「……………」
昼休みの食堂で、好物のピーナッツバターサンドを片手に流れる白い雲を眺める天哉。その瞳は寂し気で、何時もの不敵な笑みは見受けられない
「リーダーが物思いに耽ってる」
「これは珍しいですね。明日は台風でしょうか」
「テンが悩むだと…!?ま、まさか天変地異の前触れかっ!!」
「どうしましょう!あたし、まだ死にたくないです!アイドル生活を終わらせたくないですっ!」
「………そうか、今日だったな」
普段はあり得ない天哉の姿に、慌てふためく彩葉達を尻目に和人だけは全てを理解したように彼を見ていた
「和人。何か知ってるの?」
「あ〜……これは俺の口からは言えないかな…」
「むっ、和人くん。恋人のわたしにも言えない事なの?それは」
「ああ、明日奈にも言えない。これはテン自身が蹴りをつけなきゃいけないことだからな…」
「テンくん自身が……?」
「どういう意味なの…?」
煮え切らない態度を示す和人に、明日奈も、深澄も疑問符を浮かべるしかない。其れでも彼は頑なに語ろうとせず、パスタを食べ終えると足早に食堂を後にした
「うむ……これはいかんな。よし、鈴代君!例の策を実行するぞ!」
「よしっ!任せてくれっ!汚名挽回だ!」
「いや、汚名挽回してどうするんですか」
「菊丸。鈴代先生はバカなんだよ」
「よく其れで教育実習しようと思いましたね」
「んだとコラァ!」
菊丸、彩葉、圭子の辛辣な物言いに阿来は彼等を追い回す。その騒動に参加していない純平は意気揚々と何かの準備を始める高良に視線を向ける
「んでよ、先生。何やるんだ?」
「うむ、桐ヶ谷の家に家庭訪問だ」
「ただいま……ん?珍しいな、母さんの靴がある…」
放課後。自宅に帰宅した和人は玄関に母の靴がある事に気付き、疑問に思う。大抵の場合は帰りが遅い彼女の靴がこの時間帯にある事は珍しい。左右に首を捻り、疑問符を浮かべる
「……ん?なんだ、この歌は……なんか聞き覚えがあるな……確か圭子のデビューシングル……ま、まさか!!」
刹那、家の中から響き渡る謎の歌に和人は靴を脱ぎ捨て、リビングに駆け込む
「「どりゃァァァァァァ」」
「彩られたら、彩り返す〜。塗りたくって、塗りたくって〜」
「其れでですな、桐ヶ谷さん。オタクの息子さんは学校でもぼっちなんですよ」
「あら、そうなんですか。やっぱりあの目が良くないんですかね、死んだ魚みたいですもんね」
「人の家で何してんだぁぁぁぁ!!」
「「ぐもっ!?」」
キッチンでスタイリッシュにチャーハンを炒める純平、彩葉、菊丸、阿来に蹴りを叩き込むと、その先に居た圭子と高良が二次災害を受けるように巻き込まれる
「あら、和人。おかえり」
「ああ、ただ……って!母さん!何でこいつらをいれたんだっ!」
「何を言ってるのよ。担任の先生と友達なんでしょ?あげてもいいじゃない、別に」
「「全くです、お母さん」」
「うっせぇっわ!!何を開き直ってんだ!!ここは俺の家だ!というか、そのチャーハンも俺のだろうが!」
「カズさん。細かいことは気にしちゃいけない、世の中には新聞紙をトイレットペーパーって呼ぶ人も居る」
「何の話をしてんだ!お前は!この焼き鳥チビっ!」
「チビじゃない。成長期」
「あっ、スグちゃん。お茶をもらえますか?」
「いや当然のように言わないでくれるっ!?というか何でいるのっ!?」
「純平さん!今日も素敵な筋肉ですね!」
「おぉ!そうだろう、そうだろう!」
彩葉を相手に毎度のやり取りをする和人の背後には、稽古帰りの直葉に御茶を要求する菊丸、何時の間にか上半身裸の純平を褒め称える琴音が居た
「桐ヶ谷……いや、キリト。俺たちが来た理由は分かってるんだろ?聞かせてくれよ」
「………駄目だ。この話は簡単に話していいことじゃ---」
「話してやりなさい。カズ」
「母さんっ!?」
阿来が真剣に頼むも口を噤む和人。その一瞬で、何かを理解した翠は煙草を蒸し、息子へ話すように促す
「分かり合たいなら隠し事はしない……其れが我が家の家訓よ」
「………分かったよ、話す、実は」
「よぉ、久しぶりだな。随分と待たせちまった」
此処は所沢霊園。「蒼井家之墓」と刻まれた墓石の前に佇む少年。青いメッシュ入りの黒髪と青い羽織を風に靡かせる彼、天哉は母が眠る墓前に花を手向ける
「あの日から一度も会いに来てなかったよな……ホントにダメだよなぁ…俺って…」
