2024年10月24日 第35層主街区ミーシェ ソウテンの自宅
「よっ、テンきち」
「ん〜……おお、アルゴ。久々だな」
ソウテンがリビングのソファに寝転び、寛いでいると、何時の間にか侵入していたアルゴが声を掛けてきた
「調子はどうダ?ミーちゃんと一緒に暮らしてルんだロ?それにダ、子どもが出来タとも聞いたゾ?」
「出来たというよりは拾ったの方が的確かな。つーか……どっから仕入れたんよ…」
「知りたいカ?別料金になるゾ」
「あーうん、言わんでも分かるから。んで?頼んどいた件はどうなってる?」
「言われた通り、調べてきタ」
そう言って、アルゴは不敵に笑う。ソウテン程ではないが彼女もこの笑みが売りの一つだ
「にしても、まさか攻略組の影の参謀とも言われてる
「まあな、そん時は色々とあってな。目先のことにしか、眼がいかんかったんよ。で……本題の方だけどよ」
「あいヨ。情報を横流ししてたのは血盟騎士団のクラディールって奴ダ」
「クラディール……あの赤いオッさん?」
「それは団長のヒースクリフだロ。攻略会議で最近、アーちゃんの隣に控えてるだロ?一人」
「アスナの隣………」
攻略会議の時の風景を頭に思い浮かべ、アスナの隣に控えているという人物を思い出そうと、ソウテンは考え込む
「はっ……まさか!クラディールってのは、置き物のことか!?」
「いやいや、そんな訳ないだロ。アーちゃんの隣に居る奴だヨ。でも、ちょっかいを出すつもりなら、気をつけた方がいいナ。ソイツ、ラフコフの生き残りらしい」
「そうか。忠告をサンキューな」
「んじゃ。要件はすんだみたいだから、オレっちはこれで失礼するヨ」
去り行くアルゴを見送り、ソファに寝転がり直し、欠伸を一つ。此処に居るのはソウテンのみで、ミトはロトを連れ、ダイシーカフェに足を運んでいる
「………あっ、ロトの正体が分かったんかを聞くの忘れてた」
やはり、頭の中は変わらず迷子なソウテンであった
第50層主街区アルゲード ダイシー・カフェ
「エギルさん、エギルさん」
「おお、ロトじゃないか。ミトと一緒に買い物か?」
名を呼ばれ、入り口付近に眼を向けるとミトと手を繋いだロトの姿があった
彼は突如、現れ、ソウテンを父のように、その恋人のミトを母のように、慕う謎の少年だ。この数ヶ月間で、周囲からは二人の息子という存在に認識され、たまり場であるダイシーカフェの常連になっている
「うんっ!きょうはねー、なべのざいりょうをかいにきたー!」
「ほう、鍋か。それで?良い材料はあったのか?実際」
「うーん……なかったのよね、それが。ほら、前に食べた《ラグーラビット》って覚えてる?」
「ああ。覚えてる、覚えてる。美味かったなぁ」
「そう!そこよ!あのお肉を味わってから、私の味覚再生エンジンが何を食べても美味しいって感じないのよ!」
「なるほどな。だが、其れはテンの奴らにも言えることじゃないか?」
エギルの言葉にミトは軽くため息を吐き、呆れたような表情を浮かべる
「エギル。あのバカ達は、元から味覚再生エンジンにバグがあるような人ばかりなのよ?味に感心があるように見える?」
「………見えんな」
「でしょう?テンはまだしも、キリトなんか最悪よ。料理当番になると激辛フルコースを作るのよ……しかも、パスタオンリーの」
「なんだ、ミト。パスタを馬鹿にしたか?今」
噂をすれば何とやら、背後から聞こえた声に振り向くとキリトが立っていた
「子連れで来るような場所じゃないだろ。ここはゴミ溜めだぞ」
「おいコラ、誰の店がゴミ溜めだ」
「不景気でぼったくりなんだから同じだろ」
「おなじ」
「おっ、ロト。さすがは男だ、ここが如何に不景気なのかを分かって--ごばっ!?」
「キリト。うちの子に変なことを覚えさせないでくれない?殴るわよ」
「ず……ずび…ば…ぜ…ん」
御約束を見舞われ、床にキリトが倒れていると、またしても店内に一人の来客が来店する。彼女、アスナは床に伏せる見覚えのある少年に視線を落とす
「知ってる?キリトくん。床掃除は体じゃなくて、掃除用具が必要なんだよ?」
「これが掃除をしてるように見えるのか…?」
「見えないわ。おおかた、あれでしょ?ミトに叩かれたんでしょ」
「うっ……」
「やっぱりね。で?今度は何をしたの?キミ」
「ロトに変な言葉を教えようとしたのよ。ホント、信じられない」
「ふぅん?」
「な、なに…?アスナ」
にやにや、笑いながら自分の方を見るアスナの視線に気付き、ミトは彼女に問いかける
「べっつにー?ミトがしっかりと母親してて、幸せそうだとか思ってないわよ?でも、良かったわねぇ。テンくんとお幸せにね」
「………あ、ありがと」
「ありがとう」
「ロトくんは素直だね。それで?キリトくんは此処に結局、何をしに来たの?」
「あっ……そうそう、こいつの買い取りを頼みにきたんだ」
思い出したように、キリトはウィンドウを可視化させ、ミト達に見えるように公開する。其処には正に渦中の話題である食材の名が記されていた
