「ぶはぁ……!死ぬかと思った!」
一番最初に意識を取り戻したグリスは周囲を見回し、状況を確認すると同時に自身のHPを見る。レッドの一歩手前のイエローまで低下している
「おやまあ…見渡す限りの雪山じゃねぇの」
「ポーション飲んでおくか」
「グリス。職人の居場所は?」
「ん……このちか---ぎゃぁぁぁぁ!!!」
何かを言いかけたと思えば、グリスは唐突に悲鳴にも似た声を挙げた。ゆっくり、ゆっくりと背後を振り返り、深呼吸を繰り返し、顔を上げる
「「………ど、ども。職人」」
「久しぶりだな。バカトリオ」
「ええ…お、お久しぶりです……」
「い、良い天気ですね….」
「吹雪だがな」
「あっ、バナナをお食べになります…?」
「いただこう。二ヶ月ぐらいマトモな物を食っていなくてな」
その男、アマツは笑顔だった。しかしながら、其れは満足感からの笑顔ではない、奥に黒さを感じさせる
「いやぁ…そ、それにしても良いお住まいですね…」
「そうだろう。雪で客が来ないのが難点だが、俺は気に入っている」
「そ、そう言えば…素材は見つかったんですかね……」
「無論だ。ストレージにストックしている」
「……職人。俺たちに隠してることはねぇか?」
その言葉にアマツが固まる。ソウテンの指摘は正しかったようで、表情に変化は見えないが僅かに眉が動いている
「……何のことだ」
「人は動揺すると、無意識のうちにやってしまう行動ってのがあるんよ。職人はその中の一つである腕組みを俺たちと会話する間に十五回はやってる。つまりだ、店に帰らなかった理由は遭難してたからじゃねぇ……違うか?」
「……敵わないな、お前には」
「どうしたんだよ。職人らしくないな」
「……もしかしてだけどよ。あのリズベットってヤツが関係してんじゃねぇか?」
「グリス。お前にしては良い意見だ」
「まあな!……って!してはってなんだよっ!?」
「そうなんか?」
ソウテンが問い掛けると、暫くの沈黙が訪れる。やがて、外方を向いていたアマツが自分の頬を掻きながら、口を開く
「関係無くはない…」
「何があったんだよ」
「あいつとは第48層に店を出した時からの馴染みでな。時に鍛冶の腕前を競い、時に素材集めをしたりしていたんだが……」
「「「だが?」」」
急に言葉に詰まり、難しい顔をするアマツ。その様子に多少の違和感を感じながらも、ソウテン達は彼の答えを待つ
「喧嘩した」
「…ほう、職人が」
「女の子と……」
「喧嘩なぁ…」
「にやにやするな……刻まれたいか」
「「「すいません、ごめんなさい、包丁だけは勘弁してください。お話を続けてください」」」
包丁を手にぎろりと目を光らせるアマツにソウテン達は全力で謝罪し、話を続けるように促す
「テンから情報をもらって直ぐのことだ…」
『はぁぁぁぁぁ!?第56層に素材を取りに行くですって!?』
場所はリズベット武具店とアマツの工房の中間にある野原。突然の発言に驚愕し、目の前に立つアマツへと詰め寄る
『ああ。何でもレア素材が目撃されたらしい』
『だからって!何でアンタが取りに行くのよ!だいたい!あの場所にはドラゴンが居るのよ!?分かってんの?!』
『承知の上だ。リズベット、お前も来い』
リズベットに手を差し出し、同行を申し出るが彼女は、わなわな、と震え始める
『行かないわよっ!そもそも!その上から目線をやめなさいよ!アンタは!!』
『なんだと?ならば、お前もその頭はやめたらどうなんだ?似合わん』
『なっ!もういいわ!アンタなんか勝手に56層でも、何処へでも行きなさい!最後に泣きついたって、許してやんないんだから!』
『ふんっ…お前こそ、後で吠えたところで何があろうが知らんからな』
