蒼の道化師は笑う。   作:田中滅

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第三幕 別離

茅場晶彦

 

その名は、誰もが知るビッグネームだ

 

SAOを作った天才ゲームデザイナーにして量子物理学者。そして、何よりもナーヴギアの基礎設計者でもある

 

『プレイヤー諸君は、既にメインメニューからログアウトボタンが無いことに気づいてると思う。それは、不具合ではなく《ソードアート・オンライン》本来の仕様である。諸君は今後、この城の頂を極めるまで、ゲームからログアウトすることはできない。また、外部の人間によってナーヴギアの停止、解除を試みられた場合、ナーヴギアが諸君の脳を破壊する』

 

「そんなこと…出来るの?ヴェルデ」

 

「不可能……と断言したい所ではありますが、可能です」

 

「ヴェルデの言う通りだ。新技術っていっても原理は電子レンジと同じ。出力さえあれば脳を蒸し焼きにすることもできる」

 

「で、でも、電源コードをいきなり抜けば…」

 

「ナーヴギアの重さの3割はバッテリーセルです。コードを抜いてたとしも、其れは意味を成さない。つまりはコード無しでもナーブギアは動き続けます」

 

「ま、マジかよ…」

 

『10分間の外部電源切断、2時間のネットワーク回路切断、ナーヴギア本体のロック解除、または分解、破壊のいずれかによって脳破壊シークエンスが実行される。現時点で、警告を無視しナーヴギアの強制除装を試み、すでに、213名のプレイヤーがアインクラッドおよび現実世界から永久退場している』

 

213名。それだけの人の命が失われた、これを恐怖せずに居られるだろうか?不可能である。誰もが言葉を失う中、茅場が続ける

 

『今、ありとあらゆる情報メディアによってこの状況は報道されている。ナーヴギアを装着したまま、2時間の回路切断猶予時間のうちに病院、施設に搬送される。現実の肉体は、厳重な介護体制のもとにおかれる。諸君には、安心してゲーム攻略に励んでほしい。さらに、《ソードアート・オンライン》はもうただのゲームではない。もう一つの現実だ。今後、ありとあらゆる蘇生手段は機能しない。HPがゼロになった瞬間、諸君のアバターは永久に消滅し、ナ―ヴギアによって脳を破壊される』

 

突きつけられた現実に、誰もが息を呑む。見えない恐怖に怯え、苛立っていた。それは、まるで箱庭に閉じ込められた鑑賞動物のようだ

 

『このゲームから解放される条件はただ一つ。アインクラッドの最上部、第100層に辿り着き最終ボスを倒すことだ。そうすれば、生き残ったプレイヤーは、全員、安全にログアウトされることを保証しよう』

 

ざわつき、どよめくプレイヤー達に対し、茅場はまたも口を開いた

 

『最後に諸君にこれが現実である証拠を見せよう。アイテムストレージに私からのプレゼントがある。確認してくれたまえ』

 

アイテムストレージを開く。其処にあったのは一つのアイテム

 

アイテム名:手鏡

 

《手鏡》、これが茅場の言うプレゼントなのだろう。オブジェクト化した鏡にはアバターと同じ顔が映されている

 

刹那、プレイヤーたちの体を白い光が包んだかと思えば、数秒が経過した後に視界を開き、ソウテンが周囲を見回していると隣から聞き覚えのある声が耳に入る

 

「えっ……?リーダー、その顔って…」

 

「ヒイロくん…!その顔!」

 

「ヴェルデ!お前もだぜ!?見慣れた眼鏡面になってやがんぞ!」

 

「ヤベェな……せっかくの美形が台無しだ。これじゃあ、単なる凶悪犯じゃねぇか」

 

「「「「何を今更」」」」

 

「ハモるなっ!」

 

「そのノリ……まさか、ソウテンたちか?おめぇら」

 

「あ?……まさか、クライン?」

 

再び、聞き覚えのある声に反対側を振り向くと髭面の男性が立っていた。互いを確認するようにクラインとソウテンが顔を見合わせていると、茅場が三度、口を開いた

 

『諸君は、今なぜこのようなことをしたのか、と思っているだろう。大規模なテロでも身代金目的でもない。私の目的はすでに達成してる。この状況こそが私の最終目的なのだ。…以上で《ソードアート・オンライン》正式チュートリアルを終了する。プレイヤー諸君の健闘を祈る』

 

そう言い残し、茅場の姿は空に同化していくように消滅する。暫くの間、静寂が辺りを支配した。やがて、広場に絶叫が響き、全員が口々に罵詈雑言を言い、騒ぎ立てる

 

