転生したら、ロケット団の首領の娘でした。   作:とんぼがえり。

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2.遭難ですか? ソーナンス!

 ブルーは山を登っていた。オツキミ山と聞いた、その時から山は登るものだと決め付けていた。

 本来は洞窟の中に出来た道を歩いて行くのが正規ルートだが、それは数年前、タケシのイワークの協力もあって整備できた新道であって、山を登る旧道が未だに残っていたのがいけなかった。ほんの十数年前まで人が活用していた道を、せっせと歩き続けること数時間、地図上では近いのに歩くと遠い。そんな距離感がバグるような体験を今、ブルーはしている。道らしき道を歩けど歩けど人の気配はなく、道の上を歩いているにも関わらず、今、自分は遭難しているのではないか。という思いが更にブルーの心を削っていった。

 独りで歩くのは、寂しくて怖い。途中でイシツブテも飛び出してくるので、尚のこと恐ろしい。

 

 とはいえポケモンが人そのものを襲うことは稀だ、理由もなしに襲うことは少ない。

 よくあるのは野生のポケモン同士の縄張り争いであり、トレーナーを襲う時は食料を狙ってのことが多い。その為、野生のポケモンに手持ちのポケモンを倒されたとしても、手持ちのポケモンフードで急場を凌ぐことはできる。これは緊急時に限って奨励されている対応手段であり、これが原因でポケモンフードを狙った野生のポケモンがトレーナーを狙う事件が多発しているので少々問題視されている。

 かといって命には代えられず、なあなあで、今も続けられている慣習だ。

 

 閑話休題。

 

 引き返そうか、どうしようか。

 ブルーが悩んでいる内に、空は茜色に染まり始めていた。急いで野宿の準備を始めないといけない時間帯、ロコンとフシギダネ、それからコイキングを総動員して薪やらなんやらを集めさせた。コイキングはずっと跳ねてた、ビチビチしてた。ちょっと思ったのだけど、コイキングって陸上でも生きていられるのだろうか? なんか可哀想だったのでモンスターボールに戻して、私は私で野宿の準備を進めた。本当はテントとか欲しいのだけど、あまり多くの荷物は持ち運べないので、早いとこ荷物を運んでくれるポケモンが欲しいな。とか、思ったり、思わなかったりする。

 そうこうしている内に日が沈み、ポケモン達にポケモンフードを与える。

 

 寝袋にロコンかフシギダネ、順番で一緒に寝ている。

 今日はコイキングと一緒に寝ようか、とブルーは少し考えた。モンスターボールから出した後、ビチビチして苦しそうだったのですぐに諦めた。これは贔屓だとか、そういった話ではない。仕方のないことなのだ。

 用意した寝袋に足を入れようとした時だ。ガサガサと草叢を掻き分ける音がする。息を潜めて、音がした方へと足を運べば、そこには数人の人影があった。

 数時間ぶりの人間に声をかけようとした。

 しかし、その胸に刻まれた「R」の文字を見て、やり過ごすことに決める。

 ロケット団。ブルーにとっての認識は、危険な犯罪組織だ。

 

 

 オツキミ山を目指す前、ニビシティを離れる時の事だ。

 

「それじゃあ、また会いましょう。ちゃんとおうちに帰るんですよ?」

 

 そんな言葉と共にパープルはイエローと別れた。

 家まで送ろうか? と提案もしたが、それはイエローの方から断って来たので彼女の頭を撫でてから別れを告げた。

 イエローには帰るべき場所があり、私には進むべき場所がある。

 

 出会いは偶然、別れは必然。少し後ろ髪を引かれる想いで、次を目指した。

 

 そして今、私はサイホーンを傍らにオツキミ山の洞窟をズンズンと先に進んでいる。

 イエローと別れる時に、きちんとピカチュウは返している。ちょっと惜しかったけど、人のポケモンを盗んだら泥棒、という言葉があるように人のポケモンを盗むような真似はしない。それにイエローとピカチュウの信頼関係には、間に挟まれるだけの隙間もない。手に入らないものは入らないと決めつけて、さっさと未練を断ち切るのがお互いの為である。

