蒼の道化師は笑う。   作:田中滅

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ギャグを交えつつもシリアスなテイストもある、そんな回になっております


第十二幕 プネウマの花

「いやぁ、寒い日は鍋に限るなぁ」

 

「でも大丈夫か?これ」

 

「ストレージにあったのを適当に放り込んだからな」

 

「やはり、ミトさんとシリカさんが戻るのを待つべきだったのでは?料理スキルが壊滅的な僕たちには料理など明らかな自殺行為です」

 

「もぐもぐ……」

 

ミトがシリカを連れ、買い出しに出ている間にソウテン達は鍋を囲んでいた。しかしながら、料理スキル皆無である彼等には明らかに不可能だ。少しでも高いスキルを持っていたなら、別だがミト以外のメンバーが上げている筈も無く、味見係のヒイロが口に運ぶ

 

「ヒイロ。味はどうだ?」

 

「リーダーの足の裏みたいな味がする」

 

「おやまぁ、最悪じゃねぇの」

 

「よし、俺がエギルの雑貨屋で仕入れたパスタを入れようぜ。少しはマシになるかもしれない」

 

そう言うとキリトはストレージからパスタを取り出し、鍋に投入。再び、味見係のヒイロが口に運ぶ

 

「どうです?ヒイロくん」

 

「今度はキリトさんの靴下みたいな味」

 

「おやまぁ、これまた最悪じゃねぇの」

 

「バナナはどうだ?この痺れバナナとかオススメだぞ」

 

「それテイム用の罠だぞ」

 

「なにぃっ!?エギルに騙された!!」

 

「バカだろ、お前。限りなくバカだろ」

 

「バカじゃねぇ!ちょっと騙されやすいだけだ!」

 

「其れをバカって言うんだよ!ゴリス!!」

 

「んだとぉ!?誰がゴリスだ!てめぇ!おめぇなんかぼっちだろうが!!」

 

「ぼっちじゃない!」

 

「まーた始まった」

 

グリスとキリトの言い合いにソウテンが呆れたようにため息を吐く。二人の手は鍋の側にあり、取り合うように右往左往している

その時だった、扉が開いたのは

 

「ただいま。私が居ない間に変なことして…なにしてんのぉ!?」

 

「見て分からねぇの?鍋だ」

 

「鍋なのは見たら分かるわよ。私が聞きたいのは何を入れたのかってことよ」

 

「ピーナッツバター的な調味料」

 

「パスタ的な麺類」

 

「バナナ的なテイム用トラップ」

 

「夕方に倒した猿の肉」

 

「その辺の草を少々」

 

「一つもマシな食材が入ってないじゃない!!バカどもっ!」

 

ソウテン達の頭上に鎌が振り下ろされ、シリカは苦笑する。短い時間ではあるが彼等の関係性については理解できる、ソウテンをリーダーと呼ぶが実質的な纏め役はミトだ

彼女が居ることで見た目的にも華やかでむさ苦しさも多少ではあるが薄れて見える

 

「全く……ごめんね。シリカちゃん」

 

「い、いえ。にぎやかで退屈しなさそうですね」

 

「お陰さまでね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食後、シリカはミトに促され、風呂場に向かう。彼女の気配が無くなるのを確認し、ソウテンが口を開く

 

「明日、第47層に《タイタンズハイド》を呼び寄せる」

 

「なっ……!シリカを囮に使うつもりなの…?リーダーは」

 

尊敬するソウテンの言葉にヒイロは耳を疑う。仮面越しではあるが彼の瞳に迷いは見受けられず、この言葉が真意であるのが理解できる。それ故にヒイロは怒りを抑えられなかった

 

「囮、捉え方次第ではそうなるな」

 

「認めない。そんなやり方をするくらいなら、俺が迎え討つ」

 

反発し、真っ向からソウテンと向き合う。しかしながら、不敵な笑みを崩さない道化師は相も変わらずに何時もの態度を貫く

 

「却下」

 

「………もういい。俺は俺の正義を貫く、誰にも邪魔はさせない」

 

「どうぞご自由に。ただ……一つだけ、知っておけよ?チビ助。振り翳すだけの正義は偽善でしかねぇ。逆に守るべき者の為に振るう正義は剣よりも強い刃になる……まっ、チビ助には理解出来んだろうがね」

 

「………っ!」

 

