転生したら、ロケット団の首領の娘でした。   作:とんぼがえり。

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2.賄賂

 御父様からポケモンのたまごを頂いた。

 イワヤマトンネルに足を運ぶも御父様の目に適うポケモンが居なかったらしく、それならと自らのポケモンにたまごを産ませたらしい。そこまでしてくれる御父様に感動して、私は御父様の事を目いっぱいに抱き締めた後に「ありがとう」って何度も感謝の言葉を伝えた。

 それから少しの月日が過ぎて、今は無事に孵ったサイホーンの育成に励んでいる。

 初めて手に入れたポケモンであるオニスズメはオニドリルに進化し、初めてモンスターボールで捕まえたビードルはスピアーに進化して、今は新しく覚えた技の訓練に励んでいる。

 そういえば、御父様はトキワジムのジムリーダーもやっているけども、じめんタイプ以外のポケモンの育成はした事ないのだろうか。

 夕食を摂っている時に話を聞くと、他タイプのポケモンも育成していたようだ。

 

「ペルシアンは何時も見ているな? ジムリーダーとしての肩書がない時は、他にガルーラがメインパーティに入る」

 

 二匹は御父様がまだ全国を旅して回っていた時からの相棒であり、じめんタイプが苦手とするポケモンが出てきた時の隠し玉でもあるらしい。

 

「まあ大抵はニドクインとニドキングで事足りるがな」

 

 そう言って、コンソメスープを音も立てずに啜る御父様は最高に様になっていた。

 

「……私も旅に出てみたいです」

 

 現状、私は犯罪組織の首領である御父様の娘という身分もあり、屋敷の外に出されない箱入り娘。ジムリーダーという身分もあって、隠し子に近い状態にある私の存在は御父様にとって都合の良いものではない。

 なので今の境遇は理解している。

 理解しているけど、このままずっと屋敷の外に出れないというのも嫌だった。

 そんな感じで、ポロリと零してしまった言葉に、そうだな、と御父様は眉間に皺を寄せながら答える。

 

「私のペルシアンに勝つ事が出来れば、旅に出ることも許してやる」

「ほ、本当ですか!?」

 

 想定していなかった言葉に、思わず食いついてしまった。

 食事中にはしたない、と思って、直ぐ席に座り直したけども後の祭りだ。

 御父様に恥ずかしい姿を見せてしまった。

 

「他にも幾つか条件は付ける。しかし、その前にまずペルシアン一匹に勝つ事もできないようでは外に出す訳にはいかないな」

 

 スピアーとオニドリル、サイホーン。この三匹を使って、勝ってみせろ。と挑発的な笑みを浮かべた。

 やってみせます! と私は威勢よく答えて、その日の食事は早めに切り上げて、今日の護衛役であるラムダを庭まで連れ出す。

 さあ、今日も張り切ってポケモンバトルの練習をしますわよ!

 

「ええ、今からですかい? もう夜ですぜ?」

 

 今からですわ! オーッホッホッホッホッ!!

 

 

 サカキ様の御息女であるパープル様は美しい金色の髪をしている。

 言っては悪いが、サカキ様とは似ても似つかぬ顔立ちであり、母親似なんだろうな。と思うことにした。

 とはいえ目付きの鋭さは父親譲りだ。

 黒色を基調にしたドレスを好んで着る事が多いせいか、悪党の娘として板に付いて来たように思える。

 

 実際、ポケモンバトルの腕前は下手な大人よりも強かった。

 その辺のポケモントレーナーが相手なら手も足も出ないんじゃないかなって思う程度には強い。まだ幼くて伸びしろのあるお嬢ちゃんは竹の子のように日に日に成長する。サカキ様、直々に鍛えられた俺であっても相手をするのがしんどくなってきた。今はまだポケモンの力量差でなんとか勝ちを拾えているが、お嬢ちゃんのポケモンも順調に鍛えられているし、十歳になる頃には抜かされているんじゃねえかなって思ったりする。

 ポケモンバトルの腕前にも遺伝ってのがあるんかね? 流石、サカキ様の娘だって思い知らされる。

 

 お嬢ちゃんの相手は疲れるが、悪い事ばかりではない。

 俺のポケモンバトルの腕前は勿論、ポケモン達も順調に鍛え上げられていた。ズバットはゴルバットに進化し、ドガースとラッタも順調に成長をしている。最近ではお嬢ちゃんのスピアーとオニドリルに対抗する為に、ジョウト地方で捕まえてきたヤミカラスもパーティーに加えるようになった。まだ幼い頃、ジムチャレンジを志半ばで挫折した身の上だが、今、新たに挑戦し直すと普通に突破できるんじゃないかな。

 もう良い歳したおっさんで、今更、ジム巡りをする気力も時間もないが、そう思えるくらいには成長した。

 

 前は子供の世話なんて嫌だった。

 お嬢ちゃんの前では煙草を吸うな、世話する前には酒を飲むな。みたいに言われるのが煩わしかった。子供の世話そのものが面倒だってこともあるし、なにより俺のような強面が子供に好かれるはずもないって思っていた。

 だから最初は、どうすれば怖がらせないようにできるか悩んだ。

 悩んで、悩み抜いた末に辿り着いた結論が、笑顔を作る事であった。鏡の前で笑顔の練習をしている事をアポロとランスにバレた時、盛大に笑われたことは今でも根に持っている。そうやって言い争いをしている時、お嬢ちゃんを抱えたアテナが部屋に入って来て、不安げで今にも泣き出してしまいそうなお嬢ちゃんの姿を見て、俺が怒鳴り散らしていたせいだと思って必死に笑顔を作ってあやした。

 すると、お嬢ちゃんは俺の顔を見て、笑ってくれた。

 

 それからは、顔の事で悩んでいるのが馬鹿らしくなった。

 自然と煙草の量も減り、酒を飲む機会も減った。そうすると苛々する機会も少なくなった。

 へまをした部下を怒鳴り散らすことも少なくなった。

 

 最近は、アポロの趣味に合わせて、紅茶を啜り、菓子を齧ることが増えている。

 そんなに砂糖とミルクを入れないでください、風味が損なわれます。というアポロの指摘も無視して、ガッツリと甘くする。

 俺には上品な味なんて分からねえ。美味しく飲めれば、それで良いんだ。

 

「あーっ! 私に内緒でお菓子食べてる!」

 

 休憩室代わりの客間、サカキ様のペルシアンの背中に跨ったお嬢ちゃんが部屋に入ってきた。

 

「見つかってしまいましたか」

 

 その言葉とは裏腹にアポロは優しく笑みを浮かべる。俺はお嬢ちゃんを手招きし、「サカキ様には内緒ですぜ」と数枚のクッキーを彼女の小さな手に乗せた。

 

「賄賂だっ!」

「何処で覚えたのですか、そんな言葉……」

「悪い! ワルカッコいい!」

 

 アポロは苦笑し、新しく紅茶を淹れる。

 

「では、これで私の事も黙っていてくださいね」

 

 唇に人差し指を立てるアポロの仕草が、やけに様になってやるのが癪に障るが「うん!」とお嬢ちゃんは嬉しそうに頷いた。

 受け取ったクッキーの内一枚をペルシアンに食べさせる。アポロの真似をするように口元で人差し指を立てながら、しぃっと音を立てる。ペルシアンはクッキーを飲み込んだ後、不服そうにニャアッと鳴いてみせた。

 この辺りが、できるポケモントレーナーの証なんだろうな。と少し昔の事を思い出す。

 




スタートダッシュボーナス
原作開始時点までは早め早めに投稿するかも知れない

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