転生したら、ロケット団の首領の娘でした。 作:とんぼがえり。
書く栄養にしています。
また誤字報告、大変助かっています。
じわりじわりと伸びるのを見ていると安心します。
レッドと行動を共にするようになってから数時間、
私、パープルはサイホーンの上で寝転がりながらレッドの戦いぶりを観察している。
飛び出したイシツブテを相手にイーブイやパラスを繰り出す事もあれば、ズバットを相手にヒトカゲで応戦する事もある。ピカチュウを戦いに出さないのは、灯りを確保する為っていう理由があるにしても、なんというか、もの凄くもどかしい戦い方をする奴だった。
ポリポリとクッキーを齧る。サイホーンが物欲しげに唸ったので、何枚かのクッキーを口の中に放り込んであげた。
「イシツブテとズバットの組み合わせは厄介だな」
そんなことをレッドが零したので「そうでしょうか?」と思わず返してしまった。
いくらイーブイの方が力量差があるからって、いわタイプのイシツブテが相手では疲弊するし、ズバットが飛び回って
「バランス良く使おうというのは分かりますが、あまり苦手を押し付けるのも逆効果になりますわ」
トレーナーがフォローできる程度の不利であれば、私達が負担を背負えば良いんです。と言ってあげれば、レッドは腕を組んで唸り始めた。
未だ、洞窟の中。私が野生のポケモンを相手に戦わないのは、私の手持ちよりもレッドのポケモンの方が小柄で戦いやすいってのもあるし、この辺りに出没するポケモンでは私の手持ちの経験値にならないってのもある。だから私は何匹か一撃で倒した後で、野生のポケモンは基本的にレッドにお任せすることに決めた。
レッドも、そのことは承諾しているし、いざという時は、私がハナダシティまで連れていく事は約束している。
「少し、休憩致しますか?」
問いかけると「いや、いい」とレッドは先を目指した。
ヒトカゲはさておき、イーブイとパラスは疲弊気味、そのことに気付かないのは私が第三者視点から見ているからか。それとも彼がポケモントレーナーとして未熟な為か。はたまた、どちらもか。ともあれ、私は大きな欠伸を零して、レッドの後を付いて行くことにした。
彼が戦っている間はまだ、余裕があるのだ。
そうして更に奥へと進むこと数十分、私が眠気でウトウトとし始めた頃合いだ。
桃色の、まるでぬいぐるみのように可愛らしいポケモンが私達の前に姿を現した。
そのポケモンは私達に気付く様子もなく、トテトテと私達の前を横切った。
「あらま、珍しいですね」
「知っているのか?」
「あれはピッピですわ。姿くらいは何度も見たことがあるのでは?」
カントー地方では、オツキミ山にのみ棲息すると云われるようせいポケモンだ。
その愛くるしい姿から人気が高くて、ぬいぐるみといった数多くのグッズが販売されている。
バトルで使っているトレーナーは、あんまり見たことがない気がする。
「……捕まえるか」
レッドは少し考えた後、小さく呟いた。
「強くはないと思いますよ?」
「いや、俺はポケモン図鑑の完成も目指してるからさ。珍しいポケモンを捕まえるとオーキド博士も喜ぶだろ?」
「オーキド? ああ、ポケモン研究の権威と呼ばれている、あの」
ポケモンに内包されたタイプと相性の考え方は、オーキド博士が最初だと言われている。
またポケモンの繰り出す技にもタイプがあり、タイプが一致する技だと威力が上がるなど、様々な発見を世に知らしめた。
ポケモンのいるところオーキドあり、今あるポケモン研究の基礎を築き上げた世界的にも有名な研究者の事だ。
「……ん? ポケモン図鑑?」
私は首を傾げる。ポケモン図鑑を持っている人物は、レッドという名前ではないはずだけど?
