妖精の世界の地下に広がる世界、邪神級モンスターが支配する闇と氷の世界《ヨツンヘイム》。中央都市《アルン》を目指し、旅を再開させたソウテン達であったが、休息の為に足を踏み入れた村の宿屋が実は擬態モンスターであり、彼等は紆余曲折を経て、この極寒の地に落とされたのである
「仕方ないわね……取り敢えず、夕飯にしましょうか」
「わぁ!久しぶりにミトさんの鍋が食べれるんですねっ!」
「かーさんの鍋?其れは、
「はいっ!一度だけ食べましたっ!美味しかったですっ!」
「喜んでもらえて嬉しいわ。あら、リーファにフィリアはどうして、困った顔をしてるの?」
この状況で、鍋の準備を始めるミトの周りで和気藹々と盛り上がる面々。しかしながら、急な雰囲気転換に付いていけないリーファ、フィリアは引き気味に苦笑していた
「いや、あのね?ミトは状況を理解してるのかなー……って」
「してるわよ?目的地とは違う地下世界に落下して、耐空制限以上に厄介な飛翔不可能エリアに足止め状態よね」
「理解した上で、その対応してるのっ!?正気の沙汰じゃないよっ!」
「バカね。私たちはこういう修羅場を何度も潜り抜けたのよ?作戦くらいはあるわよ」
「「そ、そうなんだ……」」
冷静なミトにリーファが突っ込みを飛ばすも、彼女は自分たちが培った知識の豊富さをアピールし、二人に安心感を与える
「それで、その作戦って?」
「……………テン。何かある?」
「おろ?俺はてっきり、キリトが考えてるもんだと思ってたんだけど?」
「え?こういう場合はミトだろ?どう考えても」
「何を言ってるんです?作戦立案はリーダーの担当ではありませんか」
「えっ?ヴェルデじゃないの?だって、この中にいるのってヴェルデ以外はバカだし」
「やだなぁ、ヒイロってばー。作戦はヒイロの担当でしょ?」
「ん?シリカじゃなかったか?」
「私は貴殿だと思っていたんだが?ディアベル」
「あ?オッさんの担当なんじゃねぇのか?」
「結論から言っておく、作戦等は存在しないと思え。言わば其れが作戦だ」
「「期待を返せっ!!!」」
全員が互いに作戦担当だと思っていたらしく、アマツが出した完全的な結論は作戦が存在しないという暴論。其れに期待を裏切られたリーファ、フィリアが突っ込みを放つ
この場所は宿屋でもなければ、安全地帯でもない区域。つまりはログアウトすれば、一定時間の間、無防備状態となったアバターが取り残される事となる。其れは、モンスターを引き寄せる擬似餌となり、最後のセーブポイント《スイルベーン》までの強制送還を意味するのだ
「そう言えば、邪神級モンスターが居るんだよね?ここ」
「居るわよ。ミトさんが追い返した最強
「そうなのね……」
「ミト。言っとくけど、ワクワクすっぞとかは無しだからな」
「わ、分かってるわよ……」
自分と互角の鍔迫り合いを繰り広げた
「ミトが言ってたけどよ、マジでこのヨツンなんちゃらで飛ぶのは無理なのか?気合いで翅を動かしゃあ飛べんだろ」
「無理ね。翅の飛行力を回復させるには、日光か月光が必要なの。でも、此処にはどっちも無いじゃない」
「
「そうなんか。となると……ロト」
「ほい来た」
飛行不可能エリアである事を再確認した後、ソウテンは鍋の側にいたロトに呼び掛けた。すると、何も告げていないにも関わらず、即座に理解した彼は、瞼を閉じ、数秒も経つと、軽いため息を吐き、首を横に振る
「う〜ん……データを参照できる範囲内に他のプレイヤーの反応はないかなぁ」
「わたしも調べましたけど、それ以前に、あの村がマップに登録されていません」
「此方も同じ見解です。マスター・フィリア」
「う〜ん……どうしよう?テンちゃん」
《プライベート・ピクシー》からの結論を聞き、フィリアは鍋に舌鼓を打つ兄に問う
「簡単じゃねぇの、やるだけやってみりゃいいんよ。よし、取り敢えずは…この棒が倒れた方向に進むって事でオーケーかな?おめぇさんたち」
「そんなことしてるから迷子なんだぞ?お前は」
「全くです」
「学習能力ないの?」
「仕方ないよ。だってリーダーさんだし」
「辛辣過ぎねぇかっ!?」
提案した進み方を却下され、更に飛び交う悪口の嵐にソウテンが突っ込む。すると、その様子を見ていたリーファが、何かを思い付いたように、手を叩く
「まあ、テンくんの迷子振りはどうでもいいとして……あたしも、その案には賛成よ。確か、何処かに階段があったはずだわ。邪神の視界と移動パターンを見極めて、慎重に行動すれば行けるはずよ」
「そうだろう、そうだろう……あり?序盤にちょいと罵倒しなかった?」
「気のせいだよ」
「はぁ…ん?今の何かしら…」
威厳の欠片さえも感じられないソウテンに、ため息を吐いていたミト。刹那、遠くの方から大音響な咆哮が、彼女の耳に反響した
「恐らくは邪神の鳴き声かと……」
「デカい足音してる…」
「うぇっ!?た、大変じゃないですかっ!逃げましょう!リーダーさんっ!」
近付く邪神の足音に、シリカが慌てふためきながら、撤退を要求するがソウテンは、その場を動こうとしない
「どうしたんだぁ?テン」
「ちょいと様子が変じゃねぇか?」
「ああ、一匹じゃないな」