あの日、其れは七年前の4月11日。天哉の人生全てが変わってしまった日。行き場の無い怒りをひたすらに打つけ、荒れた心には治らない黒い衝動が生まれ、思い付く限りの犯罪を繰り返し、満たされない欲を満たす為に、がむしゃらに、怒りをぶつけるようになった日。この日を彼は忘れた事などない、忘れられる筈などなかった
「この前さ、オヤジに会ったんだ。久しぶりに見るてめぇの息子を見た開口一番がそこのガキだぜ?笑っちまうよな……でもさ、不思議と嫌じゃなかったんだ。昔はオヤジに会う度に、うざったくて仕方なかったのに……久しぶりに見たオヤジはちょっとだけ…ほんのちょっとだけだけど、優しく見えたんだ」
眠る母に語り掛けるように天哉は嬉しそうに父との再会を話す。その表情は次第に無邪気な年相応の少年に変わっていく
「…………よくもまぁ、あんなに喋る事があるもんだ。誰に似たのやら……」
「あ、あの……天哉君の御父様ですよね?」
木の影から様子を見ていた天満が吐き捨てるように悪態にも似た皮肉を吐いていると、背後から少女に呼び掛けられた。振り向くと、濃紫がかった黒髪ポニーテールの少女が立っていた
「君は……確か、須郷の時に天哉といた子だな?えっと…」
「兎沢深澄と言います。天哉君とは一応……結婚を前提にしたお付き合いをさせていただいてます……」
「そうか、天哉の…。どうだ?アイツは」
「どう…というのが天哉君の魅力を聞いているのだとしたら、彼は不思議な人です。突然、現れたかと思えば、まるで世界を彩るように道を切り拓いたり、道草ばっかりしているかと思えば、しっかりと私たちを導いてくれたり、道を間違えたかと思えば、その手を引いてくれる……でも、そんな彼だから、誰かを幸せにする事を真剣に考えられる彼だから、蒼井天哉だから、私たちは彼を“リーダー”って呼ぶんです。其れが、私たちが彼に出来る一番の恩返しですから」
そう言って笑う深澄の笑顔が、天満の瞳には亡き妻の姿が重なる。まだ自分が警官となりエリート思考に塗れる前、仲間たちと“チーマー”と呼ばれるカラーギャングの前身とも言える徒党を組み、怒りをぶつけまくっていた時期に出会った彼女、音葉が笑ったような気がした
『天満くん!また喧嘩したでしょ!』
『してねぇよ……』
『ウソっ!翠ちゃんが言ってたわよ!』
『翠!テメェ!』
『うっさい、バーカ!』
『んだとコラァ!!誰がバカだ!』
『アンタ以外に誰が居んのよ?このバカ』
『コラっ!天満くんも翠ちゃんも喧嘩はダメだよっ!』
『ぐもっ!?』
何時からだっただろう、彼女とそういうやり取りをしなくなったのは。息子を自分の操り人形のように思うようになったのは。何時からだったのだろう、自分が自分でなくなったのは……
「深澄さんだったか。君は天哉が好きか?」
「はい、大好きです。親の貴方に言うのもなんですけど……世界中の誰よりも彼を、天哉を私は愛してます」
「そうか…君には悪いが、俺は天哉と琴音、音葉の三人を愛してる。つまりは三倍だな」
「なら、その更に上を目指すだけです。私は彩られたら、彩り返す主義ですから」
「……面白いお嬢さんだ」
「おろ?ミトに、オヤジ?なにしてるんよ」
話に夢中になっていた深澄と天満が火花を散らし合っていると間の抜けた声が耳に届いた。其処には墓参りを終えた天哉が立っていた
「天哉。墓参りは良いのか?」
「ああ、終わったから。オヤジは今からか?」
「ああ。音葉のヤツ……なんか言ってたか?」
背を向け、深澄と共に歩き出した天哉に問いを投げ掛ける天満。すると彼は、振り返らずに手だけ振った
「バーカ、死人が口なんか聞くかよ。知りたきゃ、自分で聞いて来い」
深澄は彼の横顔を見る、その表情は不敵な笑みを浮かべていたが嬉しそうであった。繋がれた手を握り返し、霊園の入り口に歩いていく。仲間たちが待つ明日へ、二人はまた彩りを加えにいく
「「テン(さん)!」」
「おやまあ、おめぇさんたち。来てたんか…じゃあ行くとするか…派手に!」
「「了解!リーダー!!」」
ある日、ロトはユイとエストレージャの二人と御使いに出かけることになった。しかし、はじめてのおつかいは前途多難のハジケ街道まっしぐら!
NEXTヒント おつかいできるかな?
一周年記念!もう一度読みたい再編集話は?
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