「こっちだ!」

 

キリトの呼び掛けで、路地裏に移動しようとするソウテン達だったが自分たちとは反対側へ駆けていく二人組の少女が視界に入った

濃紫がかった黒のポニーテールを靡かせ、栗色の髪をした少女の手を引く少女。僅かであったが見間違える筈がなかった

 

「まさか……いや、でも……お前なのか…?ミト!」

 

名を呼ぶが彼女は振り返らなかった。其れでもソウテンには分かった

あの少女がミトだと、初めて会った日から、時には笑い合い、時には喧嘩もした、だが最後は決まって、キリト達も交えて、ゲームに興じた。見間違える訳がない、見間違えようなどなかった。彼女がこの世界に居た、其れは幸とも言えるが不幸とも言える

終わりの見えない世界に愛する者が居り、何時かは分からないが消えてしまうかもしれない命の灯。足が竦む、初めての恐怖に

失うかもしれない恐怖がソウテンの足に見えない鎖を縛り付ける

 

「テン!早くしろ!」

 

「くそっ……!」

 

キリトの呼び掛けで、我に返り、仲間達の背を追う。一抹の不安は消えないが今は、自分の身を優先するのが当たり前だった。誰もが理解できない恐怖に怯えていた

 

「あり?クラインはどした?」

 

「ああ、彼なら。仲間を見捨てられないとかで僕たちとは別行動になりました」

 

「仲間想いな人だね。僕たちも行こうか」

 

「おーい!」

 

ヒイロの提案に頷き、町の出口へと向かおうとする一行を引き返してきたクラインが呼び止めた

 

「おめぇら、その面の方が親ししみやすくて、俺は好きだぜ!ソウテンはちぃとばかし、極悪面だけどよ…なんつーか、お前らしいとおもうぜ!俺は!」

 

「そりゃあんがとよ。お前も野武士面の方が似合ってんぞ」

 

振り返ることなく、彼らは走り出した。生きる為に町の外へ。現実ではない、もう一つの世界へと

 

走って、走って、走った。終わりの見えない世界を攻略する為に。何時になるかは分からない。其れでも走らずにはいられなかった

 

その身に纏わりつく恐怖を打ち払う為に

 

然し、ソウテンだけは歩みを止めた

 

振り返りはしないが自分たちが走ってきたのと逆方向が気になって仕方がない。確かめたい、ミトの行方を

 

「……悪い。俺はリーダー、失格だ。お前たちよりもミトが大事なんだ……ごめんな」

 

消え行く仲間たちの背に呟き、ソウテンは彼らとは別方向に走り出した

本来は初心者の彼が独りで行動するのは明らかに無謀だ。だが、そうしなければならない理由がある

 

ウィンドウを開き、フレンドリストの一番上にあるキリトの名を触る

 

『後は頼む。今日からはお前がリーダーだ、あいつらと一緒にいてやってくれ』

 

簡潔ではあるが信頼を寄せる親友へ、メッセージを送り、ソウテンの旅は始まった

彼が何を想い、何を感じるかは誰も知らない。分かるのは、これが彼の生きる為の物語であることだ

 

「ミト。お前を死なせない、見つけてやる…絶対に!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃のキリトたち

 

「何を言ってんだ!テンのヤツ!」

 

ソウテンからのメッセージを読んだキリトが苛立ち気味に声を荒げる

 

「あんにゃろう、分かってねぇみたいだな」

 

「ええ、これはお説教が必要ですね」

 

「其れもきついヤツがね」

 

彼らにソウテンを見捨てる選択肢は存在しない。居場所をくれた恩人を誰が見捨てるというのだ、その答えは決まっていた

 

「だな……ん?別行動?てことはテンは今、一人なんだよな?」

 

「そうなるな」

 

「それはいけない!リーダーは達人級の迷子なんですよ!」

 

「探すぞ!まだ遠くには行ってない筈だ!」

 

「来た道を戻るんだ!急げ!」

 

「でもさ、戻ったとしてもリーダーはいないんじゃない?というか、その前にもっと考えないといけないことがあるよね。この広大な世界で、どうやって、リーダーを探すの?」

 

慌てふためく、キリト達とは対照的に無表情を崩さないヒイロの発言に空気が凍りつく

そして、暫くの沈黙が終わると全員が息を吸い込む

 

「「「「あんの……迷子リーダーぁぁぁぁ!!!」」」」

もしも、そーどあーと・おふらいんを書くなら…

  • ソウテンとミトが司会の賑やかな雰囲気
  • キリトとアスナが司会の正規の雰囲気
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