転生したら、ロケット団の首領の娘でした。 作:とんぼがえり。
やばい、初めての快挙です。やばい。
高評価、感想、お気に入り。ありがとうございます。
書く栄養にしています。
トキワシティにある屋敷にて、
ロケット団の首領であるサカキは執務室にあるパソコンから動画配信サイトのチャンネルを眺める。
サカキ自身、これといった興味がある訳ではない。
しかし組織のトップなる者は、機をみるに敏でなくてはならない。
流行の最先端に触れるのは経営者の責務とも云える。
昨今のネット環境の充実により、ポケモンバトルは以前よりもエンターテイメント性が求められるようになった。
その影響もあってカントー地方に点在するジムも少しずつであるが、個別でチャンネルを持つようになり、ジムリーダーの挑戦を受ける際にバトルの様子を配信する機会が増えている。ハナダジムでは、水族館を活用したみずタイプのポケモンによる公演の様子を有料動画の配信として流すこともあって、他のジムでもポケモンを育成する様子やちょっとしたバトルのコツなんかを配信するチャンネルが増えている。
近代化の波が来る。カントー地方とジョウト地方を繋ぐ、リニアモーターカーの開発が進んでいる今、生きる為に必ずしもポケモンが必要という時代ではなくなってきた。しかし、それでも人間とポケモンを繋いでいるのには、こういった各々の努力が実を結んだ成果なのだと思っている。
人間とポケモンは近しい隣人同士。最早、日常と密接な繋がりがある。
閑話休題、
こういったネット事情に関しては、
経営者としての興味本位でしか知らないサカキが、熱心にチャンネルをチェックし続けているのには理由がある。
それは、ジムリーダーと挑戦者のバトルが配信されるという一点。
愛娘が、もうすぐニビシティに到着する頃合いだ。
ならば必ず、我が愛娘はジムリーダーへの挑戦権を得るはずだ。
ニビジムのチャレンジ方式は、挑戦者三人にジムトレーナー一人を加えた四人によるリーグ戦。優勝すれば、無条件にジムリーダーへの挑戦権を得ることができる。二位以下でもジムトレーナーによる採点次第でジムリーダーへの挑戦権が与えられる。ジムリーダーとのポケモンバトルでも必ず勝つ必要はない、実力が認められればグレーバッジの授与される。
パープルが負けるとは思っていない。
しかし娘の晴れ舞台を見逃して、なんとするか! もし仮にハナダジムに行ってしまった時も考えて、四幹部には、他のジムの監視も任せている。
各自、情報の伝達を速やかに行えるように新たな通信網を構築した。
万が一、見逃してしまった時に備えて、都度、タイムシフトの予約を行っている。
なんならプレミアム会員の登録までしてしまっていた。
万事において、抜かりなし。
冷静沈着、冷酷無比、準備する段階で勝負の九割は決まっている。
これがロケット団の首領足る者の手腕である!
「……ふむ、しかし、意外にも目を見張るものはあるな」
今は予選リーグ戦。
ジムリーダーとの試合は明日になるが、それでも娘が出るかもしれないと思えば見逃せない。
それでも、もっと退屈な試合になると思ったが、面白い戦い方をする者も中には居る。
つい先程に見たツンツン頭の少年は、粗削りなところも多かったがポケモンを扱うセンスがあった。
状況判断が的確で、常に先を読んで最適解を導き出す戦い方をしていた。
自分と似たスタイルなので、好感が持てる。
今、画面に映っているのは黒いミニのワンピースを着た長い茶髪の少女。
彼女が最初に出したポケモンはロコン、息を飲んで相手の出方を窺っている。
この子は、どういった戦い方を見せるのか。
配信を見るその姿は、悪の組織というよりもジムリーダーのものであった。
◆
レッドとグリーンは特別だ、それはマサラタウンを出る前から感じていた。
二人とは幼馴染で、よく三人一緒に遊んでいた。二人がバカをする度に私が叱り、宥めて、そして仲直りになるのが常であり、周りからは二人の手綱役として見られていた。よく私が一番、お姉さんって言われていた。でも、本当に凄いのは二人の方なのだ。二人は常に私の前を歩いて、遥か先を目指している。
私は、そんな二人の背中を追いかけるだけで精一杯だった。
ニビシティに辿り着いたのだって、二人の方が遥かに早かった。
次のジム戦の予定日まで、足止めされて居なければ、また私一人が置いていかれていたに違いない。
二人に待って欲しいとは言えない、それは私の意地だった。
どんどん先に行ってしまう二人の足を引っ張りたくないし、それで重荷になってしまうのも嫌だった。
息を入れる暇もない。二人は私よりも遥かに早いペースで走り続けているから、その分、私は二人よりも長い時間歩くしかなかった。
それでもどんどん遠くなる。私だけが遅れている。
今はまだ、二人の影を踏めている。
でも、いつの日か二人の背中すらも見えなくなってしまったら……その事を考えると、不安で仕方ない。
きっと、遠くない未来に、私は、二人を追いかけることができなくなる。
だから、まだ背中が見えている内に、三人の時間をもっと楽しみたかった。
ここで不甲斐ないところは見せられない。
お願いします。とジムトレーナーさんに大きな声で挨拶し、モンスターボールを構える。
私の手持ちは二匹、ロコンとフシギダネ。
フシギダネは旅立つ前に博士から貰ったポケモンで、ロコンは元々家のペットだったポケモンだ。
小さい頃から仲良しで、旅立つ時も一緒だって決めていた。
あんまりバトルをしてきた訳じゃないけど……それでも今、最も信用できる相棒だ。
タイプ不利なんて関係ない。兎に角、削って、削って、私にできる精一杯を見せてやる!
