第50層主街区アルゲード
圏内事件の翌日。ソウテンとキリトは床に正座していた、彼等の表情は引き攣り、青ざめ、体も小刻みに震えている
此れは決して、
「お前ら、正座をさせられる理由は分かるか?」
男の名は《アマツ》。職人の呼び名で知られ、
「えっと……あ、貴方様が…丹精を…お、お込めに、な、なってくださいました……槍と剣を折ったから……」
「ほう…分かってるじゃないか」
「も、もちろん!物分かりはいいもんな!俺たち!」
「うんうん、子ども時代は物分かりの鬼と呼ばれたくらいに」
「はっはっはっ、そうか。ならば……」
アマツは着ている羽織の内側から、一振りの包丁を取り出す。その様子にソウテンは震え、キリトの顔からは血の気が引き始める
「あ、アマツさん?そいつはなんですかね?」
「ん、これか?包丁だ」
「ほ、包丁ですか…えっと、料理を作っていただけたりとか…するんですかね…」
「そんな訳ないだろう?これは……俺の武器を折ったお前たちを細切れに刻む為の包丁だ」
「な、な〜んだ」
「そういう意味の包丁か〜……」
「「ゔぇっ!?」」
「覚悟しろ……このボケどもっ!!!」
「「ぎゃぁぁぁぁ!!!」」
包丁を片手に追い回すアマツから、
「………あ、あの。ミトさん」
「どうかした?シリカちゃん」
「止めなくていいんですか?アレ。リーダーさんもキリトさんも明らかに殺されそうな勢いなんですけど…」
「大丈夫よ。何時ものことよ、あのくらい」
「あれがっ!?」
「ええ、実にありふれた光景です」
「ありふれてないよっ!?」
「よく見る」
「見ないよっ!?」
「仕方ねぇよ。職人の野郎は頭がおかしいからな」
「えっ、其れはグリスさん以上にですか?」
「おいコラ、それはどういう意味だ。シリカ」
矢継ぎ早のように突っ込んでいたシリカであったがグリスに対する反応だけは異なった。真顔で驚愕し、本心で問いかけている。如何やら、彼女の中でのグリスは頭の可笑しい存在という認識のようだ
「待て!職人!俺たちを
「そうだ!テンの言う通りだ!」
「有益……?なんだ、ソイツは。言っておくが、くだらなかった場合は容赦はせんからな?覚悟しておけ」
「有益ですよ!そりゃもう、かなりの有益なヤツ!なんたって、《鼠》からの情報なんよ!」
「ほう…言ってみろ」
「なんでも、第55層の雪山にインゴットを遥かに上回る素材があるらしいんよ。名称は《クリスタライト・インゴット》、かなりの希少金属で未だに発見したプレイヤーは居ないとかで、更にソイツから作り出される武器は魔剣クラスに劣らないって話だ」
「……興味深いな。よし、ソイツは俺が調達してきてやる」
「「マジで!?」」
「
「金か。確かに必要だな」
「職人はぼったくるからねぇ。直ぐに」
アマツは身を翻し、ギルドホームを出て行こうとするが何かを思い出したように立ち止まった
「キリの字。前にドロップした魔剣クラスの《エリュシデータ》は如何なった?そういえば」
「アレか?あれならアイテムストレージだよ。使えないこともないがああいうチート級の武器は反感を買ったりするからな」
「なるほど、一理あるな。で?テンの字も同じ理由か?」
「だねぇ。そういう出来レースは怨みとか妬み、嫉みを買ったりしやすいんよ。いくらユニークスキルがあるからって、武器がチート級だったりしたら、フェアじゃないからねぇ」
「……お前たちらしいな。素材を集めたら、連絡する。待っておけ」
そう言い残し、アマツは去った。暫しの沈黙が訪れる
「「ふぅ……疲れたぁ〜…」」
アマツが完全に去るのを確認し、安堵したようにため息を吐くソウテンとキリト。シリカも張り詰めていた緊張の糸が切れたように腰を抜かす
「こ、腰が…」
「大丈夫?シリカ」
「大丈夫だよ。ありがと、ヒイロ」
「どういたしまして」
「よし、今日は鍋しよう。腕によりを掛けて作るわ」
「わぁ!ミトさんの鍋、あたし大好きです!」
「ありがと、シリカちゃん…ん?」
無邪気に燥ぐ、シリカに笑い掛けながら、鍋の周りに集結するソウテン達に目を向ける
彼等の手には何らかの食材アイテムらしきものがあり、意味深な表情を浮かべている
「よし、このピーナッツバターを忠実に再現したピーナッツバター風味のバターを入れようじゃねぇの」
