転生したら、ロケット団の首領の娘でした。 作:とんぼがえり。
書く栄養にしています。
また誤字報告、大変助かっています。
ロケット団の四幹部には、それぞれ大まかな役割が定められている。
アポロは組織の最高幹部としての地位にある。組織内の細かな調整を行ったり、首領のサカキが動けない時に代わりに指揮を執るのが彼の役割だ。
アテナは諜報班の統括を行っており、時に自分自身でも情報を取りに向かうこともある行動派。ランスは集めた情報の分析を担当しており、資金繰りの企画は彼が担当していることが多い。
ラムダは実働部隊の統括であり、武力の行使が必要とされる場合。彼が実働部隊の指揮を執る。
例えば、密猟なんかも彼が率いる実働部隊の領分だ。
オツキミ山での活動が決まった時、麓の拠点を作ったのはラムダの指示によるものであり、部隊を班に分けて、それぞれに役割を与えて全うさせるのもラムダの手腕によるものだ。ロケット団において、現場指揮という点に限っていえば、サカキ様を除いて彼の右に出る者はいない。
そんなラムダだからこそ、ピッピの群を見つけた。という報告を聞いた時、一目散に駆けつけた。
きっかけは
大きな衝撃音に驚いたロケット団の下っ端は、音する方へと望遠鏡で覗き見た。すると黒焦げになったピッピを中心に、ピッピの進化系が大量に姿を現していたのだ。ラムダは自らの部下に追跡を指示。そして、自分が現場に到着するまで手を出す事を禁じた。
入念な打ち合わせと準備を終えた後、彼らは慎重に事を起こす。
正面からの衝突と見せかけての包囲殲滅。
正面戦力は押され気味で攻めあぐねている様子を演出して貰って、左右から精鋭達を押し上げる。そして、背後は自分、ラムダが抑えれば、此処にいるピッピの九割は捕まえる事ができるはずだった。しかし、そこに居たのは見知らぬトレーナー。弱っちいポケモンを連れているが、人がいる。それだけで厄介だった。
何をしてくるのか分からない。だったら、考える余裕をなくしてやれば良い。
そう考えて、手持ち三匹のポケモンで彼女を襲った。
もう一匹、ヤミカラスは居るが、ソイツまで使ってしまうと万が一の時に逃げる手段がなくなる。
そして、それは結果的に正解だった。
目の前にいる女は、よく粘るが苦戦するほどではない。
波状攻撃を繰り返してやれば、いずれ、倒し切る事もできる。
警戒すべきは、破れかぶれになった時の一撃だ。
追い詰められてもう後がなくなった奴ってのは、何時だって危険に満ち満ちている。
そして、ラムダの判断は結果的に正解だった。
ピッピ達の戦列を正面で受け止めていたラムダの部下達が、衝撃音と共に空を舞ったのだ。
「あらま、思ってたよりも飛んだね〜?」
部下達に
少し遅れて姿を現したのは、ドードリオに跨る女性。鍔付きのベレー帽にパーカーという野暮ったい姿をした女が陽気な笑みを浮かべる。
……奴が、どうして此処に?
