転生したら、ロケット団の首領の娘でした。   作:とんぼがえり。

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第1章:旅立ち編
1.家出娘


 大好きなお兄ちゃん達が、マサラタウンを旅立ってしまった。

 いじめられっ子だった私を守ってくれたグリーンお兄ちゃん、独りぼっちだった私と遊んでくれたレッドお兄ちゃん。よくケンカをする二人のお兄ちゃんの仲裁に入り、私にやさしくしてくれたブルーお姉ちゃん。私の世界は、お兄ちゃん達が居てくれるから成り立つもので、お兄ちゃん達が居なくなった後、学校で私と話してくれる人は誰も居なくなった。

 たった独りで廊下を歩いている時、同級生の女の子が、ひそひそと私のことを話している。

 

 また虐められるのかも知れない、次はもう守ってくれる人はいない。

 そう思った私は、怖くなってマサラタウンを飛び出した。野生のポケモンは怖いけど、それ以上にまた虐められる方が怖かった。

 呼吸をするだけでもしんどい日々に戻りたくない、その一心でお兄ちゃん達を追いかけたのだ。

 

 私と話をしてくれる人は居ない。

 でも、私には友達がいた。モンスターボールに入ったポケモン、幼い時からずっと一緒のお友達。

 独りは寂しい。でも、虐められるのは怖い。

 あの悪意と敵意を向けられるのが、恐ろしくて仕方ない。

 だから、独りでも大丈夫。独りじゃない、私にはお友達がいる。

 

 トキワシティまでの道中、

 野宿をする時にボールから取り出したピカチュウをギュッと抱き締める。

 暖かくて気持ちいい。ずっと、こうして居たかった。

 

 マサラタウンを飛び出した。

 だけど私にはお金がない、お金がないからご飯もない。

 ずっとお腹もペコペコだったけど、ご飯を求めて、トキワの森に足を踏み入れる。

 ちょっと雰囲気が怖かったけど、大丈夫。私にはピカチュウがいる。

 

 ふらふらと彷徨い、うろつき、木の実を食べて、眠って、起きて、

 

 でも、それも、もう限界で、ピカチュウもボロボロで、目も見えなくなってきた。

 疲れた、お腹も空いた。帰ろうかな、帰る場所なんてない。あそこには帰りたくない。

 帰りたくなかったから、ずっと寝ていようかな、なんて思った。

 それは、あそこに戻ることよりも怖くはなかった。

 ピカチュウがいる。ピカチュウがいてくれるなら、もう他になにもいらない。

 眠るまで、それまでは、そこから先は、自由にしてくれても良い。

 ありがとう、ピカチュウ。

 

 

 ゆっくりと瞼を閉じるトレーナーを、ピカチュウは茫然と眺める。

 元は野生のポケモン。マサラタウンまで迷い込んだところを拾われて、それからずっと寝床と食事を与えてくれたトレーナーだ。

 ちょっと情けなくて、自分がいないと何をしでかすのか分からない危うさを持っていた。

 

 実際、何の準備もせずに旅立つし、街にも留まらず、ずっと野宿を続けたりする変わり者である。

 このトレーナーは自分が居なければいけない。そうしないと何処で野垂れ死にするか分かったものじゃない。

 面倒を見てやるのは親分の甲斐性、情けない子分に呆れながらも付き合ってきた。

 

 しかし、それも今日までの話だ。

 

 明確な死の予感に呆然とする。

 ピカチュウは知っている、死の瞬間を。それは何度も見てきたことだった。

 見知らぬポケモンであれば、何も思う事はない。

 しかし身近な誰かが死ぬ瞬間に立ち会う事は、初めての経験だった。

 それ故に、ピカチュウは自分の気持ちに整理が付けられない。

 

 バサリ、と翼の音がした。大きな影が自分とトレーナーを覆い隠す。

 

 ゆっくりと後ろを振り返れば、ピジョンが自分達を見つめていた。

 いや、死に行く自分のトレーナーを見つめている。自分の子分を狙っている。

 ピカチュウは、情緒の赴くまま、電気を迸らせる。

 感情の発露先を見つけて、もう我慢なんて、出来なかった。

 

 ピカチュウが放った()()()()()()()の奔流は、周囲を強く照らし付けた。

 

 

 旅立ちの朝、厳選した荷物はサイホーンの身体に巻き付ける。

 黒いワンピースドレス、これは汚れても良いように丈夫な生地で仕立てて貰ったものだ。

 

