さて、今話から入学編も終盤に差し掛かってきました。蓮司君はこれからどう動くのか、それが周囲に与える影響はどんなものになるのか...ぜひ楽しんでいただけたらと思います。
それでは、どうぞ!
『全校生徒の皆さん!!』
「わひゃあ!何々!?」
「うるせえな誰だよ騒いでんの喉元噛みちぎるぞこの野郎」
「こんな時でも物騒だね、君は…」
突然校内放送で大音量の声が響いた。
『…失礼しました。改めて、全校生徒の皆さん、僕たちは学内の差別撤廃を目指す有志同盟です』
「…ああ?」
突然校内放送で流れてきた内容。要約すると、「自分達二科生は魔法力が低く、実技試験の結果が悪いというだけで不当な差別を受けているから、学校はこれを解消すべき」というものだ。しかしその内容は、蓮司がこの世でも特に嫌っている内容だった。
『僕たちは生徒会と部活連に対し、対等な立場における交渉を要求します!僕たちは魔法師を目指して学ぶものです。しかし同時に僕たちは高校生です。魔法だけが僕たちの全てではありません!この要求が受け入れられるまで…』
それ以上蓮司は聞くつもりはなかった。それと同時に風紀委員に召集がかかったため、移動することにした。
その時の蓮司は、酷く冷めた瞳をしていた。
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「多少強引でも、短時間の解決を図るべきだ」
「しかし、彼らを暴発させないように慎重に対応すべきです」
「どうするつもり、十文字君?」
「俺は彼らの交渉に応じてもいいと考えている」
「では、この場はこのまま待機すべきと?」
「それについては判断しかねる。不法行為を放置すべきではないが、学内の施設を破壊してまで性急な解決を要するほど犯罪性があるとは思えない」
達也たちが駆けつけたとき、上級生たちは対策を話し合っていた。どうやら短期の決着と慎重な対応のどちらをすべきか、という点で話が進んでいないようだった。
ここで、達也には1つ手段があった。それは有志同盟にいるであろう2年生の壬生紗耶香という生徒に連絡を取ることであった。
壬生紗耶香は二科生の2年生であり、剣道部に所属している。何度か会話をしたことがあり、彼女もまた学内の差別撤廃を目指していることは彼女自身の口から確認していた。差別撤廃に協力してほしいと言われたことがあったが、達也はそもそもそんなものに興味がなかったため断っていた。
その時に気が変わったら連絡が欲しいと、彼女のプライベートナンバーを聞いていた。なので彼女と連絡を取ることで事態の進展を図った方がいいだろうと考えていた。
そうして連絡しようとしたとき、この場に一番遅れてやってくるものがいた。その者に真っ先に気づいた摩利だった。彼女は事態が進まないことに苛立ちを感じ始めており、その者を呼ぶときには少し刺々しくなった。
「遅いぞ!呼んだらすぐ来ないか!一体何を…」
そこまで言って口を噤んだ。遅れてその者に気づいた生徒たちがそちらを見た瞬間、全員が残らず委縮した。表情を変えなかったのは、既にそれを経験しある程度の耐性があった達也と、もとよりそういった感情を表には出さない十文字だ。
遅れてやってきたのは蓮司だ。それも、強い怒気をまとって現れた。表情は無に等しく、しかしそこからあふれる怒気がその存在感を大きくしていた。
皆がすぐに動けない中、比較的影響の少ない達也が代表して話しかけた。
「…蓮司、遅かったな。それと…何かあったのか?」
「…別に何かあったわけじゃねえ。…連中の主張が俺を必要以上に刺激しているだけだ…」
そう言いながら全員の前で止まる蓮司。
「で?あんたらここで何やってんだよ。早く鎮圧すればいいだろう」
蓮司がそう疑問を投げかけたため、鈴音と十文字が代表して現在の状況を説明した。しかし…
「阿保か、あんたら」
蓮司はそれを一蹴した。とても先輩に対して取る態度ではなかったが、それでも蓮司は発言を続けた。
「連中の主張と、連中が今やっていることの整合性はない。主張があるなら直接生徒会室や部活連に行けばいい。なのに何ちんたらしてんだよ」
「で、ですが、それで彼らを刺激して更なる暴走を引き起こしてはなんの意味もありません。ここは…」
