やっと周辺のことが落ち着いたので投稿再開です。ここまで遅れるとは自分でも思っていなかったので、本当に申し訳ない気持ちです。今後ともよろしくお願いします。
それでは、どうぞ!
九島老師が去り、懇親会が継続されても、会場は依然として静かなものだった。それも当然と言えるだろう。九校戦に出場する高校生が、あろうことか老師を試すような真似をしたのだから。それもただ弁舌をするだけでなく、直接魔法を放つことによって。結果的に何も被害がなかったとはいえ、その場に居合わせた者達は生きた心地がしなかっただろう。
特に、第一高校の生徒たちはそれが顕著であった。元々、九校戦において圧倒的な戦績を誇るが故に他校からはライバル視、悪く言えば敵視されていた。しかし今回は、明確な敵意を周囲は向けていた。
「いやあ、いいもんが見られた。これだけでもここに来た甲斐があったな」
そんな中で、当事者の蓮司だけが呑気に楽しそうにしていた。九校戦そのものに関心のない蓮司にとって、周囲の評価や意識は気に留めるものではない。
しかし、この状況でするべき発言ではなかった。
「お・ぬ・し・は!何を考えておるかぁぁぁぁあああーーー!!!」
そんな怒号が響いた。発したのは、蓮司の近くにいた沓子。他校の生徒ではあるが、仲がいいが故に誰よりも早く蓮司に怒鳴っていた。
「馬鹿か、馬鹿なのか!?他校の生徒相手に啖呵を切るならまだしも、老師相手にあんな発言をするとは何事じゃ!?しかも魔法まで使いおって!」
「あんなサプライズを用意してくれたんだ。こっちも相応のお返しをしてやるのが実力者への礼儀だ」
「それは競技で示せばよい!もしあれで老師が怪我なぞをしてみよ!お主の今後の魔法師生活すら危ぶまれるぞ!」
「あれで怪我をしたなら偽物だ。そんな奴に、魔法師社会の頂点に立つ資格はない」
「確定じゃ!お主は馬鹿じゃ!」
もう駄目だ、と言わんばかりに天を仰いだ沓子。蓮司を相手に舌戦で勝利するにはまだまだ経験が足りない沓子であった。
しかし忘れてはならない、他にもいることを。最初に怒ったのが沓子なだけであって、他にも怒りを抱えている者たちがいることを。
「ねえ、蓮司君?」
ふと、蓮司を呼ぶ声がした。蓮司はそちらの方を向くと、思わず肩を震わせた。
蓮司を呼び止めたのは真由美だった。それはそれは、とてもいい笑顔をした真由美だった。しかし怒りのせいか周囲にサイオンが漂っている(ように見える)。背後に般若のようなシルエットすら見え、不意打ちを受けた蓮司は思わず身が竦んでしまった。
さらに真由美の傍らには、怒りのあまり血管を数か所に浮かべた摩利や、眉間に夥しい皺をよせ、もう高校生と判別できない顔となっている十文字をはじめ、上級生たちが怒りのオーラを漂わせていた。
正直、有象無象についてはどうでもよかった蓮司だったが、三巨頭と呼ばれる3人の怒りは凄まじく、蓮司が怯むほどであった。これには流石の蓮司も冷や汗を垂らした。
(やっべ…楽しみすぎたか…調子に乗っちまった…)
呼び止められはしたが、どう返事をすればいいか分からず、しばし黙っているしかなかった。そこで真由美は改めて声をかけた。
「ねえ、蓮司君?」
「…はい、会長」
先程と全く同じ声色で声をかけられたため、とりあえず返事をした。蓮司にしては珍しく慎重に言葉を選んでいた。
返事をされた真由美は更に笑顔を浮かべたが、もちろん喜んでいるわけではない。
「正座」
「はい?」
「正座」
「いや…他に生徒が」
「正座」
「…話は部屋で…」
「正座」
「…はい」
下手に逆らってはいけないと本能的に感じた蓮司は、幾ばくかの抵抗の後大人しく正座をした。先程の不遜な態度を感じられない、見事な正座だった。
それで多少気を良くした真由美だったが、だからと言って怒りのボルテージが下がったわけではない。
「これからたっっっっっっぷり!君とお話したいな~~~」
「…はい」
「もちろん、付き合うわよね?」
「…はい」
こうして蓮司の公開説教は始まった。なお、懇親会が終了してもその場で続き、その間ずっと正座の姿勢を続けた蓮司だった。
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「はあ~~~…いい湯加減だねえ」
「それにしても、こんなところがあったんだね」
「軍用の施設だけど、頼んだら使用許可が出たんだよ」
ところ変わって、ここは宿舎の地下にある大浴場、人工温泉施設。現在ここは、第一高校生徒1年生女子メンバーが利用していた。