「ラグーラビットの肉っ!?こんな高級食材をどうやって!」
「運だな。森を歩いてたら、見つけたんだ。偶然」
「なるほど。では、僕が預かりましょう」
「其れは駄目だ……って!ヴェルデ!?」
隣から聞こえた声に応えつつ、キリトが視線を動かすと眼鏡を、くいっと、上げながら、ヴェルデが立っていた。その近くにはバナナジュースを呑むグリス、焼き鳥を頬張るヒイロとシリカの姿がある
「何時からいたのよ?貴方たち…」
「ロトがエギルを二回呼んだ辺りから」
「ああ、その時ね……って!最初からじゃないの!」
「気にすんなよ、ミト。ほら、バナナでも食うか?美味いぜ?何せ、こいつは俺が育てた最高品質のバナナだからな」
「ゴリラは黙ってて」
「誰がゴリラだ。表に出ろや」
「嫌よ、寒いじゃない」
隣で騒ぐグリスを受け流し、キリトの方に視線を向ける。彼はアスナを相手に何やら、話し込んでいる
「私の家に来る?其れを提供してくれるなら、料理してあげても良いわよ」
「ま、マジですか。じゃあ……お願いしようかな。最近、ミトの味付けにも飽きてきたとこだったんだ」
「キリト。貴方はまた叩き込まれたいの?」
「滅相もございません」
ミトが鎌をちらつかせると、素早い反応でキリトは伝家の宝刀である土下座を繰り出す。一方で、アスナは自分の背後に控える一人の男に向き直る
「今日はこのまま帰るので、護衛はもういいです。お疲れ様」
「お待ちくださいアスナ様。こんなスラム街に足を運ぶだけにとどまらず、素性の知れない者をご自宅に伴うなど、とんでもない事です……!」
「素性の知れないって……彼は攻略組のギルド《
「頼りになります」
「見てください、キリトさんが調子に乗ってますよ」
「ぼっちだからな。女に褒められて舞い上がってんだよ」
「なるほど。これだから、ぼっちは」
「でもでも、リーダーさんとミトさんとはまた違った関係ですよね。キリトさんとアスナさんは」
「かーさん。キリトはぼっち?」
「そうよ。だから、ロトはいっぱい友達作るのよ?」
「うん」
「おいコラ、人が話してる横でぼっち呼ばわりするんじゃない」
護衛の男、クラディールとアスナが話す横でキリトはミト達と何時ものやり取りを繰り広げる。其処に、彼は例によって、姿を見せた。極自然に、何時もと変わらぬ、不敵な笑みを携えて
「クラディールさんとやら。今日は俺に免じて、許してやってくれねぇか?」
「何者だ!いきなり現れたかと思えば!私とアスナ様の会話に横入りするなど、恥を知れ!この無礼者!!!」
「ちょっと!彼は私の親友の恋人よ!そんな言い方はやめてもらえない?!」
「アスナ様は騙されているんです。考えても見てください、このような場所を溜まり場にし、あのような胡散臭い仮面を付けているような男です。碌でもないヤツに違いありません。ミトさんとか言いましたね、この男にどのような弱みを握られてるかは知りませんが、相手は選ぶべきですよ」
「…………なんですって?」
「ですから、相手を選ぶべきと言ったんです。おおかた、碌でもない人生を送ってきたヤツですよ。どうです?そんなふざけたギルドを辞めて、いっそのこと、我が血盟騎士団に入られては?」
「………ふんっ。お断りよ」
クラディールの失礼な物言いにミトは鼻を鳴らし、外方を向く。流石のアスナも我慢が限界に達したのか、彼を睨みつける
「ともかく、今日はここで帰りなさい!副団長として命じます!!」
アスナがそう命じると、クラディールは店を後にしたがソウテンは気付いていた。彼の持つ刺すような視線が生み出す殺気に。数分後、アスナとキリトが店を出たのを確認し、口を開く
「魚が釣れたな」
「魚?何の話?テン」
「気にすることねぇさ。んじゃ、飯でも食いに行くか。ほれ、お前らも行くぞー」
「ちょっ!テン!待ちなさいよ!」
「リーダーの奢りですか。それでは盛大に懐石料理のフルコースと洒落込みましょう」
「焼き鳥屋でフルコースも捨てがたい」
「あたし、デザートにチーズケーキが出るお店を希望します」
「んじゃ、俺は美味いバナナが食えるってとこだ」
「ピーナッツバターがおいしいとこがいい」
「バカヤロー、誕生日でもねぇのに贅沢しようとすんな。普通のレストランに決まってんだろ。あと、ロトよ。流石は俺の息子だな、ピーナッツバターの良さが分かるとはな」
「はぁ……バカばっかり…」
普段通りのソウテン達に対し、ミトは呆れたようにため息を吐くのであった
本来のクラディールよりもムカつく感じに仕上げてみました。次回に続きますから、楽しみにしておいてください
NEXTヒント レイドパーティ
もしも、そーどあーと・おふらいんを書くなら…
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ソウテンとミトが司会の賑やかな雰囲気
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キリトとアスナが司会の正規の雰囲気