「ごめんなさい、急に呼び出して。でも………キミと話す為の時間が、どうしても、ボクには必要だったんだ……」
《
「意外だね、おめぇさんがアスナじゃなく俺を呼ぶなんて……どうかしたか?ユウキっち」
名を呼ばれ、彼女基ユウキは向かい合うソウテンの瞳に何かを感じたのだろう。力の無い笑顔で笑い、ゆっくりとソファに腰を下ろす
「実はね………そろそろ……旅に出ようと思うんだ……長い長い旅に…。だからさ、道化師さんにはお願いしたいことがあるんだ。これから先、ボクのいない世界でアスナや《スリーピング・ナイツ》のみんなが真っ直ぐと歩いていけるように導いてほしい……これは道化師さん……ううん、テンだから頼めることなんだ。お願い出来ないかな?」
真剣な表情で語るユウキ、彼女の事情はある程度は理解している。それでもソウテンは首を縦には振ろうとしない、誰かを失う喪失感を理解しているが故に自分不在の仲間たちを導いて欲しいという願いを聞き届ける事は彼からすれば、一番の嫌う案件なのだ
「その願いは聞き届けられない」
「どうして……!」
「まだ生きてるヤツにてめぇの仲間を頼むって言われて、構わないと言うと思ったか?いいか?ユウキ。お前はまだ生きたいと願う気持ちがある、誰かを思いやる想いがある、生き抜くだけの強さがある………」
相対するユウキに対し、ソウテンは優しい笑顔を浮かべると彼女の頭に手を置き、数回ほど撫でる
「てめぇが生きた証を残せ。その時は、俺もその願いを聞き届ける」
彼也の最大限の譲歩、聞き届けるからには対価を支払わせる。それが彼女の生きた証を残すことならば、誰もが納得する筈だと彼は理解していた
「………うん!約束だからね!」
「
彼女と指切りを交わし、誰も知らない約束を交わす。時間が来たと告げ、ログアウトするユウキを見送り、窓から見え隠れする影を横目で見る
「ミトにロト。さっきから見えてんぞ〜」
「あら、バレてたのね。流石は天下の道化師ね」
「やははー、とーさんの索敵スキルを掻い潜るんは至難の業だねぇ。こいつは当面の課題になりそうだ」
呼び掛けに答え、部屋の中に入って来たのはミトとロト。ソウテンにとっては世界中で誰よりも大切に思っている恋人と息子だ
「そいで?話を聞いてたんだろ?」
「そうね。ユウキの願いを聞き届けなかった薄情な人の話なら、盗み聞きしてたわよ?何か理由でも?」
不敵な笑みを崩さないながらも、真剣な声色で問われた問いに冗談を交えながらもミトは問い掛けで返すと、彼は数秒の沈黙を生みながらも口を開く
「例えばだ。俺はもうすぐ死ぬから、あとは任せていいか?って聞かれたら、なんて答える?」
「ふざけんなって殴るわね。もしくは口にピーマンを押し込むわ」
「あー……うん、言わんとしてる事は理解出来るがやめてほしいかな?それは。まぁ、そういう感じだ。だから、俺はユウキに条件に提示したんよ」
「ふぅ〜ん……まぁ、深くは聞かないでおくわね」
「話が分かるな、流石は俺の嫁さんだ。どうだ?ロトも交えて、今日も川の字で寝るか?ミトさんや」
「あら、それは素敵な提案ね?道化師さん。是非ともお願いしたいわ」
「わーい!とーさんとかーさんと寝れるんか?そいつは正に至れり尽くせりだねっ!流石は気配り上手なとーさんだ!」
体を伸ばしながら、立ち上がったソウテンが手を差し出すとミトは優しく笑い、提案を受け入れる。それを聞いていたロトがピクシーサイズから少年の姿に戻ると無邪気に喜びながら、ソウテンの背中に飛び付き、三人は寝室に向かって歩き出すのであった
「アレがもう二ヶ月も前か」
月日は流れ、ユウキと約束を交わした日から二ヶ月の時が流れていた。長い長い旅、仮想世界と現実世界の二つを行き来しながらの彼女の旅は全てが夢のように過ぎていき、行き着く暇もないほどに満ち足りていた
「テン……今、アスナから連絡があったわ。ユウキは第22層の小島にいるみたいよ」
「そうか」
「そうか……って行かないつもりか?お前」
ミトがユウキの居場所を口にするも、淡白な返事を返すソウテンにキリトは異議を唱えるが当の本人は空き缶を手に不敵な笑みを浮かべている
「焦るなよ。俺たちは部外者だろ?だから今は少しだけ……仲間たちだけで過ごす時間を与えてやろうという配慮が解らんかね?このぼっちは」
「仮面かち割るぞ」
「だとしてもよ、事態は急を要するのよ?悠長にお茶を嗜んでる場合じゃないわ」
焦りを見せないソウテンは噛み付くキリトを片手で制しながら、空き缶を片手に立ち上がる
「そいつは置いといてだ……缶蹴りしよう」
「「「どうぞ、一人でやってください」」」
「出来るかっ!!というか既に缶蹴りは始まってるんだな、見つけてないんはアスナとユウキたちくらいか……さて、どうしたもんかなぁ〜」
「なるほど……全く素直じゃないわね…」
無慈悲も放たれた全員からの一言に、両眼をくわっと見開いた後、直ぐに何時もの不敵な笑顔に切り替えたソウテンの言葉にミトは小さく呟き、優しく笑った
「そういうことって……なんだ?なんか分かったか?今ので」
「分からないけど、リーダーが内緒にしてる時は何かある……だから今はアスナさんたちのとこに行くのが良いと思う」
「ヒイロくん。それは最早、答えですよ?やれやれ……仕方ありませんね」
