転生したら、ロケット団の首領の娘でした。 作:とんぼがえり。
おかげで赤バーになりましたし、ルーキーランキングでは7位という快挙を成し遂げられました。
ありがとうございます。
日中、御屋敷の庭ではポケモンバトルの習熟に励んでいる。
相手になってくれるのは、その日、護衛に付いてくれている四幹部。主にランスとラムダが私の指導をしてくれる。
ポケモントレーナーとしての腕を磨く、その為に多くのバトルを熟した。
このポケモン世界、必ずしもゲームと一緒という訳ではない。
中でもゲームと違うのは、人それぞれには特定タイプとの相性の良し悪しがあるという点だ。
相性の悪いポケモンは、なかなかいう事を聞いてくれなかったり、反抗的で育てるのには多大な労力が強いられる。
またポケモン同士の相性もあって、ポケモントレーナーは出来るだけ、パーティーのタイプを統一しようとする傾向にあった。実際、下手に他のタイプのポケモンを入れるよりも、タイプを統一してしまった方が強くなる場合が多く、他のタイプのポケモンを入れるにしても比較的、自分と相性の良いタイプのポケモンを一匹か二匹、パーティーに組み入れる程度に留めておくことが定石になっている。
その為、この世界ではゲームのように効率だけを求めて、好き勝手にポケモンを編成できる訳ではなかった。
私が、私見で相性が良いと感じているのは、じめん、ノーマル、どくの三タイプだ。
最も相性が良いタイプがじめんタイプ、次にノーマルタイプ。どくタイプと相性が良いのは後天的なもので、そういったポケモンに囲まれて育ってきたことが大きく影響していると思っている。地元のポケモンとはタイプの相性が悪くても仲良くなれる傾向にあるようで、明確な区分はないのかも知れない。あくまでも傾向の話、それが全てではないという事である。
根気よく接すれば、仲良くなれるポケモンもいる。御父様のペルシアンだって最初は素っ気なかったけど今じゃ仲良しだ!
そんな私の手持ちはオニドリルにスピアー、そしてたまごから孵ったサイホーンだ。
四幹部とのバトル中、余裕のある時は口を開かず、ハンドシグナルで指示を飛ばす。
ターン制のRPGだと攻撃する順番が決まっているけど、リアルな戦闘にそんなものはない。最近、捕まえたというランスのヤドンに向けて、立ち合いからの
唖然とするランスに、ふんす、と鼻息荒くして、どやっと腕を組んでみせた。
今はもう十歳、同じ力量のポケモン同士なら負けないね!
◆
御嬢様が強くて手が付けられません。
そう言って項垂れるランスの姿に、他の四幹部の面々も顔を逸らす。
ロケット団の首領であるサカキも渋い顔を浮かべている。
今から五年前の事だ。
サカキは、自分のペルシアンに勝つ事が出来れば、旅に出る許可を出すという約束を出した。それは娘に負けないという絶対の自信から出た言葉、同時に娘のポケモンバトルに対する意欲を高める効果を狙ってのものだった。五年前の時点で、既に頭角を現していた。流石、私の娘だと褒め称えもした。頭を撫でるとふにゃりと笑う姿は愛くるしかった。
しかし、サカキは最初から旅に出すつもりはなかった。外に出たいのであれば、適当な護衛を付ければ良い。
これはサカキの壮大な計画だった。常に二手、三手先を読む狡猾な謀略でもあった。
十歳になって挑んできた娘を一蹴し、実力不足を痛感させた上で「強くなったな」と頭を撫でながら「旅は許可できないが、外出する許可くらいはやろう」と言ってやるつもりだったのだ。この頭を撫でる、という行程が重要だった。十歳ともなれば反抗期も近い頃合い、娘の多感な時期に頭を撫でる事なんてできなくなるかも知れない。だから、自然な流れで頭を撫でられる布石を打った。サカキは五年前の時点で、今の状況を想定して動いていたのだ!
