ソフィアと魔剣、骨羽   作:鈴本恭一

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③セントラル島・世界王者決定戦

 

 

 

 

 

 王座の証を得て戻ったソフィアへ、師匠は言った。

 

「お前に教えることは、もうない」

 

 彼は冷然と彼女に告げた。

 

「破門だ」

「……なぜ」

 

 ソフィアは尋ねた。

 だが、本当は分かっていた。

 

「美しくない」

 

 師匠は答えた。

 

「美しくない、お前の技も、お前の魔剣も」

 

 やはり、とソフィアは思った。

 

「お前が諦めるのを待っていた」

 

 師匠は言った。

 

「王者に挑み、負ければ、その戦い方に限界があることに気付くと思った。が、お前は勝った。その美しくない戦い方で」

 

 師匠の言葉に、ソフィアは何も思わなかった。ずっと前から分かっていた。

 師匠だけが稽古を付けてくれた、その時から。

 師匠が全てを教えてくれていたことは。

 

「お前に教えることは、もうない」

 

 師匠は言った。

 

「お前は王者だ。お前の王朝はジーニキリーの魔剣士を蝕む。美しさは破却される。やがて若い魔剣士たちはバーバヤガーさえ讃えるだろう」

「私は」

 

 ソフィアは言った。

 

「私は、魔剣士です。バーバヤガーではありません」

 

 師匠は何も言わなかった。

 ソフィアは構わなかった。

 そして去ろうとした。

 が、

 

「ソーニャ」

 

 師匠は告げた。

 

「………先月、東のカカナで大陸王者が変わったのは知っているな」

 

 ソフィアは訝しく思いながらも、その言葉に頷く。

 

「カカナの魔剣闘技は混迷している。その新王者になってから、カカナでは試合がろくに組めないそうだ。前王者も黄金級も新王者に敗北し、軒並み引退した。白銀級以下では新王者の相手にはならない。

 そこで四魔協は、世界王者のタイトルを新設すると決めた」

「世界王者?」

「頂点を決める。この世界で最も強い魔剣士を。4人の大陸王者たちで」

 

 師匠はソフィアに言った。

 

「出るか? 世界王者決定戦に。大陸王者たちは言うまでも無く皆強い。特に西のウラベは雷神の神官だ。奥義の霹靂を出されれば、それを防げる魔剣士はこの世に存在しないだろう」

 

 ソフィアはしばし考えた。

 愛剣を握りしめ、彼女は頷く。

 師匠は「分かった」と言った。

 

「諸々の手続きは俺が進めておく。それが師としての、最後の務めだ」

 

 師匠は自ら去ろうとする。その動きに迷いはない。ソフィアと同じく。

 ソフィアは彼へ身を向け直し、深々と頭を下げた。

 

「………お世話になりました」

 

 息災であれ、と師匠は小さく言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうしてソフィアは、世界王者決定戦に出場した。

 

 初めて海を渡ったのだ。

 

 ジーニキリー大陸の外へ。

 

 

 

 

 

*** *** ***

 

 

 

 

 

 

 

 カカナ連邦・セントラル島。

 四魔協(四大陸魔剣士協会)・世界王者決定戦。

 第1試合。

 

 ソフィア=アレクサンドロヴナ=フラトコフ(ジーニキリー) 対 モトタカ=ウラベ(エデ)

 

 

 ―――――――雷霆の奥義が出たとき、決着はついた。

 

 

「!!」

 

 西大陸の王者が繰り出した膨大な閃光と衝撃を、ソフィアの魔剣は受け止めきれなかった。

 耳を劈き大地を揺るがす轟音、雷鳴。

 ソフィアの許した一瞬の隙を突き、エデ大陸王者ウラベは莫大な稲妻を魔剣から吐き出した。万雷が真横に走ってソフィアを呑み込み、灼き払った。

 頭上に浮かんだ魔剣の切っ先は力をなくして落下。完全な過冷却旋風を発揮する前に試合が終わった。

 

「ぁ……」

 

 闘技場の隅まで吹き飛ばされ、ソフィアは指ひとつ動かせない。

 モトタカ=ウラベはジーニキリーの前王者とはまるで違った。同じ大陸王者でもここまで強さに差があるとは思っていなかった。カカナの新王者が現れるまで魔剣士最強と謳われたのは誇張ではなかったのだ。

 最初の試合を、ソフィアは敗北した。

 

 

 

 ……敗北したソフィアの元には、大量の便りが来た。

 その大部分は彼女への侮蔑と嘲弄だった。

 魔法で弱らせて相手を斬るソフィアの戦い方は、世界王者はおろか大陸王者にも相応しくないという内容だった。

 ソフィア自身はそれに何もリアクションを起こさなかった。

 が、悪質なほど多くの手紙が来るため、四魔協は大会期間中の王者達への郵便物受け取りを拒否した。

 モトタカ=ウラベが「私の対戦相手を侮辱することは、私を侮辱することだ。私の名誉を汚す者は名乗り出るといい。私が相手だ」と言ったこともあり、その後は沈静化した。

 

「ごめんよ、魔剣」

 

 その間も、ソフィアはなぜ負けたのかを考えた。

 

「……勝てる試合だった」

 

 彼の奥義が出るまで、試合はほぼ互角だった。

 むしろ奥義以外のいかなる技も、ソフィアの防御を突破することは出来なかった。

 またウラベの奥義は無条件で放てるものではない。奥義の発動を潰しさえすれば、ソフィアは負けなかった。

 が、実際は負けた。

 ほんの一瞬だけ、隙が生まれた。

 西の大陸王者はそれを見逃さなかった。

 なぜ、そんな隙など出来たのか。

 

「稽古が、響いたか」

 

 ソフィアは大陸王者になってから、誰とも稽古を付けていなかった。

 練習相手さえいなかった。

 ジーニキリーでは誰もソフィアの手伝いをしようとはしなかった。

 試合を組まれることもなく、大陸王者となって以来初めての実戦だった。

 ソフィアはひとりだった。

 

「惰弱め」

 

 ソフィアは自分を罵った。

 ひとりであることは構わない。

 魔剣がいる。

 あのモトタカ=ウラベの魔剣も凄まじかったが、それでも彼女は自分の魔剣が劣っているとは思っていない。

 

「証明してやる、世界中に。私の魔剣を。誰が相手だろうと」

 

 そのためにソフィアはここに来た。

 

 

 

 

 そしてソフィアは、次の相手に挑む。

 

 

 

 

 四魔協(四大陸魔剣士協会)・世界王者決定戦。

 第3試合。

 

 ソフィア=アレクサンドロヴナ=フラトコフ(ジーニキリー) 対 リナ=シャブラニグドゥス(カカナ)

 

 

 

 

 

 

 ―――――――最強に最も近い、『骨羽』の魔剣士へ。

 

 

 

 

 

 

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