剣客の少女 作:リィーリィア
──歪。
どこまでもどこまでも、呆れるほどにちぐはぐで不規則。
それが、僕が『剣聖』の戦い方を見て抱いた感想だった。
飛び交う激昂に湧き上がる高揚。別に皆が弱い訳じゃない。連携は確かだ。魔術も、力も何もかもが『不足』はしていない。
──だけど決して届かない。
この国の騎士団長ですら避けることを選んだ、グラムが振るう大剣。それが当たり前のように『剣聖』に逸らされる。それは良い。よくはないけど理解は出来る。
だけど、後ろから同時に放たれる魔術が、横から投げられる短剣が、下から振り上げられるメイスが──。
──剣で弾かれる。
いや、それは正しくない。弾かれたのは少女の方だ。
下から迫るメイスを剣で受け、流転。そのまま横から迫る短剣を流れるように弾きそのまま地面へ落ち──踊る様に右へ倒れ魔術を避ける。
これがたった一動作の間に行われているのだ。僕達が視線を向ける間に彼女は剣を振りきっている。迷いがない。どんな猛者でも一瞬は躊躇うはずの『思考』の時間が彼女にはないのだ。まるで、予め決められた稽古をしたかのように錯覚してしまう。舞踏会でも見ている気分だ。
もうここに来ている皆は戦いに慣れている。革命の始まりの村から、ここに至るまで付いてきてくれた二十三名は、泥臭いながらも騎士との真っ向勝負に打ち勝つことが出来る程に練度があるはずだった。
確かに、一人を囲むには限界がある。仲間内での被弾をなくすため、密集と言うよりも『連続』の攻撃になるのは避けられない。
一人。グラムの後ろを駆けていた男、ロルガが剣を振るい、下から跳ね上げられた剣に弾かれる。
二人。右から迫っていた少女、ソーネアが上へと上がった剣を隙と悟り、手首を狙った切り上げが放たれ──剣聖は剣を手から離す。剣戟が後ろへとすり抜ける。
三人。驚いたソーネアを傍目に、そのまま後ろから迫る弓矢を背面へと落ちた剣が弾く。
そして彼女は、逆の手で後ろ手に掴んだ剣を弾いた勢いのまま前に向け、後ろで戦局を俯瞰している僕に目を向けた。
強い。強すぎる程に。
流し目で向けられた呆れたような瞳は、だが勘違いではないのかも知れない。これだけ集まって、これだけして、この程度なのか、と。
そして剣聖のなによりも恐ろしいところは、傍目からでもその強さ掴みきれないことだ。その動きを見ていても、まるで『強さ』を感じない。魔力も速さも腕力も、何もかもが見当たらない。どこかに置いて忘れてきたかのように、僕の中での『強さ』の基準が狂って行く。
そして何よりも理解出来ないのは──、
「なんで殺さない?」
それに尽きる。
揺れる木葉のように掴み所がないあの動きも、終わりのない踊りを錯覚させるあの戦闘スタイルも。全てが僕達にとっての致死であることは確実だ。
たった一度の、一瞬の間で構わない。一度よそ見をする時間があれは、彼女はその瞬間に首を落とせる。その確信があった。
余りにも奇妙。グラムは吼え、メニアが短剣を振るう。魔術が後ろから迫り、剣聖の背中をかする。
大剣は側面でいなされ、右から迫る短剣は体を捻るだけで躱される。
違和感が背筋に走る。
そしてもう避けようもないだろうと思わせる体勢の剣聖に向かい魔術が上から落ち──彼女はそれをつまらなそうに一瞥した。
回転するように振るわれた剣が魔術と激突し、切り裂かれた。
違和感が脳裏に沸き上がる。おかしい。何かがおかしい。
傭兵達との戦い。騎士団長との戦い。魔術師長と戦い。
ありとあらゆる記憶が過り、そして──、
「……確かになんで殺さないのかしらね」
──停止。かけられた言葉に思考が止まった。その事実に苛立ちながらも、ネアの言葉に返答する。
「分からない。けど、何か分かりそうなんだ。この戦い、これまでと違いすぎる……クソ!ここまで出かかってるのに!!」
「……そう」
そして、ネアはゆっくりと視線を上げ、剣聖を見詰める。剣戟はまだ繰り広げられていた。
そして僕はあることに気が付く。
「まて……ネア、
確かに無駄かも知れないが、ネアはこの中で最上位の魔術の使い手だ。燃え盛る彼女を思わせるあの魔術は、剣聖打倒へと大きな貢献となるはずだ。
「──ああ、そう言うことね」
「ネア、聞いてるのか?……ネア!」
紅い瞳が、いつもは燃え上がる様な情熱を秘めた紅い瞳が、なぜが今だけは青く見える。
ゆっくりと向けられた、冷めた視線が僕を貫く。そして彼女はため息を付くと、怒号と金属音が響く中、そっと言葉を放った。
「──レーネ。殺して良いわよ」
「──了解です」
その会話はやけに大きく戦場に響いた。
そして一拍。吐き出された言葉が理解される前に──パッ、と。
鮮血が──
いろいろと間違えているかもしれません。