しかしサカキは二手、三手先を読んで行動していたが、一手先を読むことはできなかった。
娘が予想以上に強くなり過ぎた。
サカキに使うことが許されているポケモンはペルシアン一匹、高が一匹。されど一匹。
最強のジムリーダー、その称号を持つサカキを脅かす程の実力を、まだ十歳の娘が身に付けて来ようとは誰が想像できるのか!
数日後に迫る娘とのポケモンバトル。その作戦会議が急遽、開かれることになったのには、以上の事情があった。
「御嬢様のパーティーはこおりタイプに弱い! つまり、ペルシアンにこごえるかぜを覚えさせるのが良いかとランスは愚考致します!」
「いや、今から新しい技を覚えさせても使いこなすまでに時間がかかる。却下だ」
「先ずは御嬢様の戦法、その傾向を分析するところから始めた方が良いのでは?」
そして割と本気で対策を取っている辺り、大人げのない集団であった。
いや、ロケット団は悪の組織だ。
実の娘に対しても容赦をしない、この姿こそが正しいのかも知れない。
◆
年を重ねて身体も大きくなり、ペルシアンに跨る事もできなくなった。
その事に若干の寂しさを覚えつつも、これが大人になる事なんだと思って悲しみを飲み込んだ。
今も一緒に居る事が多いしね。なんなら御父様よりもペルシアンと一緒に居る時間の方が長い。御父様と四幹部で定期的な報告会が開かれていることを知ってからは、その時間帯を利用して屋敷の外に出て行ったりもする。勿論、護衛付きだ。御父様のペルシアンが私の近辺を守ってくれるので下手な護衛よりも余程頼りになる。
ちょっと開けた場所に出た後、ペルシアンにバトルの練習相手をして貰ったりもしている。
流石は御父様のポケモン!
四幹部のポケモンよりも動きが機敏だし、強い上にとっても優しい! まるで指導するようなバトルは、とっても勉強になる。出会い頭の攻防に、ちょっとした隙を突いたり、生み出したりする技術。その全てが糧になる。ペルシアンと私との付き合いは長い。まだ言葉も喋れない時から私の事を見守り続けてくれたのがペルシアン、幾分か大きくなってもペルシアンは何時も私の傍に居てくれている。姿が見えなくても、何かが起きた時に直ぐ駆け付けられるような場所に居る。
そんなペルシアンに私は勝たなくてはならない。どうやったら勝てるかなって事情も込みで当人、もとい当ポケモンに相談してみるとペルシアンは屋敷の抜け道を教えてくれて、こうやってバトルの練習に付き合ってくれるようになった。優しくて格好良くてモフモフで惚れちゃいそうだ、あまりのイケメンっぷりに好みのタイプに御父様のペルシアンって書いちゃいそうなくらいに大好きだ!
十歳になってもペルシアンの事はギュウッて抱き締める。ついでに背中とか撫でる。
ふかふかでふわふわ、それでいてもふもふ。気持ちいい、好き。
そんな感じでバトルをしていると「どけっ!」と横から少年が割り込んできた。
ここはセキエイ高原に続く道、22番道路。
ツンツン頭の少年が、御父様のペルシアンに向けて、モンスターボールを構える。
「へへっ! この辺りじゃあ珍しいポケモンだな!」
そう言って、彼が繰り出したのはゼニガメだった。
初めて見るポケモンだけど、そこまで強くは感じられない。
実際、ペルシアンは退屈そうに欠伸をしている。
しかし彼には自信があるようで「そうやって余裕を噛ましてやれるのも今の内だぜ!」と強気の攻勢に出た。
繰り出した技は
ペルシアンは撫でるように
「ゼ、ゼニ~!」
ゼニガメは情けない鳴き声と共に、仰向けになったまま手足をじたばたと動かした。
そんな相棒の姿にツンツン頭の少年は舌打ちを零し、新たにポケモンを繰り出そうとする。
しかし、それよりも早くにペルシアンは、トンと跳躍して私の隣に着地した。
「……なんだよ、それ。お前のポケモンだったのかよ」