「ああ、ポケモン図鑑っていうのは、ポケモンに関する情報を自動的に記録してくれるハイテクな機械のことだよ。詳しくは分からないけどな」
そう言いながら懐から取り出したポケモン図鑑は、私の知っている形ではなかった。
まあ私も詳しくは知っている訳じゃないし、そんな便利な機械なら量産されていてもおかしくはない。
研究に協力してくれるトレーナーに片っ端から配っている可能性だってある。
「……それはそうと、レッド」
「ん?」
「ピッピはもう随分と先に行ったと思いますけども大丈夫でしょうか?」
「あっ!」
いっけね、とレッドは慌ててピッピの後を追いかけた。
迷子にならないように注意しながら、サイホーンにレッドの後を追わせる。
この洞窟を抜けるには、まだ暫く、時間がかかりそうだった。
◆
一方その頃、
オツキミ山の中腹で、ブルーはトチ狂っていた。
「頑張れ! やればできる! 諦めないで! 根性を出すのよ! 行け、今だ! そこ! そのタイミング! 良い感じよ! 跳んでみせて! この青空に、貴方の勇士を!! 世界に貴方の可能性を見せつけてみなさい!!」
まるで陸に打ち上げられた魚のようにビッチビッチと跳ねるコイキングに活を入れているのだ。
ついでにいうとロコンとフシギダネも応援するように鳴き声を上げている。
こうなったのには一応、理由はある。
早朝の事だ。野宿を終えた彼女は、来た道が分からなくなってしまったのだ。右も左も分からなければ、地図を逆さに持っても分からない。
昨日からの孤独に耐え切れなくなった彼女は、手っ取り早い解決手段を求めた。
しかし、彼女の手持ちには空を飛べるようなポケモンはおらず、この状況を打開できるような手段も持ち合わせていなかった。
それ故に彼女は思い至ったのだ。
空を飛べるポケモンはいない。でも、空まで跳ぶことも可能なポケモンなら居るかもしれない!
その可能性の塊の名は、コイキング。ポケモン図鑑によると世界で一番、弱くて情けないと呼ばれるポケモン。とにかく跳ねる、意味もなく跳ねる。何故、コイキングは跳ね続けるのか、その理由を追い求めた研究者が居るほど、跳ねて、跳ねて、跳ねまくる。泳ぐ力が弱い為、跳ねることで川の流れに逆らうのだとか、なんだとか。しかし激流には逆らえず、流れの淀んだ場所を覗いてみれば、流されていたコイキングが溜まっているらしい。何処にでもいるコイキング、繁殖力だけは強いぞコイキング! どんな環境でも生きていけるぞコイキング! そんなしぶとい根性を持ったコイキングなのだ、今こそ世界を見返せコイキング!
必要なのは気合と根性、あと努力!
やってやれないこともないかも知れない! 世の中の九割程度は精神論でどうにかなる!
頑張れコイキング、ファイトだコイキング!
コイキングは我武者羅に、跳ねて、跳ねて、跳ねまくる!
いっけー、そこだー! コイキングサイクロン! 跳ねる力を溜めたコイキングは、金色の輝きを放って空高くに飛び跳ねた。記録は優に2メートルを超えている! やった、ワールドレコード! いよっ! これぞ鯉の滝登り!
ブルーと一緒に、ロコンとフシギダネも歓声を上げた。
この偉業は見過ごせぬ、と遠くの空からピジョンも飛んできた。
そしてコイキングが木々から飛び出て、頂点に達した時、ハシッと鋭い爪でコイキングを掴み取る。
バッサバッサと大きな翼を羽ばたかせて、オツキミ山の頂上に向けて飛んで行った。
「…………あっ、追いかけなきゃ!」
その一部始終をぽかんと見ていたブルー御一行、慌てて荷物をまとめてピジョンを追いかける。
彼女達の旅の行く末がどうなるのか、誰にも分からない。神の味噌汁。
◆
理科系の男、ミツハルは化石の側から離れられない。
まだ食い繋ぐことは出来ているが、もう、それも限界に近い。体力よりも先に心の方が音を上げていた。
早く、早く、と祈る中で、遂に、スタッスタッと人の足音が聞こえたのだ。
ああ、やっと来てくれたのか!