「待て、バカピーナッツ。ここは俺が独自開発した黒いパスタを入れるべきだ」
「それはちげぇ。俺が見つけた新食材のバナナ・オブ・バナナを入れようぜ」
「グリスさん、其れは限りなくバナナです。僕が思うにこの薬草をふんだんに使った薬草鍋にするのが効果的かと」
「違う。焼き鳥を入れて、更にタレで味付けした鍋にするべき」
「よし、そいじゃあ全部入れよう」
「やめなさいっ!!バカどもっ!」
『ごぶっ!』
ソウテン達の頭上に
「全く……ホントにロクなことしないわね」
第50層主街区アルゲード ダイシー・カフェ
ここは攻略組の一人であり第一層からの長い付き合いのあるエギルが経営する雑貨屋兼喫茶店。夜はバーとしても営業している
「で、金がいると」
「話が早くて助かるねぇ。そういう訳だから、俺とキリトを雇ってくんない?店には迷惑掛けないからさ」
「そいつは構わんが……アマツの武器はかなりの高額だろ。一日のバイトくらいで足りるのか?」
「そこは心配しなさんな。情報提供の影響で、ちょいとお安くなってるんよ」
「なるほどな…さすがは
その夜、バータイムとなったダイシー・カフェのカウンターにソウテンとキリトの姿があった。服は普段のコートを着用していない以外に変わり映えはないが、その佇まいは貫禄を感じさせる
「どうだ?様になってるだろう」
「これで俺たちも立派な労働者だ」
「なんつーか、違和感しかねぇな」
「ええ、社会に適さない御二方が労働者を語るとは
「いつクビになる?」
「ちょいと辛辣すぎねぇか!?」
「少しは応援しろよっ!?」
「はぁ…エギル。ごめんなさいね?こんなことを頼んで」
「すいません、ホントに」
相変わらずなソウテン達の隣でミトが申し訳なさそうに眉を下げ、シリカも頭を下げる
「気にしなくていいさ。コイツらとは長い付き合いだからな、役に立つんならお安い御用だ」
「エギルは立派ね。うちの
「リーダーさんはリーダーさんで立派だと…あたしは思いますよ?た、多分…」
「そう?だってアレよ?」
そう言って、ミトが指差す先にはカウンター席に座るグリス達に何かを差し出すソウテンの姿があった
「こちら、ご注文の品です。お客様」
「ちょっと待て」
自分の前に差し出されたカクテルにバナナが刺さっただけのグラスを見て、顔を顰める
「何か?」
「何かじゃねぇわっ!バナナは可笑しいだろうが!!!どう見ても!」
「当店からのサービスです」
「どういうサービスだ!!!」
「おや、もしや当店のコンセプトをご存知ない?当店ではお客様に相応しい品をご提供するのが当たり前、故に
「誰がゴリラだっ!?」
「ははっ……」
「エギルさん、エギルさん」
「ん?どうした。シリカちゃん」
そのやり取りに流石のエギルも苦笑していると、シリカが彼の腕を僅かに叩き、反対側のキリト側を指差す
「こちら、御通しになります」
「ご丁寧にどうも」
「……キリトさん。これ何?」
「お茶漬けです。
「いただきましょう。ヒイロくん」
「分かった」
キリトの差し出したお茶漬けを口に運び、何度か咀嚼するヴェルデとヒイロ
「なるほど…これは」
「リーダーの足の裏とキリトさんの靴下、更にグリスさんの毛皮みたいな味が混ざり合って、最悪の三重奏を生み出してる」
「お褒めいただきありがとうございます。お客様」
「褒められてないわよ、確実に」
「というかグリスさんの毛皮って……やっぱり、グリスさんはゴリラだったんですか」
「違うわっ!」
「お客様。バナナはいかがです?あっ、デザートの冷えたバナナもありますけど」
「何なんだっ!?そのバナナへのあくなき執念はっ!」
結局、身内ばかりの夜は相変わらずの光景で更けていく。その中でエギルは思った
(コイツらを雇うのは……もうやめよう)
いかがでしたか?今宵の一幕はお楽しみいただけたでしょうか?其れでは次回の話でお会い致しましょう
NEXTヒント 雪山
もしも、そーどあーと・おふらいんを書くなら…
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ソウテンとミトが司会の賑やかな雰囲気
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キリトとアスナが司会の正規の雰囲気