カントー地方では、二番目に知名度の高いポケモントレーナーの出現に、ラムダはヤミカラスの入ったモンスターボールに手を伸ばす。
◆
マサラタウン出身には気を付けろ。
これは今から八年前、ワタルが初めてポケモンリーグを制覇した年に掲示板で書き込まれた言葉だ。
その年のポケモンリーグは、ワタルの連戦連勝。圧倒的な強さを見せつける快進撃。中でも特筆すべきは、今もなお彼のエースとして知られるカイリューだ。予選を突破するまで、公式戦では、たった一度の敗北も経験した事がないポケモンとして知られていた。
舞台は決勝リーグ。最強と呼ばれた彼のカイリューに初めて、土を付けたのはマサラタウン出身のトレーナーだった。
当時、彼女はポケモントレーナーとして、四年目だった。
カントー地方にあるポケモンジムを制覇したのも四年かけての事であり、それなりに有望なポケモントレーナーではあったが、ワタルの登場やカンナを始めとした同世代のポケモントレーナーの台頭により、影の薄い存在ではあった。
しかし、その者と対戦した事のあるトレーナーは、不思議と彼女とのバトルが脳裏に残る。
全国にいるポケモンファンが彼女を認知したのは、ポケモンリーグ。決勝の舞台。
彼女にとっては挑戦四年目にして、初めて予選を突破した末の決勝リーグ。その第一回戦で当たった相手がワタルであった。
そして彼女は、エースであるカイリューを見事に打ち倒した。それもカイリュー相手にポケモン一匹での勝利である。
その後、彼女の戦績は決勝リーグで全敗だった。
以後、ワタルのカイリューが公式戦で倒れた事は何度かある。だがワタルがポケモンリーグにデビューしてからの三年間、ワタルのカイリューを倒し、挙句に勝ち星を奪った事があるポケモントレーナーは彼女だけだった。ポケモン界のダークホース。歴史の転換点において、マサラタウン出身のトレーナーが決勝リーグで優勝争いをしている割合が多い事から皆が口を揃えて告げる。
マサラタウン出身には気を付けろ。
そんな彼女の名前は、ツボミ。現在二十二歳。
今はポケモントレーナー歴十二年にもなる存在であり、一昔前までは、アマチュア最強のポケモントレーナーとして知られていた。
ジムリーダーと四天王が跳梁跋扈する決勝リーグで、彼女だけが異質の存在であった。
◆
ツボミは、何処か一ヶ所に留まることが苦手だった。
何度かジムリーダーの打診を受けるも断り続けており、カントー地方、ジョウト地方を中心に全国各地を往来する。
肩書に縛られず、足の向く方へと自由気ままに旅をする彼女の生き方を羨ましく思うジムリーダーや四天王、チャンピオンは数知れず、年に数度、ワタルを呼び出してポケモンバトルに興じる事もしばしばある。彼女は決して目覚ましい戦績を残している訳じゃない。予選を突破できるだけの実力を持っているが、ジムリーダー以上を相手にする時の戦績は五割を割っている。大体、四割程度であり、四天王が相手になると三割程度、しかし、ジムリーダーや四天王でも勝つことができないワタル相手でも一割以上の勝率をキープしていた。
カントー地方のダークホース。現状、ワタルを唯一、追い詰める存在であり、カントー地方では二番目に有名なポケモントレーナーとして知られている。
そんな彼女がオツキミ山に足を運んだのは、多くの偶然が積み重なった結果であった。
先ず、彼女の目的はオツキミ山にはない。数日前、ワタルからの頼みを聞いて、ハナダシティの郊外まで向かっている最中である。その頼みというのが、今、カントー地方の全土で起きているポケモン預かりシステムの不調を起因とするものであり、そのシステム管理者であるマサキとも連絡が付かないので様子を見に行って欲しいというものであった。
先ず最初に、彼女は長時間、長く飛べるポケモンを持っていない。
移動手段はドードリオ。その道中でオツキミ山の麓にあるポケモンセンターでロケット団の噂を聞き、このオツキミ山に棲息するピッピ達の事を知っていたツボミは様子見がてらに旧道を目指す。半ば、散歩気分。彼女がカントー地方を旅立った当初はまだ、オツキミ山のトンネルは貫通していなかったので懐かしさもあった。
彼女は知っていた。満月の夜、ピッピ達の宴が行われる事を。その場所も、数年前、偶然に参加させて貰った過去がある。
これは多くの偶然が呼んだ奇跡だ。
どれかひとつが欠けていても、彼女は今、この場所に立つことができなかった。
彼女は、ロケット団の正面戦力を蹴散らすと、ピッピ達の戦列に割って入る。
ピッピ達の半分以上がツボミの存在を知らない。
しかし、ピクシーは知っていた。
かつて、満月の夜を共に過ごした同胞の存在を覚えていた。
ピクシーは案内する。自分達の為に今、戦ってくれている新しい同胞の元へと。
それを見て、ツボミは状況を把握し、ブルーの肩を優しく叩いた。
「よく頑張ったね」
困惑するブルーを余所に、ツボミは前に出る。
今から十年以上も前の事だ。当時、彼女が相棒にしていたオスのニドラン。
モンスターボールから現した姿は、ニドキングのものになっていた。
次回はブルー視点。
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・パープル&レッド&グリーン&イエロー:洞窟組
・ブルー&ツボミ:登山組