私とペルシアンの親しい様子に、少年はボールを腰に戻す。
「私じゃなくて御父様のポケモンですわ。でもまあ、野生ではない事は確かね」
「お前もポケモントレーナーか?」
「いいえ、まだ。でもポケモントレーナーになる予定ですわ」
だったら、と少年は今度は私に向けてモンスターボールを翳した。
「ポケモントレーナーなら目と目が合ったら勝負の合図だぜ」
「それは野蛮ですね。でも、私、まだポケモントレーナーと呼べるかどうか……」
「俺がバトルについて教えてやるって言ってるんだよ!」
ツンツン頭の少年の強引な誘い。野蛮ですわ、と思いつつもモンスターボールを構える。
しかし、まあ、見ず知らずの人と戦うのは初めての経験であり、ちょっとワクワクしていたところでもあった。
隣に座るペルシアンが、呆れたように溜息を零した気がした。
◆
「よし、これでパープルへの対策は完璧だな」
そう言って資料をまとめる我らが首領を、大人げねえな、と四幹部はジトッとした目で眺める。
とはいえだ。四幹部も可愛い御嬢様に屋敷から出て行って欲しくはない。我らが首領が旅に出る事を許さない憎まれ役を買って出てくれるのならと協力してしまっている辺り、同じ穴の狢である。
四幹部が全員、情報を出し合ってまとめた対策案。これなら確実に勝利を掴み取れると云えるだけの完成度があった。
しかし四幹部は全員、とある疑念に関しては触れなかった。
我らが首領様が御嬢様を止める為に使うポケモンはペルシアン一匹。
そのペルシアンは四六時中、ずっと御嬢様を見守っている事実。幼い頃は背中に跨らせて運ぶほどに仲が良くて、木の上で休んでいる時も常に御嬢様が見える位置に陣取っている。なんならペルシアンのお気に入りの場所は、御嬢様の部屋が見える木の上である。御嬢様の事を赤子の時から見守り続けたペルシアン、保護者面で世話をしていることすら多々あったくらいだ。
そんなペルシアンが御嬢様に手を貸さないなんてことがあり得るのか?
だが、それを言ってしまえば、今日の対策会議の意味がなくなる。
というか、前提条件がひっくり返る。というか、この勝負に我らが首領の勝ち目がない。
この対策会議そのものが大人げない。と感じていた四幹部は、誰一人、その可能性について言及することができなかった。
「タマムシデパートくらいには連れて行ってやるか」
もう既に勝った後の予定を立てる首領様に、口を挟むことなんて出来るはずもなかった。
◆
グリーンとブルーよりも幾分か遅れて、マサラタウンを出発した。
俺の相棒はヒトカゲで、道中のポケモンを蹴散らしながらトキワシティまでやって来た。何時の日か訪れる事になる旅の終着点、セキエイ高原。その入り口だけも見てみようと思って、脇道に逸れて22番道路に足を運んだ。
そこにある草原で、茫然と立ち尽くすライバルの姿があった。
「あいつ、何時か必ず倒してやる……!」
……もしかして、誰かに負けたのか?
地元では一番、ポケモンの扱いが上手いグリーンが負けてしまったのか。
グリーンは俺の姿に気付くと、チッ、と舌打ちを零した後、どけ、と俺を押し退けてトキワシティに戻っていった。
何が起きたのか、草原には激しく戦った跡だけが残されていた。
◆
ペルシアンのモフモフお腹に顔を埋めて吸うのが好き!
お風呂で綺麗にしてあげた後じゃないと、やらせてくれないけど!
今日、初めて野良バトルに勝ったから褒めて、褒めて~!
ニャアッて鳴いた! とっても面倒臭そうだけど!
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▼パープル
オニドリル♂:Lv.27
スピアー♀:Lv.29
サイホーン♂:Lv.25
ペルシアン♂:Lv.51
※レベルは目安。