転生したら、ロケット団の首領の娘でした。   作:とんぼがえり。

3 / 22
高評価、感想、お気に入り等、ありがとうございます


3.衣替え

 私、アテナは今、タマムシデパートに居る。

 民衆に紛れる為、何時も着ているロケット団の制服を脱ぎ捨て、簡単な変装を施した私服にての参上だ。

 今日、このタマムシデパートまでやって来た事には理由がある。

 それはサカキ様直々の命令であった。

 

「娘に似合う服を見繕って欲しい」

 

 仮にも四幹部の一人である私を屋敷まで呼び出して、神妙な顔から呟かれた言葉がこれだった。

 

「最近、気になる事があってな。娘は黒いドレス衣装を着てばかり……もっと可愛らしい服を着ても良いと思うのだが、パープルは頑なに黒いドレス以外に着ようとはしない……私が衣服を買ってやっても喜びはするが、一度、袖に通すだけで翌日には黒のドレスに戻っている」

 

 はあっ、と大きく溜息を零すサカキ様に、知らんがな。と思わず口に出しかけたが、辛うじて飲み込んだ。

 

「もしかすると私のセンスが古いのかも知れぬ。とはいえ最近の女の子が好みそうな衣服というものが私には分からぬ……そこでアテナ、貴様には娘が気にいる衣服を見繕ってやって欲しいんだ」

「……子煩悩の馬鹿親ですか?」

「あれくらいの年頃だともっと可愛らしい衣服を着ても……ん? 今、何か言ったか?」

 

 おっといけない、つい口が滑ってしまった。

 

「いえ、なんでもありません。意に添えるかどうかは分かりませんが、出来る限りの手を尽くす事を約束します」

 

 頼む。と何時もの任務を伝えられる時よりも切実な声色で告げられて、少し複雑な気持ちになりつつも敬礼を取る。

 サカキ様とて人の子、人間誰しも子供への愛情は捨てられないのかも知れない。

 

 そんな訳でタマムシデパートまで訪れたのだが、私だって子持ちじゃない。

 ズラリと並んだ子供用衣服の前に頭を悩ませる。脳裏に思い浮かべるは御嬢様の満点笑顔、とても可愛い。滅茶苦茶、愛くるしい。目元は父親似で少し鋭いけど、容姿が整っており、まるで御人形のように可愛らしかった。背中を隠すくらいに伸ばした金色の髪なんか幾ら弄っても飽きない程である。満面の笑顔は悶える程に可愛らしい癖に、書籍を読んでいる時の御嬢様は気品に満ちていて美しい。ポケモンバトルの最中、時折、見せる父親譲りの鋭い目付きは格好良さまで兼ね備えている。なんだ、この娘は。お持ち帰りしたい。ロケット団は犯罪組織なので誘拐しても良いんじゃないかなって思う。

 可愛さと格好よさ、それに加えて美しさを兼ね備えた御嬢様。センスの良い服であれば、なんでも着こなしてしまう気がする。パーカーにショートパンツとかラフな格好をさせてみたい、絶対に似合う。サングラスにキャップ帽を付けて、チュッパキャップスを舐めさせてみろ、可愛過ぎて人を殺せるぞ! ポケモンの着ぐるみパジャマとかありやがる! やめろよ! 私をこれ以上、追い詰めるなよ!

 くそっ、似合わない服を探す方が困難だ!

 

「アテナ? こんなところで何をしているんです?」

 

 私が想像するだけで、可愛さに殺され続ける苦行を強いられていると後ろから聴き慣れた声を掛けられる。

 振り返れば、そこには私服で変装したランスが居た。

 

「……御嬢様の服を探しているところよ」

「なにか記念日とかありましたっけ?」

「サカキ様、直々の命令なのよ……」

 

 ああ、とランスは目を細めて虚空を眺める。

 

「それで、御嬢様に似合う服でも探しているところですか?」

「バカを言うな! 御嬢様に似合わない服などあるものか! ……似合う服が多過ぎて、苦しみ悶えているところよ!」

「……まあ、否定はしませんけど」

「御嬢様に似合う服なら私だけが苦しめば良い! しかし、御嬢様が気にいる服を探せとのお達しなのよ!」

 

 くうっ、と涙を飲んで下唇を噛み締める。

 世の中には御嬢様に似合う服は、これほどあるというのに御嬢様が一度に着れる衣装は一着だけなのだ。

 私は、これほど世の理を恨んだことはない。

 

「お気に入りの衣服だったら黒を基調にしたものであれば、なんでも気にいると思いますよ?」

「サカキ様はもっと可愛らしい衣服を所望しているのよ!」

「あ〜、だったら難しいですね」

 

 だって、とランスが付け加える。

 

「あれって、サカキ様の普段から着てる黒スーツの真似なんですよ」

 

 その言葉を聞いた私は、黒を基調とした様々な衣服を買い込んだ。

 後日、そのことでサカキ様に呼び出されたが、ランスに聞いた言葉をそのまま返せば、サカキ様は唸って黙り込んでしまった。お咎めなしで部屋を退室する。

 それと関係あるかどうかは知らないが、次のボーナス査定で少しだけ待遇がよくなっていた。

 

 

 なんかいっぱい衣服が増えた!

 黒ばっかりで嬉しい、御父様とお揃い!

 ペルシアンの着ぐるみパジャマも可愛かった!

 肌触りがよくて、お気に入りだ!

 

 御父様のペルシアンにもパジャマ姿を見せてあげたら、ニャアと鳴いてくれた!

 ちょっと面倒臭そうだったけど!

 

 

「……ガ…………ハ……ァッ!」

 

 夜、バスルームから出てきた御嬢様の愛くるしさに心臓発作を起こす。

 これは比喩表現に違いないが、しかし、それだけの衝撃があった。左胸を握り締める、その姿を目に焼き付けんと顔を上げる。そこには天使が居た、いや、天使ではなくてペルシアン。……でもなくて、ペルシアンの着ぐるみパジャマを着た御嬢様の可愛らしい姿があった。懐から端末を取り出す。その姿を写真として収める為に震える手でシャッターを押す。パシャリという音を聞き届けて、全力前のめりで倒れ込んだ。

 ふっ、と途切れる意識、最後に見たのは端末画面に残る御嬢様の姿。このアポロに一点の悔いなし。

 

「大丈夫〜?」

 

 ぺしぺしとアポロの頭を叩く姿を、アテナが撮影していたのはまた別の話。

 後にペルシアンに跨った着ぐるみ御嬢様にロケット団の首領であるサカキが餌食となり、事のついでにとアテナとラムダも堕とされてしまった。ランスはツッコミを諦めて、屋敷は一時期的に御嬢様の手に落ちることになる。

 当時、まだ6歳。僅か数分の出来事とはいえ、彼女はロケット団を手中に収めてしまったのだ。




あと二話くらいは、こんな調子。
お気に入りと感想、評価をお願いします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。