転生したら、ロケット団の首領の娘でした。   作:とんぼがえり。

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7.ツボミ

 まだ幼い頃、ブルーはテレビに齧り付いていた。

 ロコンを胸に抱えながら、二人で画面に映るバトルを眺める。そこに映っていたのはマサラタウン出身のポケモントレーナー、今年で何度目かになる決勝リーグへの進出であり、この時はキクコ相手に戦っていた。影に忍び、影から影に乗り移ることができるポケモンにマサラタウンのトレーナーは苦戦を強いられる。()()()()()()()()()()()のコンボに、手持ちのポケモンを次々と戦闘不能に追いやられた。

 しかし勝負を制したのは、彼女だった。彼女の相棒のニドリーノが()()()()()()で周囲を照らすことで、ゲンガーの行動範囲を極端に制限し、影から姿を現したゲンガーに特攻を仕掛ける。ゲンガーは真っ向から()()()()()()()で迎撃をしようとした。ニドリーノは()()()()()のパワーで()()()()()()()を吹き飛ばし、代わりに()()()()()を撃ち返す。威力は高くない、だが、これは牽制で本命ではなかった。本命は()()()()()()()。ニドリーノはぐるんと縦に回転してから、浴びせるように硬質化させた尻尾を相手の脳天を叩きつける。

 その一撃は、全国最高峰のゲンガーを倒し切った。

 

「今年何度目かの大・金・星! マサラタウンのツボミ、四天王の一角を打ち破りました!!」

 

 会場を揺るがす大声援に、ツボミと呼ばれるポケモントレーナーは嬉しそうに手を振って応える。

 同郷という事もある。でも、ブルーは圧倒的な強さを持つチャンピオンや四天王よりも、何処のジムにも所属していないようなアマチュアのポケモントレーナーに憧れた。それは幼馴染にレッドとグリーンが居た影響もあるのかも知れない。

 ロコンと共に、ツボミが放つキラキラを目に焼き付ける。

 圧倒的に強くなくとも、絶対的な力がなくとも、最後まで勝利を信じて邁進するツボミに憧れたのだ。

 

 

 ロケット団の男を相手に、ブルーは健闘した。

 力量差は歴然としていたが、隙あらば、()()()()()()とするピッピを諫めながら懸命に抗った。初めての三対三という対戦の中で、脳をフル回転させながら少しでも状況を把握し、好転させようと努めた。

 しかしロケット団の男は、今のブルーでは手に余る相手であった。

 

「ソォウ……!」

 

 戦闘の最中、フシギダネがフシギソウに進化する一幕があるも相手ポケモンとの力量差は覆せない。

 盤面全てを掌握できず、指示も出せずにロコンとフシギソウ、ピッピは少しずつ削られていった。この特殊ルール、ルールと言っても良いのか分からない戦闘に相手は慣れている。ラッタが先頭を請け負って、ゴルバットが追撃。ドガースの後詰というジェットストリームな連携に翻弄される。三ツ星の一級品、もしくは三連星の猛攻にブルーは手も足も出なかった。

 フシギソウが倒れて、ロコンも力尽きる。最後まで争うピッピもまた限界が近かった。まだコイキングが残っている。……この子に陸地で戦わせるとか、正気ですか?

 ブルーには、もう、何も手が残されていなかった。

 

 でも、まだ……!

 フシギソウが再び立ち上がろうとしている。ピッピもまだ勝負を捨てていない。

 なら、私が諦める訳にはいかなかった。

 

 ──どんな状況でも私のポケモン達が諦めない限りは絶対に諦めない。

 

 それは、私の好きなポケモントレーナーの言葉だ。

 探せ、勝機を。もう一度、盤面を見直せ。自分のやれる事をやるんだ。

 私では実力不足かも知れない。

 だけど、そんな私でもやれることは残っているはずだ!

