剣客の少女   作:リィーリィア

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扉の先に

 生まれた時からの疑問だった。

 

 何で()はこんなに脆いのか。なんで私だけ魔術(・・)が使えないのか。

 

 木剣を振るう。上から下に。右から左へ。単純端的な一挙一動に集中する。

 

 遠くから爆発が聞こえる。木霊するそれは、私の耳に響き轟き反響し──そして何かが瓦解する。

 だけど私は振るうのを止めない。

 

 ただ一重に、私にはこれしかないから。『剣』だけしか私に取り柄は無く、力はなく──意味がない。

 

 圧倒的な腕力も無ければ、万能たる魔術もない。段々と近づいてくる足音に、私はしかし為す術がない。

 それは私が『剣士』だから。遠くへ攻撃する術などもってのほか、瞬間移動なんて尚更だ。

 

 だから、私はここにいるだけ。

 

 

 「──終わりだ!!愚王!!!」

 

 

 響く叫びに、私はやっと剣を振るうのを止めた。思っていたのと違う光景故にだろう。目を丸くする青年と、後ろにいるのは多くの民衆。

 

 そっか。ここまでこの国は腐っていたのか、なんて考えたが、すぐにそんな思考は霞んで消えた。

 

 木剣を脇に挟み、垂れる汗を甲で拭う。

 

 「……お前は……」

 

 青髪の青年がポツリと呟き、その後ろで構えるつり目の少女──ネアが訝しげな視線を止め、突然大きく目を見開く。

 

 「小柄な体躯に……長い白髪と黒い瞳……あんた、まさか……」

 

 「……知ってるのか?」

 

 「……ええ、昔直に見たから勘違いではないはずよ……でも彼女は──こんな場所にいるはずがないわ」

 

 「……教えてくれ」

 

 青年がネアに目を遣り、軽く息を吸うと、そして微かな響きが世界に渡る。

 

 「──帝国の《剣聖》……それが、私が知っている彼女の肩書きよ」

 

 「──なっ?!なんでそんな存在がここで出てくる?!」

 

 「……流石にそれはヤバくないっすか?」

 

 一際大きな禿頭の男が驚愕の表情と共に、大剣片手に前へ出てくる。黒髪の少女が戦慄と共に私を見詰める。

 ただ青年だけが冷静に私を見据えていた。

 

 後ろの人々もざわつき始める。これまでの統率された雰囲気から、歪なそれへと姿が変わろうとし。

 

 ──そして、それを見越していたかのように。

 

 「皆、落ち着くんだ!」

 

 青年が声を張り上げる。

 

 「──確かに《剣聖》はここにいるかもしれない!だけど、いくらなんでも多勢に無勢だ!しっかりと攻めれば必ず突破できる!それに、僕達の目的は《剣聖》じゃない!」

 

 まだざわつく民を背中に、青年は続ける。

 

 「倒すべきはこの国を腐らせた国王だ!!これまでの犠牲を無駄にしちゃいけない!!」

 

 心に響く言葉、と言う訳でもない。少なくとも私にはそう思えた。

 だけど、それに後ろの人々は呼応する。

 

 「ええそうよ!ここまで来て引いてなるもんですか!!」

 

 「……そうだな」

 

 「そっすよ!剣聖だかなんだか知らんっすけど、皆で力を合わせれば行けるはずっす!」

 

 青年の横に立つネアを起点に、皆の威勢が猛り始める。

 

 「──行くぞ!皆!!」

 

 こちらを見据える青年は──そして後ろの人々も。

 私から逃げるつもりは一切無いようだった。なら、私がするべき事は一つだけ。木剣を地面へそっと置く。左の鞘から柄を握り、それを片手に振り返る。

 

 魔族のような無尽蔵の体力もない。獣人のような鋭い五感もない。森の民(エルフ)のような莫大な魔力もない。人族のような想像力もない。土人(ドワーフ)のような技術もない。

 

 

 ──だけど、そんな私が。

 

 

 私の『剣』を救ってくれた、あの()の力になるのであれば。

 

 

 「かつての名は捨てました。そして今……剣客を名乗るにはまだ早い私には、示すべき名はありません。

 ──故に、剣で示しましょう」

 

 

 ──私は、私の(全て)をかけて、幼く弱い、あの()を護ろう。

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