「という訳だ」
「なるほどねぇ」
「痴話喧嘩か。テンとミトで見慣れてるな」
「全くだぜ」
「張り倒すよ?おめぇさんたち」
アマツの話から急に自分の話へ変えられ、ソウテンはキリトとグリスを睨む
だが、その輪に入ろうとしないアマツの表情には翳りが見える
「………女とは難しいな」
「だねぇ。俺もよくミトを怒らせちまうんよ」
「俺は理不尽な理由でアスナに怒られる時があるな。この前なんか昼寝をしてるだけで怒られたし」
「おめぇらも大変だな。良くわかんねぇけど」
「……テン。俺はどうするべきだ?」
唐突なアマツからの問い、ソウテンは彼からの鍛治関連以外の初めての問いに暫くは驚いたように目を見開いていたが、直ぐに仮面越しに笑みを浮かべ、口を開く
「簡単じゃねぇの。謝りゃいいんよ、素直に」
「謝る……そんなことでいいのか?」
「ああ。許すも、許さないも、其れは個人の自由かもしれねぇ……でもな、一言でも謝りゃ、きっとアマツの誠意は伝わるんじゃねぇかな」
「………そうだな」
ソウテンの言葉を聞き、アマツの中に渦巻いていた霧が晴れ、悩みが消えていく。やがて、空は瞬く星が散りばめられたような静寂の世界となり、陽も落ち始める
「夜か。なぁ、夕飯にしないか?」
「だな!腹ペコペコだぜ」
「職人も食べなよ。ミトが作ったピーナッツバターサンドだ」
「いただこう……んむ?美味いな。ピーナッツバターの味が忠実に再現されている」
「だろう?いやぁ、さすがはミトだよねぇ。アイツは昔から不器用に見えても実は結構な研究肌なんよ。だから、俺がこの世界でもピーナッツバターを食べたいって言ったら、自分なりに食材を集めたりして、試行錯誤を繰り返して、このピーナッツバターを完成させてくれたんよ」
「そ、そうか」
ミト手製のピーナッツバターを褒めた瞬間、急に饒舌に語り始めたソウテン。その様子にアマツは苦笑する
「でもよ…あれから、二年も経つんだよな」
「だな。最初は純粋にゲームを楽しみたかっただけなのに……今はこっちがリアルみたいになってる」
「ああ…右も左も分からない時は大変だったが。今はあの時、《はじまりの街》を飛び出したのを後悔していない。其れが無ければ、今の俺はいなかった」
「だねぇ…あの時、ミトを見つけられなかったら、俺はきっと後悔してた。それに……この世界で見つけた
始まりの日から今日までの出来事を語り明かす四人。その姿はデスゲームの世界に囚われているとは思えない程に、生々としていた
まるで年相応のように笑い合い、他愛もない話で盛り上がり、次第に時が経つのを忘れる
すると、空が明るくなり、穴の中を照らし始めたことに気付く
「……一晩中、話していたようだ」
「ははっ、みたいだねぇ」
「偶にはいいな。俺たちだけで話すのも」
「なんならよ、またやろうぜ?そうだ!今度はリアルとかどうだ?」
笑顔を浮かべ、提案を持ち掛けるグリス。彼の言葉にソウテン達も笑顔で頷く
「悪くないねぇ。あっ、そん時の飯代はキリトの奢りな」
「いや、テンの奢りだ」
「やだ」
「迷子め…」
「迷子じゃない。そーいや、職人」
「どうした?テンの字」
呼び掛けられ、アマツはソウテンの方に視線を向ける。すると彼は自分の真横で、朝の光を反射し、雪の奥で光っている物を指差していた
「もしかして、コイツが
「その通りだ」
「………おいおい、まさか!レア素材の正体って!」
「十中八苦、言わずもがなで…そうだろうねぇ」
「マジでかっ!!金属なのにか!?」
「……ミトには言わん方がいいな」
レア素材≪クリスタライト・インゴット≫の正体に気付き、其々の反応を示しながら、ソウテン達は穴を見上げる