出来る事なら、近い将来、レッドとグリーンが有名になった時、
二人の幼馴染ではなくて――――
――三人の幼馴染としてブルーの名前を知って欲しい!
「ロコン、先ずは
私の果てしない挑戦は、まだまだこれからだ!
◆
ジムトレーナーのトシカズは、少女の一挙一動を観察する。
ポケモンジムは、バトルの基本は勿論だが、本来はポケモンの理解度を深める為に存在している。
ニビジムの課題はいわタイプ。
岩石地帯というフィールドにおける立ち回りの他、そこに棲むポケモンの生態について学んで貰うことが主な目的だ。
だからジムリーダーのタケシさんは岩石地帯を利用できるイシツブテとイワークを手持ちにしているし、僕もイシツブテとサンドを選考時のメインとして使っている。僕が出したイシツブテに対して、ほのおタイプ。それは良い、人それぞれに相性の良いタイプというのはある。しかし苦手なら苦手なりの立ち回りというものが必要であり、それを教えてやるのがジムトレーナーの役割だ。
「イシツブテ、
相手にも分かりやすく伝わるように技を口にする。
イシツブテは持ち前の固さに加えて、
ここまではまあ、よくある展開。兎にも角にも、先ずはいわタイプの固さを実感して貰わないとね。
「ただの
ちょっとした助言をして、イシツブテには視線だけで待機を命じる。
お嬢ちゃんは少し考え込む仕草を見せる。さあ、此処から試験の本番だ。
どう出る? どう来る? 何を仕掛けてくる?
「ロコン、
なるほど、先ずは防御を落として来たか。
大人しく待ってやる義理もないので、イシツブテに
「
わざわざ技を使ってまで距離を取り、遠距離から
イシツブテの速度では追いかけることが出来ない。
なるほど、よく考えた。
イシツブテの動きは遅いからな、その戦法は間違っちゃいない。
そのまま時間を掛ければ、いずれ、倒すこともできなくはない。
だが、それは、
「岩石地帯におけるいわタイプの戦い方をお披露目してあげよう」
そして次のステップだ。
野生のポケモンがよく使う戦法を見せてやる。
おつきみやまに行くなら、知っていて欲しい戦い方だ。
「
イシツブテが近場にあった小さい岩をロコンに向けて投げ付けた。
「岩場に隠れて、やり過ごして!」
そうして意識が逸れた隙に、イシツブテに指示を送る。
岩が砕ける音が鳴り、ほっと一息吐いたお嬢ちゃんは改めてフィールドを見た。
そして、困惑の表情を浮かべる。
「……えっ? あれ? イシツブテは?」
「大丈夫だよ。イシツブテは、ちゃんとフィールド内にいる」
イシツブテの岩に似た外見と岩石地帯フィールドの合わせ技、岩に隠れて姿を晦ます。
おつきみやまでは、これで岩石地帯に数十体単位のイシツブテが潜んでいるから驚きだ。
うっかり手を出そうものなら酷い目に合う。
だから、知っていて欲しかった。知っていれば、渡らなくて済む危険もある。
今の内に、その恐怖を味わって欲しかった。
「見つけられなければ、一方的に蹂躙されるだけだぜ!」
隠れながらの
このイシツブテは、この戦い方だけを徹底的に仕込んでいる。
さあ、どう対処するのか僕に見せてみろ!
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▼ブルー
ロコン♀:Lv.13
フシギダネ♂:Lv.11
※レベルは目安。