「うむ!なんだか良くは分からないがアスナの所に向かえば良いのだな!」
「コーバッツ、世間ではそれを理解していないと言うんだぞ?分かってないだろ」
「仕方あるまい。コーバッツだからな」
「フィリアは分かる?あたし、なにも分からないんだけど……」
「え?ごめん、グリスさんの腹筋に夢中で聞いてなかった。カンパンがどしたの?」
「誰もそんな話はしてないわよっ!?兄妹揃って、どんな耳してんのよっ!!」
「それでは行きましょう!あたしのライブ会場へっ!」
「「「違うわっ!!マイクバカ!!」」」
「ぐもっ!?アイドルのあたしを殴るとか何を考えてるんですかっ!シバきますよっ!バカどもっ!!!」
目的地に向かおうと飛び立たんとするソウテンたちであったが、全く理解していなかったシリカに全員からの物理的な突っ込みが放たれ、結局は何時もの殴り合いとなり、気付いた時には既に夕暮れを迎えていた
「しまった!急げェェェェ!!野朗どもっ!!」
「「「了解!リーダー!!」」」
ソウテンの号令と共に《
「すごい……妖精が、こんなにたくさん…」
「ユウキは嫌がるかもって思ったんだけど、わたしがテンくんにお願いしたの……」
「嫌なんて……そんなこと、ないよ…。でも、どうして……なんで、こんなにたくさん…」
空に溢れる数多の妖精、その数に圧倒されながらもユウキは涙目で空を見上げる。幻想的な光景を視界に焼き付けようと、しっかりと見上げていた
「ユウキ……あなたは。かつてこの世界に降り立った、最強の剣士。あなたほどの剣士は二度と現れない。そんな人を、寂しく見送るなんてできないよ。みんな、祈ってるんだよ………ユウキの、新しい旅が、ここと同じぐらい素敵なものに、なりますようにって」
「そっか………残せたんだ………生きた証を……嬉しいなぁ……。ボクね……ずっと、考えてたんだ…。死ぬために生まれてきたボクの……世界に存在する意味は、なんなんだろうって…。何も生み出せなくて、与えられなくて、薬や機械を、たくさん無駄遣いして…。周りの人を困らせて、自分も悩んで、苦しんで……結局、消えるだけなら、もっと早くに消えたほうがいい…。何度も、何度も…そう思った……なんで、ボクは生きてるんだろう…って……でも、それは違うって、テンたちが、アスナが教えてくれた…。意味なんてなくても……生きて、いいんだって…。だって……最後の瞬間に、こんなに、たくさんの人に…囲まれて……大好きな人の腕の中で、旅を……終えられる……から…」
燃え尽きようと、残り少ない命が消えていこうとしている。最後だからこそ、アスナは両眼から落ちる涙を堪えることが出来なかった。それは《スリーピング・ナイツ》のメンバーたちも同様だ、付き合いの長い彼等の悲しみはアスナ以上に違いない
「
「…………いってらっしゃい。またいつかきっと……会いましょう?ユウキ」
優しく笑うアスナの腕の中でユウキは息を静かに引き取った。その旅路が良きものである事を願い、集った妖精たちは深々と頭を下げ、彼女に手向けとなる言葉を贈った
「「「
それから一週間後。告別式を終え、彼女は多くの友人たちに見送られながら旅立った。人は亡くなった日の天気で人柄が分かると言われているが、彼女が亡くなった日から告別式の日までは晴天に恵まれ、その翌日から三日間も雨が降り注いだ。それは彼女の死を世界が涙しているというのに他ならない
「ねぇ、テン?ユウキは幸せだったのかしら?」
「幸せだったんじゃないか?たくさんの人に見送られて、生きる意味を、生きた証を見つけた……これ以上の幸せな事を俺は知らねぇし、聞いたこともない。だからきっと、間違いなく彼女は幸せだったはずだ」
『とーさんは相変わらず、意味深な事を言うねぇ?』
「意味深なんかじゃねぇさ。俺がそうだったから、そう思うだけだ……深澄に出会い、ロトに出会い、アイツらに巡り会った……なっ?幸せじゃねぇか」
「……ふふっ、テンらしいわね」
桜が満開の大木を見上げ、深澄の肩を抱き、彼は笑う、心からの笑顔で。そして、道化師は明日奈と彼女の背後で優しく笑う《絶剣》に深々と頭を下げる
「仮想世界に降り立った一人の剣士が生きる為に戦い抜き、天寿を全うするまでを描いた剣士英雄譚……お楽しみいただけましたか?皆様の御眼鏡に称う日々を彩れておりましたら、拍手御喝采の程、御願い申し上げます。其れでは、今宵の舞台は……此れにて、幕引きと致しましょう。また会う日まで、暫しのお別れに御座います、
此れは仮想世界を艶やかな色彩で、己の色に彩りし、十四人の勇士たちの物語
一癖も二癖もある者たちを率いるは、仮面から覗く蒼き眼で万物を見透かし、不敵な笑みを携えし、槍使い
その名を、『蒼の道化師』と申す
此度の剣士英雄譚をお楽しみいただき誠にありがとうございます。次回からは、劇場版のオーディナル・スケールを軸に新たな彩りを加えていこうかと思います。其れでは今宵はこの辺りで幕引きと致しましょう、
もしも、そーどあーと・おふらいんを書くなら…
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ソウテンとミトが司会の賑やかな雰囲気
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キリトとアスナが司会の正規の雰囲気