転生したら、ロケット団の首領の娘でした。 作:とんぼがえり。
書く栄養にしています。
また誤字報告、大変助かっています。
ロケット団に所属する者達は、基本的に社会のはみ出し者だ。
小学校を卒業した後、10歳でポケモントレーナーの旅に出るも途中で挫けてしまった者もいれば、何もかもが上手く行かずに不良になってしまう者もいる。ただ単に若さ故のエネルギーの発散先が分からずに暴走族になる者も居たが、さておき、そういった事情で社会からはみ出してしまった者達がロケット団といった組織に所属することになる。
このロケット団の下っ端に燻る男は、元々は不良だった。たったひとつの出会いが彼を悪党への道に誘った。
彼が敬意を払うべきはロケット団の首領であるサカキ様。敬愛すべきは、ロケット団の四幹部が一人、ラムダだ。
彼はラムダから悪党としての礼節と踏み越えてはならない一線を学んだ。
命を懸ける時は、誇りを穢された時。命を奪う時は、誇りを足蹴にされた時。
ロケット団の中でも、気高い精神性の持ち主である彼が何故、下っ端の地位に甘んじているのか。
それは彼が鉄砲玉として、ポケモンバトルに傾倒していた為だ。
ラムダ様が戦う時、その最前線で戦えるように彼は今もポケモンバトルの腕を鍛えている。
その腕前は、まあ、ジムトレーナー基準で考えると、そこまで高くはないのだが、それを言っては、四幹部もジムトレーナーのレベルに達していないのでお互い様である。
ロケット団は悪党であり、トレーナーの枠に収まらない戦い方と躊躇のなさが脅威なのだ。
そんな彼だからこそ、自分の事を可愛がってくれるラムダ様が近頃、熱心になられている御令嬢の事も耳にしていた。
曰く、ロケット団の首領であるサカキ様の御嬢様。長い金髪で、整った可憐な顔つきは母親似。しかし目元は父親に似ているようで、目を鋭くした時はサカキ様を彷彿とさせる。父親のコートと同じ色である黒色を好んでおり、袖に通す衣服は大抵、黒色に偏っている。
だから赤い服を着た少年の後に、のほほんとした顔で追いかけてきたサイホーンに寝転がる少女を見て、驚いた。
「おい、パープル! 人が倒れているぞ!」
「はいはい……しかし三人分ともなると食料に余裕がなくなってしまいますわね」
その名前を聞いた時、予感は確信に変わった。
「だからといって見捨てる訳にもいかないだろ。おい、大丈夫か? 駄目だ、気絶しているな」
「あら、こんなところに化石がふたつも……サイホーン、掘ってしまいなさい。傷つけないようにね」
「こいつをサイホーンに乗せたいんだけど?」
「えー? そういえば、ピッピは如何します?」
「……そんなこと、言ってる場合じゃないだろ」
パープルと呼ばれた御嬢様はしぶしぶサイホーンから降り、レッドがサイホーンの背中に理科系の男を乗せる。
その事にサイホーンは不満げに嘶いたが、パープルが頭を撫でることで窘める。
……あのサイホーン、俺のポケモンよりも強いな。
さておき、レッドとサイホーンが先に進もうとした時、パープルが俺の方を見て、ひらひらと手を振ってみせた。
ああ、あれは、うん。気付かれてるな。
◆
「いいか? 食事というのは体作りの基礎の基礎の基礎だ。そこを疎かにしてはポケモンも強くはならない。よく食べて、よく寝る。ポケモンには必要十分な食事は絶対に確保する。これはポケモンの体質や体格にもよるがポケモンに必要な栄養素は、そうだな。お前のピカチュウなら……って、おい。ちゃんと話を聞いてるのか? おい?」
「……ひゃ、ひゃい! 聞いてます、聞いてます!」
オツキミ山の洞窟に入ってからずっと、こんな調子である。
ただ歩いているだけでグリーンの小言が耳に入ってくる。それはもうアユミことイエローにとって、念仏も同じであり、南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏、と延々とリピートされているようなものだった。そんな小難しい内容が、まだ八歳のイエローの頭に入ってくる訳がない。しかし、それでも少しでもピカチュウやサンドの為になれば、と言葉の節々、その面影だけでも頭の片隅に収めておこうと必死だった。
その為に、何度か頭の中がボンッとショートを起こすこともままあったが、面倒見の良い兄貴分は懇切丁寧に何度も教えてくれるので、触り程度を学ぶ分には辛うじてなんとかなった。
野生のポケモンが現れる時は、交互で戦うことにしている。
「自分の視点で物事を考えるな! 戦っているのはポケモンだぞ! ポケモンの視点で考えるんだ! 今、何が欲しいのか! どういう情報を欲していて、どんな指示を出してほしいのか! 常に考え続けろ、戦うのがポケモンなら考えるのがトレーナーだ! こんなのは基礎の基礎の基礎なんだよ!」
「ひ、ひえ~っ……」