邪神の鳴き声に混じり、聞こえるもう一つの鳴き声にソウテンが気付き、その異変に気付いたキリトが確認するように呟く
「二匹もっ!やっぱり逃げましょうっ!」
「シリカちゃんに同感だわっ!早くっ!お兄ちゃん、テンくん!」
「いんや、そいつは大丈夫みたい」
「ロトくんの言う通りです。接近中の邪神級モンスター二匹は……互いを攻撃しているようです!」
「えっ?邪神が邪神を?どうなってるの?」
「うーむ、見てみない事には分からないかなぁ……其れは」
「そういうことなら、行ってみるか。ちょいと」
邪神が邪神を攻撃しているという状況を理解出来ないが故に、ソウテンの提案で、全員が件の現場に足を踏み入れる
視界に映ったのは、二匹の邪神。縦三つ連なった巨大な顔の横から四本の腕を生やした巨大な邪神、そして、象と海月を足した小柄な邪神、優勢は前者の方で、後者の小柄な方は明らかに劣勢である
「かわいそう………ねぇ、きっくん…お兄ちゃん」
「はい、虐められてる方を助けましょう」
「だな。スグもそうしたいんだろ?」
「うんっ!でもどうするの?」
「御安心を。既に準備は万端です……走りますよっ!」
「えっ?ちょっ!な、なにっ!?」
突如、走り出す
「喰らえっ!ハジケ奥義・パスタシュート!!」
「えぇーーーーーっ!?パスタ投げたっ!!」
投擲されたパスタは、邪神の眉間に突き刺さり、一瞬で狙いがキリトに切り替わり、彼と併走していたヴェルデとリーファも対象となる
「よしっ!後は頼んだっ!兄弟っ!」
「
「あいよっ!」
グリスにハンマーで、かち上げられたソウテンは極寒の世界で空高く飛び上がる。本来は、有り得ない光景にリーファは眼を疑った。その道化師は、不敵な笑みを浮かべ、蒼き衣を棚引かせ、誰よりも高く舞った
「永遠にadieu」
刹那、頭上から無数の槍が雨のように降り注ぎ、体を貫くも、三面邪神は反撃に転じようとリーファ達に近付く。しかし、逃げずに追ってきた小柄な邪神が、三面邪神を拘束し、動きを封じた事で、訪れた好機を、道化師は見逃さなかった。槍最上位ソードスキル《アルティメット・サイン》を模倣した技を放ち、三面邪神をポリゴンに変えた
「どうやら、この子に助けられたようですね」
「じゃあ、名前とかつけてあげようよ」
邪神を優しく撫でるヴェルデに、リーファが笑顔で告げると嬉しかったのか、眩い純白の光を包まれ、形状を変化させていく
放射状に真っ白い輝きを帯びた、四対八枚の翼が広げられた姿となった邪神は、背中にキリト達を乗せ、飛び上がる
「名前か…なら、俺がとっておきのを付けて--」
「はい!わたし、良い名前考えたっ!ゾウ・ゴリラ・サイ!」
「そんな変な名前あるかっ!!」
「シャチ・ウナギ・タコ!」
「ゾウは何処に行ったのよっ!?あとその動物の羅列をやめなさいっ!」
名前とは言い難い名前を付けようとするフィリアはリーファに鉄拳を見舞われ、頭に大量の瘤を作っていた
「なら、リーファは……リーファなら、どういう名前つけるの?」
「あたし…?あたしなら……そうだなぁ……トンキーとかどう?」
「トンキー……良い名前ですね。スグちゃんらしくて」
「だよね!だよね!さすが、きっくんは理解力あるなぁ!」
急ではあったが、良い名前が飛び出した事にリーファは嬉しそうに飛び跳ねる
「なるほど、トンキーか。俺の考えてたセニョール・ピーナッツよりも」
「そうね。私のジンギスカンエレファントよりも」
「俺の長鼻丸よりも」
「俺のムッシュ・ミズクラゲよりも」
「あたしのエッフェル・レアチーズよりも」
「俺のヘア・バームクーヘンよりも」
「私のイチャリババナナよりも」
「俺のバナ太郎よりも」
「俺の長曽根象牙丸よりも」
「気は確かですか?みなさん」
トンキー、と名付けられた邪神に乗り、空を漂うこと数分。世界樹の根っ子付近に、金色に輝く物が見えた
「おろ?なんだ、アレ」
「アレは《聖剣エクスキャリバー》ってお宝ちゃんだよ」
「一つしかない最強の武器なのよ」
「最強の剣か……職人。アレを超える剣は作れたりするか?」
「無論だろう?キリの字。俺は《職人》だ、貴様らの要望には無理難題だろうと応える……いや、応えてみせる」
キリトの問いにアマツは誇らし気に笑い、拳を突き出す。其れに応えるように、キリトが突き出した拳を軽く当てる
「また来るからね、トンキー」
「今度はごちそうを持ってきますね」
《アルン》に続く階段近くで降ろされ、名残惜しそうな鳴き声を挙げたトンキーをリーファが優しく撫で、ヴェルデも笑みを浮かべる
其れに安心したのか、嬉しさに溢れた鳴き声を挙げた後、深い闇の底へと、溶けるかの様に姿を消していった
「そいじゃあ………いよいよ、敵陣に乗り込むとするかねぇ」
「待っててね……アスナ」
「今、行くからな」
「ママを助けましょう!絶対に!」
『応っ!!!』
かくして、最終目的地に辿り着いた《
いよいよ、《アルン》に辿り着いた《
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一周年記念!もう一度読みたい再編集話は?
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