「こりゃあ凄い、森しか見えない」
「ああ。テン一人だと迷子になるな、確実に」
「間違いねぇな。頼むから迷子になんなよ?この広大な森で探すのは骨が折れるからよ」
「というかさ、リーダーは第一層から出ない方が安全なんじゃない?」
「なるほど、一理ありますね。という訳ですからリーダーは第一層のボス部屋まで引き返してください」
「なんでっ!?」
第二層。連なるテーブル上の岩山の上部は草に覆われ、大型の野牛系モンスターが闊歩する。しかしながら、この場合であっても彼等がソウテンを弄るのは相変わらずである。この光景を見るミトの表情は穏やかで晴れやかである
「……あっ!アスナ!」
「えっ?呼んだ?ミト」
「って!いるしっ!」
親友を置いて来たことを思い出し、焦るミトであったが普通に背後から聞こえた声に振り返るとアスナが立っていた
「ああ、俺が連れて来たんだ。一人だと何があるか分からないからな」
「早く言いなさいよ!バカキリト!」
「ぐぼらっ!?」
キリトの頭上に
「そーいや…アスナ。アイツらはなんて?」
「アイツらって言うのが他の人たちを指す言葉なら、彼等はあの後、みんなの悪口を散々言ってたわ。特にソウテンくんとキリトくんは酷い言われようだったわね、胡散臭い迷子道化師にぼっち黒コートとか言われてたわよ」
「道化師は認めるよ?名乗ったし。でもな、迷子は否定する!俺は迷子じゃない!」
「黒コートはまだ良い!ぼっちは訂正してくれ!」
「わ、私に言われても…」
「アスナを困らせないのっ!」
「「ぐもっ!?」」
ソウテンとキリトに詰めよられ、困惑するアスナの為にミトが素早い対応で応じる
騒がしい二名を沈められ、安堵したように軽く息を吐くとアスナはミト達に向き直る
「だけど三人からは伝言を預かってきたわ、先ずはエギルさんから『2層のボス攻略も一緒にやろう』って。それからディアベルさんからは、『皆さんには頭が上がらない、嫌われ役を背負うのは本来ならば俺でなければ、ならないのに…。次に会う時は全力で力を貸すよ!』だって。最後はキバオウさんから『今回はソウテンはんの策略通りに事が運んだかもしれんが次はそうはいかん。ワイはワイなりにやり方を模索していくつもりやから、そん時はアンタがワイを見極めてくれ』ってさ」
「なるほど……それで一つ聞いていいか?」
「どうしたのよ?グリス」
「エギルって誰だ?」
その言葉に僅かな沈黙が走る、ミト達は耳を疑ったが彼は本気だ。エギルというプレイヤーについての知識が明らかに欠落している
「攻略会議でリーダーに賛同していた大きな方ですよ。お忘れですか?」
「なにっ!?あの人はゴリさんって名前じゃないのか!!」
「エギルだって名乗ってたし、呼ばれてたじゃない。誰から、聞いたのよ…そんな名前」
「そんなのは決まってるよ、ミトさん。あそこにいる人だよ」
「………ああ、納得」
ヒイロの指差する先には既に目覚め、眼下に広がる広大な森を見るソウテンの姿。その横顔は相も変わらない不敵な微笑が垣間見える
「テン。また悪巧みしようとしてるでしょ」
「悪巧みって人聞きの悪いこと言うなよ、策略と言え」
「どっちにしろ、悪どいことを考えてんだから同じだろ。バカなくせに頭の回転は早いからな」
「全くだぜ。バカなのにな」
「グリスさん。君も人の事を言えませんよ?掛け算も出来ないんですから」
「出来るわっ!そんくらい!」
「では七の段を言ってみてもらえますか?」
「七の段だと……!?掛け算で1番複雑なヤツじゃねぇか!卑怯だぞ!!てめぇ!」
「ヒイロはきちんと勉強するのよ。そうしないとテン達みたいなバカになるわ」
「分かった」
低レベルな争いにアスナは再び、苦笑する。退屈しないと言えば退屈しないが当たり前のことを馬鹿みたいに言い合う彼等の関係性は彼女からすれば、今までの日常にはあり得ない光景であった
親の言うように生きてきた彼女にはミト以外に心を曝け出せるような親友はいない。だが彼等は違う、何時如何なる時も互いを信頼し、理解し、助け合う。其れが彼女にとっては不思議でならない
「ねぇ、ミトはどうしてキリトくん達と一緒に居るの?リアルでも仲が良いみたいな感じのことは、前にも聞いたけど」
「仲が良いというか腐れ縁かな?小学生の頃から一緒で気付いた時にはテン達と一緒に居るのが当たり前になってたから。不思議よね、最初は迷子になったテンと出会っただけだったのに。今はその出会いに感謝してる私がいるの」
「ちょ、ちょっと待って!ソウテンくんってそんなに昔から迷子癖があったの?」
「癖というよりも病気よ、あれは。目を離すと直ぐに迷子になるし」
「うわぁ…」
重いため息を吐くミトに同情しながら、ソウテンに哀れみの視線を向けるが当の本人は露知らず、何時ものようにキリトたちと騒いでいる
「お陰で夏祭りとか海に行くと大変よ。何かを買いに行く度に迷子になるから」
「た、大変なのね。それだとミト達も楽しめないでしょ」
「あー、それはない。基本的には私と二人でだから」
「そっか……え?今なんて?」
さらりとミトが投下した「二人で」と言う発言をアスナは聞き逃さなかった。彼女は僅かに瞳を瞬きさせた後、自分が放った爆弾発言に気付く
「べ、別になんでもない!今のはあれよ!二人と小鳥を間違えたのよ!」
「ふぅん?そっかー、二人でかー。ミトにもそういう相手がいたのねぇ」
「ちょっ!誤解よ!アスナ!誰があんな迷子と!」
「迷子じゃない!」
「やかましい!ややこしくなるから大人しくしてなさい!」
「ぐぼっ!?」
鎌を振り下ろし、物理的にソウテンを黙らせるがアスナは未だににやけ笑いを止めない。それもその筈、親友の秘密を知れたという喜びが彼女を包んでいた
「おや、あんな所に美味しそうなウサギが」
「なにっ!よっしゃ!今日はウサギ鍋だ!」
「あっ!グリス!そっちは!」
「あん?あぎゃぁぁぁぁ!!!」
キリトの呼び掛け虚しく、グリスは崖下へ転落。数秒間の沈黙が訪れる
「合掌」
「安らかに」
「眠れ」
「賑やかで」
「ゴリラみたいな」
「「「「「グリスよ」」」」」
彼に全員で合掌を捧げる。その心に刻まれた思い出は色褪せることなく、永遠に生き続ける。感謝を込め、静かに黙祷を
「生きてるわっ!!ボケが!というかテン!誰がゴリラだ!張り倒すぞ!!迷子野郎!」
「「「「「ちっ……」」」」」
「舌打ちしてんじゃねぇよ!!」
「あは、あははは……。はぁ……やっぱり、付いてくる人たちを間違えたかな…」
人知れず、後悔するアスナであったが彼女は知らない。自分がこの光景を当たり前のように感じ始めていたのを、其れが彼女の日常となるのはもう少しだけ先の話である…
次からは一気に時間軸が飛びます。原作の月夜の黒猫団の話ですが…キリトがぼっちではない為にテイストがやや異なります。お楽しみに
もしも、そーどあーと・おふらいんを書くなら…
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ソウテンとミトが司会の賑やかな雰囲気
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キリトとアスナが司会の正規の雰囲気