九校戦出場メンバーが利用する宿舎はただのホテルではない。本来は国防軍の演習場に付属する施設である。よって、あらかじめ使っていいと言われている施設以外は基本的に立ち入ることができない。
しかしエイミィがこの温泉施設の存在を知り、試しに頼んでみたところ使用許可が出た。そこで1年生女子メンバーを誘い、現在に至る。
なおここに至るまでに、ほのかのスタイルを目にしたエイミィがほのかにセクハラを働き、ほのかが雫に助けを求めるもほのかのスタイルに嫉妬した雫が放置、そこへ深雪が訪れ宥めるものの、今度は深雪の圧倒的な美貌に女子メンバーが目を奪われ、それに危機感を感じたほのかが「いい加減にしないと皆氷漬けになるよ!」と斬新な脅し文句を使い皆を落ち着かせるなど、僅かな時間で多くの出来事が起こっていた。
一端落ち着いたところで、話題が変わった。女子高校生らしく、異性についてだった。同年代についてだったり、年上のバーテンダーをはじめとしたナイスミドル世代も取り上げられる中、話題はある人物に移った。
「そういえば、会場に一条の跡取りがいたよね」
「見た見た!結構男前だったよね!」
「そういえば彼、深雪のことを熱い眼差しで見てたね」
やはり、同年代で言えば有名人に当たる一条将輝のことが話題となった。名家の跡取りというだけでなく、見た目も整っているとなれば当然かもしれない。
「え、そうなの?もしかして一目ぼれかな??」
「深雪だったらあり得るね」
「むしろ深雪に惚れない男が珍しい?」
「案外知り合いだったりして!」
「どうなの、深雪?」
女子たちが盛り上がる中、改めて雫が深雪に尋ねた。
しかし、深雪の答えは素っ気ないものだった。
「一条君のことは写真でしか見たことがないわ。会場のどこにいるかも分からなかったもの」
この言葉だけで三校を戦力ダウンさせられるかもしれないことをサラッと言い放ったが、こと恋愛話においては女子の力というものは凄まじい。
「じゃあ深雪の好みってどんな人?やっぱりお兄さんみたいな人が好みかい?」
スバルのこの質問に全員が反応していたが、深雪は呆れた表情を浮かべて答えた。
「…何を期待しているのか知らないけど、私とお兄様は実の兄妹よ。お兄様を恋愛対象として見たことはないわ」
「それもそうか」
深雪の答えに対して、その場にいた女子たちはそれ以上問い詰めなかった。常識的に考えて、それ以上追求しようがなかったからだ。
そしてここで、新たな話題へ移る。
「じゃあ蓮司君はどうだい?僕の見たところ、お兄さんを除けば一番仲がいいんじゃないかな?」
「えっ」
この質問には、全員が反応した。特に大きかったのは、深雪、雫、そしてほのかの3人。ここから話は新たな展開となる。
「蓮司君かぁ。ルックスは悪くないよね。目つきはかなり悪いけど」
「あまり意識がいかないけど、髪も長くてきれいだよね。目つきはひどいけど」
「実力もあり学業も優秀。中々いない人材だよね。目つきは怖いけど」
どうも蓮司の目つきの悪さは異性受けしないようだ。受けたらそれはそれで問題だが。
「いい人だよね。なんやかんや会話してくれるし」
「今時あんなにはっきりと自分の考えを言える男子も少ないと思うよ」
ここでエイミィとスバルがプラスの意見を述べた。この2人をはじめ、普段仲良くしている人物から見えてくる視点もある。
「…これで素行さえよければ言うことないよ。…さっきの懇親会とかさぁ…」
しかしここで1人の女子が先の事件のことを口にし、改めて全員がそのことを思い出していた。
九島老師への失礼な態度、魔法による攻撃…はっきりいって自分たちの魔法師人生が終わったような気分だった。その後に上級生たちによる説教を受けていたが、はっきり言ってそれで蓮司の素行の悪さが改善されるとは思えなかった。
「で、でも!優しいところだってあるよ!」
全員の蓮司に対する印象が悪い方向に傾き始めたとき、ほのかが発言をした。それまで静かだったほのかが言葉を発したことで、全員の視線がほのかに集中した。一瞬怯んだものの、ほのかは言葉を続けた。
「今まで関わってきたから分かる。粗暴かもしれないけど、絶対優しい人だよ。確かに行動がハチャメチャな時も多いけど、蓮司さんは蓮司さんなりの信念があって動いてるのが分かる。私だけじゃなくて雫やエイミィもだけど、蓮司さんに何回も助けられたし、一番頼りになる人だよ。」