「要はこの扉を突破して連中を静かにさせりゃいいんだろ。どけ」
そう言って先輩を押しのけ、扉の前に立つ蓮司。達也は嫌な予感しかしなかった。
すると、正拳突きの構えを取る蓮司。同時に引いた右手にサイオンを集めた。
「ち、ちょっと蓮司君!?待ち」
真由美がとっさに声をかけるがもう遅い。蓮司は拳を当て扉を破壊した。そして中に静かに入っていった。
放送室の中には数名の生徒がいた。紋はなく、全員が二科生である。その中には壬生の姿もあった。
「な、ど、どうやって」
「黙れ」
静かに蓮司は言い放った。そのあまりの殺意に、有志同盟の者たちは動けなくなる。
「てめえらの下らねえ話は生徒会長と部活連会頭が聞いてやるとよ。さっき言質も取った。」
静かにそう告げた。その内容は彼らにとって喜ばしいものだったはずだ。学内の組織のトップが交渉に応じると言っているのだ。十分な成果となる。
にもかかわらず、彼らは生きた心地がしなかった。それは、その交渉の前に、目の前の存在があまりにも殺意を持っていたからだ。
「だが、てめえらの話を聞くことと、てめえらの行動を容認することは違う」
「死にたくなかったらそこから動くな。指1本、瞬きも許さねえ」
またしても静かにそう告げた。ここで1人の生徒は逃げ出そうとした。自分たちの崇高な理念よりも、目の前の存在からどうしても離れたかったが故の、反射的なものだった。
当然、忠告したのにも関わらず動いたものには…
「動くなって言っただろ」
制裁が下る。蓮司は瞬時にその生徒の背後に移動し、後頭部を掴むと、そのまま顔面を地面にたたきつけた。轟音がなったのち、その生徒の顔が上げられた。
「ひっ!?」
それは誰の叫びだったのか、定かではない。だがそんな声を上げざるを得なかっただろう。叩きつけられた生徒の顔面は見るも無残なものだった。鼻は折れ、前歯はほとんど抜けかけている。目元の形状もおかしくなっており、恐らく顔面を骨折していた。もはやその生徒はうめき声を上げることしかできない。だが…
「喋んなってのも分かんねえのか」
そのうめき声ですら蓮司の前では許されなかった。それを聞いた瞬間、蓮司はもう一度顔面を叩きつけようとした。
「そこまでだ、蓮司」
それを達也が止めた。かなりの力が入っていたらしく、達也も手加減は出来なかったが、先ほどの事態を繰り返すことはなんとか避けることができた。
「…達也」
「蓮司。俺は今、お前が何に苛立ちを感じているかはわからない。会ってからまだ1か月も経っていないんだから当然だろうな。だから、何がお前の心を揺さぶったのかは検討もつかない」
「…」
「だがそれ以上は全てを台無しにする。さっきお前が言ったように、会長も会頭も交渉には応じるんだ。ここでお前が無闇に暴れれば、先輩たちの思いも全て無駄になる」
努めて冷静に、そして諭すように話しかける達也。
「手を放せ、蓮司。今の彼らに抵抗の意思はない。暴れたいなら俺が相手をする」
「…」
徐々に、しかし確実に力を抜いていく蓮司。達也も、蓮司を信じて手を離した。そして蓮司はCADを操作し、怪我を負わせた男子生徒に治癒魔法をかける。数十秒後には怪我をする前の顔に戻っていた。
「…これで満足か」
「…ああ、十分だ」
蓮司と達也は、言葉少なく、やり取りを終えた。
その後、放送室を占拠した生徒たちは一度取り押さえられた。そして、生徒会と部活連との対話の場を設け、翌日に有志同盟と生徒会で討論会を開くこととなった。
なお、この一件により、蓮司の危険性を知った教員たちから、彼を停学または退学させるべきという話が出たが、真由美、摩利、十文字の三巨頭たちが交渉したことにより、討論会の警備をしっかり行わせることを条件に、蓮司の処罰は反省文の提出と討論会後に1週間の奉仕活動を行うこととした。
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その日の夜。達也と深雪は師匠である九重八雲の寺を訪れていた。目的はブランシュに関する情報を取得するためである。
「…とまあ、大体こんなところかな」
「ありがとうございます、師匠」