 そうやって歩き続ける事、数時間。私は今、何処を歩いているのか分からなくなってしまっている。

 

 勝手気ままに、気分の赴くまま足を進めているので道に迷うことが多い。

 というよりも自分から迷いに行っている節もある。最悪、手持ちのポケモン達に先導して貰えば良いかなって思っているので、頭の中に地図すらも作っていなかった。そんなことなので兎に角、迷い続ける。迷う事は構わないのだけど、景色が変わり映えしないのは頂けない。何故なら歩いても楽しめない為だ。

 だからもう進む道はサイホーンに任せようと思って、私はサイホーンの上にクッションを敷いた。その時、サイホーンがジトッとした目で私の事を見つめていたけど、気付かないふりをしてサイホーンの背中で仰向けになる。

 サイホーンの大きな溜息。ゆっくりと動き出したのを確認して、私は瞼を閉じた。

 

 それから、どれだけの時間が過ぎたのか。

 サイホーンが背中を揺すったのに反応して、目が覚めた。なにかを訴えるような鳴き声に、私は端末に表示された時間を見る。うん、昼食時を一時間も過ぎてしまっている。寝過ごしてしまったようだ。とりあえず、私は手持ちのポケモンを全員出した後、それぞれの頭を撫でながら平謝りして、それぞれの受け皿にポケモンフードを注いだ。こっちがサイホーン用で、こっちがオニドリル。スピアーにも、それから水は──近場から水が流れる音がする。辺りを見渡すと、丁度、湧き水が出ているところを見つけた。どうやら良い場所を休憩場所に選んでくれたようだ。もう一度、サイホーンの頭を撫でてあげる。ついでに顎下も、ごろごろにゃーん。猫じゃないけど。

 空が見えないのは嫌だなあ、こんなところは早く抜け出してしまいたい。

 そんなことを考えていると奥の方から足音が聞こえて来た。身構えるまでは行かずとも警戒する、スピアーとオニドリルも食事を止めて、足音のする方向を見つめた。少し遅れて、サイホーンも足音に意識を傾ける。

 洞窟の、その先から姿を現したのは────

 

「ん、まだこんなところに居たのか?」

 

 赤い帽子に赤いジャケット、ニビジムで見かけたトレーナーだった。

 ちょっと失礼するよ、と彼は私の近くで腰を下ろすと「ひぃ~、疲れた~」と息を吐いた。その無防備な姿に、私は警戒を解き、オニドリルとスピアーも食事を再開する。二匹に合わせて、サイホーンも食事を摂り始める。

 確か、彼はレッドという名前だったか。

 レッドは、私のポケモン達の食事風景を見て「へえ、ポケモンフードは市販のを使っているんだな」と零す。

 

「しかもそれ、そんなに高くないやつだよな? もっと食事には拘っているかと思っていたよ」

「市販のものが最も栄養バランスが摂れていましてよ。ちゃんとした研究機関で作られていますし、味も良い。御父様のペルシアンも同じメーカーのものを食べてますのよ。コストパフォーマンスのことも考えると、これ一択ですわ」

「ふぅん? ちょっと袋を見せて貰っても良いか?」

「もっとちゃんとした目的を持ってトレーニングをするつもりでしたら、これだけじゃ足りませんわ。プロフェッショナル向けのポケモンフードは高くなりますわね」

「俺は、そういうのが分からないからなあ。グリーンの奴は計算してるんだろうな」

 

 あいつのポケモンフードは高いみたいだしな、と言った彼の前に三種のポケモンフードを取り出す。

 

「……三種類も持ち歩いているのか?」

「ポケモンを三匹も連れているのなら当然、三種類でしょう? 好みの味も形状も変わってくるのは当然でしてよ」

「ああ、そういうのもあるのか」

 

 レッドはガシガシと頭を掻くと、鞄から別のメーカーのポケモンフードを一袋だけ取り出す。

 