ほのかは真っすぐにそう言い切った。それはこれまで行動を共にしてきたからこそ見えてくるものだ。何よりほのかにとって、ブランシュ襲撃のことは強く印象に残っていた。
死の恐怖に支配されそうになった自分に言葉をかけ、壊れそうになった心まで救ってくれた。頬が若干赤いのは、温泉によって体温が上がっているからか、それとも別に要因があるからか。それはほのか自身もはっきりしなかった。次いで、雫と深雪が発言した。
「それになんだかんだで、行動や主張は理に適ってることも多い。先輩とかに対する態度がちょっとあれだけど、基本的に主張は魔法師として正しいものだと思う」
「私も2人の考えが分かるわ。確かに極端なことも多いけど、彼は彼なりの行動理念がある。そしてそれを貫き通す強さは、同年代男子には中々ないものだと思うわ」
深雪や雫もほのかと同様に蓮司に対しては好印象だ。これもほのかのように、近くで蓮司を見てきたからこそ出てくるものだった。
そしてここで、深雪が茶目っ気も交えて締めくくった。
「だからって今回のようなものが続くと寿命が縮まる気分だけどね。皆も彼を相手にするときは、大きな子供を相手にするような感じにしないと、身が持たないかもしれないわ」
まさか深雪からそんな冗談が出るとは思わなかったのだろう。全員がきょとんそした後、
『あははははは!!』
笑い声が響いた。あれだけ怖いと思っていた相手が大きな子供だと思うと中々シュールであり、親近感も沸いた。
「こ、子供かぁ!あっはは、そう考えたらなんか可愛く思えてくるね!」
エイミィが笑いながらこれまでのことを思い出し、そう感想を述べた。他の女子たちもそうだったようで楽しそうにしていた。
こうしてほのか達の好意的な印象や深雪のフォローにより、人知れず評価を上げた蓮司であった。恐らく、本人が知ったら不本意極まりないものだろうが。
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女子たちが大浴場でそんな会話をしていた頃。説教から解放された蓮司は美琴に連絡を取っていた。元々懇親会が落ち着いたら現在の不穏な動きについて尋ねるつもりだったが、予想外の妨害(あくまで蓮司にとって)により、連絡がかなり遅くなってしまった。
「…で、何が起こってんだ?お前のことだ、何か掴んでんだろ?」
『それよりその説教話をもっと聞かせておくれよ。美少女たちに怒られて新たな扉が開いたかい』
「てめえじゃあるまいしねーよこのSM女。それよりさっさと話せ」
いつものやり取りから始まったが、ようやく本題に入った。
『私もそこまで気に留めてなかったんだけどね。九校戦は違法賭博に利用されているんだよ』
「賭博だあ?」
そこでもたらされた情報に、思わず気の抜けた声が出たが、もちろん話はここで終わらない。
『ホストは無頭龍。ブランシュなんかとは違って、明確な犯罪組織さ。そして今回の賭博の参加者は、九校戦で第一高校が勝利することに賭けている奴が多いらしくてね。だから第一高校に妨害を仕掛けて、自分たちが儲けようとしてるのさ』
「また阿呆みたいなこと仕掛けやがって…」
蓮司はこういったことは存在意義すら理解できないため、間の抜けた声しか発すことが出来なかった。
『だが奴らにとっては大切な資金源さ。それに犯罪組織なら、失敗の代償は死であるから必死にもなる』
「…」
『開始前からそんなことを仕掛けてくる奴らだ、競技中だって何をしでかすか分からない。くれぐれも注意しなさい』
「言われるまでもねーよ」
そこまで話し、通話は終了した。どうやらこの九校戦は例年になく荒れるようだ。
「めんどくせーことになりそうだな…」
何が起こるか予想もつかず、ただぼんやりとそんなことを呟くしかなかった。
はい、ということで九校戦編第11話、通算30話目でした。いかがでしたでしょうか。
ここまで来てまだ九校戦が始まらない!ごめんなさい!個人的にこの温泉回は外したくなかったんです。
蓮司君の公開説教については、まあ流石に「蓮司君やりすぎでしょう」ということでやってもらいました。魔法師社会でだって、目上の存在への礼儀を忘れてはならんのです。
そして始まった温泉回。それぞれの思いが語られました。これが後々響くでしょうか。乞うご期待。
さて、今回はここまでです。次回から本格的に九校戦がスタートします!ホント、何話で終わるでしょうか。ちょっと怖いです(笑)
それでは次回、第31話でお会いしましょう。それでは!