「キリト。ここにピーナッツバターはあるんだろうな?言っとくが俺はピーナッツバターの無い店に興味はねぇよ」
「ここはパスタの美味い店だ。お前は石でも食べてろ」
「はっはっはっ、ミト。このバカにピーナッツバターの魅力を教えてやりな」
「私は別にパスタでも良いわよ。好物は蕎麦だけど」
「おい、なんで今のくだりで好物を言った?蕎麦にしろってか?」
「だってパスタも蕎麦もなんか長いじゃない。似たようなものよ」
「パスタを語る資格無しだな、ミトは今すぐに帰りなさい」
「いや」
食事を待つ間、食べ物の話で何時もの雰囲気を作り出す三人組。その様子にアスナは軽くため息を吐き、呆れた視線を向ける
「毎日が楽しそうでいいわね、アナタ達は」
「楽しいというか、これが俺たちだからな」
「そうそう。何時の世もユーモアを忘れちゃいかんよ」
「テンの場合はユーモア以前にバカなだけよ。この前なんか鍋にピーナッツバターを入れてたのよ」
「おかげでテンの足の裏みたいな味になってたな。最悪だった」
「パスタ入れたヤツに言われたくねぇんだけど?おめぇさんの靴下みたいな味になってたじゃないの」
「足の裏とか靴下とか…普段、何を食べたら、そういう感想が出るのよ」
「気にするだけ無駄よ、アスナ。この二人は味覚にバグがあるんだから」
「「ねぇよ!!」」
NPCウェイトレスが卓上に置いたサラダボウルから謎野菜を皿に取り分け、仕上げに謎のスパイスを振り掛けた後、口に運ぶ
「思うんだが、栄養とか関係ないのになんで生野菜食べてるんだ?」
「美味しいじゃない」
「まずいとは言わないけどさぁ………せめてマヨネーズぐらいは欲しい」
「確かにピーナッツバターが無いのは痛い。それっぽいので誤魔化すのには限界があるからなぁ」
「調味料とかを作れたら良いんだけど……其れを再現出来るだけの知識が私たちには無いのよねぇ」
「欲しいとなると、ソースとか……ケチャップとか………」
「あとはピーナッツバター」
「「「それはない」」」
「まさかの満場一致!?」
「やっぱ醤油じゃないか?」
「なるほど。醤油か」
「確かに醤油は大事ね」
「日本の心よね」
醤油、懐かしい響きに四人は納得したように頷き合う。その光景は微笑ましく、穏やかだ
この時間が少しでも長く続くと思っていた
しかし…
「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」
突如、響いた悲鳴に四人の表情が変化する。和やかな雰囲気は消え去り、店を飛び出した
騒ぎの中心である広場に向かい、雑踏を掻き分けた先に現れた光景に目を疑う
教会の二階中央の飾り窓から、フルプレート・アーマーを着込み、頭には大型のヘルメットを被った男性プレイヤーがロープに吊るされていた。しかし、プレイヤーたちが恐怖していたのは男が首を吊っていることに対してではない
SAOにおいて、ロープアイテムによる窒息は有り得ない。それでは何故か?答えは男の胸に刺さった
「キリト!お前はアスナと教会の中を探せ!犯人はまだ近くに居る筈だ!」
「分かった!アスナ!」
「ええ!」
本来は有り得ない圏内での出来事、ソウテンの指示でキリトとアスナは教会へと入っていく
道化師としての彼ではない、ミトがよく知るその姿に僅かな違和感を感じたが直ぐに気持ちを入れ替え、声を掛ける
「テン!準備は出来てるわ!」
「さすがだ。ミト!俺を吹っ飛ばせ!」
「了解!」
ミトが鎌を振り被り、その先にいたソウテンが風圧で前に押し出されるのと同時に壁を駆け上がる。背中に携えた槍を抜き、縄を切ろうとした
「………っ!!」
その瞬間、男の目が、強く見開いた。教会の鐘が鳴り響くと同時に何かを呟き、無数のガラスが砕け散るような音とポリゴンの欠片たちが爆散。目の前の光景に仮面の中のソウテンの表情が歪む
「許さねぇ……」
「テン?」
「怒りを打つけるくらいなら何も言わねぇが……命を奪うヤツは絶対に許さねぇ。この事件の犯人は俺が首に縄をかけてでも引き摺りだしてやる……真実という明るみの下にな」
