蒼の道化師は笑う。   作:田中滅

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遂に……GGO編最終幕!長かった!途中に他の作品に気を向けて、滞り気味だったから、マジで長く感じた………


第二十四弾 兵どもが夢のあと。

「………………知らない天井だ。あっ、いや知ってる天井だ………って!御約束のボケをかましてる場合じゃねぇ!」

 

頭から《アミスフィア》を外し、素っ頓狂な発言をしながらも勘助はベッドから飛び起き、床に脱ぎ捨てていた愛用の赤い革ジャンに袖を通すと自宅を飛び出した。愛用のバイクに跨り、その鼓動を響かせる

 

(詩乃……頼む!間に合え!!!)

 

大切な相棒にして守りたい人である彼女の安否を願い、彼は目的地に只管に走らせる。満足を忘れた獣は久方振りに暴れ回った事で溢れる欲に、解放された真の理性に、その身を預けていた。忘れていた過去、鎖天衣(サティス)としての満足感を思い出した彼に敵はいない。故に彼はその走りを止めようとは思わない。やがて、詩乃が住むアパート付近に差し掛かると、換気のために開いていた窓から声が聞こえてきた

 

「朝田さん……ああ……僕のシノン!!!」

 

「や……やめ……やめて……!!」

 

「駄目だよ、朝田さんは僕を裏切っちゃ駄目だよ。これは無針高圧注射器っていう注射器なんだ。これに入っているのは《サクシニルコリン》っていう薬で、これが身体に入ると筋肉が動かなくなって、直ぐに肺と心臓が止まるんだよ」

 

信頼していた筈の友人である少年、恭二に裏切られた彼女は身の毛もよだつ恐怖に見舞われていた。その手にある薬品は《死銃》事件のもう一つの凶器とも呼べる注射器。渦中の存在である事は火を見るよりも明らかだ

 

「やっぱり………ツキが……勘助が言ってたみたいに新川君……が……もう一人の死銃なの…」

 

「そうだよ、僕は《死銃》の片手だよ!もう一人の協力者である弟は今頃、あの道化師共の所に向かってる筈だ……僕はGGOで最強になれればそれでよかった。なのに、なのに……ゼクシードのクズが……AGI型最強なんて嘘をっ!GGOは僕の全てだったのにっ!現実を全て犠牲にしたっ!!なのにっ!!奴は僕から全てを!シュピーゲルを奪った!!これが許せると思うかっ!?」

 

狂っている、彼女の知る誰とも違う思考。幼馴染の少年さえも獣の様に暴れ回ってはいたが、人を殺めるまでには至らなかった。然し、彼は違う。自分の浅はかな満足感の為だけに人を殺めたのだ

 

「さあ、朝田さん。一緒に《次》に行こう。GGOみたいな…… ううん、ALOみたいなファンタジーっぽいやつでもいいや。そういう世界で生まれ変わってさ、結婚して一緒に暮らそうよ!一緒に冒険してさ、子供も作ってさ、きっと楽しいよ!」

 

現実逃避、自分は死ぬんだと……動かない体。誰かに助けを求めようにも、恐怖で声が出せない。平凡な世界で、忘れようとしていた過去が、辛い現実が、彼女の体を鎖に縛られた様に捕らえる

 

「勝手に楽しんでろやっ!!!」

 

「あがっ……!?」

 

その声と共に窓を盛大に突き破り、一匹の狼は吠えた。赤い革ジャンを肩に羽織り、ぎらりと上顎から犬歯を覗かせ、銀髪を掻き上げ、カラーギャングのリーダーとして名を馳せた白築勘助は、其処に佇んでいた

 

「つ、ツキ……」

 

「待たせたな」

 

「遅いのよ!バカ!何してたのよっ!!」

 

乾いた笑みで浮かべ、自分を抱き寄せた勘助の胸を詩乃は何度も叩く

 

「白築ィ!!お前だけは!お前だけは!!」

 

「外に逃げろ!!もうすぐで桔花たちが来る!」

 

その姿に逆上した新川が注射器を片手に走り出す。咄嗟に詩乃を突き飛ばした勘助は彼女の前に躍り出ると、その胸に注射器を振りかぶる

 

「おやまあ、もうお開きかにゃ?随分としけたパーティーだねぇ?コイツは」

 

「二次会はあるんだろうな?言っとくが俺はパスタ以外の締めは認めないぞ」

 