 化粧道具は最低限、これは私が持ち運べる程度の量。化粧水や日焼け止めは、必需品としてサイホーンの荷物鞄に入れている。

 鞄に詰め込む時、ちょっと睨みつけられたけど……これは毎日使うものだから! お願い、お願いって両手を擦り合わせれば……溜息混じりで許してくれた! ちなみに意匠に凝った実用性のない衣服を入れようとすると怒られたので、泣く泣く家に置いてきた。サバイバル道具は必要最低限。町と町とは基本、数日で行き来できるので食料が嵩張ることはない。とはいえ、荷物を最も圧迫しているのはポケモンフードだったりする。

 緊急事態の為に、状態異常の回復薬は一式。きずぐすりは勿論、モンスターボールも幾つか入れておいた。

 

 そうやって必要なものを入れていけば、自分用の道具はほとんど入れられなくなってしまった。

 着替えも削り、下着も削り、でもシャンプーとリンスは大切だから! 石鹸じゃ髪の毛がゴワゴワしちゃうから! リンスインシャンプーじゃダメなんです! 必死の説得の末に、サイホーンの鞄に入れさせて貰えたのは最低限、身嗜みを整える道具だけだった。娯楽関係のものは肩下げ鞄に小説を一冊、入れるだけである。

 荷物まとめに悪戦苦闘していると「屋敷に居続けても良いんだぞ」と御父様が楽しそうに茶々を入れてくる。

 絶対に旅立ってやると心に決めた。

 

 近い内に荷物を多く持ってもらえるポケモンを捕まえてやる!

 

 そうして屋敷の外、

 四幹部と涙の別れを告げた後、御父様をギュッと抱き締める。

 ああ、そうだ。と別れ際に御父様が何かを手渡す。

 手を開くと、緑色に輝くバッジが収まっていた。

 

「使ったのはじめんタイプではないが、私とのバトルに勝ったのだ。持って行きなさい」

 

 うん! と私は笑顔で頷いて、もう一度、御父様を抱きしめた。

 もう心残りはない! 次に会う時は、バッジを八つ集めた時だ!

 意気揚々とトキワシティを離れて、トキワの森を目指した。

 

 そしてトキワの森で遭難してしまった後の話、近場から強い電撃が迸ったのだ。

 

 

 ピカチュウの意識は朦朧としていた。

 もう疲労は限界に近かった。マサラタウンを出てからは子分を守る為に、まともな眠りに就けていなかった。

 毎日、食料を二人分。人間が食べられる食事の種類の少なさに、うんざりしながらも集め続けた。

 その上で野生のポケモンと出会った時に戦い続けて来たのだ。

 

 まだ八歳の彼女は通報されることを嫌って、ポケモンセンターにも寄らずにトキワの森に入った事も祟った。

 

 そこに現れたのがピジョン、自分と同レベルのポケモンの登場に辟易する。

 もしかすると自分よりも強いかも知れない。逃げることは簡単だ。子分を見捨てれば良い、そして自分は元の野生のポケモンに戻るだけだ。

 小賢しいことに彼女は眠る前に、モンスターボールに登録された自分の所有権を放棄している。

 

 ピジョンがピカチュウを睨んだ。

 大きな翼を広げて、そこをどけ、と圧力を掛けてくる。

 しかし、ピカチュウは踏み止まる。

 

 親分は子分を守るもの、その自分ルールを守る為に霞む目でピジョンを睨み返した。

 

 もう、まともに電撃を放つ事もできない。

 最初の一撃で、仕留めきれなかったことが悔やまれる。

 しかし、退けない。

 後ろには子分がいる、彼女には恩がある。

 だから、退かない。

 

 縦え、此処で死ぬことがあろうとも、何もせずに逃げることは許せなかった。

 

 最後の力を振り絞る。

 でんき技は使えない、だから今できる精一杯の一撃を!

 

 自分を、確実に仕留める為に放ったピジョンの()()()()()()()

 その攻撃に合わせて、ピカチュウは跳躍して前に宙返りする。

 全身を使った勢いを利用して、全体重を乗せた自らの尻尾を、ピジョンの脳天に()()()()()()

 

 タイミングはドンピシャ。

 しかしピジョンの眼には、まだ鋭い光が宿っていた。

 風が吹いた。両翼を使った至近距離からの()()()()()に為す術なく、ピカチュウはその身を大木に叩きつけられる。

 その衝撃に意識が落ちる、視界が真っ暗な闇に閉ざさていく……

 

 ピジョンが、その脚で子分を連れ去ろうとする景色があって――――、

 

「スピアー、()()()()()で牽制! オニドリルは()()()()、絶対に逃がさないで!!」

 

 ――意識が途切れる間際、誰かが子分を助けてくれたのが見えた。




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▼パープル
オニドリル♂:Lv.27
スピアー♀:Lv.29
サイホーン♂:Lv.25

▼家出娘
ピカチュウ♂:Lv.22

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