ♂:Lv.12

▼ブルー
ロコン♀:Lv.14
フシギダネ♂:Lv.13
コイキング♂:Lv.5

※レベルは目安
※記載のある技は、通常の効果以上に鍛え上げた得意技。

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