夜風が吹く窓際、その二つの声は響いた。《吏可楽流(リベラル)》と書かれた青い羽織を靡かせた不敵な笑みの少年と全身を黒一色で統一した少年。天哉と和人は其処に佇んでいた

 

「誰だ!!」

 

「おろ?誰とは随分な御挨拶じゃねぇの。コイツはおめぇさんの弟だろ」

 

下から引っ張り上げた一人の男を天哉が投げ捨てる。その男に新川は見覚えがあった、血を分けた弟の真三だ

しかしながら、彼は知らぬ顔で軽くため息を吐いた

 

「知らないよ、そんなヤツは。それに邪魔をするな!僕の愛は揺らがないんだ!本物のハンドガンで、悪人を射殺したことのある女の子なんて、日本中探しても朝田さんしか居ないよ!本当に凄いよ!僕はそんな朝田さんを愛しているんだよ!」

 

「おやまあ、コイツは随分と私欲に塗れたヤツだ。でもなぁ……お前が愛情を語るんじゃねぇよ」

 

その顔からは不敵な笑みが消え、冷たく刺す様な鋭い視線が真っ直ぐと新川を見据えていた

 

「理想を押し付けることが正義だってんなら、俺たちは真っ向からそれを否定してやる。てめぇの失敗を誰かに押し付けるヤローが誰かを愛する意味を語るんじゃねぇ!!!此処がお前の人生の幕引きだ」

 

「うるさい!お前から殺してやるっ!!!」

 

新川は注射器を手に天哉目掛け、走り出す。しかしながら、冷静さを失くした者の思考は脆い。其れを長年の喧嘩漬け生活で知る天哉は、注射器を握る手を蹴り上げ、即座に軸足を固定し、ありったけの力を込めた蹴りを叩き込んだ。勘助はその姿を知っている。彼が宿敵と呼ぶ少年は其処に佇んでいた

 

「あ〜……流石に起き抜けに二発は体に来る…」

 

「おっ……天満さんからの連絡だ。《死銃》は捕まえた、残りの二人も連れてこいやバカ息子だとよ」

 

「あの酒乱オヤジ。人使いが荒すぎだろ……ったく……てめぇの仕事を押し付けやがって……」

 

悪態を吐きながらも、新川たちを引き摺りながら玄関に向かう背中にはスペイン語で《自由》を意味する《吏可楽流(リベラル)》の文字が目立つ

 

「テン!次はテメェの頭に鉛玉を打ち込んでやっからな!」

 

「やれるもんならやってみな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そーいや、また大活躍だったみてぇだな?《蒼の道化師》さん」

 

「大活躍ぅ?タダ働きだ、あんなもんは。あんのクソオヤジめ……」

 

《GGO》を巻き込んだ事件から数日。通い慣れた店でグラス片手に悪態を吐く天哉、その前に立つのはバーのマスターであるエギルに他ならない

 

「そーいやよ、カズのヤローはどうした?」

 

「あらかた道草ですよ。あの人はパスタ屋に目がありませんからねぇ」

 

「道草は美味しくない」

 

「彩葉?そういう意味じゃないのよ、道草は」

 

「ふむ……マイク娘と鈴代先生に高良先生は都合がつかずに不在か」

 

未だに来ない和人を待ち侘びながらも、雑談を繰り広げる深澄たち。然し、その輪に混じらない少女がいた、明日奈である

 

「全くキリトくんは……」

 

「このアップルパイいけるわね!ちょっと!エギル!ジャムもつけてもらえる?というか、つけなさいよ」

 

「里香。そのジャム狂いをどうにかしろ」

 

「うるさいわね!試食コーナーにご飯を持ち込む迷子よりはマシよ!」

 

軽くため息を吐く明日奈を他所に、アップルパイを頬張っていた里香がジャムを要求する姿に茉人が突っ込みを放つが、彼女はカウンターに項垂れていた天哉を指差しながら抗議を始めた

 

「迷子じゃない。あと試食コーナーにご飯持参はメキシコでは当たり前の事だし、あれは単なるご飯じゃない。ピーナッツバターライスだ」

 

「メキシコが誤解されるでしょうが!!」

 

「そうだぜ?テン。持ち込むなら、バナナだ」

 

「いえ、カレーです」

 

「焼き鳥一択」

 