「いいのいいの。僕が好きでやってるんだから」
粗方必要な情報を手に入れ、ブランシュの話題は終了した。と、ここで八雲が新しい話題を振る。
「そうそう達也君。君、中々ユニークなお友達ができたみたいだね」
「…」
達也は敢えて黙っていたが、八雲は構わず話を続けた。
「龍童蓮司君、だったかな。彼、僕から見てもかなり面白いね」
「…先生は、龍童君のことをご存じなんですか?」
黙っている達也に代わり、深雪が質問した。すると八雲は、蓮司について話し始める。だがその内容は予想の斜め上を行くものだった。
「龍童蓮司君、年齢15歳。生まれてすぐに両親とは死別している。…そして今年、魔法科高校に入学した。以上」
「え…?」
「なんですって…?」
今語ったのは蓮司のパーソナルデータだ。しかし分かったことはたったそれだけだったということが、ありえない話だった。情報収集のエキスパートたる九重八雲をもってしてそれだけしか分からない。それはつまり…
「
こんなことがあり得るのだろうか。蓮司は一体何者なのか、どういう存在なのか…全くの謎であった。
ここで達也は1つの予測を立てる。
「師匠。蓮司は調整体だという可能性はありませんか?」
調整体魔法師。それは遺伝子操作により生み出された魔法師のことを指す。所謂、魔法実験体とも言える存在だった。
「可能性としてなくはないけど、可能性の域を出ないね。本当に一般人で、15年間監禁されてた、なんてこともあり得る世の中だからね。でも裏があるのは間違いないだろうね。もしかしたら、本当に極悪人かもしれない」
結局は結論が出なかった。八雲の言葉により、ますます蓮司という存在が分からなくなってしまった。しかし…
「…師匠。蓮司は俺の友達です。それは間違いありません。確かに沸点が低く、何をきっかけに怒るか分からないやつですが、それでも俺の友です。俺は、あいつが悪人ではないと信じます。」
達也は真っすぐにそう言い切った。これには八雲も少し驚く。達也から”友達”などという言葉が出てくるとは思わなかったのだ。
「はい、龍童君はそんな人ではありません」
そしてここにもう1つ、凛とした声が響き渡った。それは深雪のものだった。
「彼は確かに謎が多いかもしれません。今までに見たことのない戦闘手段や卓越した魔法技術、激怒した際のあの殺意...少なくとも普通の高校生ではないのでしょう。ですが…」
そこで一度深雪は区切り、そしてもう一度強い口調で言い放った。
「それでも、ここまで龍童君のことを見てきました。気だるげで、どこか抜けていて、食いしん坊で、マイペースで、…でも確かな信念があり、己の存在に誇りを持っている。そんな彼を見てきました。それはお兄様も同じです」
深雪にとって、蓮司は達也の初めての理解者という認識があった。同時に自身にとっては超えるべき壁でもあった。だからこそ、事実がどうあれ、信じることにしたのだ。
「…君たちがそこまで言うとはね。個人的にかなり彼に興味がわいてきたよ。ただこれだけは言わせてほしいな」
まいった、と言わんばかりに八雲は苦笑しながら告げた。これ以上は余計なことは言うつもりはなかった。だが、1つだけ伝えておきたいことがあった。
「彼は良くも悪くも”魔法師”だ」
「?どういう意味ですか?」
「そのままさ。言ってしまえば彼の思考は魔法師主義のようなものさ。”人間”と”魔法師”は異なる存在だ、という意識が強いようだね」
「…」
「それだけは気を付けなさい」
そこで、八雲との会話は終了となった。
はい、というわけで第15話でした。いかがでしたでしょうか。
蓮司君...かなりイラついてましたね。自分で治したとはいえ、直接生徒を手にかけたことで今回罰則が付きました。まあやろうとしたことも顔面破壊という中々えぐいものなので、停学の話が出たのも仕方ないのかもしれません。とはいえ、上級生たちは討論会に襲撃があることを確信しているので、蓮司を下手に停学にさせることは
戦力的に避けたかったのです。
そして八雲と達也君たちの会話、そこで判明した事実。蓮司君...何者なんでしょうね。どんな人生だったのでしょうか。それは今後のお楽しみ。
それでは次回、第16話でお会いしましょう。それでは!