彼は歓喜に顔を上げる。もしかしたら知人の誰かが救助を頼んだのかも知れない、と無邪気に喜んだ。
九死に一生、彼にはもう垂らされた蜘蛛の糸に飛びつく以外の手段が取れなかった。
だから、岩影の向こう側から現れた男の姿を見た時に顔色を青褪めさせた。
胸に刻まれた「R」の文字を見た彼は、今は見えない天を仰いだ。どうしてなんだ、と神を恨んだ。
ミツハルを見つけたロケット団の下っ端は「随分とやつれてんな?」と声を掛ける。
ロケット団はチンピラではない、ポケモンマフィアだ。
チンピラがロケット団の名を借りて、一般市民を相手にカツアゲをすることもある。しかし本来のロケット団は、ショバ代を要求することはあっても誰彼構わずにカツアゲをする事はしない。何故なら彼らはロケット団の一員であることに誇りを持っており、その名を穢すことを極端に嫌っている。彼らが一般市民に手を出す時は、ロケット団の誇りに傷を付けた時、その落とし前を付ける為に民家を攻撃することはある。
筋は通す、彼らには彼らなりの道理がある。
だから、ロケット団の男は、遭難した一般市民をどうこうするつもりはなかった。むしろ、オツキミ山の麓にあるポケモンセンターまで保護してやるくらいの気持ちはあった。化石の在処を教えてくれていれば、少なからずの褒美を渡してやるくらいの気概もあった。
だが、この時、ミツハルは極度の精神状態にあった。ロケット団が一歩、近づいた時、彼は反射的にモンスターボールを構えたのだ。
「おいおい、待てよ。腹ァ、減ってんだろ? 助けてやるよ」
これにロケット団の男は両手を上げて、攻撃の意思がない事を示した。
しかし、ミツハルはボールを投げる。ベトベターを繰り出して、犯罪組織であるロケット団を威嚇する。
この行動には、ロケット団の男も黙ってはおられず、モンスターボールに手を翳す。
「嘘を吐くな! この化石は僕が見つけたんだ!」
「なんだと? そいつは本当か!?」
「ああ、嘘じゃないとも! 二つとも僕のだ!」
「二つもあるのか!?」
ロケット団の男が発した嬉々とした声に、ミツハルは排除すべき敵と断定する。
相手は犯罪者だ、ならば痛めつけても構わない。そんな倫理観からベトベターのトレーナーを狙った
ロケット団の男は先ず、真正面にズバットを出して
「手間を取らせんじゃねえよ」
「ああ! 助けてくれ! 誰か! 誰か!」
「人様に攻撃しておいて、何言ってんだこらぁ!」
まだ叫び続けるミツハルの顎を蹴り上げる。
その際、ベトベターが攻撃を仕掛けてきたが、ロケット団の男はミツハルの手から離れたモンスターボールを使って、モンスターボールの中にしまった。爪先で何度か理科系の男を小突いて、気絶したのを確認した後、モンスターボールを彼の側に転がした。
そして、ロケット団の男は、ロケット団の団員はボリボリと後頭部を掻いた。
本当に余計なことをしてくれたものだ。助けてやっても良かったのに、攻撃を仕掛けられてはロケット団の面子的に助ける訳にもいかない。これが街中なら警察や救急車に連絡程度は入れてやるのだが、この山奥では、それも出来ない。かといって、ここで放置するのは見殺しにするも等しい状況だ。
どうしたものか。と悩んでいると「こっちから声が聞こえた!」と洞窟の奥から声が聞こえてきた。
「今日は厄日みたいだな……いや、これは却って都合が良いか?」
ロケット団の男は、そそくさと身を隠す。
暫し、彼らの動向を見守ることにした。
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書く栄養にします。
・パープル&レッド:洞窟先発組
・グリーン&イエロー:洞窟後発組
・ブルー:登山組