「試食コーナーに持ち込むんじゃないわよっ!!」

 

常識の欠片もない非常識な振る舞いの天哉たちに深澄の突っ込みが冴え渡る。刹那、扉の開く音が耳に入った

 

「待たせ---ぐもっ!?」

 

「待ってないよ♪私も今きたから……とでも言うと思ったか!!やっちまえ!野朗共!」

 

「「「了解!リーダー!」」」

 

店に姿を見せた和人が全てを言い終える前に天哉の蹴りが直撃し、呼び掛けに答えた三人の馬鹿が手際よく天井に彼を括り付けた

 

「おらー!!ピーマン食えやっーーー!!!」

 

「内緒でお高い店に行くの良くない」

 

「お食べなさい、そして更にお食べなさい」

 

「むごっ!?むごごっ!!!

 

正に地獄絵図、天井から吊るされた和人を取り囲むように三人の馬鹿が彼の口にピーマンを押し込んでいた

 

「こうやって、顔を突き合わせるのは初めてかな……俺は蒼井天哉、道化師の中身だ」

 

騒がしいやりとりを見守る天哉は入り口に立っていた詩乃に声を掛け、軽い自己紹介をしてみせる

 

「朝田詩乃です。勘助から噂は聞いてます、ライバルなんですよね?」

 

「ライバルねぇ……まぁ、そんな感じかな。どうだ?あのヤローは」

 

「毎日が退屈しないかな?そういえば……蒼井くんが私を呼んだのよね?」

 

「テンで良いよ。此処におめぇさんを呼んだんは他でもない、会ってもらいたい人がいるからだ」

 

「どうぞ」

 

詩乃からの疑問に対し、不敵な笑みを浮かべた彼が目配せで合図を送ると深澄が店の奥に呼び掛ける。すると、其処から一人の女性が姿を見せた、その手に引かれるのは年端もいかない少女。見覚えのない二人に詩乃は首を傾げる

 

「えっと………」

 

「はじめまして。朝田……詩乃さん、ですね?私は大澤祥恵と申します。この子は瑞恵、今年で四歳です。この子が生まれてくる前は……市の郵便局で働いていました」

 

その場所を彼女は知っていた、自分の世界が壊れる切っ掛けになった始まりの地。今になって、なぜ?どうして?様々な想いが過ぎり、震える彼女を優しく誰かが抱き締めた

 

「大丈夫だ。この人はお前を攻めにきたんじゃない、謝りに来てくれたんだ。だから、前を向け。お前は一人じゃない」

 

「そうだぜ?アタイ等が一緒だ」

 

「おれちゃんたちは仲間だかんな」

 

「やれやれだ……」

 

「みんな………」

 

(そうよ、貴女は強い。だって、冥界の女神なんだから…)

 

振り返れば、其処には勘助が、桔花が、乱二郎が、クイックドロウ基早瀬走亮が、そして何よりももう一人の自分であるシノンが立っていた

 

「私はスナイパー、撃ち抜けないハートはないんです。この手で救えた命があるなら………私も救われた気がします」

 

そう告げながら、笑う横顔を眺め、グラスを口に運ぶ。そして、道化師は一人のスナイパーと彼女を取り囲む獣たちへ、深々と頭を下げる

 

「本能のままに暴れ回る獣たちの弾幕の荒野での爆速道中記……お楽しみいただけましたか?皆様の御眼鏡に称う日々を彩れておりましたら、拍手御喝采の程、御願い申し上げます。其れでは、今宵の舞台は……此れにて、幕引きと致しましょう。また会う日まで、暫しのお別れに御座います、Adiós(さよなら)

 

此れは仮想世界を艶やかな色彩で、己の色に彩りし、十人の勇士たちの物語

 

一癖も二癖もある者たちを率いるは、仮面から覗く蒼き眼で万物を見透かし、不敵な笑みを携えし、槍使い

 

その名を、『蒼の道化師』と申す




此度の爆速道中記をお楽しみいただき誠にありがとうございます。次回からは更に賑やかさを増した愉快な演者を加え、新たな世界に彩りを加えていこうかと思います。其れでは今宵はこの辺りで幕引きと致しましょう、Adiós(さよなら)

もしも、そーどあーと・おふらいんを書くなら…

  • ソウテンとミトが司会の賑やかな雰囲気
  • キリトとアスナが司会の正規の雰囲気
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