 

「……チッ、まだ諦めやがらねえのか」

 

 ブルーが放つ目の輝き、絶望的な状況においても執拗に勝機を探る。

 こういう目をする奴をロケット団の男、ラムダは知っていた。何かとんでもない事をしでかす奴がする目の色をしていた。だから、ラムダは警戒する。彼のロケット団の実働部隊として働いてきた経験が、慎重に事を運べと警鐘を鳴らした。

 彼は強面だ、パープルにも悪党面と言われて傷心した事もある。しかし、そんな怖い顔とは裏腹に、彼は慎重だった。狡猾だった。そんな彼だからこそ無理攻めはせず、不確定要素を徹底的に潰し、時間を掛けてでも確実な勝利を拾いに行った。

 だから、これは彼の判断が悪かった訳ではない。全ては結果論なのだ。

 

 ラムダは何も間違えてはいなかった。

 こんな山奥に援軍が来る可能性は低い、それも込みでの判断だ。

 彼に云えるのは、ただ一言────

 

「よく頑張ったね」

 

 ──持っていなかった、それだけだ。

 

 この場に登場する新たな乱入者。頭には鍔付きのベレー帽、袖に通すのはパーカー。その野暮ったい衣服を着こなす彼女の姿は、カントー地方に住む者ならほぼ全ての人間が知っている。

 

「なんで、てめぇが此処に居るんだよ……ッ?」

 

 ロケット団の男、ラムダは憎々しげに女を見た。

 女はブルーの前に歩み出ると「頼んだよ」とモンスターボールを放り投げる。眩い光と共に姿を現したのはニドキング、ブルーが初めてテレビで見た時はまだニドリーノの姿だった。しかし、その時に繰り広げたキクコのゲンガーとのバトルは、今でも鮮明に脳裏に焼き付いている。バトルフィールドは森、明らかに格上のゲンガーに対して、真正面から打ち勝ってしまった大金星。

 今もポケモンリーグで活躍する彼女は、人差し指で帽子の鍔を上げると、不敵な笑みで相手を見下した。

 

「気紛れかなっ!」

 

 大胆不敵に堂々と声を張り上げる彼女の姿に、ブルーは感動と困惑に身震いする。

 その姿は何度もテレビで見てきたものと寸分違わないものだった。ポケモン公式戦で、何度も見てきたから間違いない。同じマサラタウンの出身であり、アマチュア最強と呼ばれるポケモントレーナー。彼女の相棒であるニドキングは、全国でも最強と名高いワタルのカイリューを相手に何度も打ち勝ってきた強者だ。

 彼女は、頭上高くに人差し指と親指を立てて、ニドキングにサインを送る。

 

()()()!」

 

 ニドキングが大きく足を上げた後、ズン、と地面を踏み締める。

 それが振動となって、地面が局地的に激しく揺れた。遠くではポッポの群れが逃げるように飛び去っていった。ラッタは地面からの強い衝撃を受けたようで一発で足腰が立たなくなっている。ゴルバットとドガースには、空を飛んでいたので効果がない。

 ニドキングは踏み込んだ足を軸に、ゆっくりと前傾姿勢を取る。

 

「……か〜ら〜の〜()()()()()()()!!」

 

 ドン、と地面を砕いた急加速。ニドキングは勢いのまま、ゴルバットを撥ね飛ばし、ドガースと正対した。

 

「とどめに得意の()()()()よっ!!」

 

 ニドキングは大きな図体とは裏腹に軽い身のこなしでドガースを右足で回し蹴り、その勢いを殺さずに左足で後ろ回し蹴りをお見舞いする。

 たった十秒程度の攻防、たった三度の攻撃でロケット団のポケモン達を瀕死まで追い込んだ。正に圧倒的な戦いぶりである。

 

「チッ、分が悪過ぎるな……」

 

 男は十分に時間を稼いだ、と言わんばかりに瀕死寸前のドガースにサインを送る。ドガースは全身の穴から黒い煙を吹き出した。

 

「……()()()()!?」

「いや、これは()()()()のようね」

 

 ツボミはニドキングに()()()()()()()を指示して煙を吹き飛ばす。

 その先には、もう誰も居らず、この窪みを包囲していたロケット団の姿も消えてしまっていた。




次回、オツキミ山編も終わりになります。

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▼ツボミ
ニドキング♂:Lv.57:豊富な技(通常、マシン技は覚えても使いこなすまでに時間がかかる上に、レベル技よりも威力が落ちる)

▼ラムダ
ゴルバット♂:Lv.27
ドガース♂:Lv.28
ラッタ♂:Lv.26

・パープル&レッド&グリーン&イエロー:洞窟組
・ブルー&ツボミ:登山組
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