尊敬していたが故に、その言葉は深く突き刺さった。仮面に隠された真意と本質、見抜けないが故に。今の彼をヒイロは拒絶し、ダイニングから去っていく

 

「テン、あんな言い方はないじゃないの?ヒイロはシリカのことを思って」

 

その様子を見ていたミトはソウテンに進言するが彼は何も語らず、窓の外を見ている

 

「それは違うぞ。ミト」

 

「何がよ?キリト」

 

「あの話を聞いた時のヒイロがどうだったのかを覚えてるか?」

 

「えっと…」

 

キリトの問いに先程のヒイロの姿を思い浮かべる。突如、声を荒げたようにソウテンへ反論し、最後には自分の手で対象を倒すと言い放った。何時もの最年少でありながら、冷静な態度を崩さない彼とはかけ離れていたのは明白である

 

「ちょっと、何時もとは違うように見えたわ」

 

「そういや…焦ってるように見えたな」

 

「その通りだ、グリス。ヒイロは焦っているんだ」

 

「そりゃあわかってんだよ。なんで焦ってんだ?そんなに」

 

「………シリカちゃんじゃない?そうよね、キリト」

 

「さすがだな。ミトの言う通り、ヒイロが焦っているのはシリカが関係してる。自分では気付いてないかもだけど、シリカとの出会いでヒイロは誰かを守る意味を知った。其れに使い魔の死を本当に悲しむ彼女を助けたいと思う正しい心を知った。だからだろうな……テンの作戦に反対したのは」

 

「ヒイロも成長してるのね。この世界で」

 

「ああ、強くなるぜ。アイツは」

 

幼い背中、今はまだ失う辛さを知らぬが故に無謀さを感じる事もあるがソウテンは理解していた

彼と自分が出会ったのは偶然ではない、其れは必然だったのだと。その関係に血の繋がり等は存在しないが、思い出は数え切れない程に存在する。共に笑い、共に怒り、共に歩んだ道筋、その全てが彼との絆だ

 

「さてと…準備といきますかねぇ。今夜は眠れねぇから覚悟しなよ?おめぇさんたち」

 

「「「了解!リーダー!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バルコニー、仮想世界の夜空を見上げる一つの影。其れはヒイロだった

飛び出したは良いが行く宛も無い彼は黄昏ていた。話し相手になって貰おうにもシリカは風呂の中、故に彼は一人だ

 

「隣。構いませんか?」

 

「ヴェルデ…」

 

隣に視線を向ける。彼、ヴェルデは鼻までずり落ちた眼鏡を掛け直すと淹れたばかりのコーヒーを差し出す

 

「ヒイロくんが怒るのも無理はありません。ですが…君も理解出来ない訳ではないでしょう?」

 

「だからって……やっぱり、許せない」

 

「そうですね。しかし、僕はリーダーの仰った言葉は正しいと思いますよ」

 

「あの正義が如何とかってヤツ…?」

 

ヒイロの問いにヴェルデが頷く。彼はコーヒーを口に運び、息を吐き、再び口を開く

 

「正義は時に人を変えてしまう、というのが僕の見解です。ヒイロくんも現実に居た頃に見たでしょう?自分の正義を振り翳し、威張り散らす我々とは異なるカラーギャングたちを」

 

「うん。でもあれは正義じゃない、悪だよ」

 

「いいえ、あれもまた正義です。僕たちとは異なるが故に悪に捉えられがちですが彼等にとっては正義なんです。間違ったが故に悪と看做されてしまう、現実はそう言った希有なモノで出来ているんです」

 

「じゃあ、俺たちも悪になるかもしれないの?」

 

「そうですね、一概に無いとも言い切れません。故に…僕たちにはリーダーがいるんです。あの人は方向音痴ですが歩いている道だけは常に真っ直ぐと正しい、ヒイロくんもそうは思いませんか?」

 

その言葉にヒイロは何も言い返せない。ただ一つ思うのは自分が此処に居るのはソウテンが手を差し伸べてくれたからであるという事だ

あの時、あの手を取らなかったら。自分はきっと此処には居なかった。この楽しい日々を知らずに生きていたのだろうと彼は感じていた

 

「ホント……敵わないなぁ。リーダーには」

 

「全くです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2024年 2月24日 第47層 フローリア

 

花が咲き誇り、見渡す限りの花畑がシリカの双眸に広がる

初めて見る街並みにシリカは新装備を着込み、愛らしい両眼を輝かせ、感想を漏らす

 