初めて見る表情、自分の知らない彼にミトは不安を感じざる得ない
「本当の貴方は何処にいるの……?ねぇ…教えてよ…テン」
彼女の呟きは風の中に消えていく。そんな事も露知らず、男の死の原因がデュエルによるPKなら、近くに《デュエル勝利宣言メッセージ》が現れると考えたソウテンは周辺に視線を動かす
「テン!デュエルのウィナー表示はあるか!?」
「ねぇな。どうやら、デュエルは関係ねぇようだ」
「てことは本当に圏内で人が死んだ……?まさか!有り得ないわ!」
「有り得ないことなんかねぇ、実際に見たじゃねぇか。お前も」
威圧感の消えない声色でアスナを咎め、ソウテンは近くに落ちていた
「凶器はコイツか…」
「テン。《索敵》スキルで探したけど、居たのはNPCのシスターと神父だけだったわ」
「事情聴取は無理だな。どうする?テン」
「目撃者を探す。誰でもいい、さっきのを最初から見てたヤツはいるか?」
ソウテンは怒りを仮面に隠した状態で冷静に対応し、広場のプレイヤー達へ呼び掛けた。すると、一人の女性プレイヤーが怯えながら前に出た
「ごめんね、怖い思いしたばっかりなのに。あなた、お名前は?」
「あ……あの、私、《ヨルコ》っていいます」
「もしかして、最初の悲鳴は君か?」
「は、はい………私、さっき、殺された人と……一緒にいたんです。彼の名前は《カインズ》。昔、同じギルドに所属していて、今でも結構仲がよくて、今日も晩ご飯を一緒に食べるはずだったんですけど、見失っちゃって……。それで、辺りを見渡してたら、ここの窓からカインズが落ちてきて、宙吊りに……。しかも、胸に槍が刺さって………!」
「その時、誰かを見なかった?」
「……一瞬でしたけど、後ろに誰か……いたような気が、しました……」
「その人影に見覚えは?」
ヨルコはキリトの問いに首を振る。その間、頭の中で情報を整理し、残った二つの手掛かりを手にした状態で現場の教会の中を調べる
「現実なら手摺りに跡が残ってるが……この世界ではそうもいかねぇか。それに……仮にシステム外スキルがあったとして、圏内でのPKが可能になるとは思えねぇ。手掛かりはスピアとロープだけ…」
思考を巡らせていると現場に残ったプレイヤー達に一連の出来事を細かく伝えるキリト達の姿が目に入る
彼等はソウテンに気付くと、彼に呼び掛けた
「テーン、何か分かったかー?」
「何もわかんねぇな、《鑑定》スキルを上げてるなら別だが生憎ながら俺は取ってすらねぇし」
「私も上げてないわ。アスナは?」
「上げてると思う?」
「ですよねー。いっそのことエギルに頼む?」
「ぼったくりだからなぁ…あいつ。アスナの知り合いに誰か居ないか?」
「友達で、武器屋の子がいるけど、今の時間は忙しいからすぐには無理かも………」
「となると……やっぱり、アイツか」
「まあ、依頼の件もあるからな。その対価に《鑑定》してくれんだろ」
「なら、キリトとアスナは《黒鉄宮》まで行って、カインズの死亡日と原因、時間の確認をお願い。私はテンと行く」
「分かった」
キリトとアスナを見送った後にソウテンはミトを連れ、第50層の主街区アルゲードのギルドホームの一室の前で止まった
《研究室》と書かれたプレート。扉に手を掛け、中に入る
「ヴェルデ。今、大丈夫か?」
「おや…リーダーにミトさん。おかえりなさい、どうかされましたか?」
「ああ…依頼だ、《鑑定士》のお前にな」
「……なるほど。承りました」
《鑑定士》、そう呼ばれた瞬間にヴェルデの目付きが変わった。其れはまるで、水を得た魚のようだった
ヴェルデの覚醒、そして何時になく荒ぶるソウテン。はてさて、どうなる事やら…次回もお楽しみに
もしも、そーどあーと・おふらいんを書くなら…
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ソウテンとミトが司会の賑やかな雰囲気
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キリトとアスナが司会の正規の雰囲気