「家に居たイーブイに使っていたやつをそのまま使ってたよ」

「まあ、それが悪いことだとは言いませんけど……先ほども言いましたが、ポケモンにも好みもありますし、飽きもあるでしょう。私は、たまにメーカーを変えてみたり、他の子と味を入れ替えたりしていますわね」

「荷物が嵩張りそうだな」

 

 レッドは、私のサイホーンの背中に載せられた鞄を見つめながら呟いた。

 身体作りは食事から、食事に気を遣うのは当然だと思うけど……。

 サイホーンの鞄の中から幾つかの小さな袋を取り出して、それをレッドに手渡す。

 

「こうやって数食分に小分けして売られているものもありますわ」

「ああ、あったなあ。なるほど、あれはそういう意味だったんだな」

「それは受け取ってください。新しく捕まえたポケモン用のものですので」

「え? いや、でも流石にタダで貰う訳には……」

「丁度、荷物が嵩張っていましたので、引き取ってくれると助かります」

 

 私がにっこりと微笑めば、レッドは少し考え込んだ後で「助かるよ、後で借りは返す」と受け取ってくれた。

 早速、受け取ったポケモンフードを手持ちのポケモンに分けて与えている。イーブイにピカチュウ、ヒトカゲ。そこにニビジムの時には見かけなかったパラスが増えている。その統一感のない彼のパーティーを見て、ああ、そういえばマサラタウン出身だった事を思い出す。あの土地の人間は全てのポケモンから嫌われることはないけど、特別に相性の良いポケモンもない。そんな中途半端な性質を持つ傾向にあったはずだ。

 マサラタウンは真っ白、始まりの色。何色にも染まる色。

 

「……暫く、行動を共にしますか?」

「えっ? 良いのか!?」

「この風景の中、独りで行動するのも飽きてしまいまして」

 

 ノーマル、ほのお、でんき、むし。

 関連性の薄い四つのタイプのポケモンから好かれる彼の事が少しだけ気になった。

 それだけの事、それだけの話だ。

 

 

 理科系の男、ミツハル。慣れない洞窟の中を戦々恐々と歩き続ける。

 彼はタマムシ大学の生徒であり、古ポケモン学を専攻している。その研究の一環としてオツキミ山まで足を運んでおり、その土のサンプルを採取しているところであった。しかし彼の真の目的は古代ポケモンの化石であり、それを手に入れる為に今、洞窟の奥深くまで恐る恐る足を進めている。土のサンプルは化石が見つからなかった時の為の保険であり、最悪、自分の研究に使えなくても地質学の連中に対する交渉材料にできれば良いと考えていた。

 どっちに転んでも困らない。ちょっと大きなことをしたいと考えていた彼にとって、オツキミ山は手頃なフィールドワーク先であった。

 

 しかし、これはオツキミ山の洞窟に潜り込んでから知った事だが、此処にはロケット団と思しき人物が何人も徘徊している。

 息を潜めて、遠回りを繰り返すことでロケット団をやり過ごすこと数回。彼は遭難してしまった。彼は軽装だった。オツキミ山の洞窟は、イワヤマトンネルと比べて安全だと聞かされていた。だから軽装でも大丈夫だと思って、自分にとって動きやすい服装でオツキミ山の洞窟に挑んでしまった。

 その結果、彼はオツキミ山の奥深くに取り残されてしまったのだ。

 

 オツキミ山に来て、三日目。

 食事も尽きた、端末の電池も切れた。今は手持ちのポケモンフードで飢えを凌いでいる。

 彼はもう精神的にも限界が近づいていた。

 そんな彼にとって、幸か不幸か、遭難する事で古代ポケモンの化石を見つけたのだ。

 しかし、化石は岩に埋まっていた。そして彼には今、岩を掘る手段がない。逃げ回っている内に道具を落としてしまったのだ。

 諦めようにも、諦めきれず、その場に座り込み、蹲った。

 

 縋る想いで、助けを待ち続ける。

 誰かが来ることを祈って、息を潜めて待ち続ける。

 もう、彼に、再び歩き出す気力はなかった。




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・パープル&レッド:洞窟先発組
・グリーン&イエロー:洞窟後発組
・ブルー:登山組
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