「わぁ!夢の国みたい!」

 

「この層は別名≪フラワーガーデン≫って呼ばれてて、フロア全体が花だらけで有名だよ」

 

「すごい!すごいよ!ヒイロ!」

 

「そうだね」

 

淡白な返事を返し、ヒイロはシリカの手を引き、ゆっくりとフィールドを歩き出す。目指すは≪プネウマの花≫があるダンジョンだ

その様子を木の影から見守る影が一つ、ロザリアだ

 

「待ちなよ」

 

追い掛けようとした彼女の背後から呼び止める声が一つ。声色から察するに若い男だ、振り返り、その姿を確認する

槍を肩に担ぎ、青いコートとマフラーを靡かせ、彼、ソウテンは其処に佇んでいた

 

「なぁに?アンタ。アタシと話したいなら、面会を通してもらえない?」

 

「面会なら既に終わったさ。こいつ、おめぇさんの部下だろ」

 

木の影から一人の男をソウテンが引っ張り出す。その男にロザリアは見覚えがあった、シリカを付けさせていた部下の一人だ

しかしながら、彼女は知らぬ顔で軽くため息を吐いた

 

「知らないわ、そんなヤツ」

 

「そっか、知らねぇか。でもさー……既に面は割れてんだよ。おめぇさんがオレンジギルドのリーダーってことはな……。人を殺すのがそんなに楽しいか?」

 

「何よ。マジになっちゃって馬鹿みたい、ここで人を殺しても本当にその人が死ぬ証拠なんてないし。 現実に戻っても罪に問われる事は無いわよ。 ただ戻れるのかも分からないのにさ、正義とか法律とか笑っちゃうわよね。アタシ、そういう奴が一番嫌い。 この世界に妙な理屈持ち込む奴とかね。まんまと貴方達の餌に引っかかってしまったことは認めるけど…でもたった一人でどうにかなると思っているの……?」

 

ロザリアが片手を挙げると10人のプレイヤーがソウテンを取り囲む。しかし、彼は顔色を変えずに不敵な笑みを崩さない

刹那、其処へ≪プネウマの花≫を手に入れたヒイロとシリカが運悪く、戻って来て、その光景に目を見開いて驚く

 

「リーダー。俺も一緒に戦わせて」

 

「あ、あたしも!リーダーさんのお役に立ちたいです!」

 

「サンキューな。でも、その気持ちだけで充分だ。二人はミトと一緒にギルドホームに戻ってな」

 

「で、でも…」

 

「シリカちゃん、ヒイロ。リーダーを信じましょう」

 

背後から優しく語りかけるミトの手には転移結晶が握られている。ヒイロは口には出さないが不服そうだ

二人とミトが転移したのを確認すると得物を抜き、ソウテンはロザリアとプレイヤー達に向けた

 

「仮面に槍、それにあの青いコート……ま、まさか!あの有名な道化師(クラウン)か!?」

 

「く、道化師(クラウン)ってあの道化師(クラウン)か!?よりにもよって!」

 

「あら、すごい。ボウヤって有名人なのね?でもこの人数を相手に勝てるかしらね!」

 

ロザリアの号令と共に、プレイヤー達が一気に駆け出し、ソウテンを斬り付ける

だが、彼のHPバーは一向に変化していない

 

「一人に付き与えられるダメージは200ってとこか。そんくらいで俺が()れると思ってんの?笑わせるねぇ」

 

一瞬、ソウテンの纏う雰囲気が変わった

肩に担いだ槍を横凪に振るい、風圧を発生させる。刹那、プレイヤー達の体に無数の傷が刻まれ、悲鳴にも似た声が上がる

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!ば、化け物だーーー!」

 

「化け物とはこれまた人聞きの悪い、俺は単なる道化師(クラウン)さ。そいじゃあ……これにて幕引きと致しましょう」

 

「くそっ、くそっ。くそーーーー!!!」

 

ロザリアと部下達が黒鉄宮に送られたのを確認し、構えていた槍を担ぎ直す

 

「さてと……ベルさんに報告しにいくかな」

 




次回は圏内事件、ヴェルデの推理力が冴え渡る?頭脳派な彼が活躍する……かもしれない

もしも、そーどあーと・おふらいんを書くなら…

  • ソウテンとミトが司会の賑やかな雰囲気
  • キリトとアスナが司会の正規の雰囲気
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