「なぁ、職人。ここって……ドラゴンの巣穴だったりするのか?」
「当たり前だ。ヤツは夜行性でな、朝と昼間は大抵が此処で寝ている」
「先に言えよっ!?そういうのは!!!」
「おやまあ、最悪じゃねぇの」
「だが……準備は整った」
にやりとアマツが笑う。その笑みに三人の表情が引き攣り、冷汗が駆け巡る
ストレージを操作し、白銀に輝く剣、艶やかな紫の色合いを持つ槍、中央に四つの穴が空いたハンマーを取り出す
「俺特製の武器だ、材料には≪クリスタライト・インゴット≫を使用している。キリトが持つ《エリュシデータ》にも劣らぬ最強クラスの剣、名を《ダークリパルサー》と言う」
「《ダークリパルサー》…」
「次にソウテンの槍は変幻自在の長さを持ち、更に《ドラゴンの鱗》を使用することで強度を最大限までに高めた一級品、名は《竜槍ナーガラージャ》だ」
「いいねぇ。気に入ったよ、《竜槍ナーガラージャ》」
「そして、グリス。そのハンマーは火力を究極レベルに昇華し、投擲武器などの技術を組み込む事でバックアップ力をより一層に仕上げた。名は《DKブルッパー》だ」
「最高じゃねぇか!よろしくな!《DKブルッパー》!」
アマツの武器紹介が終わると同時に空に影が現れた。一同が頭上を見上げた、この巣に向けて、ドラゴンが飛来しているのが確認出来る
「さてさて……おめぇさんたち。派手に行くぜ!」
「「「了解!リーダー!!」」」
ソウテンの掛け声と共に全員が飛び出す。最初にグリスがハンマーを構え、その上にソウテン達が飛び乗り、ドラゴンの背中に向け、投擲される。最後に壁を駆け上がったグリスがハンマーを壁に叩き付け、反動を利用した荒技で合流
「グオァァァ!!」
ドラゴンが急上昇を始め、巣穴の上付近に飛び出す。其れと同時にソウテン達は背中から飛び、クッション代わりの雪の上に落下する
「助かった、礼を言わせてくれ」
「いやいや、御礼を言わんといけんのは俺たちの方だ」
「テンの言う通りだ。大事に使わせてもらうよ、この剣」
「メンテとか頼みに行くからな!」
「そいじゃあ…帰りますか」
「ああ」
第50層主街区アルゲード
「ミト。アイツらからの連絡は?」
「ないわ。まぁ……大丈夫よ」
落ち着かない様子のリズベットとは正反対に、ミトは冷静な態度でティーカップを口に運ぶ
「ただいまー」
扉が開き、ソウテンが姿を見せる。横にはキリトとグリスも居る
「おかえり。遅かったわね」
「まあ…いろいろとあってねぇ」
「そう…。で?職人は見つけたのよね?勿論」
「当たり前だろう」
何時もの不敵な笑みを浮かべた後、ソウテンが背後に向かい、手招きをする
「リズベット。帰ったぞ」
「アマツ!」
アマツの姿を見るや否、リズベットは椅子から立ち上がり、彼に抱き着いた
目からは溢れんばかりの涙がこぼれ、着物の裾を濡らす
「悪かったな。この前はあんなことを言って……その髪はお前に良く似合う」
「うん………あたしもごめんね…。アンタは……アンタらしくしてくれればいいから…」
「ああ。世話を掛けたな、テン」
「いやいや、またのお越しをお待ちしておりますよ?職人。ではでは今日はこの辺りで幕引きと致しましょう」
こうして、職人遭難は幕を下ろした。だがこれは新たなる動きに通ずる一歩であるのを、この時は誰も知らなかった
さてさて物語は先へと進み始める。この先に待ち受けるは……生?将又、死か?ではまた次回でお会い致しましょう
NEXTヒント 高級食材
もしも、そーどあーと・おふらいんを書くなら…
-
ソウテンとミトが司会の賑やかな雰囲気
-
キリトとアスナが司会の正規の雰囲気