「タイプ相性はちゃんと頭の中に入っているんだろうなあ!? 今晩にも、またテストするからな! 自分のポケモンがどんな技を使っているかくらい覚えていなくて、何がポケモントレーナーだ!!」
グリーンの鳴りやまない怒声にイエローは涙目だった。
最初、ピカチュウも不機嫌さを露にしていたが、グリーンが話を続けている内に興味をなくしていた。ポンポンと労うようにイエローの足を叩いた後、自分から勝手にモンスターボールに戻ったのである。つまりは、まあ、そういうことである。グリーンの言っていることは、実際に戦っているピカチュウからしても間違っていないという事だ。
だからこそイエローは頑張らなくてはならなかった、今はまだ自分はピカチュウの相棒にもなれていないのだと強く自覚したからだ。
「おい! 今のは、教えてやらないと反応できないだろうが!」
「は、はいっ!」
「お前の失敗一つで、自分のポケモンの傷を余分に増やすことになると知れ! 未熟だからって自分のポケモンが傷ついても良いのかよ!!」
ふえぇん、と泣きたい気持ちを抑え込み、グリーンと共に洞窟の更に先を目指して歩き続ける。
挫けなかったのは、足手まといだという理由でお姉さんに置いて行かれたくなかったからだ。
◆
ブルーは山頂を懸命に走っていた。
フシギダネはモンスターボールの中に収めて、ロコンと共にピジョンを追いかけていた。
しかし、陸と空。その機動力の差は致命的だ。
高台の上の方に向かうのを見た時、流石にブルーも諦めかけたが、その先にピョコンと現れたポケモンが居た。
愛くるしい見た目でナウなギャルを中心に人気爆発中のポケモン、ピッピだ。
ブルーは、咄嗟に叫んだ。助けて! と、野生のポケモンに訴えたところで意味はない。しかし、その必死な形相に伝わるものはあったのか。
ピッピは頭上を跳ぶ、ピジョンに向けて人差し指を翳して
「ピィッピ~♪」
数秒後、ピッピの身体は強いを輝きを放って────
──
「ギエピーッ!!」
とても愛らしい見た目から想像できないような野太い悲鳴が上がった。
その見事な自爆撃沈に空を飛んでいたピジョンも驚き、思わず、コイキングを脚から離してしまった。崩れた姿勢を整える為に、忙しなく翼を動かすピジョン。再びコイキングを捕まえに行く余裕はなかった。これに慌てたのはブルーであり、コイキングが地面に叩きつけられる前に「お願い、フシギダネ!」とボールからポケモンを出して、
地面に激突する瞬間、間一髪、
ほっと胸を撫でおろし、ビッチビッチと元気に跳ねるコイキングの姿に苦笑する。
「ああ、そうだ! ピッピの様子も見に行かないと!」
コイキングを助ける為に爆発四散したピッピを放っておくこともできず、慌てて高台の上まで登って行った。
数十分後、足腰をガクガクと言わせながら辿り着いた高台には、ピッピが居た。ピクシーが居た。ピィが居た。多くの可愛らしい桃色のポケモンが、ブルーに敵意を露にしており、彼のポケモン達の中心には黒焦げになったピッピの姿があった。
その場にいる全てのピッピ達が自分に向けて、人差し指を翳すのを見た。そして、ブルーは静かに正座する。
誠意とは言葉よりも金という言葉があるように、言葉が通じなくとも、実際に行動することで誠意を伝えることは可能である。
つまりはボディーランゲージ。ブルーは正座したまま、ゆっくりと頭を下げる。則ち、土下座。ジャパニーズ・グレイテスト・シャザイである。
後からブルーを追いかけて来たフシギダネ。そのツルにはコイキングが巻き付けられており、相も変わらずビチビチしていた。
◆
地上で起きた
天井にしがみついていたズバットが地震と錯覚して、一斉に飛び立って、その音に反応したイシツブテ達もが異常を察知して動き出す。その動きは、また別の場所にいたズバットを巻き込んで、更に各地に隠れ忍んでいたイシツブテをも刺激した。たったひとつの些細な出来事が、様々な偶然が噛み合って、大きな流れとなってしまった。
最早、誰にも止められない。自然に収まるのを待つしかない奔流に一般的なトレーナーは物陰に隠れて、身を震わせながらやり過ごす。
このスタンピードとも呼べる現象に、運悪く、逃げも隠れも出来なかった二人のトレーナーが居た。
それはマサラタウン出身のトレーナーであり、片やツンツン頭の少年、片や男装した少女。洞窟全体を揺るがす地響きに、ピカチュウがボールから飛び出して、二人に向けて逃げるように必死に訴えた。その意図をグリーンは察した、イエローは困惑している。グリーンは状況判断のできないイエローの手を掴むと全力で駆けだした。
背後から迫る大量のポケモン。二十や三十では足りない数のズバットとイシツブテが二人を襲った。
お気に入りと感想、評価をお願いします。
書く栄養にします。
・パープル&レッド:洞窟先発組
・グリーン&イエロー:洞窟後発組
・ブルー:登山組